東方魂恋録   作:狼々

28 / 90
どうも、狼々です!
今回は、美鈴が紫のことを話します。
面識自体はあるらしいのですが、呼び方がわからなかったので、
この作品では『紫さん』でいこうと思います。
では、本編どうぞ!



第28話 オレの力

俺が紅魔館に来て、半年程経った。

夏は終わり、秋も過ぎ、冬真っ盛り。12月くらいだろうか?

やっぱり幻想郷でも寒いものだな……

昼の今、俺はいつものように庭で鍛練中。

一人で――ではなく、美鈴と一緒だ。

 

「もっと霊力を腕に集めて、一撃の威力を強くするんですよ。蹴りも同じです」

「腕、って言われても、具体的に腕の何処に集めればいいんだ?」

「大半は相手に当てる所で、少しを全体に集めます。全体に送って、振り抜きの速さを上げるんです」

 

俺の課題の一つである、霊力強化の武術を教えてもらっている。

刀は置いてきた。体術の練習には重いしね。

今までも何回か教えてもらっていたが、上手くいっていない。

門番の仕事もあり、教えてもらえる回数そのものも少ないのだ。

 

「は……あぁ!」

「う~ん……何で上手くいかないと思う、美鈴?」

 

いつの間にか栞と美鈴も仲良くなってるし。

いや、ホントにいつからだ……?

 

「そうですね……天さんの霊力と天さんの考えが武術を苦手としてるんじゃないですか?」

「というと?」

「天さんは、何を目的に強くなろうとしていますか?」

「えっと……幻獣については知ってる、よな?」

「ええ。もっとも、知ってるのは一部だけですが。紅魔館では全員知ってますよ」

「そうか。まず最初に俺は、その幻獣への対抗の為に紫に呼ばれた。で、幻想入りしたんだが――」

「ゆ、紫さんに呼ばれたんですか!?」

「お、おう。あ、そういえばまだこのことに関しては言ってる人少ないな……」

「何してるんですか……それ、結構重要なことですよ。幻獣が来た時に真っ先に主力になるのは、天さんの可能性が高いんですからね」

「ま、後で皆に言うよ。で、幻獣から幻想郷を守るためにここにいる」

「それは、目的ってことですか?」

「まあ、そうだな」

 

ちょうど半年前に栞から気付かされた。

幻想郷を守るために力を付けて、その力を使う。

そう、決めたんだ。

 

「じゃあ今力を出すのはほぼ無理ですね」

「どうしてだ?」

「『守るために』力を使うと考えている以上、必要以上には相手を傷付けまいとしてます。刀は元から殺傷武器です。ですから、殺傷の意思のない天さんでも霊力強化が若干使えているのでしょう」

「なるほどねぇ~。つまり天には武術そのものができないんだ」

「ま、平和的でいいだろ? 俺は平和主義なんだよ」

「幻獣には容赦無しでお願いしますね……?」

 

瞬間、()()の声が響く。

 

 

 

――オレならできるけどなぁ?

  

    オレは絶対に前に出す気は無い。出したら、何をするかわからないからな。

 

――そうかよ。じゃあ……無理矢理前に出るだけだ!

 

 

 

 

 

 

オレが、前に出る。出てしまう。

強く、激しい憎しみの力が、俺を後ろに追いやった。

為す術もなく、俺は追いやられた。力が、強すぎる……!

ま、まずい――!

 

「――なぁ、美鈴」

「なんですか、天さん?」

 

 

 

 

 

「だったら、試してみるかよ?」

 

 

 

 

 

 

そう言った直後、俺の体からは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――()()()()()吹き出した。

 

美鈴はそれを察知すると、驚異的な速度で後ろに飛び、間合いをとって戦闘態勢に入った。

 

「貴方……()()()()……?」

「いやだなぁ……オレは天だよ、新藤 天。さっきまで知らない相手と会話してたのか?」

「いや、貴方は天さんじゃない……!」

「ま、それも半分正解ってことかな?」

「……それって、どういう――」

「ああぁ、それはいいとして……どうする? 試してみるのかよ?」

「何を、ですか」

 

何を、だなんてしらばっくれて。

さっきまで霊力強化の武術を俺に教えてたじゃないか。

だったら……何をするかなんて野暮な質問は要らないだろう?

