東方魂恋録   作:狼々

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どうも、狼々です!
先にお伝えしたいことがあります。
アンケートを活動報告で実施しようと思います。
皆さんの意見をお聞きしたいです。
趣旨は、特別話についてとその内容です。
なるべく協力していただけるとありがたいです。
強制ではありませんので、答えたくない方は無視していただいて構いません。
ご協力よろしくお願いします。

では、本編どうぞ!


第25話 足りない『何か』

さぁ、チェスの始まりだ。

 

「じゃ、先攻はどうぞ、レミリア」

「あら、じゃあそうするわ。その余裕がいつまで続くかな?」

「さあな? もしかしたら終わっても続いてるかもな?」

「舐められたものね。私には負ける運命なんて見えないわ」

 

そう言って、レミリアがポーンを前に。

それから先はどちらも会話をすることがなくなった。

部屋には、コトッ、コトッ、という駒を動かす音のみが響き渡る。

 

最初に試合(ゲーム)を動かしたのは――レミリアだった。

レミリアと俺が合計10手程打った時。

 

「チェックよ、坊や?」

 

チェック。将棋で言う『王手』のそれに等しい。

レミリアはビショップでチェックをとっている。

その範囲から俺のキングを動かして、俺のナイトの後ろへ逃げ込む。

次にレミリアがもう一度ビショップでチェック出来ない位置へ。

 

「あら、残念。でも、深追いはしないのが定石よ」

 

そう言って、レミリアはビショップを戻す。

 

 

 

じゃ、俺からも仕掛けるか……

ナイトを前に出す。さて、どうでるかな……?

レミリアは好機とばかりに、ビショップをもう一度前に出し、ナイトを狙う。

 

 

 

 

 

 

 

――()()()()()……

 

 

俺はクイーンを前に――

――()()()()退()()()移動させる。

 

「……えっ? え、でもそれ――」

「ほら、俺は打ったぞ。続けろよ?」

「……わかったわ」

 

遠慮なく、とでも言うようにレミリアはビショップでナイトをとる。

……勝ったな。

 

「はい、チェック」

 

俺はクイーンでチェックをする。

レミリアがビショップを前に出したせいですぐには戻れない。

後はキングを移動するだけしか残されていない。

 

「……なるほど、私の動揺を誘ったのね?」

「さぁ? 身に覚えがない。ただ俺は打っただけ」

 

レミリアがキングを移動させる。

……が、もうこの時点で詰みなんだよ。

 

ルークを前に出して、別の駒で再びチェック。

 

「はい、またチェック、と」

「あなた……はめてるわね?」

「いや、何が? チェスってこういうゲームだろ?」

 

当然、レミリアはキングを動かすほか無い。

ビショップは、戻れない。他の駒も、動かせない。

レミリアが動かした後、俺は自分のビショップで三回目のチェックをする。

 

「はい、チェック~っと」

「……」

ああ、レミリアが喋らなくなった。

本気でなんとかしようとしているらしい。

 

 

 

 

――()()()()()()()()()()()な。

 

レミリアが動かす。

……が、そろそろ限界がくる。

レミリアの周りにはまだまだ沢山の駒がある。

まだ10手しか打ってないでレミリアがチェックをかけたのだ。

当然と言えば当然だ。

 

自分のキング守り抜きながら相手を詰ませる、というこのゲームにおいて、

自分の駒は、最強の盾にも、()()()()()()にもなる。

障害物となった駒は早急に動かして、進路を作ることが必要だ。

 

だが、レミリアはそれに気付くのが遅すぎた。

目の前にチラつかせた餌に飛び込んで、自分が満足に攻撃・防御ができなくなる。

そこで、障害物の存在に気がついても遅すぎる。既に障害物として機能し始めているそれは、もう取り除けない。

 

俺はレミリア陣の駒を利用して、通路を極端に少なくしたわけだ。

チェックされたらキングしか動かせないというゲームの特性上、この戦略はハマるとかなり強い。

一気に優位に立てるのだ。

 

「はい、チェックメイト。俺の勝ちだな」

「……さ、攻守交代よ」

 

どうやらレミリアも本気でかかるそうで。

 

「ああ、わかった。負ける運命が見えないな」

「……そう」

 

あ、ちょっと怒ってますね、これは。

顔がふくれっ面になってる。

カリスマ抜群の彼女とのギャップが意外にくるな……

――っと、余計な考えはやめるか。油断はできない。

 

続きを始めよう。

さぁ、レミリアはどんな手を打ってくるのかな……?

