前回は闇の天君が出てましたね。
今回も出ますよ?
結構重要な役割を担ってもらおうと思ってます。
では、本編どうぞ!
先程、妖夢が夕食を全て運び終わり、今は皆で夕食を食べている。
俺はというと、動けないので妖夢に「あ~ん」をしてもらっていた……のだが。
妖夢の様子がおかしい。買い物の前まであんなに嬉しそうに、元気そうにしていたのに。
今は悲しそうな、辛い表情しか見せていない。
俺が妖夢を気にしている時。……食事開始から約10分後に。
「……それで、そろそろ天の様態について話してもいいかしら?」
幽々子の声がかかる。
瞬間、ビクッと妖夢の肩が跳ねる。
……やっぱ、俺が原因か……
「……お願いします、幽々子様」
「よろしく、幽々子」
「私からもお願いするよ」
妖夢、紫、栞の三人が答える。
「……天、今回貴方が倒れた原因は二つ。一つは、聞いている通り、霊力切れ。完全に無くなってはないけれどね。体が動かなくなるくらいまで霊力を消費していた」
幽々子が一拍置いて話を繋げる。
「で、もう一つは……極度の疲労。その疲れ方は普通しないってくらいに、疲労を溜め込んでる。……貴方何してたの?」
修行は……多分、原因じゃない。妖夢は俺に合ったペースで修行を進めてくれているから。
となると……夜のやつだな。睡眠時間の減少で少しづつ、一ヶ月間疲労が溜まり続けた、ということか。
栞に言った通り、完全に自己管理ができていない俺に責任がある。俺しか無い。
「あ~……多分、何でも――」
「“何でもない”、“わからない”は無しよ」
幽々子に出口を先に塞がれる。
どうしても話してほしいらしいな……
「……天、貴方の性格はわかってるつもりよ。大方、夜に修行し続けたんでしょ? 夜しか他に時間がないもの」
「……」
参ったな……全部お見通し、ってか。
さすがと言うかなんというか……
「……そうだよ。あまり知られたくなかったんだがな」
「やっぱりね。……天、努力っていうのは無理をするものじゃないの」
「……わかったよ。次回からは気を付けるよ」
「やめるって、言わないのね。……やめろとは言わないわ。けど、天の体はもう貴方だけのモノじゃないことを頭に入れて頂戴」
「わかった。心配かけたな」
「ホントよ……今日のところは休むことね」
「そうさせてもらうとするよ」
食事が終わり、幽々子は部屋へ、紫はスキマへ行き、俺と妖夢、栞だけが部屋に残っている。俺はというと、妖夢を見ていた。
依然としてあの表情を続ける妖夢を見るのも、限界があった。聞かないわけにもいかない。
「なぁ、妖夢。大丈夫か? 何か俺は悪いことをしたのか? そうなら謝るよ」
「い、いえ、違うんです……違うんです」
どうも様子が変だ。妖夢らしくない、というか……
「じゃあ、どうしたんだ?」
「その……私は、天君が無理をしていることに気付けませんでした」
「いや、だからあれは――」
「ですが、私はその状態の天君を買い物へ連れ出してしまいました。……本当に、すみませんでした」
「……買い物に行くと言い出したのは俺だ。妖夢は手伝ってくれたんだ、気に病むことはない」
「私は天君に頼って欲しいと言いました。それなのに……」
「いいんだって。元は俺が悪かったんだ。頼る頼らないとかじゃない」
「……天君は、優しすぎるんです。……私は時々、その優しさが羨ましく、眩しく見えます」
優しい。この言葉は言われたことがあまりないが、言われて嬉しいかと聞かれたら、俺はそうじゃない。
俺より善人な奴なんて世界中探せば山のようにいるんだ。
「私は、その優しさに甘えてしまうんです。私が頼られるようにならないといけないのに」
「そんなことはない。俺はいつだって妖夢に支えてもらってたと思うし。俺も妖夢に頼られてるなら嬉しい」
「……そういうところに、私は甘えてしまうんです。天君なら許してくれる、大丈夫って、思ってしまうんです」
「俺もかなり信頼されているようで嬉しいよ。それなら、信頼『しあえる』関係だ。よかったよ」
妖夢に信頼されるのは嬉しい。頼り、頼られの関係の重要性を知った今、つくづくそう思う。
思えば、俺はこの関係に飢えていたのかもしれないな……
「果たして、これが信頼しあえると言えるのでしょうか……私が一方的に頼ってばかりですから」
