東方魂恋録   作:狼々

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どうも、狼々です!
天君には白玉楼を出てもらいます。
そして、新章スタートです!
今回、時間の関係上、少し短めです。
では、本編どうぞ!


第3章 紅魔館にて修行中
第22話 楽しみにしていたわ!


朝になった。目を開く。

陽光が目に差し込む。そんな中、夜に見たユメを思い出していた。

 

「絶望は希望より強い、か……」

 

本当は真に受ける必要なんて全く無い。そもそも、俺が対峙したオレの存在自体が不確定。

自分の今まで積もり積もった思いが、自分でも制御できなくなり、こんな形になった。ということだってある。

……それを考えるよりも、今は――

 

「……準備するか」

 

一人で黙々と荷造りを始めていた。タンスとその中は紫に持っていってもらうとして――

……あれ?

 

「俺、私物少なすぎじゃね?」

 

そう。私物の量だ。むしろ、全く無いまである。

強いて言えば、幽々子がくれた神憑のみ。

そもそも、幻想郷に来た時に持っていたものは学生服くらいだからなぁ……

今日は、荷造りのために少し早起きしてある。

このままでは時間が余ってしまう。

 

「……朝食作ってから行くか」

 

台所へ足を運ぶ。

 

 

 

調理開始から一時間くらい経って、朝食が出来た。

……とりあえず、幽々子の部屋に運ぶか。

幽々子を起こさないよう、慎重に出入りして料理を運ぶ。

台所に、料理を作ったことがわかるよう、台所に書き置きを残しておく。

俺も簡易的に朝食を済ませる。

 

玄関へ行き、扉を開けようとして。

俺は、振り向く。

 

「じゃあな、幽々子、妖夢、白玉楼」

 

しっかりと挨拶は忘れずに。

別れの挨拶と一年後に強くなって戻ってくるから。

それまでの別れだ。二人をあっと驚かせてやりたい。

そう思って、俺は屋敷を出る。

 

 

 

 

 

 

「お待ちしておりました、天様」

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

玄関を開けてすぐ、見覚えのあるメイドが立って、お辞儀しているのが見えた。

それは、宴の時にあの吸血鬼幼女のレミリアと一緒にいた……!

 

「咲夜! 久しいな! 今日はどうしたんだ?」

「本日は、お嬢様の命によりお迎えに上がりました。今から、紅魔館へと向かいます」

 

……もう一ヶ月前のことだもんな。覚えてない、か。

にしても、このタイミングはどう考えても図っているだろう。

 

「で、どうして今?」

「この日のこの時間に天が住む当てなく白玉楼を出る、とのことで、迎えに」

「俺はこれからどうすればいいんだ?」

「先程申し上げた通り、紅魔館へ向かい、そこで一年間暮らしていただきます」

 

もう俺の事情まで調査済みらしい。

ここまでくると逆に怖くなってくる。

とはいえ、正直この話はありがたい。霊夢や魔理沙も一年もお世話になるのはおろか、

そもそも住まわせてくれるのかもわからない。

 

「了解。俺の方も助かるよ。ありがとう」

「いえいえ。じゃあ――出発しましょう、天?」

「……何だよ、約束、覚えてくれてたんじゃないか」

「あくまで仕事だからね。終わるまで一応、ね?」

 

俺は咲夜と会った時、次回からはお互い敬語なしで、という約束をしていた。

てっきり一ヶ月経って忘れてしまったかと思っていたが……

どうやら、杞憂だったようだ。

 

俺と咲夜は空を飛んで、咲夜の隣でついていく形で紅魔館へ向かっていた。

というか、咲夜も飛べることに驚き。できるメイドはここまでできるのか……!

 

「嬉しいよ。咲夜がそうやって話してくれてさ」

「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。ま、お互い色々話したいこともあるでしょうし、続きは空で話しましょう? 飛べるのでしょう?」

「……何で知ってんだ? 俺は咲夜と会った時はまだ飛ぶことはできなかったはずだが?」

「お嬢様が、天は飛べる、と仰ってたのよ。私もそれを聞いて驚いたわ」

 

レミリアは何でも知ってるのか。

その知識で何かしら強くなれないかな……?

 

「ねえねえ天、この人と知り合い?」

「……ん? 今どこかから声がしなかった?」

 

栞の声がわからない咲夜が首をかしげる。

ま、無理ないな。魂で俺の中にいる、だなんて。

 

「ああ、宴会の一週間後から俺の中に幼女の魂が住むようになったんだ。ほら栞、挨拶するんだ」

「うん。初めまして、咲夜さん。私は栞。さっきの天の説明で大体合ってるよ。よろしく」

「……私もとうとうおかしくなったようね。幻聴が聞こえるわ」

「幻聴じゃなくて栞の声だ。俺の中で住んでるんだって」

「その発言は問題大アリの発言ね。霊夢に突き出せばいいの?」

「いや、霊夢は栞のこと知ってるし」

 

俺が何か犯罪者的なロリコンみたいじゃないか。

今の発言は問題があると取られてもおかしくないけどさぁ?

