今回はアンケート結果通り、特別話を書きました!
皆さん、ご協力ありがとうございました!
アンケートの数が集まらず、内心焦ってましたが。
内訳は、特別話の意見が全部でした。
おお……!
私自身、結構この話を書くのを楽しみにしていました。
この話書き始めたのが、第28話を書き終わった直後でして。
この話は、完全なラブコメディにしてます。ストーリーの幻獣とか不知火とか
アイデアライズとか関係なく、生粋の恋愛日常編。
一旦シリアス等から離れて、この話をお楽しみください!
頑張って妖夢と天君を甘々に!
では、特別話どうぞ!
あれからまたさらに二ヶ月後。
もう2月になった。意外と早いものだ。
朝になってベッドから起きる。
さて、今日の日付は14日。そう、2月14日。
リア充と呼ばれる者達が
バレンタインデー、ホワイトデー、(カップルでの)夏祭り、クリスマス。
あ、四つじゃん。いや、バレンタインとホワイトデーをセットで三つだな。
外の世界では見せつけるかの如く騒ぎ、自分たちが主役の世界に入り込む。周りのことなんて二の次だ。
勿論、全体がそうだとは思わないし、一概にそうだとも言えない。
が、そうであっても、全体の傾向としてはそれが多すぎるのだ。
自分達の刹那的な快楽を優先させ、他人の迷惑を気にも留めない。
そんな行為をただ繰り返す輩が、加速的に増加しつつある。
かといって、それを抑えようとするどころか、影響されて真似をする組まで表れ始める。
類は友を呼ぶ、とも言うが、自分達の縄張りの中だけでやってもらえないだろうか。やめてもらいたい。
それを
しかし、きちんと節度を守って、自分達の中だけで、迷惑をかけないように気を付ける組もいる。
俺は素直にその組の幸福を祈りたいとは思う。俺が嫌いなのは公衆の面前で節度のない組だ。
それで、俺を含む非リアと呼ばれる人種は、リア充と対極している。
非リアとは全体として、リア充を目の敵とする者が多い。
例によって、これも全体の傾向であり、全員がそうではない。
ただ、目の敵とする理由の多くは、
非リアはリア充を妬んでいるのだ。
長くなってしまったが、結論を言おう。
――リア充爆発しろ。
―*―*―*―*―*―*―
いつものように布団から身を出す。
そして、いつものように台所へ行き、朝食を作る。
が、半年とちょっと前の彼との時間を考えると、いつもとは言えないだろう。
いや、むしろ今のほうが『いつも』である。
しかし、そう思いたくない。なぜなら、そうあって欲しいと思っているから。
彼がいる光景がいつもの光景だと思いたいから。私は、再びその光景が見られるのを半年以上待ち焦がれる。
「妖夢、おはよ~」
「え……? おはようございます、幽々子様。今日は本当にお早いですね。まだ寝ててもいいですよ? 朝食ができたら起こしますから」
「ああ、いいえ。今日は妖夢に伝えたいことがあるのよ」
「は、はい……それで、ご用件は……?」
「天に、会いたくない?」
その言葉を聞いた一瞬で、色々な思いが湧き上がった。
驚愕、期待、歓喜、安心、感動。そして……愛。
「ぇ……あ、会えるのですか!?」
「勿論よ。場所も、天が出ていって一週間後に知ったわ」
「な、何で教えてくれなかったんですか!」
「まあまあ。今日この日のためよ。今日は何日かしら?」
「えっと……2月の14日ですね。それがどうかしました?」
「貴女、今日が何の日か知ってる?」
「いいえ……何かあるんですか?」
「ええ。外の世界では、『バレンタインデー』という日が今日らしいのよ」
「それで、その『ばれんたいんでぇ』といものがどうかしたんですか?」
「ふっふっふっ……バレンタインデーといのは、女性が『
好きな異性。その言葉を聞いて、すぐに彼を思い浮かべる。
ああ……この感覚。この心からふつふつと湧き上がる幸福感と切なさ、そして充実感。
まるであの時と変わっていない。むしろ、会えていないばかりに強くなっているんじゃあないだろうか。
よかった……私は、まだ彼のことを好きでいられて……
