東方魂恋録   作:狼々

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どうも、狼々です!
この話は、栞が天以外の人と会話します。
天のみの脳内会話は( )で、他の人にも伝わる脳内会話は「 」で書いてます。
わかりにくいでしょうが、よろしくお願いします。
では、本編どうぞ!


第18話 “飛ばす”斬撃

妖夢が幽々子に呼ばれている間。

俺は言われた通り、一人で修行をしていた。その最中、栞に聞きたいことがあり、質問した。

 

(なぁ、栞。霊力で刀とか自分自身とか強化できるんだよな?)

(うん、できるけど?)

(あれってどうやるんだ?)

(霊力を形を変えて纏わせるイメージを持つの。刀だったら、鋭い形に霊力を圧縮して刃に纏わせる感じ)

(自分自身はどうするんだ?)

(拳とかだったら、霊力を固める感じ。移動が早くなるとかもできなくはないけど?)

(どうすんの?)

(浮遊の時の感じを足、または足の裏だけに集中させて、一回の蹴りで速く、遠くに移動って感じかな?)

 

意外と簡単そうだな……少なくとも、移動速度アップはすぐできそうな雰囲気だが。

 

(やってみる?)

(ん、じゃ、やってみるわ)

 

霊力を自分の足へ集める。すると、初めて気付くことがあった。

 

(……あれ? 何か足の周り白くない?)

 

今まで霊力は飛行で結構使ってきてるが、これは見たことがない。

抽象的な光と、使ったタイミングからして、これが霊力の色であることは間違いないだろう。

 

(霊力は本来、色を持ってるの。色は、その霊力の特徴が大体反映されてる。この白は、結構汎用性がある方の証だよ)

(意外と珍しかったりは?)

(まあ、白は案外少ないくらいかな。で、色が出るのは、霊力の……濃度みたいなのが高いと出るのよ。天は今まで飛行にしか霊力使ってないでしょ? あれ自体使う霊力は少ないし、一箇所に集まったり、高密度で圧縮しないと色は出ない。弾幕とかは、圧縮してるから色がでてるよ。ちなみに、能力を同時に使ったらその色に霊力の色が変化する。火は赤、水は青、雷は黄にね)

 

ふ~ん、そうなのか。今思ってみれば、霊力を一箇所に集めるのはこれが最初じゃないか?

初期段階の飛行は集めるほどでもなかったしな。

 

(で、その足に霊力を維持させ続ける。そして、その霊力で自分の足の力にブーストをかけるの)

(ブースト……ねぇっ!)

 

俺は地面を思い切り蹴って走る。

 

 

……すると、驚異的な速度で走り始めた。

 

「うわああああああああ!」

 

叫ばずにはいられなかった。走るだけで恐怖が襲ってくる。

 

(何してんのさ! 早く止まってよ!)

 

栞の必死の警告が頭に入る。

足を前に出して、半ば強引に停止にかかる。

 

「いったあ! うあっ、痛すぎる……!」

 

足の痛みに思わず声を上げる。

足を心配しつつ、今走った道を振り返って見た。

すると、数秒前にいた俺の位置が、約50m先にあった。

 

「……はぁ!?」

 

またしても叫ぶ。驚きしかない。

 

(うわぁ……さすがにこれはすごいね……)

(……どのくらいすごいんだ?)

(えっと……今走ったのが3秒間くらい、走った距離が50m前後だね。この速度を維持したとすると、1km走るのに1分間。時速だと60kmだね)

 

……速すぎる。そこらの車並みだ。

それで、さらに自分の体の状態に関しても驚く。

 

(……なぁ、これどんだけ走ったら疲れるんだ?)

 

そう。疲労がない。全くと言っていいほど。

心拍数も上がった様子がないし、呼吸も整っている。汗なんて形もない。

 

(そう、だね。霊力でブーストしてるから、動かす分は普通よりも少ない疲労だよ。でも、使い続ければ、霊力の精神的な疲労が来るだろうけどね)

 

つまり、瞬間ならば、体力消費を実質ゼロで驚異的な加速が実現できる、ということ。

刀等、接近する必要のある武器を使う俺にとって、大きなアドバンテージだ。

間合いを一瞬で詰めたり、空けたりできる。戦術に組み込めば、かなり可能性を広げられる。

 

ただ……

 

(止まる時が痛いんだよなぁ……)

(それは簡単だよ。霊力を足全体に広げて、踏みとどまる力を強くするか、骨に霊力を張って無理矢理耐えるかすればいいじゃん。圧倒的に前者がおすすめだけど)

 

……なるほど、止まる時も霊力強化で、か。

 

(了解、次練習した時にでも試してみるよ)

(……ねぇ、妖夢ちゃんには霊力強化について秘密にしておかない?)

