今回から本編始まります。
7~9話を見てくださった方には少し説明的な文章になっています。
ご了承ください。
では、本編どうぞ!
宴はレミリアと咲夜、文、勇儀と萃香に挨拶・軽い会話や取材応答をしたところで終了を迎えた。
今は博麗神社に泊めてもらい、お風呂に入ってもう寝る準備も終わるところだ。
布団を敷き、その中に入った俺は一人呟く。
「霊力、か……」
俺はさっき霊夢に人間が精神的にじゃなく、肉体的に強くなるにはどうすればいいかを尋ねた。
返ってきた答えは、『霊力増幅』だった。
なんでも、弾幕という弾を出したり、空中浮遊したり、武器を霊力で覆って強化することに必要らしい。
霊力について大方理解した俺は、次に霊力増幅の方法を尋ねた。
答えは、『イメージ』だった。霊夢によると、霊力は自分の体じゃなく、魂そのものにあるらしい。
魂を意識して、自分に纏う感じだという。慣れたらイメージなしでもいいようだ。
「明日から、刀を練習すんのか……なんか、実感がわかないな」
思えば、幻想郷に来てまだ半日も経っていないのに色々あったものだ。
スキマに連れ込まれ、紫と出会い。幻想郷を助けてと言われ。
神社では霊夢、魔理沙に会って、幻想入りしたばかりの俺が主役の宴会を開いてもらい。
宴会では吸血鬼、鴉天狗、鬼と仲良くなり、紅魔館と地底に行く約束までした。
正直、今自分のいる幻想郷はユメの世界なんじゃないかと疑っている。
本当はまだ俺は自分のベッドで寝ていて、今幻想郷で眠ると起きたときには現実の世界で、
あの敬遠の権化のような学校生活が始まるんじゃないか。
……翔には悪いが、外にはあまり戻りたくない。
俺は、幻想郷を気に入ってしまった。……いや、そう言うと語弊があるかな?
俺は、これがユメじゃないことを祈りつつ、意識を手放そうとする。
……のだが。
「……眠れないな」
今はもう1時や2時を回っているだろうに。俺はいつも、勉強は遅くても12時には終えて、ベッドに入っていた。
……ちょうどいいかな。
俺は布団を抜け出し、霊夢を起こさないよう部屋を、玄関を出る。
外へ出た俺は、夜の寒さに身を震わせる。そして、イメージをする。
そう、霊力増幅の練習を早速やってみる。
「体に、魂のエネルギーを纏う……」
もう2、3時間程経っただろうか。
俺は焦りを感じていた。
「ヤベぇ……上手くいかねえっ……!」
ホントに上手くいかない。いや、上手くいってるのかもしれない。かもしれないのだが……
霊力がわからない。どんな感じが霊力が出てるのかを理解できない。
要するに、霊力感知ができないのだ。この感覚でいいのか、駄目なのか……
「う~ん、これ、霊力出てるのか……?」
そう呟いた瞬間だった。後ろから突然に声をかけられたのは。
「出てるわよ。まあ、2時間だけだからほんの少し最初より増えただけね」
俺は驚いた。部屋から出たのが1、2時。それから約2時間の練習。
今がどれだけ早くとも3時、遅いと4時なのだ。こんな時間に外はおろか、神社に来るだろうか。初詣でもあるまいし。
俺はその驚きを隠せないまま後ろを振り返る。
そこには、紫が立っていた。
「……いつから、そこにいた?」
「出てきたのはついさっき。見てたのは最初から。」
「……」
外の世界で周りから聞こえた陰口に怒りを覚えていた気がするが……
やはり、隠れた努力は隠れたままの方がいいな。見られたときにどんな反応すればいいかわからなくなる。
「幻想入りして間もないのに、精が出るわね。」
「さあ、何の事だかな。少し早く起きたから、外の空気を浴びに来ただけだ」
「ふふふ、まぁ、そういうことにしておいてあげるわ」
「で、紫。なんか用か?」
「ええ、二つほど。一つは天の服よ。あなた、学生服のままこっちに来たでしょ?」
そう。俺は帰宅してすぐ寝ていたため、学生服のまま幻想入りしている。
今は、霊夢の用意してくれた和服を着ている。俺のためにわざわざ買いに行ってくれたらしい。
勿論、お礼は忘れてないよ?