――って、何か恥ずかしい……『すぐに』彼を思い浮かべるところとか……
「あら妖夢、顔が真っ赤ねぇ……どうしたの? ――あ、もしかして、好きな異性を思い出してたのかなぁ~?」
幽々子様が意地悪な笑みを満面に浮かべる。あたかも愉しいと言っているように。
「そ、そうですよ……私は天君が好きです。天君を思い出してました!」
「あらあら……未だに正直なことで」
やっぱり、好きの気持ちは曲げたくないよね……。
曲げちゃいけない気がする。それは、半年前と変わらないようで。
「まあいいわ。それで、チョコレートを作って彼にあげてきなさい」
「え、ええぇっ!? い、いえ、ですが……彼に好きって言うようなものじゃ――」
「じゃあ聞くわよ。あげたくないの?」
「……あげたい、です」
言葉が尻すぼみになりながらも答える。
うう……やっぱり恥ずかしい。
「じゃあ決まりね。チョコレートの材料と作り方は紫が教えるらしいからね。朝食、一人分多く作っといてね」
そう言ってすぐに幽々子様が部屋に戻っていく。
そして私は期待に満ち溢れながら朝食を作りを再開。
「天君……喜んでくれるかなぁ……えへへ」
そう呟いてから微笑んだ私は、自然と料理を作る手が速まっていた。
朝食が終わり、紫様とキッチンへ。
胸が躍るが、少し緊張する。彼がおいしいと言って食べてもらえる『ちょこれえと』というものを作れるのだろうか。
「じゃあ、天に送るのよね?」
「は、はい! よろしくお願いします!」
「作り方は横で話していくわ。じゃあまずは――」
そうして、私のチョコレート作りが始まった。
「さぁて、これでココアパウダーをまぶしたらトリュフチョコの完成よ……そう、その粉よ」
「は、はい……」
「はい、完成! お疲れ様、妖夢!」
「ありがとうございました、紫様!」
「いいのよ。貴女が頑張ったのよ。にしても……本当によく頑張ったわね」
かれこれ作り始めて四、五時間くらい経ってしまった。
朝食はいつもより少し早めに七時に終わってから、すぐ作り始めて、今はちょうどお昼。
チョコが固まらない、チョコがぼろつく、水気が多い、分離する等、数々の失敗を繰り返して、上手くいったのがついさっき。
結構たいへんだった……
「それで……生チョコじゃなくてよかったの? トリュフチョコよりも簡単だったのよ?」
作る前。紫様に生チョコとトリュフチョコ、どちらを作りたいかと聞かれた。簡単なのは、生チョコだとも言われた。
けれど、私はトリュフチョコを挑戦した。チョコレートすら、一回も作ったことも、見たこともないのに。
「どうしてトリュフチョコにしたの?」
「そ、その……頑張って作った方が、天君が喜んでくれるかなぁ、って、思い、まして……」
「はあぁ~……ホント、天は幸せ者よねぇ……本当に、よく頑張ったわね」
「はい、紫様のご指導のおかげです!」
「ふふ、そこまで頑張って、嬉しそうに言われると私も教えてよかったわ。さてと……大変だけど、片付けて昼食作りましょう。私も手伝うわ」
「い、いえ、そういうわけにも――」
「いいの。早く作って、早く食べて、早く天に会って渡してきなさい」
「紫様……はい、わかりました。お言葉に甘えさせてもらいます!」
「ええ。じゃ、片付けるわよ」
私と紫様の二人で片付けを始める。
私の頭の中は、この時点で彼のことでいっぱいだった。
―*―*―*―*―*―*―
時は少し遡って。
俺は朝食を取った後、いつもの通り、修行をしていた。
弾幕も使いこなせるようになった。その中でも、針の弾幕は得意なようだった。
明らかに他の弾幕の出来が違っていた。比較的数も多く、一発あたりにかかる霊力も少ない。
針の形の弾幕は、スピードが速く、牽制に使ったり、広い範囲を攻撃しやすいことが特徴らしい。
栞、言ってた。
(ねぇ……今日って何日だっけ?)
(……14日だよ)
(何月のだっけ?)
(……2月だよ)
(何か特別な日だったっけ?)
(……バレンタインデーだよ)
(どんな日だったっけ?)