「だから、俺も助けてもらってるんだよ。妖夢が気付かなくても、俺がそう自覚している。それに、そうやって悪いと自覚できるならまだいい方だ。改善の余地がある」
「そう、なのでしょうか……」
「そうだよ」
俺は言葉を続ける。
……いや、
「外ではオレを足蹴にするくせに、利用しようとする時だけオレに寄ってくる奴も沢山いた。そいつらは悪い、なんてこれっぽっちも思っていないんだ。……だから、周りは信用できないんだ」
「ぇ……?」
「他人なんてあてにならない。邪魔なだけだ。邪魔するだけ邪魔した後、利用して使い捨てる。そんな奴しかいないんだ。どれだけ善人のフリをしても、必ず裏がある。ドス黒い感情を押し込めて、タイミングを見て利用して、捨てようとする」
「ぁ、あの、そら……くん?」
オレの後ろで俺が聞く。
俺は何度もオレに言う。
……やめろ、やめろ、言うんじゃない、と。
けれど、オレの言葉は紡がれ続ける。
「どんな人間も裏があるんだ。全員オレの敵なんだ。オレしか信用できない。妖夢も、周りには気を付けろよ? オレだって、いつ妖夢を裏切ったりするかわからないんだ。オレ自身もわからない。そもそも裏切るかも怪しい」
「ぇっと、あ……その――」
「けど、どれだけ信頼できても、どれだけ優しくても、結局はこれだ。『自分しか頼れない』。どんな人間でも、裏切る時は裏切る。それなりの覚悟を持たなきゃならない」
どれだけ抵抗しても、俺の口は一向に閉じない。
オレの言葉が次々に湧いてくる。
「期待をするな。周りなんて何するかわからないんだ。裏切られる。……だったら、こっちから先に裏切るんだよ。いや、裏切るってのもおかしいか。最初は信用している、みたいな言い方だもんな。訂正しよう、切り捨てるんだ。邪魔なものは一切排除する」
「天君……? ねぇ、どうしたの……?」
「……あ……?」
オレが突然下がり、俺が前に出る。
「だ、大丈夫……?」
「あ、ああ、ごめん、妖夢。ははっ……」
乾いた笑いで誤魔化す。
ココロの中で、オレが俺に一方的に言う。
――俺にも言っているんだぞ?
―*―*―*―*―*―*―
彼の様子が突然おかしくなった。
私の見ていた天君と違う。あの眩しさが、なくなっている。
心が、考え方が違っている。
信用できない、裏切り、邪魔。こんな言葉は彼は今まで使ったことがない。
私は、天君に裏切られる可能性があることを提示されて、悲しくなった。
……二つの意味で。
一つは、純粋に自分が裏切られることに対して悲しみを覚えたから。
もう一つは――
――天君が今まで、私が思っていたよりもずっと、追い詰められていたとわかったから。
ずっと、辛かったんだ。そうわかって、悲しみが増える。
……だけど、私よりも、彼のほうがずっと苦しくて、悲しいんだ。
私は天君を助けたい。――私は、彼を好きでいたい。
私は、彼の笑顔が見たい。もう、あんなに苦しくて、痛い顔は見たくない。
本当に好きでいたいなら。私は、彼を全力で助けるべきだ。
好きでいる資格を持ちたいならば。そうするべきだ。
最後に見せた、今まで彼が見せた表情の中で、一番悲しい顔をさせないために。
―*―*―*―*―*―*―
私は彼の部屋を出た後、近くで、彼の様子を見ていた。
どうしても、心配だった。
彼は全部一人で背負おうとする。そのくせに、他人の重みは一緒になって背負う。
彼は無理をしてしまう。
もし、彼が動けるようになって早い内に無理を始めて、問題が大きくなってしまったら。
そう考えると、自分の部屋に行くことはどうしてもできなかった。
従者である妖夢に任せたらいいと思った。けれど、自分が彼を直接見ていたかった。
それほど、心配だったから。
食事前からギクシャクしていた、妖夢と天がようやく話し始めた。
のだが、しばらくして、彼の口調がおかしくなった。
その口調を聞いた妖夢も、驚きを隠せていない。
私も、それを聞いていて驚き、悲しみもした。
気が付いたら、私は一人で泣いていた。
今までどれほどの孤独の辛さを感じていたのか。それを私は今まで勘違いしていた。
本当は、もっともっと大きかったなんて思っていなかった。
私は彼に何をした? 何が出来た?