 

 

 

 

 

 

 

レミリアと勝負を始めて約三時間。

 

「……あー! 何で勝てないのよ!」

 

 とうとうレミリアが頭を抱えて叫び出す。

 

そう、俺はずっとレミリアに勝ち続けている。

あの手この手と色々手段を変えて勝ち続けている。

 

……え? 大人げない? 何を言う。レミリアのほうがよっぽど年上だ。

 

「ま、大人げなかったかな……あ、そういえば、俺が随分と年下なんだったか」

「……! もう許さないわ! もう一回よ!」

「はは……わかったよ、じゃ、やるか!」

 

 

 

その後でも、一回もレミリアに負けずにチェスの勝負を終えた。

 

 

 

「……ねえ、何でそんなにチェス強いのよ……私だって自信があったのに」

「まぁ気にすんな。レミリアに癖があるんだよ」

「……なに? それは一番最初で気付いてたって言いたいの?」

「まぁな。レミリアは咄嗟に起きた意外な出来事の対応に弱すぎるんだ」

「ふぅん……」

「最初のゲーム、退路を塞いだやつな。あれであからさまな動揺を見せたのが敗因だったな」

「貴方のその眼と頭には勝てそうにもないわね」

 

 レミリアが肩を竦めながら言う。

 

「そうか? 俺も最初の動揺がなかったら勝ててたかわからないぞ?」

「貴方とのチェスは、負けても面白かったわ。楽しみにしてて正解だったわね」

「どうする? またいつかやるかい?」

「ええ。その時は絶対に勝ってみせるわ」

「……望むところだ。じゃ、俺は庭に行くよ」

 

いってらっしゃい、とレミリアの見送りの言葉を受けて部屋を出る。

さて、修行でもするかな……

 

 

 

 

部屋に置いていた神憑を取ってきて庭に出た俺は、霊力強化で走る練習をしようとしていた。

やっぱここ広いよな……庭とは思えない。普通に外だもん。

と、脳内で栞から声がかかる。

 

(ねぇ天、今から何するのさ?)

(霊力強化の走りだよ。スピードに慣れるのと、止まり方、次の一歩を出す練習かな?)

(ん、じゃあやってみて。どこが悪いか教えるから)

 

もうできないこと確定なのか……それもそれで凹む。

もう少し可能性があってもいいんじゃないかい?

 

(了解……ふっ!)

 

瞬間、自分の体が加速する。

――で、霊力を足全体に……っと。

二歩目、三歩目と歩を進める。どうやら走り続けることには成功したようだ。

けれど、まだ目がスピードに追いついていない。

そして、止まりだが――

 

(よい……しょっ!)

(お、おお~まさか一回で成功したとはね~。驚いたよ)

(ま、まあな。結構足痛いけど……)

(駄目じゃん)

(そんなこと言うなよ……)

(霊力強化が上手くいってない。無理矢理一気に止まろうとするんじゃなくて、少しづつ減速させる感じ。そりゃいきなり止まろうとすれば痛いに決まってるよ)

(わかったよ。じゃ、やってみるか)

 

栞のアドバイス通りにやってみる。

少しづつ減速……か。

俺の体を一気に加速させて走り始める。――で、少しずつ減速っと……

膝をゆっくりと曲げ、衝撃をなるべく吸収する。

 

(こう、か?)

(そうそう。足は痛い?)

(……まだ少しだけな)

(ま、上出来だよ。少しづつ練習していこうか。……で、練習してほしいことがあるの)

(ああ、わかった。俺の課題だろうからな)

(うん。えっとね……霊力が纏える量を増やす練習なの)

(で、どうしてだ?)

(えっとね、新しい技を使うのに必要。――――っていうんだけどね。どうしても必要なの)

(具体的な効果はなんだ?)