(栞! お前明らかに俺に傷を入れようとしてんだろ! はいはい、どうせ俺はチョコもらえませんよ!)
(そんなことはないよ。私だって外に出られたら天にチョコあげてるよ?)
(……え? それマジ?)
少し期待してしまう。女の子からチョコもらえるってだけで期待するのが、男という種類なのだ。
なんて悲しくて、単純なんだろうか。しかし、それが男の
俺に限ったことじゃない。むしろ世界中の男子がそのはずだ。
(あ、期待してる! 嬉しいよ、私――ふ、ふふっ……)
(おい栞、笑ってるんだろ? 聞こえてないとでも思ったかおい?)
(い、いやぁ……面白かったよ?)
(もう俺泣いちゃうよ? 泣いちゃうからね?)
(ごめんごめん。でも……ホントに作れてたら、あげてるかもね)
(……ん? おい栞、今――)
(“義理”だけどね♪)
(もう許さねぇ! 今まで散々おちょくってくれたなぁおい! 積もり積もった分を返してやろうか!?)
(わー、恐ーい。……あ、謎掛け思いついた。それも結構上手いかも)
(ほぅ……出来によってはチャラにしてやってもいいぞ?)
謎掛けねぇ……
○○と掛けまして、✕✕と解きます。 その心は? どちらも△△でしょう、ってあれか。
俳句みたいな感じでアイデアが浮かぶよな、あれ。
できた時には特有の達成感があるよね。
おお……! キター! って感じの。
(え~……コホン。――バレンタインデーの天と掛けまして、私から見た天と解きます)
あーもう嫌な予感しかしない。
どうせ俺を小馬鹿にするんだろ? わかってるよ?
今までのパターンが全部そうだったからな。
けど、まだ諦めるには早いと思うんだ。一筋の可能性。
虚数の彼方に存在するかどうかも怪しい可能性に賭けてっ……!
(……その心は?)
(どちらも、傍観【暴漢】でしょう!)
(お前絶対許さねぇ! 今回ばっかりは堪忍袋の緒が切れたぞ! 仏の顔も三度までって言うだろ!? もう三回以上我慢してきたよなあ!?)
(ほら、すぐにそうやって暴力的なことを言う! やっぱり暴漢じゃん!)
「あんまりふざけるなぁあ!」
俺の叫び声は、紅魔館中に響き渡ったとさ。
……いや、幻想郷全体に広がったかもしれないくらいだった。
叫び声をあげて、俺の気も落ち着いて。
昼食を食べた後、咲夜に後で彼女の部屋に来るよう呼び出された。
結構珍しい。咲夜から呼び出されたのは今まで数回あったかなかったかくらいだ。
……もしかして、バレンタインだろうか? もらえるのだろうか?
今まで俺は、外の世界でチョコは数回もらったことがある。
……が、悲しいことに全て義理。もらえないよりは当然嬉しい。けど、現実って非情だよな、ははっ。
……ははっ。
少し沈んだ気持ちと期待の気持ちがごちゃ混ぜになりながらも、咲夜の部屋へ。
そこには、咲夜と……袋に入れられたエクレアがあった。
「で、どうした? 咲夜から呼び出すなんて珍しいじゃないか」
「天、今日はバレンタインでしょ?」
「あ、ああ。そう、だな」
期待で声が震え始める。単純すぎだろおい。そこらの男より単純な自信があるぞ。
「それで、このエクレアあげるわ。ま、いつもの感謝の気持ちよ」
ですよねー義理ですよねーわかってました。
けども……『咲夜の作った』エクレアとなると話が違う。
単純な味の要素にも期待がかかる。
「え、えっと……今食べても?」
「貴方ねぇ……さっき昼食食べたばっかじゃないの」
「い、いやぁ……味が楽しみなんだよ」
「……ご自由にどうぞ」
よっしゃ! いただきま―す!