――何も、一切。できていない。
彼が涙を流して、私に
――なのに。なのに、なのに、なのに!
私は、彼のことをちっとも分かっていなかった! 何もできなかった!
頼って? こんなんじゃ、天は頼ることなんてない。
仮に頼ってくれたとして。私にそこから何ができる?
――私は、天に頼られるくらい、頼ってもいいと判断されるくらいになりたい。
私はそう強く思った。
廊下に静かに落ちていた雫は、もうそれ以上落ちることはなかった。
落ちるはずの涙は、私の強い決意に塗り替えられる。
今の状況を冷静に考えろ、私。
天のことだけじゃない。周りのことも考えて、最善の方法は何だ?
そうして私は、私達にとって少し辛い最善手を見つけた。
彼のためだ。私達の寂しさに比べたら……
私は再び天の部屋に入る――
―*―*―*―*―*―*―
俺は、どうしてしまったのだろうか。
意識が持って行かれた。俺の言うことを体が聞かなかった。
動かないからではなく、動くはずの口も意識とは別に動いてしまっていた。
ユメに出てきたオレが前に出たのか……?
何が何だかわからない。恐い。怖い。自分のはずなのに、自分じゃない、別のジブンがいる。
制御が効かない。歯止めがかからない。
俺はそのことに恐怖を抱えたまま、俺の部屋の障子が開いたことに気付く。
妖夢も気付いて、障子を見る。
障子を開け、部屋に入ってきたのは、幽々子だった。
……目が、赤い……? 充血か?
いや、さっきの食事ではそうじゃなかった。
……今までの状況から考えて、俺に原因がある可能性が高いなぁ……
「天、少し話があるの。よく聞いて。妖夢も」
「は、はい!」
「おう、了解」
「まず言う前に言うわ。私は貴方を苦しめたいから言うわけじゃない。ちゃんと理由があるから言っている、ということを心に留めて聞いて頂戴」
「……わかった。約束しよう」
幽々子が真剣な雰囲気を宿し始めて言う。
前置きから考えて、何か嫌なことがあるんだろうなぁ……
「天、貴方には……そうね……一年間くらい――
白玉楼から出てもらうわ。その間に戻ってもこないで」
「ぇ……ゆ、幽々子、様……? っと、どういう、え?」
妖夢が最大限の混乱を示す。
それなりの心の準備ができていた俺は、冷静な状態で話すことが出来た。
「……わかった。その期間が経てば戻ってきてもいいのか?」
「ええ、勿論」
「了解。いつになったら出ていけばいい?」
「明日。多分明日になったら動けるでしょうから」
明日か……いくら心の準備が出来てても、身の準備ができないよな……
と、それよりも大きな問題が……
「ここ出ていった後はどうすればいい?」
「さあ? 自分で何とかして頂戴」
お、おいおい……
「んな投げやりな。俺に自給自足の生活をしろと?」
「さすがにそこまで言ってないわ。どっか住む場所とかは自分で探して頂戴、っていう意味よ」
「わかったよ。いざとなったら霊夢とか魔理沙の世話になるか……」
「え、えっと……天君が、え……」
「……おい、妖夢?」
「どこかに行っちゃうん、ですか……?」
「ああ。そうだけど……?」
「そ、そうな、んですか。……わかりました。修行は出ていってもやってくださいね」
妖夢はそう言って、すぐに俺の部屋を出た。
「で、幽々子。何の説明もなしに出て行け、なんて言わないよな?」
「勿論説明はするつもりよ。で、何を聞きたい?」
「ただ一つ。理由だけ聞きたい」
