何とか日曜投稿できました!
今回は、栞ちゃん回です。
残念ながら、妖夢が殆ど出てきません。
さらに、後半には、紫さんから幻獣についての補足の説明があります。
では、本編どうぞ!
――俺は、ユメを見ていた。“黒い”自分と対峙して、会話するユメ。
ユメの中にいる黒のそれは、殆ど表情は見えなかった。が、声が俺のそれだった。
“黒の”自分が言う。
――『俺』は、そのままでいいのか?
どういう意味だ。
――この環境さ。今までの『俺』はずっと
何が言いたい?
――周りに頼ろうとするな。信じられるのは、いつも自分だ。
……それで?
――『俺』は、甘くなりすぎだ。いつか足をすくわれるぞ。幻獣に勝つなんて到底無理だ。
……俺にどうしろと?
――周りは、信用するな。困ったら『オレ』が前に出てやる。『俺』は引っ込んでろ。
大丈夫だ。皆がいる。もう俺は独りじゃない。
――“
何がわかるというんだ。仲間がいないと勝てない。呼ばれたのもそれがあるからだろ?
――『俺』は何もわかっちゃいない。外で何も学ばなかったのか?
じゃあ、何を学べた? 言ってみろよ。そんなに自信があるなら。
――簡単だ。『
結局、『オレ』は何が言いたい?
――何度も言っているだろう。周りに頼るな。なに、心配するな。さっき言ったように、いざとなったら『オレ』が出てやる。
ここでユメは終わった。周りは頼るな、か……
頼り過ぎは良くないとは思う。が、
適度に頼ることも大切であることを。
『俺』と『オレ』の会話は終わる。
俺は重い瞼を開ける。差し込む光が眩しい。天井が見える。俺は横たわっているのか。
体を動かそうとするが、倒れた時と同じく、全く動かない。
(あ……天……)
(お、栞。ちょうど良かった。俺が倒れた後、どうなった?)
(え、えっと……霊力切れで倒れて、妖夢ちゃんに運ばれた。ここは天の部屋。幽々子は霊力切れだけが原因じゃないって言ってた……)
(そうか。結構霊力量には自信ついてきたんだがな……って、どうした?)
栞の語調にいつもの元気がない。倒れる前はいつも通りだったはずだ。
俺で遊んでたくらいだしな。
(その……ごめん、なさい……)
(お、おい、急にどうした? 俺は逆に心配になるぞ……?)
(私は、天の異変に気付けなかった。それが、悔しかったの……私が、気付いていれば……)
(いや、栞が悪いわけじゃないだろ。どっちかと言うと、自己管理ができてなかった俺に責任が――)
(私ね、気付いたの。天が私の中で結構大きな存在なんだ、ってことに)
(いきなりだな、おい)
(うん。さっきね、気付いたばかりなの。天は私を中に入れてくれてる。なのに、私は天に何もしてあげられてない。それどころか、助けてもらってばっかり)
……そうだろうか? 俺はいつ、栞を助けた?
むしろ、逆に感じる。
(いや、逆だろ。俺は栞に、能力とか諸々教わってたりした。助けてもらってるのは、こっちだ)
(……もう、天の中に入れてくれたことから、助けてもらってるんだよ。ずっと、独りだった。何年も、何十年も、刀の白の中にいた。そんな中、天がやってきて、私に色をくれた。それが、どれだけ嬉しかったことか……)
俺と、一緒。いや、栞の方が辛い。俺なんかとは期間が桁違いだ。
独りでいること、特に『独りを強いられている』人の気持ちはよく分かる。だって、自分がそうだったから。
俺はもう独りになりたくない。栞もそれは一緒。けれど、大抵この手の人は理解してもらえない。
そんな人が最も欲しいものを、俺は知っている。“理解者”だ。
俺は、栞の“理解者”になりたい。俺に務まるのかどうかはわからない。
けれど、少しでも共通の認識があるから。少しでも、一緒に背負ってあげたい。
(栞、きちんと面と向かって話がしたい。一回あそこに連れてってくれ)
(……わかった。目、閉じて)
前回以前と同様、目を閉じた数秒後に白へ。
中央には、一ヶ月程顔を見合わせていなかった栞。
「なぁ、栞。俺も一緒だったんだよ。幽々子に呼び出された時の会話、聞いてたんだろ?」
「……うん」
「俺は、孤独の重みと苦しさを知ってる。そして、俺の目の前にそれに現在進行系で悩む人がいる。だったら、俺がしたいことは一つだ」
もうその苦しみに自分自身も悩みたくない。そんな人も見たくない。
だったら。
「一緒に、背負わせてくれないか? こんなに頼りない、弱い人間だけどさ? これから一緒に頑張ろうぜ? な?」
その人の支えになる。それが、責務ってもんだろ?