袋を丁寧に開けて、エクレアを取り出し、口に運ぶ。
外のシュー生地はサクッと、かつ中のカスタードクリームとホイップクリームは甘く、濃厚。
上にかかったチョコレートとの調和は抜群。
や、やっぱり美味しすぎる……! 今まで食べたエクレアの中で一番美味しいのは間違いない。
「お、美味しい……! 今までで一番美味しい!」
「……そ。喜んでもらえて何よりだわ。さ、帰った帰った。修行するんでしょ?」
「わ、わかったよ……じゃ、ありがとうな!」
「ええ。どういたしまして」
俺は咲夜の元を離れる。紅魔館に――というか幻想郷自体にも言えるが――男は俺しかいない訳で。
俺の為に作ってくれたということに感謝感謝っと。
暇だ。暇過ぎる。修行をちょっとやったが、こんな日まで修行は少し気が乗らなかったらしい。
今は、気分転換に図書館へ向かっている。
さあて、図書館に着いた。何の本を読もうか……
扉を開ける。中には、紅茶を飲みながら読書をするパチュリー。
見慣れた光景。
「あら天。来てくれたのね。よかったわ」
「えっと……どうして?」
「渡したいものがあるのよ……はい」
差し出されたのは、クッキーだった。半分白、半分黒のチェック柄のあれ。モノクロクッキーだったか?
これは……バレンタインだから?
俺についに来たモテ期。突然過ぎる。
「えっと……どうして俺に?」
「今日はバレンタインでしょ? チョコよりもクッキーの方がいいと思ったのよ。それなら、もし甘いものが苦手でも食べられるでしょ? それに、紅茶に合うわ。そう作ったからね」
なるほど。ちゃんと考えてくれていたのか。それも手作りで。
俺は甘いものが苦手ではないが、こういう気遣いはとても嬉しい。
こうやって相手のことを考えてくれた贈り物って普通よりも嬉しくなる。
あ、考えてくれてるんだ、って。
「……ありがとう、パチュリー。一緒に食べないか?」
「……まあ、いいけど」
本を手に取り、椅子に座って。パチュリーの注いでくれた紅茶とクッキーを食べながら読書。
中々に心地いい。安心感があるよね。
クッキーを食べ終わり、図書館を出ようとして。
「ありがとうパチュリー、美味しかったよ。俺は――」
「あ、いた! 探したよ! ね、ね! 私の部屋来て!」
フランちゃんがいきなり扉を開けて現れて、俺の手を取って引く。かなり強く。
かなりの力で抵抗できずに、手を引かれたままフランちゃんの地下室へ。
「ねえねえ! 今日は、ばれんたいん、なんでしょ?」
「あ、ああ。そうだよ」
そう答えて、フランちゃんは驚愕の発言をする。
「あのね……私と遊ぼ! チョコレートは作れないから……
おっとこれで合法的になったわけですが。今からでもロリコンにジョブチェンジしようかな?
……しないよ? しないからね?
というか、こんなに純度百パーセントの笑顔で言われたら……ねぇ?
ああ、卑猥な意味で捉えてしまえる俺は、なんて心が
「あんまりそういう発言はしないようにね……? 遊ぶけどさ」
「どうして?」
フランちゃんが首を傾げる。ああ、なんて愛らしいんだ。
小動物的な行動に精神をもってかれそうになる。
「どうしても。あんまり信用できない人には言わない。約束できるなら、遊ぼう?」
「わかった! でも、信用できる天お兄ちゃんならいいよね?」
ああ、ダメだ。フランちゃんの笑顔が眩しくて直視できない。
「……わかった。良いから、他の人には言わないこと。じゃ、遊ぼうか?」
「わ~い! じゃあ……チェスやろ!」
「ほう、俺にチェスを挑むとな。悪いが俺は強いぞ? レミリアに全勝してるからな!」
「そうなの? でも、お姉様は単純だから、引っ掛けたら途端に弱くなるよ?」
……妹にディスられてますよ、レミリアお姉さん?
さて、チェスも大分やった。
勝敗の比率は五分五分。きっちり五分五分。
……フランちゃんは運以外もお強いんですね。びっくりした。最初のゲーム取られて気付いた。
『あ、ヤバイ。フランちゃん強い』、って。
もうすぐ勝敗が付く。このゲーム終わったらそろそろ修行に行くか……
「ほら天お兄ちゃん、チェック」
「あ、どうしよ……はい、いいよ」
「あ~あ。……はい、チェックメイト。これで私の勝ちだね!」
いつの間にか負けていた。
いや、でもこの笑顔と敗北を引き換えにできるならむしろ――
「天! ここにいるのは運命が言ってるのよ! 出てきなさい!」
「あ、
もう目の前でディスられてますよ、レミリアお嬢様……?