幽々子は理由があってこう言う、と事前に言っていた。
だが、俺にはその理由が見当もつかない。
「大きく二つよ。一つは、妖夢と天を一旦距離を置かせるため」
「その心は?」
「貴方、さっきおかしなことを妖夢に言ってたでしょ? 信用できない、だとか」
「……ああ、言ってたな」
「妖夢は多分、少し衝撃を受けてるわ。自分自身も気付かないくらい少し、ね」
「わかるのか?」
「何年あの子の主人をやってきたかわからないくらいよ。それくらいわかるわ」
やっぱり幽々子は何だかんだですごく卓越した観察眼と洞察力を持ってる。
本人も気付かないことを気付くなんてそうそうできるものじゃない。
「少し間を置いたほうがいいと判断したの。もう一つは、まぁ個人的にしてほしいことなんだけど、妖夢と互角に戦えるようになって?」
「無理だ」
俺は即否定の言葉を返す。
俺は、否定の言葉や諦め、言い訳は、人間の可能性を大きく狭めるものと考えている。
だが、俺は聞いた瞬間に否定した。なぜか? それは、
最初から可能性が
「そんなことはないわ。能力、栞ちゃんの力、ずば抜けた判断力と洞察力。あらゆるものを駆使したらどう?」
「多分、無理だな」
「……否定はしないのね? 貴方も、どこかで『できるかも』って思ってるんじゃないの?」
「……できるできないは置いといて、やってみたいとは思う……かな?」
「じゃ、決まりね。妖夢をあっと驚かせて見せなさい。私も驚かせてくれると嬉しいわ」
「そうできればいいがな」
「……いきなりこんなことを言って悪かったわね。理由があるにしても、出て行け、は少しきつかったわよね……」
「いいよ。ちゃんと前置きしてくれたからな。なかったら俺はどうなってたやら……」
「ホントに、ごめんね……」
「また一年後、戻ってくるよ。……あ、持ち物どうしよ。ま、紫に頼もうか。悪いけど」
「それが最善でしょうね。私から言っておくわ」
「ありがと」
「じゃ、今日のところはもう寝てしまいなさい。明日動けるように、ね?」
「ああ。おやすみ、幽々子」
「ええ、おやすみなさい」
そう言って幽々子は部屋を出た。
……何もすることがない、というかできない。
幽々子の言った通り、寝るか。
(おやすみ、栞)
(うん。おやすみ、天。……明日から頑張ろうね)
(“頑張って”じゃないあたりポイント高いな。……ああ、一緒に、な)
俺は目を閉じる。
思いの外疲労は取れていなかったようで、数秒して眠りに落ちた。
暗い、
あの時と同じく、『俺』と『オレ』が対峙する。
何であの時、妖夢の会話の時に前に出た?
――お前が一番大切にする人そうだったからな。そいつから手始めに信用を失くしてもらおうと、な。
妖夢は傷ついていた。妖夢は関係ないだろ。
――俺が絶望するだろ。そして俺は思い出す。周りは信用したら終わりだって。信用するから、期待して、絶望するんだから。
なぜオレはそんなに信用を嫌う?
――嫌う、は語弊があるな。見返すんだよ。今までオレを足蹴にした奴らをなぁ!
そんな考えを持つオレにそんな力はない。
そして、俺のユメはこの言葉で終わりを迎えることになる。
――信頼の『希望』より、孤独の『絶望』の方がよっぽど強いんだぜ?
ありがとうございました!
ついに白玉楼から離れます。
と、いうわけで。今回で2章終了です。
この調子でいくと終わりは何章になることか……
ではでは!