「……あぁ……ああ。お願い、するよ……ありがとう……! あ、天、ご、ごめんね……ちょっと、涙が……ぅぁ……」
栞がポロポロと泣き出す。それが、幽々子の前の俺の姿と重なった気がした。
……だったら、やることも一緒だろ。
「……なぁ、栞。ちょっとこっち来いよ? な?」
「え……? う、うん……わわっ!」
俺は、俺の前に来た栞を抱きしめる。
「辛かったよな。痛かったよな。俺は、それを知ってる。どれだけ辛くて、悲しいか、知ってる。俺は、栞の力になりたい。支えたい。時々でいいからさ、俺のことも支えてくれると嬉しいよ」
「あぁ、あっぁ……そう、するよ。こんな私でよければ……いくらでも……!」
「ありがとうな。……一緒に、支え合っていこうぜ。文字通り、一心同体なんだからさ?」
「そう、だね……! ありがとう……! ぁぁ……!」
栞の抱きしめる力が一層強くなる。
その入れられた力の分だけ、俺は彼女を支えてあげられるようになりたい。
頼り、頼られの関係を築き上げたい。
俺は、彼女の意思に応えるように抱く力を入れた。
―*―*―*―*―*―*―
私は、ずっと独りだった。
私を、私の能力を上手く利用しようとする人は少なくはなかった。
私は、もう誰も信用できないのかと思っていた。
半ば諦めかけた時、彼がやってきた。
彼は、今までの出会ってきた人間とは、根本から異なっていた。
能力の悪用は頭の隅にも入れず、責任転嫁なんて欠片もなかった。
むしろ、それとは真逆だった。
『自分の責任だから、それに周りは巻き込めない』
彼は、自分の命が尽きるであろうその瞬間まで、その考えを持ち続けた。
そして、その姿を見た私は思った。
――この人なら。彼なら。天なら信じられる、と。
思えば、この時から私の中で彼が膨らんでいたのだろう。
私には、彼がどんな人間よりも輝いて見えた。憧れだったのかもしれない。
そして、突然に彼が無理をして倒れた。
私はこう思った。
何で言ってくれなかったんだろう、と。
けれど、その後に疑問が生じた。
私は彼を信用している。それもかなり。
――
私はそこまで考えが巡って、泣きそうになった。
私が勝手に。一方的に。信頼してるだけなんじゃないか?
彼にとって、私は相談できるほど信頼できない人なのか?
彼は目覚めてから、こう言ってくれた。
『一緒に、背負わせてくれないか?』
彼は私と同じだった。自分は悪くないのに、周りからは毛嫌いされる。
私と彼は、そのことの辛さと悲しさを経験し、知っている。
私と彼は、共通して“理解者”が欲しかった。
お互いがお互いを“理解者”となった今日、私の心の傷が少し癒えた気がした。
今度は、私が彼の傷を癒やす役目を担いたい。
そして、彼はこう言った。
『これから一緒に頑張ろうぜ?』
私は、彼の言葉につい涙を流してしまった。
やっと自分のことをわかってくれる人が現れてくれた。そう思うだけで、涙が
そんな私を見て、彼は私を抱きしめてくれた。
あぁ、これが人の温もり。とても、暖かい。もう感じることは無いと思ってた、人の温かさ。
随分と忘れていた、温かさ。優しく包んでくれる彼の温もり。
彼には、本当に感謝している。感謝してもしきれない。
だから、今度は私が彼を支えたい。頼って欲しい。
私は、彼の言ったこれらの言葉が、ずっとずっと欲しかったんだ……
私は、彼に協力できることは何だってしたい。
彼は幻獣と戦わなければならない。相当大変だろう。
だから。その時に。これまで受けた恩を精一杯返したい。
私はそう決意を固めた。
―*―*―*―*―*―*―
俺と栞との仲が深まった。これからは、二人で頑張っていく。支え合う。
あの白一色の場所から抜けて、俺は再び天井を見つめた状態で目覚める。
「天!? 大丈夫だった!? どこか変なとこない!?」
俺が目を開けた瞬間、幽々子の張り詰めた声が聞こえた。