 

「じゃあ貴方を医者に診せればいいの? 残念だけど、治りそうにないわよ?」

「そんなに俺が信用出来ないか! ってか咲夜、そんなにノリが良かったのかよ知らなかったなぁ!」

「冗談よ。少しまだ信じられないけれど、実際に声が聞こえてるんだもの、信じるわ。あと、咲夜でいいわよ」

「わかったよ、咲夜。にしても、天は何でこうも美人さんの知り合いが多いんだろうね~」

「あら、お世辞でも嬉しいわね」

「俺も疑問だ。むしろ一番聞きたいまである」

「そうだよね~。霊夢に紫、幽々子に咲夜。そして妖夢ちゃん」

「……貴方、見かけと頭脳によらず面食いなの……?」

「違ぇよ! 最低だなおい!」

「ふふ、冗談よ」

「冗談好きだな! ホントにノリがいいようですねぇ!」

「あら、さすが私ね。笑いの類も褒められるほどなのね」

「褒めてねぇよ!」

 

ここまでくると、俺と咲夜でコンビ組んで芸人やってけそうだな。

……ホントにできそうで軽く言えない。

 

 

他愛のない、けれど、中々に楽しく話をしていると、湖を通った。

湖を通ってすぐ、紅魔館と思われる館が見えた。

洋風で大きいこともあり、中々わかりやすかったのだが……

 

「うわぁ……赤一色だな」

「『紅』魔館だもの。赤じゃなかったらどうなの?」

「ま、それもそうだな……」

 

俺と咲夜は、門の前で着地する。

すると、門にもたれかかって眠っている女性がいた。

 

「……はぁ、またね……ほら、美鈴! 起きて!」

「ひゃぅう!」

 

咲夜が容赦なく眠っていた女性にチョップを入れる。

女性は起きて、チョップの当たった額を押さえてうずくまっている。

随分とクリーンヒットだったようで。

普通に痛そうだと思える。

 

「な、なぁ咲夜、大丈夫なのか?」

「いいのよ。うちの門番なのに毎回毎回居眠りするんだもの。何度注意しても聞かなくて手を焼いてるのよね……」

「ち、違うんですよ咲夜さん、それは……っさて、あれ、その男の人は……? ……とうとう咲夜さんにも男が――」

 

そう彼女が言った瞬間、咲夜が、どこからか出したナイフをちらつかせた。

本当に一瞬。あの宴会のときにやってきた時と同じように。

 

「ひ、ひぃっ! すみません冗談が過ぎましたごめんなさい!」

 

彼女は、まくし立てて早口で謝っていて、懺悔のようになっていた。

 

「わかればいいのよ。取り敢えず、挨拶してちょうだい。これから一年間住むっていう例の子だから」

「あ~……貴方が新藤 天さんですか。私は、(ホン) 美鈴(メイリン)と言います。これからよろしくお願いします」

 

彼女が自己紹介をする。

彼女の着ている服は、一言で言うと『緑のチャイナ服』。

赤い髪を腰まで伸ばし、左右を咲夜のように三つ編みにして、先に黒リボンを巻きつけている。

咲夜と同じくして、身長が高い。俺くらいかそれより少し低いくらいだろうか。

 

「ああ、よろしく。俺のことは名前で呼んでくれ」

「わかりました、天さん。では、門を開けますので入ってください」

 

キイィ、と甲高い音を上げながら門が開いていく。

美鈴の『いってらっしゃ~い』、という声に、背を向けたまま、腕を挙げて返事をする。

建物の中に入るまで少し時間があったので、宴会の時に聞きそびれていたことを思い出し、聞くことにした。

 

「そういえば、咲夜も何か能力を持っているのか?」

「ええ。私は『時間を操る程度の能力』を持ってるわよ。さすがに時間遡行は無理だけど、停止、加速、減速ならできるわ」

 

出た。また最強格の能力だよ。

もう本格的に俺要らないんじゃね?

今の幻想郷のメンバーでも十分勝てるだろ……

ここに来られて本当に良かったけどな。

 

「ちなみに、美鈴は『気を操る程度の能力』を持ってるの。“気”は、武術的な意味の“気”ってことらしいわ」

 

あやふやだなぁ……体術とか武術系か。

……そういえば、俺は体術・武術の類を一切習得していない。

これは結構重要な問題だな……この一年の最大の課題かもな。

いざ戦いになって、刀よりも体術の方が有利な状況は必ず、絶対に来るはずだ。

 

「天も能力を持ってるの?」

 

俺は咲夜に俺の能力の説明をした。

説明をしている最中、何だか寂しくなった気がした。

べ、別に俺の能力が周りと比べてちょっと地味だな~、とか思って凹んだわけじゃないからな?