 

「決まってんだろ……こうするんだよ!」

 

黒の霊力がオレの足を包み、両膝を曲げた直後。

 

バァァアアン! と激しく音をたててオレの体が加速する。

この加速は、()()()()()()()()()()だった。

 

「なぁっ……!」

「天、どうしたの天! しっかりして!」

「うるせぇよ栞! 美鈴も何驚いてんだよぉ!」

 

そして、オレは()()()()()()()()()()

それも察知した美鈴が、拳を握る。

本格的に相手をするつもりかよ。無駄だがなぁ!

腕に集まった霊力が、一つの技を組み上げる。

それは、とても破壊衝動に満ちていて、危険すぎる。

故に、強すぎる技。純粋に破壊のみを目的とする技。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「  『虚無ノ絶撃』ィ!  」

「はぁあっ!」

 

 

オレと美鈴が同時に拳を打ち出す。

美鈴も容赦が無いようで。

――だけど、関係ねぇなあ!?

お互いの拳がぶつかりあった瞬間。

 

ドゴォォォオオオオオオン!

 

地面には亀裂が入り、空気の震動は、紅魔館中に届くほどに強く、重く。

聞いたところだと、美鈴の体術は達人級。それに、妖怪でかなり力が強いらしい。

 

 

 

 

 

だが、その美鈴に()()。拳は均衡を保っている。

 

「ねえ天! 本当にどうしたの!?」

「うるせぇって言ってんだろ!」

「は……ああっ!」

「ちっ……!」

 

オレが栞と会話した隙に、美鈴がさらに腕に妖力を加えて、均衡を崩し始めた。

オレは押され、このまま先程の状態に戻すのは不可能だと判断し、後ろに跳ぶ。

そして、突然に吹き出した黒の霊力に気付いた紅魔館のメンバーが庭に来る。

 

「……! 天、どうしたの!?」

「お嬢様、近づかないでください! こいつは……天さんじゃない!」

「天お兄ちゃん、しっかりして!」

 

レミリアとフランの叫ぶ声。

それさえも、オレに届かない。

 

「おらおらぁ! 何よそ見してんだよ、美鈴!」

「ちぃっ……はあぁ!」

 

再び、爆音。双方の拳はぶつかり。

オレの腕は先程よりも黒くなっている。

実際に黒い訳じゃない。ただ、腕を覆う霊力の量と密度が増えたのだ。

それが意味することは、美鈴の押されること。

ぶつかりあった拳は、徐々に、徐々にだが。

 

 

 

 

()()()()()()()()

 

「ど、どうして……さっきまで、こんなに……」

「どうしてだぁ!? オレが美鈴を『壊す』意思が強くなったからに決まってんだろ!?」

 

そう言った瞬間。

 

ピッ、という『何かを飛ばした音』が小さくだが、聞こえた。

オレはそれも聞き逃さない。

確実に、オレの方へ向かってくる。それに、一つじゃない……!

オレは再び後ろへ飛び退いて、美鈴との距離を空けた後、音のした方を向く。

瞬間、さくんさくん、とオレのいた場所に無数のナイフが刺さる。

 

「あら、残念。当たらなかったわ」

「……おい咲夜。今本気で当てようとしただろ……?」

「そうだけど、何か? 貴方のような人は知らないわ」

「全く、白状な奴なこった。相手をしてやってもいいが……そろそろ()()()()()()か。どいつもこいつも使えねぇ」

 

その言葉を最後に、オレが後ろへ。

それと同時に――俺が前に出るが。

俺の意識はなくなり、支える力もなく、地面に倒れた。

 

「え……天さん! 天さん!」

 

俺が聞こえたのは、美鈴の叫び声。

ああ、あんなことをしたのに、心配してくれるのか。

その思いも、泡沫のように消えて。

 

―*―*―*―*―*―*―

 

天が、倒れた。

美鈴との相手をしている途中に。

何が何だかわからない。私と模擬戦をした時は霊力は白色だった。

けど、今の天は黒の霊力を溢れんばかりに纏っていた。

そもそも何で天は美鈴と戦っていたのだろうか。

美鈴も本気だった。模擬戦とは考えにくいし、何より天が敵意を持っていた。

……いや、今はそんなことよりも。

 

「美鈴、天は救護室に連れてって! 咲夜は美鈴の補助! パチェは一応治癒魔法の準備!」

「「わかりました、お嬢様」」

「やってみるわよ」

「ね、ねぇお姉様。私はどうしたらいい……?」

「……私とフランは、天に付いてあげましょう。寂しいだろうからね」

「……うん。お姉様、天お兄ちゃん大丈夫かな……?」

「ええ。フランが大丈夫って思えば、きっと大丈夫よ」

「わかった。……大丈夫、大丈夫――」

 

天……早く起きなさいよ。

皆、貴方のことを大切に思ってるんだからね……!