それで本当にいいのだろうか? 姉の威厳が消滅しそう。
「ふふふ……この前の私とは違うわ! 今度こそ勝つ! 私とのバレンタインプレゼントは、貴方の敗北よ、天!」
「じゃあ、せめて勝利を持っていこうかな?」
「そうやって余裕があるのも今のうち。すぐに私の強さを知ることになるわ!」
「そうかそうか。じゃあこのチェス盤でやるか。……フランちゃん、いいか?」
「いいよ~! 私、お姉様が天お兄ちゃんに負けるとこ見た~い!」
……純粋って、時々怖くなるよね。お兄ちゃん悲しいよ。
レミリアとのチェスも終わって。
「どうして勝てないの~! う~……」
「天お兄ちゃんの勝ち~! いえ~い!」
「わ、わ~い……か、勝った~」
フランちゃんの応援は俺にのみ向き、妹にディスられる中。
一方的にレミリアのアウェーな状況でゲーム終了。
結果は……まあ、そうです。はい。
「レミリア、同じ手ばかり使おうとするから負けるんだよ」
「う~……次は負けないわ! 勝ち逃げなんてさせないからね!」
そう言ってレミリアは、地下室をダッシュで去る。
何故こうも紅魔館の姉妹は魅力があるのだろうか。
『う~』って、ギャップを感じるよね。普通に可愛い。
「……じゃ、俺は庭に修行に行くよ。また来る」
「うん。頑張ってね~」
フランちゃんに見送られて地下室を出る。
フランちゃんの応援があれば何でもできそうな気がする。
……時に素直さは残酷だけど。
さて、庭に着いたのだが。
「あ、天さん。ちょうどよかったです。探してましたよ?」
美鈴がこちらに駆け寄って来る。
……もうそろそろ展開がわかってきた。
なんか俺、今年すごくね?
もうこれから義理含めて一切もらえないんじゃないか?
「はい、どうぞ。これを食べて、これからも頑張ってくださいね!」
そう言って差し出されたのは、チョコマフィンだった。
チョコチップが散らばっていて、全体の色もチョコレートの色。普通に美味しそう。
「今食べてもいいか?」
「ええ、勿論。どうぞ!」
では、一口。
……うん、美味しい。きちんとしたマフィンの味だ。
チョコレートも多すぎず、少なすぎずで丁度良く、チョコチップの食感も好ましい。
「うん、美味しい。ありがとう、美鈴」
「いえいえ、お粗末さまでした。頑張ってください!」
「ああ。頑張るよ」
俺がそう言って、美鈴は門の方へ走っていく。
美鈴って、案外お菓子作りとかできたのか。……失礼だが。
中華料理が超得意そう。
―*―*―*―*―*―*―
片付けもあり、遅くに昼食を食べ終えて。
私は、体が疼いていた。恥ずかしい人だとか、卑猥な意味じゃなく。
早く、早く、彼に会いたい……!