いつもの幽々子からは考えられない程の慌てよう。相当に心配させたようだ。
何とか会話はできるようになったみたいだ。俺は幽々子に返事をする。
「あ、ああ。大丈夫だ。心配かけたな……」
「本当よ、全く! ……妖夢が貴方を運んでいるのを見て、心臓が止まりかけたのよ……?」
「はは……そんなに焦らなくてもいいのに。さすがにそれは心配しすぎだ」
「天のことだから心配なんでしょ! 貴方って人は本当に……!」
「ごめんごめん……で、俺の体はどうなんだ? 霊力切れらしいじゃないか」
「……妖夢が来てから一緒に説明するわ。まずは夕食よ」
ああ……妖夢にちゃんと頼めてなかったよな、夕食作り。
悪いことしたな……って、あ。
「俺、どうやって食べんの? 腕動かないよ?」
「腕も動かないの!? 貴方本当に何したのよ……」
幽々子が心配半分、呆れ半分といった様子で言う。
いやはや、自分が一番知りたいですね~
「わからん。突然倒れて、目が覚めたら全身動かなかった」
「腕だけじゃないのね……これは、かなり……」
「ん? どうした、幽々子?」
「……妖夢にでも食べさせてもらうことね」
幽々子にそう言われて想像する。
妖夢の「あーん」かぁ……中々悪くない。
彼女は滅茶苦茶可愛い方だし、性格もいい。
外だとモテただろうな……っと、それは置いといて。
「ん、そうするよ。実際、俺何もできないし」
「もうすぐできるらしいからね。今日は天の部屋で食べましょ」
「いいのか?」
「妖夢と天が二人で食べて、私が一人って寂しいじゃない」
「ま、だな」
妖夢が夕食を運んでくるまでの間、幽々子と雑談をしていた。
……のだが、雑談でかなりこれから重要になることを話していた。
「あ、そうそう。幻獣の出現、あれ
「……え?」
「大体の予測出現時間が五年後。予測だから正確にはわからないわ」
「お、おい、ってことは……!」
「ええ。極端な話、
俺は全力で叫ぶ。彼女の名前を。
「ゆぅかりぃーーーー!」
「呼ばれて飛び出てぇ」
俺が紫を呼んだ瞬間、空間にスキマができて、紫が現れる。
瞬時に出てきたことよりも、物申したいことがある!
「おい紫! なんでそんなに大事な大事なことを話さなかったんだよ!」
「いやぁ……忘れちゃってた♪」
「おい紫ちょっと来い! 俺が動けないことをいいことにおちょくってんじゃねえよ!」
「いやぁ……ごめんね♪」
「お前後で覚えとけよ……!」
「いや~乱暴されるぅ~」
「できねぇよ! 俺は紫に勝てる気がしねぇよ!」
「……で、何が聞きたいの?」
急に雰囲気を変えて話し始める。
……紫はふざけているのか、真剣なのか、つくづくわからない。
「まず、幻獣出現がズレる可能性のある理由から」
「……幻獣ってのは、一度幻想郷を襲ったことがあるの。それで、今はその幻獣たちが封印されてる。かなり強い結界でね」
もう既に一度出ているのか。となると、抑えた人物がいるはずだが……
「で、それ誰がやった? そいつ連れてくればいいじゃん」
「できるならとっくにやってるわ。封印したのは……
最強、か。恐らく。……いや、確実にかなり強いだろうな。
この幻想郷にはかなり強いメンバーがいる。その当時にいなかったとしても、未だに紫が最強と言うんだ。
創造者である紫にそこまで言わせる一代目。強いことに間違いはないだろう。
勿論、その後の代になる霊夢を凌ぐくらいに。
だが、その巫女を連れてこられない。そして、後の代の霊夢がいることを考えると――
「もう亡くなった、のか……?」
「ええ。封印の時に文字通り全ての霊力を使って、ね。大規模かつ強力な結界を張った初代は、いくら最強といっても耐えられなかった。封印に必要な霊力を持つ人もいないし、その封印自体使える人がいないからね。勿論、霊夢だって使えない」
……今の幻想郷で一番霊力の扱いに長けているとここに来る前……幻想入り初日の夜に本人から聞いた。