(えっと、――――――なの。)

(了解。それは毎日反復って感じの方が良いのか?)

(そうだね。なるべく体を大量の霊力に慣れさせた方が良いかな)

 

――――か。できたら中々使えそうだな。

となると、霊力量も増やす練習が必要だな。

今のところでは、体術、霊力の限界の底上げ、総霊力量のアップ。

体術は美鈴に教えてもらうか。

 

(で、今からやればいいか?)

(うん。そうだね。霊力を“限界まで”体全体か一部を纏わせて?)

 

うん。……うん? 限界まで?

確か許容限界を超えたら……

 

(爆発するじゃねぇかよ! 俺に死ねってか!?)

(違う違う。逆だよ、逆。もし幻獣が強すぎた時、使える霊力の限界が低かったらどうするの?)

 

あー……対抗のしようがない、か。

いくら霊力が多くても、一回に使える制限がありすぎたらまともに戦えないってことか。

 

(なるほど、そういうことか。わかった、やってみるけど……いざ爆発しそうになったら止めてくれよ?)

(……頑張って♪)

(おい絶対見捨てるだろ!)

(大丈夫だよ。天ならできる。うん。私はいざとなったら刀に退避するから)

(見捨てる気満々じゃねぇか! ここで大爆発起こして紅魔館の皆が駆けつけたら、天の死体があがってた、って状況になったらどうすんだよ!)

(……いや、多分できると思うよ、本気で。私も逃げないよ、爆発するとしたら一緒だよ)

(……な、何か、そのセリフ……恥ずかしい)

(わー! 天君が恥ずかしがってるー!)

(少し見直したって思った俺の気持ち返せ!)

 

……まぁ栞が退避するにしても、しないにしても。

失敗は命取りだな。許されない。

 

(で? 霊力を限界まで“纏う”のか? それとも“纏い続ける”のか?)

(纏い続ける方向で)

(どのくらいやればいい?)

(一時間くらい連続でやってて?)

 

あ、ダメだ。俺の集中力が切れて爆発するオチしか見えない。

さよなら、皆。俺はダメみたいだよ……

 

(――そんなにあからさまに絶望しないで? どうするにせよ、やらないといけないんだから)

 

……それもそうだな。

今やらなかったら幻獣戦で死ぬだけ。

今やれば将来の死亡確率が下がるが、今死ぬ可能性がある。

可能性だし、俺が幻想郷に呼ばれた理由を考えると今やるべきだ。

 

じゃ、やるか……

俺は霊力のイメージをして、限界まで纏い続ける。

いつもは纏ったことのないほどの高密度の霊力なので、白色もついている。

 

(な、なあ、もうそろそろいいんじゃないか?)

(いいや、まだまだ。全然だね)

 

えぇぇ……結構怖いんだけど。

ロシアンルーレットの弾を限りなく増やしてやろうとしてるみたい。

まだ入れる? まだ入れる? ってなって、無理して一発しか弾を抜いてない状態で撃って死にそう。

死んじゃうのかよ。

 

霊力の白色がだんだんと濃くなってきた。

真っ白、というわけじゃないけど、それなりに。

それは、霊力が危ない量まで来てる証で。

 

(お、おいもう良いだろ? そろそろ危ない気が――)

(――あ)

(え、何その『あ』って!? 何そのいかにも『やっちゃいました』的な『あ』。 何か嫌な予感しかしないんだけど)

 

 

 

(……ごめんね)

 

 

 

(嫌だぁぁあああ! 死にたくないー!)

 

(あっははは! 面白い面白い! ……ふ、ふふ、笑いが止まらな――あっははは!)

(お前後で覚えとけよ! 笑い事じゃ済まないんだぞ!)

 

 

 

全くひどい目にあった。結局一時間維持し続けたが……あまり効果が実感できない。

ぼろぼろの命綱でバンジージャンプしたようなものなのにな。

にしても栞はひどすぎる。まるで他人事みたいに笑い始める。

命が関わってんだぜ? 信じられないだろ?