 

―*―*―*―*―*―*―

 

ここはユメの中。夢なんかでは決して無い、ユメの中。また、暗い冥い場所。

やはり、オレがいる。

 

――さっきのでわかっただろ? 俺よりオレの方が強い。

 

    何で美鈴に攻撃した! 仲間なんだぞ!

 

――俺に知らしめるためさ。ちょうどよかったんだよ。幻獣相手にはオレが必要だろ?

 

    オレの力なんて使わない。大体、オレは本当に何なんだ!?

 

――この前言った通りさ。俺の闇がオレ。憎しみの塊がオレ。つまりは、信頼の逆を信じてる。

 

    そうかよ。オレの力はもう使わない。あれが最初で最後だ。俺は俺の力で強くなる。

 

――限界って知ってるか? いずれ俺の方からオレを求める。近いうちに、な?

 

    それはない。絶対にオレは前に出さない。

 

俺は一方的にユメから去る。逃げるように。

だが、オレの言葉は未だに紡がれ続ける。

 

――いつまでそんなことが言えるのかな? 楽しみだなぁ!?

 

 

 

 

 

 

俺が目を覚ます。

そこには白の天井。最近は赤の建物しか見ていなかったから、少し新鮮に思える。

起き上がろうとする。――が、体が動かない。

 

「あ、起きた! 天お兄ちゃん、大丈夫!?」

 

最大限の心配の表情を浮かべて、俺の顔を覗き込んでくる。

 

「本当? 天、大丈夫かしら?」

「大丈夫? かなりの時間寝ていたわよ?」

 

レミリアと咲夜が同じように。

かなりって……どのくらいなんだろうか。

 

「どのくらい、寝ていた?」

「えっと……三ヶ月くらい?」

「……はぁ!? い、いや、でも俺……!」

「嘘よ。三日よ、三日。けど、三日も長いとは思うわよ?」

 

三日。72時間。それは、とてつもなく大きい。

幽々子の話では、いつ幻獣が来てもおかしくないらしい。

なのに、三日も無駄にしてしまった。

三日もあったら、どれだけ修行ができただろう。どれだけ強くなれただろう。

……すぐに、取り戻さないと。

体を起こそうとするが、尚も体が動かない。

 

「無理よ。三日休んで体力が戻らないほど疲労があったのよ」

 

パチュリーが現れて、俺の説明をする。

 

「……俺は、どうなってたんだ?」

「過度な疲労。霊力が乱暴に使われていたの。けど、()()()()()()()()()()()。こっちが何でか聞きたいくらいよ」

「多分だが……あの時の俺は、俺であって俺じゃない。別のオレだった」

「……どういうこと?」

「そのままだ。俺でもわからない。けど、俺が俺じゃない。霊力がなくなってないってのもそれが関係してるだろうな」

「まぁ、そうよね。私との模擬戦での天の霊力は白。あの時は黒だったもの」

 

そう、だったな。あの時の俺は黒の霊力だったな。

 

「なぁ栞。黒の霊力の特徴ってなんだ?」

「えっと……ごめん、私にもわからない。今までに見たことがないの。けど……霊力の色っていうのは、その魂の象徴みたいなものなの。黒っていうことは……少なくとも普通じゃない」

 

普通じゃない、か。我ながら嫌気がさす。

信頼の白と絶望の黒。信用の白と裏切りの黒。

……本当に、嫌気がさす。

 

 

「天さん、大丈夫ですか?」

「あ……」

 

美鈴が、いる。

美鈴と顔をあわせることができるのか? 顔を合わせられるのか?

……仮にオレとはいえ、仲間を攻撃したんだ。

まずは、謝らないと……

 

「美鈴――」「天さん――」

 

 

 

「ごめん!」「ごめんなさい!」

 

「「……え?」」

 

え、っと……何で美鈴が謝るんだ?