(その心は?)

(天の成長スピードから考えて、妖夢ちゃんと模擬戦をやるのはそう遠くないはずよ。……その時に、驚かせてみない?)

 

……ふむ。中々面白い提案じゃないか。妖夢の驚いた表情を見てみたい。

 

(……いいね。驚いた顔を見てみたいよ。その時のために、練習しなくちゃな)

(そうだね。……妖夢ちゃんの表情をもっと見たいのは、天が一番だろうしね?)

(何でそうなるんだよ。……まぁ、見たいっちゃ見たいけどさぁ――)

(自分のことを気付いてないの? ……まあいいわ。次は武器の霊力強化を――っと思ったけど、今日はお開きみたいだね。戻ってきたよ、妖夢ちゃん。ほら)

 

俺は栞に促され、玄関を見る。

妖夢が笑顔でこっちに向かってくる。

 

(妖夢ちゃん可愛いよね~)

(ああ、そうだな――って何言わせんだよ)

(はぁ~……)

 

栞の溜め息は少々呆れ気味だった。……まぁ、妖夢は可愛いけどさ……

笑顔とかもうたまらなく可愛い。あの無垢な笑顔には目を奪われる。庇護欲をそそられるというか……

 

 

――何考えてんだろ、俺。

 

 

 

「さ、修行に取り掛かりましょう!」

「了解!」

 

妖夢が声を大きくして言う。

 

「今日は、そうですね……栞ちゃん、聞こえてますか?」

 

妖夢が栞を呼ぶ。そういえば、妖夢が栞を呼ぶのは初めてなんじゃないか?

 

「聞こえてるよ~」

「聞こえてるってさ」

 

……これ不便じゃない? 一々俺を介して会話って結構手間取るよね。

 

 

 

「はい、私も聞こえましたよ?」

 

 

 

「……おい栞」

「……何かな、天くん?」

「後で話さなきゃいけないことがあるんだ。ちょっと付き合ってくれよ……?」

「わ、わかったよ~……それで妖夢ちゃん、何?」

「え、えっと……今日は刀に霊力を使います。天君の霊力の流れはわかりますか?」

「うん、ばっちりね」

「はい。じゃあ、天君が上手くいかない時に、霊力の使い方を一緒に教えてあげてください」

「りょうか~い」

「じゃあ、始めましょう。霊力を刀に集めてください」

 

俺は妖夢に頷き、刀を抜いて霊力を集めようとする。

すると、栞が俺のみに声を聞こえさせる。

 

(どうやら刀の霊力強化は、妖夢ちゃん直々に教わることになるみたいだね。少し残念な気もするかな。他のを教えるから、夜に頑張ろうね)

(……まぁ残念だが、妖夢に教わるなら大丈夫だろ。にしても、そんな『頑張ろう』なんて言うんだな。一回殺そうとしたのに)

(いや、それは……でも、私は天が続けてきた努力も知ってるし、応援したいの。純粋にね)

(ま、ありがとうな。頑張るわ)

 

そこまで会話をして、本格的に霊力を集める。

刀には先程見た、白色の霊力が漂い始める。

 

「天君は白ですか。基本何にでも使えるので便利ですよ。弾幕も、速度重視のものから高火力のものまで出せますよ」

「へぇ、中々使い勝手が良さそうだな……こんな感じでいいか?」

「えっと……漂わせるんじゃなくて、貼り付ける感じです。霊力そのものを鋭い刃のようにして……」

 

言われた通りにやってみる。霊力を出して維持すること自体にも精神力を使うけど、形にして維持はもっと負荷があるな……

ちょっと意識を外すと、すぐに霊力が霧散して戻りそうだ。

 

「霊力が無駄になっちゃってるよ。半分以上ね。周りの空間から霊力圧縮じゃなくて、刀に最低限流し込んで貼り付けるの」

「そうですよ、天君。頑張ってくださいね~」

 

(おお、妖夢ちゃんが応援してくれてるよ! 頑張れ、天!)