 

「はい、着いたわ。入り口を開けるから、その後も私に着いてきて。お嬢様の部屋に行くから」

「了解」

 

軽い返事を返して、咲夜に言われた通りについていく。

にしても広いな、紅魔館……

 

「……なぁ、この紅魔館、ここまで広くしてんのは咲夜か?」

「……どうして、そう思ったの?」

 

反応を見る限り正解の様だ。

どうして、と言われるとなぁ……

 

「いや、時を操れたら、空間も操れることになるかな……? って思っただけだ。もしかして、違ったか?」

「――いえ。驚いているのよ。能力を知ってすぐこの考えに行き着く貴方に、ね」

 

時間と空間は密接な関係にある。

 

平たく例を挙げるとするならば、ボールを遠くに真っ直ぐ投げたとき。

本来であれば、時間が経つにつれてボールの勢いは弱くなり、次第に落下を始める。

 

だが、投げた後に時を止めたらどうだろうか。

ボールは空中で静止することになり、勢いが弱くなることもない。

 

つまりは、()()()()()()()()()()、とも考えられる。

時間を操ることは、空間を操ることと同義だと言えるだろう。

 

「普通はそんなに早く気付かないわ。時間をあげても気付かない方が普通。さすがね」

「……ちょっと頭が働くってだけだよ」

「また謙遜を……っと、着いたわ。ここがお嬢様の部屋よ。入って」

 

俺はコンコンコン、と三回ノックをする。

どうぞ、という声が部屋の奥からかかった。

 

俺は扉を開けて、中に入る。

 

「久しいわね、天」

「ああ、一ヶ月ぶりかぁ……」

「そんなに久しくもなかったかしら? 私にとってはね」

「ま、数百年生きてきた吸血鬼にとってはそうかもしれないな」

「いえ、案外待ち遠しかったものよ? この日を、この時を。ずっと楽しみにしていたわ」

「それはどうも。俺も結構楽しみだったぜ?」

「あら、嬉しいわ。五年よりもずっと早くてよかったわ」

「そうかい。俺も、いつここに来られるかわからなかったし、ちょうど良かったよ」

 

修行した一ヶ月の間にも、何度か行こうとは思っていた。

が、如何せん時間がない。夜遅くに訪問するわけにもいかないしな。

訪問したとして、何もできないくらいの時間しか残らない。

 

「じゃあ、一つ俺から質問をいいか?」

「何かしら?」

 

見た目の年齢に不相応なカリスマのオーラを漂わせながらレミリアが答える。

 

「どうして俺が白玉楼を出るってわかったんだ?」

「あら、最初に言わなかったかしら? 運命を操る私にとって、未来予知なんて造作もないわ、って!」

 

一ヶ月前と変わらない姿で胸を張るレミリア。

一瞬でカリスマのオーラが崩れ去る。俗に言う『カリスマブレイク』だ。

 

「そうだったか。結構深くまで事情を読んでたから、驚いてたんだ」

「ふふん、そうでしょ!」

 

さっきよりも自慢顔で言う。

ロリコンじゃない俺でもこの姿には可愛さを覚える。

……ロリコンじゃないよ?

 

「ははは、そうだな! じゃ、約束通り、チェスでもやろうか?」

「いえ、その前にパチェとフランに会わせるわ。これから一年関わるんだもの。自己紹介に回るのが先ね」

「それもそうだな――」

「お嬢様、妹様に会わせるのでしょうか……?」

「――大丈夫よ。私から強く言っておくわ。フランは私の言うことなら聞いてくれるはずよ」

「……わかりました」

「じゃ、行くわよ、天?」

「――え、レミリアもついてくるの?」

「じゃあ逆にどこに誰がいるか、この紅魔館の広さでわかるの? さぁ、行きましょ!」

 

レミリアが先導して歩いてくれる。

そして、咲夜がレミリアに聞こえないように耳打ちをする。

 

「普通はお嬢様はこんなにはしゃいで案内を自分から、なんてされないわ。貴方と会うのが相当楽しみだったのよ?」

「とても嬉しい限りだ。これからは、レミリアと一緒に遊ぶとするかな……」

「ええ、そうして頂戴。私とも遊んでくれるかしら?」

「それはむしろ歓迎するんだが……何するんだ?」

「……私、結構チェス強いのよ?」

「――面白い、望むところだ」

 

俺と咲夜は、レミリアに続いて紅魔館を歩いて行く。




ありがとうございました!
美鈴の口調に四苦八苦。
原作では、敵とか妖精にはタメ口、紅魔館のお客に対しては丁寧な口調らしいです。
この作品では多くが丁寧な口調になると思います。

おぜうさまのカリスマブレイクの胸を張った姿を想像してニヤつく私でした。
ロリコンじゃありませんよ?

天君を賢いキャラにしたく、奮闘していますが、中々上手い表現ができません。
ではでは!

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