終わりませんよ、ええ。
今回、妖夢と天君の距離が結構近づいてます。
個人的に一番見ていただきたい話です。
では、どうぞ!
――『器』が足りない。
ああ、そうか。俺は、駄目だったのか……
少し、悔しい感じもあるが、何よりも罪悪感でいっぱいだ。
皆の顔を思うと、胸が張り裂けそうだ。
「……ああ、そうか。じゃ、皆のもとに戻してくれ。皆のもとを離れなきゃならない。能力が暴発したら皆が巻き込まれる。それだけは嫌なんだ……頼むよ」
「ねぇ、自分が今から死ぬんだよ? どうとも思わないの?」
「どうもないって言ったら嘘になる。けど、この前も言った通り、
「……それだけは嫌って、自分が死ぬことじゃないの?」
「違う。さっきから言ってるだろ。結局のところ俺がその程度だったから死ぬってだけだ。それに皆を巻き込むなんてできない。……なあ、頼むよ。皆は悪くないんだ。俺の命についてはもう何も言わない。好きにしてくれていい。ただ、皆だけは……!」
「……わかったよ。最初からそのつもりだったし。……天の本心も確認できたしね」
「……本当に、ありがとう」
「…………じゃあ、目を閉じて」
俺は、魂幼女に心から感謝した。
よかった、皆は巻き込まれないで済む。俺の勝手な都合で皆も死なせる訳にはいかない。
そして、目を閉じる。
目を開く。例の四人が俺の顔を覗き込んでいた。俺は魂が抜けて横たわっていた体を起こす。
妖夢が一番早く口を開く。
「……どうでしたか?」
俺はこの先の言葉を言うのに躊躇ってしまう。
妖夢は……霊夢は、紫は、幽々子はどんな顔をするんだろうか。
胸が締め付けられる。
「……駄目だった。足りないってさ。もうすぐ能力が襲ってくるらしいからさ、俺はここを離れるよ。……幽々子、俺が死んだらもう何もしなくていいよ。わざわざあの時言ってくれたのに、申し訳ない。俺は閻魔様のお世話になってくるよ」
そうじゃないと、合わせる顔がない。どんな顔で会えば良いのかわからない。
「……霊夢、わざわざ色々と教えてくれたのに、ごめんな。勉強になったよ」
本当に勉強になった。少しでも幻想郷について知られてよかったと思っている。
「……紫、お礼は言えそうにないよ。言いたかったんだけどね……すまなかった」
お礼の言葉が謝罪の言葉に変わることにひどく自分に嫌悪感を抱いてしまう。
「……そして、妖夢。約束、守れなかったな。本当に悪いと思っている。……あと、色々と俺にしてくれて、
……そろそろ離れないと。
俺は白玉楼を飛び出す。少しでも、皆の遠くに。
―*―*―*―*―*―*―
私は、彼が起き上がって言った言葉を受け入れたくなかった。
だめ……? なにが、だめなの?
うつわ……? たりないって、どういうこと?
彼の淡々とした声は殆ど私の耳に入らない。私に声が向けられて、ようやく耳に入ってくる。
「……そして、妖夢。約束、守れなかったな。本当に悪いと思っている。そして、色々と俺にしてくれて、ありがとうな。俺は嬉しかったよ」
そんなこと……いわないで……やくそく、まもってよ……!
そう叫ぼうとするが、上手く声が出せない。
彼はそう言うと、すぐさまこの場を離れていく。
その瞬間、霊夢の怒号が響き渡る。
「妖夢! 今すぐ天を追って! 泣いてないで、早く!」
え……? あれ、私、泣いて……
霊夢に言われて初めて涙を流していることを認識する。
幽々子様、紫様からも大きく言われる。
「妖夢、追いなさい! 天は皆に謝っていた。けど!
「行きなさい!
私にだけ、ありがとうと言っていた。信頼、されていた……。
その言葉は私の体を動かすには十分だった。
「……行ってきます!」
私は全速力で彼を追った。けれども、もう彼の後ろ姿も見えない。
私がうじうじとしていた分だけ遅れてしまっている。
もっと速く、急いで……!
私は、彼を見つけた。やっと、見つけた。
息も上がってしまうほどに急いで探した。必死に探した。
彼は、冥界から地上へ下る階段の少し前にいた。
そこで見つかった彼は、
背筋が凍る。全身から血の気が引いていく。時間が遅く感じられる。音と彼以外の色が消え去る。
自分の視界から周りのものは消え、彼のみを映す。現実を、非常な現実を、私に突きつけるように。
「……そら、くん……?」
弱々しい声が周りの静寂を破る。
……が、その声に反応は返ってこなかった。
安定しない足取りで彼のもとに辿り着く。
「あ、れ? そら、くん? どうし、たんですか……? こんなところで……?