話を聞く限り、本当だろう。となると、他の誰かが奇跡的に使える、という可能性もないに等しい。
「……なるほど。二度目の封印が無理だとわかった今、根絶させるしか手はない、と」
「ええ。そういうことよ」
「で、それは後で考えるとして……一度目の幻獣襲来。あれは誰がやったんだ?」
そう、諸悪の根源はこの初撃を加えさせた人物にある。
なので可能性として、そいつを無力化できれば幻獣自体も止められる可能性がある。
幻獣が幻想であることと、荒れ狂っていることは初めに紫から伝えられた。
幻想を引っ張り出す役と、幻獣を本格的に操り、動かす役がいるだろう。
最低でも一人二役だったとして、一人は黒幕が奥で隠れている。
「……さすがね。そこに目を付けられるのは、中々悪くないわ。名前は詳しくはわからない。姿も隠してた。けれど……全部で三人いることは確かよ」
三人、か……幻獣を大規模に動かせるということは、少なくとも弱くはない。
言い方から察するに、誰一人仕留められてない。
「わかった。そいつらが封印を解く可能性は?」
「十分にあるわ。もう初代の結界もなくなりかけてる。結界の中で幻獣が暴れ続けてたら、1、2年の誤差も十分ありえる」
「それはもう誤差っていうレベルじゃないんですがそれは」
「いえ、封印がかなり前なの。1年や2年も誤差になってしまうくらいね」
大体わかってきた。今ここでまとめるとするならば……
「なぁ紫、これって
「ええ。かなりね。でも、対策がないわけじゃない。それが、貴方――天よ」
「俺の実力を買いかぶり過ぎじゃないか?」
「まぁ、貴方の能力と、そこの魂ちゃんの能力の合わせが唯一の希望なの」
「私の……?」
「あら、喋ってくれたわね。こんばんは~。紫って言うの。よろしくね~」
「う、うん、よろしく……私は、栞」
「栞ちゃんね。覚えたわ」
二人が自己紹介をする間に考える。
努力の能力と、火、水、雷の能力の合わせ、か……
無限の可能性はありそうだが、それを持ってるのが普通の人間じゃなぁ……
「紫。どう考えても栞の方はともかく、俺は力不足に感じるが……」
「言ったわよね? 貴方が最適って。もう何言っても遅いわ。できるできないじゃなくて、やるのよ」
「……できるだけやってみるよ。それで、幻獣は一気に大量に来るから強いのか? それともかなり強い幻獣が少数だけどいるから強いのか? はたまた、その両方なのか?」
「両方よ。それに、結界を一部だけ集中して破って、ある一定の強さや数の幻獣を出すことも考えられるわ。だから、幻獣との戦いはまだ後のこと、なんて考えないでね?」
かなり手強いな……こちらの手札はたかが知れている。
二度目となると、それは黒幕の三人にも知られているはずだ。
好きなタイミングで、好きな強さの幻獣を、好きな数で出せる。ハンデがありすぎる。
「幻獣出現の場所の事前特定は?」
「できませ~ん。襲ってきてからじゃないとわからないわ。まぁ、幻獣の力はとてつもなく強いから、幻獣が出てきた瞬間にわかるでしょうね。霊力感知できたら、ね」
あ~……場所もランダムときたか。
これはもう勝てないんじゃないかと思うくらい。
……けど、呼ばれたからには頑張るだけ頑張るか。
そう考えていると、俺の部屋の障子が開いた。
「あ……夕食を運びに来ました。紫様、こんばんは」
「こんばんは~。私は晩御飯に参加してもいいかしら?」
「私が許可するわ。……紫にも天の容態をここで聞いてもらった方がいいでしょうから」
「……わかりました」
そう言って妖夢はまだ台所にあるであろう、運んでいない夕食を運びに俺の部屋を出る。
一瞬、妖夢と目が合ったが、すぐに逸らされた。
ありがとうございました!
今回はいつもより少し長めでした。
そろそろ妖夢とは一旦距離を置いてもらいます。
VS幻獣もあと10話するかしないかくらいで書くつもりです。
戦闘の文が心配で仕方がないです。
ではでは!