色々話して、笑いあって、彼の優しさに触れたい。
「それで幽々子様、天君はどこにいるんですか?」
「紅魔館よ。咲夜から連絡が入ったの。うちで預かってます、ってね」
紅魔館か……レミリアとか咲夜さんとかいるところかあ……
紅魔館には、可愛い女の子がたっくさんいるよね……誰かが彼を好きになってしまわないだろうか。
逆に、彼が誰かを好きになっていないだろうか。
不安になる。少し寂しくもなる。まだ彼が私に振り向いてくれるとも決まってないのに。
私のほうが、交流の時間は浅いのに。
私は一ヶ月。でも、紅魔館の皆は今は半年とちょっと。先まで考えると、一年間。
……はぁ。
「……どうしたの? そんな表情で渡しに行ってもいいの? 今まで会うのを楽しみにしてたじゃない。天が喜んでくれないわよ?」
「……わかりました。――では、行って来ます!」
満面の笑みを浮かべて飛び立つ。
手には、袋に入れたトリュフチョコ。今日一番の出来の。
ドキドキする。まだ会ってもいないのに。
……それだけ、彼に溺れてしまっている、ということだろうか。
よかったなぁ……
―*―*―*―*―*―*―
さてと、妖夢も行ったし何しようかな~……
「幽々子、妖夢は嬉しそうに飛んでったわよ」
「そうねぇ……」
あんなに嬉しそうに笑う妖夢は、彼が去ってから見ていなかった。
主人としては、あの子の中の彼の存在の大きさに悔しさと羨みがある。
「ホント、彼が大好きなのねぇ……」
「ホントよ。もう見てるこっちが恥ずかしくなってくるわよ」
「……で、幽々子は会いに行かなくていいの?」
「私が戻ってくるな、って言ったしね。それに……あの子達の邪魔をするのは野暮、ってものよ?」
「ふふっ、それもそうね……」
ああ、本当に彼って――
「「彼って本当に幸せ者よね~……」」
紫と声が重なる。
こう思っているのは、どうやら私だけじゃないようだ。
―*―*―*―*―*―*―
しばらく飛んで、紅魔館が見えてきた。
胸の高鳴りを必死になって抑えて、門の前に着地。
門の前には、美鈴が立っていた。
「あ、いらっしゃいませ、妖夢さん。今日はどんな用件で?」
「え、え、っと……今日は、天君に用があって……」
そう言って、反射的に手に持っていたチョコレートを自分の後ろに隠してしまう。
隠す必要なんてないのに……
「……? どうしました、天さんを呼んできましょうか?」
「あ、いえ、その……私から会いたいと思いまして……」
「ええと……何かあるんでs――あ、あ~! 成程!」
「えっと、どうしました?」
美鈴の思案顔が、少し明るげになったと思ったら、にやにやと笑い始めた。
愉しそうに、悪戯を仕掛ける子供みたいに。
「なるほど~。今日は『あの日』ですもんね、ええ!」
「……え、えっと、どうしました?」
私は美鈴の対応に上手く反応できない。
美鈴は依然としてその表情を保っている。
むしろ、さっきよりも愉しそうになったような気が……
「いえいえ、いいんですよ。楽しんできてください! それはもう!」
そうして、ようやく美鈴の真意に思考が辿り着く。
「……あ! え、い、いや、そんな!」
「ふふ、いいですね、天さんは。幸せ者ですよ。……頑張ってください。応援してますよ?」
「ぁ……はい。ありがとう、ございます……」
美鈴に門を開けてもらい、紅魔館の中に入る。
「あ! 天さんなら中庭にいると思います。場所わかりますよね?」
「はい! ありがとうございます!」
中庭……もうすぐで、彼に会える。
胸の高鳴りが今まで以上になる。
呼吸も苦しく。でも、幸せな気持ち。
恋って、いいな……
そうして、見覚えのある姿の、見覚えのある刀を持った、最愛の彼がいた。
見つけた。ようやく、見つけた。
……このまま前に出るのもいいけど、少し遊ぼ……
私は足音を立てないように彼の背後に回って、徐々に徐々に近づく。ゆっくり、ゆっくりと。
彼は背が高いので、少しだけ飛んで、両手を彼の両目に被せる。
そして……
「だ~れだ?」
―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―
俺は、中庭に立っていた。
そして、こんなことをぼーっと考えていた。
モテ期すげー!、と。
何て馬鹿なのだろうか。でも、嬉しかった。
義理とはいえ、感謝の気持ちと言われたんだ。
……ホワイトデーは大変そうだな。
そんなことを考えていて、不意に視界が暗転する。