ふざけてないで、ほら、かぜ、ひきますよ……?」
彼の体を抱き上げる。変わらず彼の体は動かない。
閉ざされた瞳は一向に動く気配がない。
私の思考はようやく巡り始める。
……あれ?
なんで、そらくんはうごかないの?
なんで、めをとじてるの?
おか、しいよね……?
あれ……?
もしかして――
しん――――
「あ……ぁあああぁぁぁああああぁあああああ……! いやぁぁぁぁあああああああああああ!」
その悲鳴は、虚しく白玉楼中に響き渡った。
彼の体は私が抱きついて泣いてもなお、動かない。
どれだけ涙を流そうとも。
―*―*―*―*―*―*―
もう来ることはないだろうと思っていた
そしてもう会わないだろうと思っていた
「……なぁ、なんで俺を、ここに呼んだ?」
疑問。
「呼ぶ必要が、あったから」
回答。
「何のために?」
……わからない。最後まで。
「
……はぁ~。なんてことだ。逆に死んでしまいそうに力が抜ける。
もう既にわかりきっていることを確認するために聞く。
「……どういうつもりだよ」
「だから、貴方は『器』を示した。前の刀所有者は、『器』が足りないって言ったら、皆は生きようと刀を捨てたり、逃げようとしたり、酷いヤツは、部下に刀を押し付けて自分だけ助かろうとしたのもいた」
「……なにが、いいたい?」
「あなたは、自分の死を受け入れようとする
「……つまり?」
「天は『器』を示した。なら、私は天の命は取らないし、取りたくない」
「……はぁぁぁぁ~」
俺は大きな溜め息をつく。
これ皆のもとに戻ってどんな顔すればいいんだ……
「やっぱ合格だったわ。テヘペロ♪」ってか。気持ち悪いしふざけているにも程がある。
自分の言ったことが悔やまれる。何であんなこと言っちまったんだ……恥ずかしすぎる!
……けど、まだ魂幼女に聞くべきことがある。
「なんで『器』が必要だったんだ?」
「私が人の中に入っても問題ない人を探してたの。私が中に入ると、私の力を刀より使用者の近くで使うわけだから必然的に力が大きくなる。私の能力を悪用しないかつ、私が入っても大丈夫な心の『器』を持ってる人が条件で、それにあったのが天なの」
「俺が悪用しないとは限らないだろ」
「毎晩ずっと隠れて自分の力を磨くような人がそんなことするとは思えない」
そうか、いつでも見てるって言ってたな……
俺の近くに刀がある限り俺が何してるかわかるのか。
「あ、それと私の名前言ってなかったね」
「そうだよ。『一週間も生きられないー』なんて言って自分だけ言ってなかっただろ」
「あはは、ごめんごめん。私の名前は
「こちらこそよろしく、栞。……で、俺はどうすればいい?」
「ええと、まず天を外に出すでしょ? その後、私が天の中に入るから、それなりの心の準備をしてて」
「心の準備ってな……」
「はいはい、じゃあ目を閉じて~」
俺は例の如く目を閉じる。
少しして聴覚が戻ってくる。やっぱり何度経験しても慣れない。
そして、自分の胸の上に何かがあることと、泣いている声が聞こえることに気がつく。
はっとなって目を開き、確認する。
そこには、思い切り俺に抱きつき、泣き声をあげている――妖夢がいた。
「……ぇっく……あぁあ、そら、くぅん……」
俺はドキッとした。妖美になった彼女の声が耳で、頭で響く。
それよりも、かなり心配させたようだな……
「……妖夢」
「……ぇ? あ、ああ、そら、くん……よか、ったぁ……そら、くぅん!」
妖夢が俺へ抱きつく力を一層強める。
心臓がドキドキしっぱなしだ。抱きしめられて、こんな声で名前を呼ばれて。
「……心配、かけたようだな」
「ほんと、ですよ……わたし、そらくんが、しん、じゃったと……う、うわぁぁぁん!」
妖夢が再び泣き始める。俺は妖夢を抱きしめ返す。
「大丈夫だよ。俺は死んでない。さっき、刀の魂から合格もらってきた。まだ妖夢達と一緒に暮らせそうだ」
「ええ、ええ……本当に、よかった、です。……約束、守ってくれたね」
敬語のない彼女の言葉と共にあったのは。
今昇っている太陽よりもはるかに明るい、今までで一番の妖夢の笑顔だった。
俺はこの笑顔を一生忘れることはないだろう。それほどまでに、輝いていた。
そして。頭にあの声が響く。
(やっほー、天。移ったよ~。これからは頭の中で会話できるからね……って、アレ、先客? ま、いいや。よろしくね~)
(ああ、改めてこれからよろしく、栞)
俺も頭のなかで同じようにして言葉を発する。
(お、初めての脳内会話にしては上手いね。それよりも……お邪魔だった?)
(いや、なにが?)