(……言われなくとも、な!)

 

貼り付けのイメージで霊力を刀に再抽出する。

 

「おお、そうですよ! すごいですね、天君!」

「あ、ああ。ありが……とう」

 

この無邪気に笑う妖夢に褒められると、なんだか照れる。

俺の成功を自分のことのように喜んでくれるみたいで。

 

「妖夢ちゃん、天が妖夢ちゃんに褒められて照れてるよ!」

「言うな! 恥ずかしい……」

「可愛いね~」

「可愛いですね~」

「はぁ~……あ、霊力が」

 

霊力が完全に霧散した。意識の片隅にも置けてなかったからな……

もう一度霊力を刀に戻す。意外と疲れるな……

妖夢はクスッと笑って言う。

 

「……もう完璧みたいですね。さすが天君です」

「おい妖夢。妖夢まで俺をからかいたいか。必要以上に褒め倒そうという魂胆が見え見えだぞ」

「あ、バレましたか? もう一度だけ見たかったんですよ」

「俺はそうじゃないがな。で、次はどうするんだ?」

「その霊力を使って、斬撃を“飛ばす”んです。霊力刃(れいりょくじん)っていうものの練習です」

 

斬撃を……飛ばす? 霊力の刃、か。

 

「ああ、なるほど。天、霊力を斬撃として飛ばすの」

「今栞ちゃんが言った通りです。これができれば、弾幕の一種としても、スペルカードとしても使えます。近接武器の刀で遠距離攻撃ができますから、覚えた方がいいんですよ」

「了解。じゃ……どこに撃てばいい?」

 

撃つ場所がない。桜の木に撃つわけにもいかないし。

 

「そう、ですね……私に撃っていいですよ。天君の慣れない霊力刃なら私でも安全に打ち消すことができると思います」

「……わかった。やってみる」

 

俺は少し躊躇しながらも、妖夢の提案を受け入れる。あまり妖夢は傷つけたくない。

だが、正直な所傷つけようとしてもできない。まだまだ力の差がありすぎる。

妖夢が少し下がり、楼観剣を構えたことを確認し、霊力強化から斬撃を飛ばす。意外と飛ばすだけなので、簡単みたいだ。

じゃあ、せめて……!

 

「いくぞ~ ……はぁッ!」

 

初弾で成功し、前に飛ぶ霊力刃。中々の速度だと思う。大きさは刀の半分ほど。

さっき走った速さの半分よりちょっと速いくらいだろうか?

妖夢の右腕の2m先に霊力刃が到達したところ辺りで、楼観剣が振り抜かれる。

しっかりとタイミングが合って楼観剣と衝突。瞬間、キィン! と甲高い音を立てて、霊力刃が相殺される。

 

「いいですよ! その調子です! もっと本気でいいですよ!」

 

十分本気のつもりだった。けれど、妖夢は思いの外軽々と相殺したので、ちょっと凹む。

……もっと強くいくか!

 

「わかった! ……はぁぁっ!」

 

スピードはさっきより速い速度で、大きさも刀の三分の二ほどにまで大きくなっている。

少しだが、尾を引いている気もする。

無意識に本気を出すのを躊躇ってたのか……? 俺では妖夢に全く敵わないとわかってるはずなのにな。

今度は妖夢の左脚に霊力刃が向かう。が、しかし。当然と言うべきか、呆気なく楼観剣に弾かれる。

 

「……はぁ、まだまだ、だな」

 

(そんなことないよ? 結構筋もいい方だね。努力すればかなり磨きはかかると思うよ? 天ならできるさ。私はそう思うよ?)

(ま、頑張ってみるよ。ありがとうな)

(ホントのことだからね。ありがとうも何も……)

(いや、嬉しかったよ。励ましの言葉が。……ありがとう)

(……いいんだよ。ほら、続きやって!)

(ああ!)