そして、凛とした高い声で。ずっと聞いていなかった、懐かしい声で、この言葉が聞こえた。
「だ~れだ?」
「……え? ――あ、あぁ……よう、む……」
「はい、正解です! 天君!」
彼女が前に出て、満面の笑みを浮かべる。
……可愛い。
「妖夢、会いたかったよ! まさか、少し早く会えるとはな!」
「ふふっ、私もずっと会いたかったですよ? そう言ってもらえて嬉しいです」
会いたかった、と言われて、嬉しさが止まらない。
あんなにひどいことを言っても、まだ『会いたい』なんて思ってくれることに対して。
……今、謝っておこうか。
「妖夢……その、ごめん。出ていく前日、俺は妖夢にひどい言葉を言ってしまった。幽々子がな、言ってたんだ。妖夢はほんの少しだけショックを受けている、って」
「あ……いえ、いいんですよ。私は、貴方の笑顔が見られたんですから。ただ……やっぱり、貴方に悲しい表情は似合いません」
「……そうか。今度からは気を付けるよ」
「それよりも!」
ビシッ、と指を顔の目の前に突きつけられて。
「何で出ていく時一人で行っちゃったんですか! 私だって最後に色々話したかったんですよ!?」
「あ、あ~……いや、泣きそうになるから、な?」
「私は泣きましたよ!? 起きたらもう天君がいないんだから! 大体、手紙で別れなんてずるいの!」
徐々に敬語が取れていく妖夢。
どうやら本気で怒ってるようだ……
……怒ってる妖夢も可愛いな。
「ごめんって。ま、あとちょっとしたら戻るからさ?」
「……許す。その代わり、戻ってきたら今までどおりに接してね? 急に仰々しくなったら悲しくなるから」
「ああ、わかった……って、俺が手紙に書いたことじゃないかよ」
「あ、バレた?」
「隠す気もないだろ。……で、何で今日なんだ? 何か用か?」
そう言って、妖夢は急に顔を赤面させる。
「あ、いえ……えっと……」
あ、敬語に戻った。……恥ずかしいのか?
まさか――バレンタイン? いや、でも妖夢はチョコレート知らないだろうし、バレンタインデーすらも知らないだろう。
でも、期待してしまう。
今までもらった誰よりも。
「え、っと……その……」
瞬間。妖夢の背後にスキマが出来た。
あ、久しぶりゆk――
「あーもー! じれったいわね!」
「え、紫様!?」
「はい、どーん!」
そう言って、紫は遠慮なしに、思い切り
……あ、倒れる。それも、俺の方に。
勿論、突然に突き飛ばされた妖夢は、力の向きに従って俺に。
俺は妖夢を受け止める。
……かっる!? これ重さあんのか!?
よくこれで刀振り回せるな……
「よ、っと……大丈夫か?」
「あ……あぁ、あああぁ……」
妖夢が切なそうな声を出して、
それも、何かを探ってるように腕をせわしなく動かしている。
おっとヨウムさん? それはちょっと反則というか何というか……
てか、いつの間にかスキマもなくなってるし……
「よ、妖夢、さん?」
「あぁ……天君……本当に、会いたかったんですよ……」
「そうか、俺もそう言ってもらえて嬉しいよ」
「……すみません、もう少し、このままで……」
「……わかった」
俺も妖夢を抱き返す。
優しく、優しく。しかし、強く。
やっべぇぇえ! 超緊張する!
もう心臓バックバク。何かめっちゃいい匂いするし……
俺は、『あの朝』を思い出していた。幽々子に相談もしたあれ。
けれど……今妖夢は、完全に意識がはっきりしている。
それって……
―*―*―*―*―*―*―
私は彼にもたれかかってしまった。
後ろからいきなり紫様に押されて、ぽすん、と。
その瞬間、私の気持ちの歯止めが効かなくなった。
彼に会いたいという気持ちの、大き過ぎる気持ちの歯止めが。
もたれかかった上に、彼の背に腕まで回して。
どうしても、そうしたかった。彼を一心に求めていた。
彼が欲しい、彼と一緒にいたい。彼と――。
彼の温もりが、彼の体が、彼の優しさが。
どうしようもなく、体も気持ちも先行させる。
未だに、私の腕は彼に回されている。
それに、彼も私に腕を回してくれた。
彼の腕の中で。私はぐるぐると回っていた。
彼の中で。彼の中で。
―*―*―*―*―*―*―
「ありがとうございました。すみません、恥ずかしいだろうに……」
そう言って妖夢が離れる。
とても長かった様な、短かった様な感じがする。
「あ……いや、まあ、いいんだよ。……俺も嫌じゃない、というかなんというか……」
「あっ……そう、ですか……」
「「……」」
一気に気まずくなった。何か話題を……!