(えっと…妖夢ちゃん、だったっけ? あの子といい雰囲気だったのに、私が入って悪かったな~って。あ、ちなみに私の声は周りには聞こえないからね♪)
栞が明らかに悪いと思っていない、むしろ愉しそうな声色で言う。
そう言われて俺は今更ながらとても恥ずかしくなる。
けど……少しくらい、俺も甘えてもいいと思うんだよ。
「なぁ、妖夢。もう少し、このままでもいいか?」
「……ええ、いいですよ。――お疲れ様でした、天君」
――ありがとう。心の中でそう言って、妖夢を抱き続けた。
どのくらいの時間が経っただろうか。
たった数分にも、数時間にも思える。正直、妖夢といると心が落ち着く。
外では避けられていた俺にとって、こうやって接してくれる相手がいることは本当に嬉しい。
「ありがとう。もう大丈夫だ。行こう。……妖夢は、大丈夫か?」
「大丈夫です。さっきは取り乱してしまい、すみませんでした」
「いや、こっちだって。俺の方こそ男なのに甘えてしまって悪かったな」
「いえ、いいんですよ。お互い様です。――本当に、よかった……」
「あ、ありが、とう……」
そんなことを言われると言葉に詰まってしまう。
嬉しいけど、恥ずかしい。言った妖夢もかなり顔が赤くなっている。
(あらあら、お盛んなことで……)
栞が口を挟む。
「おい! 誰がお盛んだ!」
「え、えええええ!? お、お盛んって、え!?」
あ、口に出してしまった。そういえば栞の声、妖夢には聞こえないんだったんだな……
妖夢が両頬に手を当てて、紅潮した頬を隠そうとする。が、バレバレ。耳まで赤いもん。
(あれ? 違うの? あの子結構可愛いし性格もいいし、悪くないんじゃない?)
「いや確かに可愛いし性格いいけどさぁ!」
「ひゃわあ!? かわ……、せい、あ、あ……!」
ダメだ。このままでは負の連鎖が終わらないどころか加速していく。
てか、俺誘導されてる気がするんだが……
「妖夢! 聞いてくれ!」
「い、いや、まだそんな、会って一週間ですよ、もも、もっとお互いをですね……!」
話が通じない。ろくに会話もできないくらいに頭が働いていないらしい。
「妖夢、一旦落ち着け」
「は、はい、はい、お、落ち着いて、落ち着いて、そう、う、うん。す、すみませんでした」
「いいよ。前に魂がどうのって言ってただろ? あれ俺の中に入ったから。名前は栞っていうらしい。俺から代わってよろしくと言っておくよ」
「わかりました、よろしくお願いしますね。……それでは、そろそろ戻りましょうか」
「ああ……俺、どんな顔して会えばいいんだろ……」
「かなり恥ずかしいようなことを言ってましたね~」
妖夢が珍しく意地悪な笑みを浮かべる。
「や、やめてくれ。……俺だって、相応の覚悟はしていたんだ。もう妖夢にも、紫にも、幽々子にも、霊夢にも。全員に会わないと思ってたからな」
「あ……す、すみません……」
「……いや、良いんだよ。皆とまた会うことができて嬉しいからさ」
「……行きましょうか」
「……ああ」
俺と妖夢は白玉楼へ戻り始める。
玄関の前に立って、少し抵抗を感じたが、すぐに扉を開いて中に入る。
もう見慣れた幽々子の部屋への道を歩いているのに、体に妙な緊張が走る。
とうとう幽々子の部屋の障子前に着く。一度深呼吸をして、障子を開ける――
―*―*―*―*―*―*―
時は少し遡って移動中。
私はココロの中で、よかった、よかったと繰り返し言っていた。
彼がいなくなってしまったら。彼が死んでしまったら。そう考えるだけで、胸が締め付けられる。
喉が閉鎖されたかのように声が出なくなる。それほどまでに、悲しく、辛い。
私と彼はまだ会って一週間。けれども、私の中で彼の存在が徐々に徐々に大きくなっていた。
私のココロの中。私と
そして、本心の私と普段の私の会話――自問自答が始まる。
――彼が死ななくてよかった。
そう思う。心から。
――それは本心だよね?
当たり前だ。
――なんでそう思うの?
私が刀を教えると言ったから。そうである以上彼は私の弟子。死んでほしくないのは当然だ。
そこで自問自答を終え、普段の私がココロから消える。
いや、『自問自答』 だと語弊があるだろうか。正確には、『
私のココロの中で、本心の私が自問をする。
――
本心の私の声は、私の『ココロ』と『心』に響いた。
が、その返事は返ってくることはない。
ありがとうございました。
なんという叙述トリック。どれくらいの人を騙せましたかね?
結構自信あるんですが、とまあ今までやったことのない表現に挑戦してみました。
如何でしたか?
今回だけでフラグが結構な量立ちました。
好きになるのはできるだけ早めに、恋人同士になるまでを長めに書きたいです。
ネタに詰まったら別なのですが。
ではでは!