本来謝るのは俺のはずなのに……

 

「えっと、どうして、美鈴が謝る? 謝るのは俺だ。俺は仲間の美鈴に手を上げたんだぞ……」

「それは……私だって、天さんに手を上げました。お互い様なんです。あの時だって、他に方法はあったはずなのに、手を上げてしまいました。妖怪の私が、人間の天さんに。種族の問題で、力の差は大きいことがあるのは、わかってたはずなのに、です」

「……俺に関しては、もういいんだよ。俺でも美鈴の考えは正しいと思ってる」

「その、えっと……私からも、ごめんなさい」

 

咲夜も、美鈴と同じように謝る。

 

「私も、人間であるとはいえ、丸腰の貴方にナイフを、刃物を、武器を向けてしまった。貴方にナイフを本気で当てようとしてしまったの。……本当に、ごめんなさい」

「い、いいんだって……美鈴と同じように咲夜の判断は間違ってないと思うよ。むしろ、俺があのまま暴れてたら危なかったしな」

 

想像してしまう。オレが皆を傷付けることを。

他でもない、自分が。

……そんなことは、間違ってもしたくない。

 

「とにかく、二人共。そんなに気にしないでくれ」

「はいはい。じゃあ貴方はもう休んでなさい。あと一日寝てれば大丈夫なはずだから。……皆、出ましょう」

 

レミリアによる声がかかって、皆が出る。

その後。

 

(ねぇ……私が最初に天の中に入った時のこと、覚えてる?)

(あ、ああ。あの妖夢が抱きついてた時な。覚えてるよ)

(どうして妖夢ちゃんを話に出すかなぁ……まぁいいや。それよりも、その時の私が言った言葉、覚えてる?)

(どれかわかんねぇよ)

(えっとね……『先客がいる』って言ったの覚えてない?)

 

……あ~、確かそんなことを言っていた気がする。

正直、妖夢に気を取られすぎてあまり覚えてないが。あれは衝撃だったよ。

 

(そういやそうだったな。で、その『先客』がどうした?)

(多分、それがもう一人の天。……そいつが何か、話してくれない?)

(いいけど……俺自身でもわかってることが少ないんだよ)

(構わない。それが、天の助けになるのなら)

(……ありがとう)

 

俺はオレのことについて話した。

ユメのこと、独りでいた時のオレのこと、信頼とは真逆の考えを持っていること、白玉楼を出る前に妖夢に言っていたのはオレであること。そして、今回出てきたのもオレであること。

 

(そうなの……だから、守る意思のない、逆に破壊、裏切りの意思のあるもう一方が、えっと……虚無ノ絶撃、だっけ? それを使えるのかな? 今の天でも使えるの?)

(恐らく、いや。確実に無理だ。だから……もう一人の方のオレが俺よりも強いんだよ。俺は、弱いんだよ)

(私は、そうは思わない。今の天の方がよほど強いと思うよ。今はそうじゃなくても、将来的には絶対に強くなれる)

(そうじゃ、ない。俺はやっぱり、もう一人のオレを使った方がいいんだよ)

 

あ、ああ……なるほど。こういうことか。

オレが、俺の方からオレを求めるって。力が強いのはオレなんだ。

じゃあ、幻想郷を守るには――

 

(あのね、天。守るものが、護るものがある方が強くなれるんだよ?)

(でも、破壊専門の方が強いに決まってるだろ……)

(そうだね。でも、そうじゃないんだよ。精神が違うのさ。守るために頑張ろう、って思える精神が)

(……俺は、どうすればいいと思う?)

(どうするも何も、今までと変わらないよ。天のままで強くなるべきだ。そうじゃないと、幽々子と妖夢が驚いて褒めるどころか、怒られちゃうよ?)

(そうだな。それもそうか、ははっ……)

(そうだよ。えへへ)

 

こうやって笑えることが、俺にはとてつもなく安心できて、心地良い。

最近俺は、栞に助けられてばかりだな。

最初は助けたとはいえ、ここのところはずっと受け身側。

いつか、返したい。

そのためにも、強くならないと。

守る為に、強く、強く。




ありがとうございました!
美鈴と栞は、とばされた半年の間で面識を持った、ということにしてください。
半年間も知り合ってない、というのは少し不自然ですので。

まさかの12話の『先客』が伏線となってて、今になって回収されたのでした。
中々この伏線の隠し方は自信ありました。わかる人にはわかるんでしょうが。
忘れた頃にやってくるスタイル。

栞ちゃんが大分天君の支えになってますね。結構こういうキャラは好きです。
目立つ主人公があるけど、その主人公もこのキャラがいないとたたない、みたいな。

ではでは!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。