 

「あ、あー……疲れた……」

 

そしてこの疲弊。

霊力を限界まで、それも一時間維持し続けたんだから。

おかげで、というべきか、イメージなしでも霊力を使えるようになった。

出そうと思えばすぐに出せるレベルにはなっていた。

 

(お、お疲れ様……天)

(おい声が震えてるぞ。いつまで笑ってんだ)

(い、いや、笑ってなんて……ふ、ふふっ)

(思いっきり笑い堪えてんじゃねえか! どんだけ面白かったんだよ! 俺が死ぬのがそんなに楽しいかよ!?)

(いや……そうじゃなくて、ええと、ま、まぁできたからよしとしよう。うん。明日からこれを毎日やってね?)

(わかったよ。その度に笑うなよ?)

(……わかったよ。さすがにやりすぎた)

(わかればよろしい)

 

俺は寛大なのだ。

ふと、時間を気にするが、まだまだ時間はある。

時間になったら咲夜が呼びに来てくれそうだし、大丈夫かな?

 

(なぁ、霊力強化の刀、練習していいか?)

(いいけど……どうしたの?)

(俺も、スペルカードにあたる必殺技を持っときたいからさ)

(お、どんな感じにするの?)

 

ずっとスペルカードの内容については考えてきた。

今のところ、雷が一つ、火と雷混合が一つだけだが。

水のやつも考えとかなきゃな……

能力なしで、スペルカードじゃない技術的な技も一応考えた。

その一つが、霊力刃の応用なのだ。聞いておきたい。

 

(霊力刃に関してなんだよ。上手くいってるか見てもらいたいんだ)

(いいよ~。じゃあ、やってみて)

 

俺は――――をする。

考案は少し前だったのだが、実際にやるのは始めてだ。

上手くいったともいってないとも言えるくらい……か?

ともかく、実践で使えるか、と聞かれたら、NOだろう。貧弱すぎだ。

 

(う~ん……もう少し霊力の密度を高めたら? その技、結構いいと思うよ?)

(ありがと。やってみる)

(刀は霊力の限界で爆発なんて殆どしないから、遠慮せずに霊力を送っていいよ)

(これって、栞の霊力を好きにこっちに送ったり、俺が使えたりできるのか?)

(うん、基本はね。霊力は取ろうと思えばいくらでも取れるよ。ただ、取った後があれだけどね)

(爆発はマジで勘弁。俺こんな馬鹿らしく死にたくない)

(はいはい。じゃ、さっさとやったやった!)

 

霊力を刀に全力一歩手前くらいで送る。

そして、栞の霊力を自分の体から引っ張り出す。

俺と栞の霊力が共鳴するかのように、刀で揺らめき始める。

色は……白のまま。色が濃くなった感じもする。

 

(栞も白の霊力なのか?)

(そうだよ。魂の部屋は白一色だったでしょ? アレはこれが原因なの。元々霊力で周りと隔絶した空間を作ってるわけだからね)

 

空間を作ってるってかなり凄くないか?

話を聞いただけでも霊力がとても多いことがわかる。

以前、栞は俺の三倍以上の霊力があると言っていたが、もう三倍とかのレベルじゃないだろうな。

 

霊力を送る量を増やして再挑戦。

 

「……はぁっ!」

(お、できてるじゃん。妖夢ちゃんはこれで驚かせられると思うよ)

(そうだな……幽々子も驚かせたいんだよ。まだまだ新しいことを覚えなきゃな)

(そうだね。特に妖夢ちゃんには、ね?)

(……そうだな)

 

俺と栞は一旦修行を終えて、部屋に戻る。

が、どうにも物足りない。修行は疲れるほどやった。

だけれど、何かが欠けている。

それが、俺のなかで、かなり引っかかっていた。

手を伸ばせば届きそうなのに。頭では理解しているのかもしれない。

けれど、それを認識することが出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

何かが足りない。何か、大切なものが。

この上なく。大切な『何か』が。

この時の俺は、そのことに気付いてなんていなかった。

 

 

 

 

 

それが、――の存在だということに。




ありがとうございました!
天君の技については、――(ダッシュ)で伏せさせてもらいました。
何になるんでしょうね……?
楽しみに待っていただければと思います。
ではでは!

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