「そ、それで、何しに来たんだ?」
「あ、そ、そうでした! ……すー、はー……よし!」
妖夢が深呼吸をして、何か覚悟を決めたかのように。
なんか、またしても緊張が……
「こ、これ……私の気持ちです! 受け取ってください!」
そう言って差し出されたのは、トリュフチョコだった。
「あ、あれ……? でも、妖夢はチョコレート知ってるの? 作るのにも苦労したよね?」
トリュフチョコが難しい事は知っている。
大きさがまちまちなので、手作りの可能性が極めて高い。
「えっと、それ、は……」
またしても、スキマと、その間から紫の上半身のみが現れる。
あ、ちっす、紫さん。
「妖夢には私が教えたのよ。妖夢ったら、天に喜んでもらいたい! って簡単な生チョコよりも難しいトリュフチョコを選んだのよ? それに、作るのにとっても時間かけてて――」
「わ、わー! 紫様! 言わないでー! わー!」
「あら、可愛いわね」
ホントそうですね。国宝級だな。
「えっと、とにかく、受け取ってください!」
「あ、ああ……今食べてもいいか?」
「え? え、ええ……どうぞ」
では。……パクリ。
味はいい。頑張りが出ている。よくチョコレートも知らないのにここまで作れたものだ。
特に問題もなし。普通に美味しい。美味しすぎ。
「うん、美味しい! ありがとうな、妖夢!」
「ぁ……えへへ、よかったです!」
再び妖夢の満面の笑みが浮かぶ。
もう一つ食べたトリュフチョコの味は、他のバレンタインのプレゼントの味よりも、数段甘かった気がした。
―*―*―*―*―*―*―
私は、天君と別れて、今は白玉楼に帰る途中。
私の脳内では、彼の声がまだ残っていた。
美味しい、ありがとう、か……えへへぇ……
つい笑みが溢れてしまう。
……私の気持ちは、伝わったのだろうか。
告白と同じようなものなのだから、相当緊張した。
白玉楼について、しばらくして。
「幽々子様~。行って来ました!」
「お帰り、妖夢。……で、どうだった!?」
「美味しいって言ってくれました! もう嬉しかったですよ!」
「ふふ、よかったわね」
幽々子様が頭を撫でてくれる。
本当に嬉しかった。今まで生きてきた中で一番緊張したんだから。
「それで……あれってもう、告白、になっちゃうんでしょうか……?」
きっと今よりも緊張するだろうが、やっぱり『好き』は自分で言いたい。
自分で、どれだけ彼のことが好きなのかを、直接言いたい。
そう思っていると、幽々子様の衝撃の一言が。
「バレンタインのチョコレートってね、好きじゃない人にもあげる時があるのよ」
……。
「ちょ、ちょっと……? それってどういう……」
「そのままよ? 仲良くしてね、とかの意味でも送られる時はあるわ」
「で、でも、幽々子様は、女性が『好きな異性に』、って……」
「ああ、あれ? ああいった方が妖夢が本気になるでしょ? 貴女の一途な姿は微笑ましかったわよ? 見てるこっちが恥ずかしかったわ。あ、そぉれぇにぃ~……」
幽々子様の表情が、幾度となく見てきた悪戯顔になる。
もう嫌な予感しかしない……
「
あ、ああ……
「いやぁぁぁああああああ!」
私の叫び声は、白玉楼中に響き渡った。
……いや、幻想郷全体に広がったかもしれないくらいだった。
ありがとうございました!
特別話ということで、かなり長めに書きました。二話分くらいに。
一万二千字超えてて驚いてました。執筆だけで2日かかりましたよ……
楽しかったんで、よかったです!
いかかだったでしょうか?
甘々に書けてればいいなと思ってます。
にしても……天君モテすぎぃ!
でも……本命は、妖夢だけですよ?
妖夢パートで、『天君』ではなく、『彼』が多いのは、自分に置き換えてもらえれば、そういう気分になれるかな……?
というなんとも悲しい理由です。
想像していただけると、嬉しいかもです。
彼と――。のところは、ご想像におまかせします。
敬語なしの妖夢可愛ぃいい! 想像してたらニヤけてました。
もう付き合っちゃえよ! って言いたくなりました。
自分で書いてるのに。
次回からは、通常通りストーリーを進めていきます。
もし、また特別話を書くときがあったら、アンケートをとることになると思います。
その時は、もう一度ご協力お願い致します。
ではでは!