 

栞に励ましの言葉をもらって、やる気が出る。

栞は意外とこういうことに気が回る。俺が少し鬱だったり、落ち込んだ時は、ちゃんと心配してくれて、励ましてくれる。

結構ありがたいものだ。

 

「妖夢! もういいか?」

「いいですよ!」

 

俺はこの後、30発強の霊力刃を撃ったが、ことごとく妖夢に弾かれた。

全く歯が立たない、とはまさにこういうことだ。

 

 

 

そして、修行も終わり。……今日はいつもより終わりが早いな。

 

「お疲れ様でした。自分では気付いてないかもしれませんが、回数を重ねる度に成長してますよ。威力も、スピードも、大きさも。コツを掴んだみたいですね。これからも一緒に頑張りましょうね」

「……ああ。ありがとうな」

「そんなに落ち込まなくていいんですよ。初めてにしては出来過ぎな位です。今日はゆっくり休みましょう」

「そうするよ……とは言わずに」

「……? どうしたんですか?」

「今日は普段より終わりが早いよな? 買い物だろ? 俺が行ってくるよ」

「いえ、その言葉は嬉しいですが……飛べないでしょう?」

「ふっふっふ~……何を隠そう、俺はもう自由自在に飛べるようになりました!」

 

俺は自慢顔で妖夢に告げる。妖夢の表情に若干どころじゃない期待を抱いて。

妖夢の顔を見ると、口を開けて、目をパチクリと動かすばかり。

 

「え、えええぇぇぇ! え、だって昨日の今日で、え!?」

 

うむ、余は満足じゃ。期待通りのリアクションに笑みが溢れる。

……可愛い。

 

「まぁ、自分の力じゃなくて栞に教わった分なんだけどな?」

「いや、私は教えただけ。そこから頑張って、飛べるようにしたのは天。あくまでも天の力なの」

「と、栞ちゃんは言っていますね。謙遜ですね。……全く、そういう時はちゃんと胸を張っていいんですよ?」

「いや、それもおかしいだろ。あまり自分の成果は公表するものじゃないからな」

「私は今知りましたから、公表したことになりますね」

「……まあな」

 

やっぱり努力の成果は人に自慢するものじゃないな。

この幻想郷に来てわかった。

 

「天君が頑張ったから飛べたんです。よく頑張りましたね。えらいえら~い」

 

妖夢の褒めの言葉。……恥ずかしい。

 

「あ、照れてますね! 私でもわかりますよ! やっぱり可愛いですね~」

「そうだね~」

「二人して俺に羞恥を植え付けて何がしたいんだ……とにかく、俺が行けるようになったから、行ってくるよ」

「いえ、ですが……わかりました、私が一緒に行きますから!」

「い、いや一人でもいいんだ。妖夢はゆっくりと休んでてくれ」

「え、えっと……買うものわかりませんよね? 私が着いていきます!」

「……じゃあ、何かメモをくれ。それ見るよ」

「う、うう……そ、そうです! 重いです! 私はこの隣の半霊でも持てるからいいですが、人が一人だと持てません!」

「……じゃあ、悪いけど手伝ってもらうよ。ごめんな?」

「いえ、いいんですよ。 ……私が行きたいってことで!」

 

妖夢は一緒に買い物に行くことが決まって、笑顔を浮かべる。

――まるで、俺との買い物が楽しみであるかのように。

 

   ――考えすぎだ、俺。

 

―*―*―*―*―*―*―

 

私は一旦自分の部屋に戻り、準備をしていた。

本当は今日は買い物に行く必要はない。まあ、行くに越したことはないが。

それは、昨日買い物に行ったから。今日修行を早めに切り上げたのは、買い物に誘おうとしたから。

一緒に買い物して、一緒にご飯を作り、一緒に食べて。そんな夫婦のような『理想の』関係にすがるため。

彼ともっと長い時間居たい。彼のそばで、隣で。

彼から一人で買い物に行くと言われ、少しだけ焦ったが何とかなった。

彼を前にすると、時々性格がブレてしまう。それだけ彼に接しようと必死ということだろうか。

 

準備を終えて、部屋から出て、彼のもとへ。

 

 

  もう私は、彼に随分と溺れてしまっているみたいだ。

      

              けれど、私にはそれがたまらなく幸せに感じる。




ありがとうございました!
次回は買い物からスタートです。
そろそろ紅魔館メンバー出します。
ではでは!

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