「ああ、そうだったな」
「そこで! 優しい可愛い紫さんが、クローゼットごと幻想郷に持ってきました!」
おお、それはありがたい。普通に。
あえて『優しい可愛い』には触れないでおこう。あながち間違っていないのがまた……
紫は意外に用意が良い。その点では優しいと言えるだろう。
可愛さは……誰が見ても「可愛い」と言うだろうな。そもそも幻想郷には、全体として美少女・美女が多い気がする。
「ありがとう、助かるよ。で、どこにあるんだ?」
「もう天の新しい家に運んどいたわ」
「白玉楼に置いてくれるとは、もっと助かるよ」
「あら、白玉楼は霊夢から聞いていたのね。二つ目はついさっきできた用よ。天、霊力の感覚教えたげるわ」
「いいのか?」
「いいから言ってるのよ。私は妖力――妖怪の使う、霊力と同じようなものを出すわ。感覚は似たような感じだから、問題はないわ」
妖力もあるのか。妖怪だから、か……
「……え、紫って妖怪なの?」
「ええ、そうよ。言ってなかった? それも、結構強い方なのよ?」
ま、強いのはその能力を使えるからじゃなくて、使うこと自体にあるようなものだしな。
自由に使えてるってことは、それだけ強いことの証明みたいなものだ。
「強いことは薄々感じていたよ。早速教えてもらいたいんだが」
「わかったわ。――ただ、気絶しないでね? 最初は弱く、徐々に強く出していくつもりだけど、一応ね♪」
――え? 気絶?
頭のなかでその言葉が響いてすぐ、気配のようなものを紫の周りから感じる。
「その感覚を体で覚えて。頭で理解できるようなものじゃないから。」
「――ああ」
徐々に気配が強くなっていく。その気配は徐々に強大に、凄絶になっていく――
気がつくと、それはもう気配ではなくなっていた。
実体がある、と言われたらそう感じる程に。けれど、目の前には一人の少女が、日の入りの陽光に照らされるのみ。
いつしか、足が震え始めた。膝が笑い始めた。手汗が止まらなくなった。
力の差。それは、絶対的で、覆すことの出来ないもの。
力の差。それは、どんなに愚かな者でも理解することのできるもの。
力の差。それは――相手が自分より強いことを認めると同時に、自分が相手より弱者であることを受け入れること。
まさにそれは、紫と俺は――
「――、―ら! そら! 天!」
はっ、と俺の意識が自由になる。
冷や汗が止まらない。震えも一向に止まる気配が無い。
いつの間にか紫の周りからは気配は消えていて、俺を心配そうに見つめる紫が、俺の肩を揺すっている。
「天、大丈夫? ごめんなさい、少しやり過ぎたわ……」
「あ、ああ……だ、大丈夫、だよ……」
声も震えている。その様子を見た紫が落ち込む。
「紫、そんな顔しないでくれ。紫が力になってくれることがどれだけありがたいか、心強いか身を
「……そう言ってもらえると、嬉しいわ」
彼女の顔はほんの少し、嬉しそうな微笑を浮かべていた。
今の言葉は本心だ。実際、これ以上ない位に実感できた。
ただ、それと同時に自分の弱さも痛感した。
相手が強いとはいえ、少女一人に畏怖さえしてしまう自分には、失望してしまう程だ。
――だからこそ、俺は努力で強くなりたい。彼女に追いつく位には。
追い越すとまでは言わない。せめて、同じ場所に、隣に立てるようになる。いつか、絶対に。
俺は、霊夢が起きる約二時間、紫に指導をしてもらいながら、霊力増幅を進めていた。
紫は、霊夢が起きたようだから帰るわ、といってスキマに入っていった。
俺は紫にありがとう、助かったよと一言言って別れ、玄関に入る。
廊下で俺は、部屋から出てきた霊夢と鉢合わせる。
そういえば、霊夢は宴会で酔いつぶれていたな……寝る前も顔色が悪かったが、大丈夫だろうか。
どうやら、ここでは未成年でも飲酒が可能なそうだ。勇儀と萃香と一緒に日本酒を飲んだが、
お
取り敢えず、朝の挨拶を交わす。そこで思い出す。一睡もしていないことに。
――あ、寝てねぇや。今日大丈夫か?
「おはよう、霊夢」
「ええ、おは――ッ!」
突然、霊夢は言葉が途切らせ、寝ぼけ気味だった表情を強張らせて、思い切りバックジャンプをしていた。
ジャンプで俺から距離をとった霊夢は、昨日は見せたこともないような真剣な表情をしつつ、拳を構えていた。
――
――ゑ? 何事?
「天、あなた、どうしたの……?」
一切こちらへの警戒心を解かずに問われる。
「いや、どうしたって言われても――」
「あなたの霊力はどうした、って言ってるのよ!」
「お、俺の霊力が?」
俺に自覚がないとわかったためか、霊夢は構えていた拳を下ろし、警戒心もなくなっていた。
「……ええ、そうよ。昨日のあなたとは訳が違うくらい霊力が増えているわ。その証拠に、霊力がだだ漏れよ」
「そうなのか? 俺は特に何も感じないが……取り敢えず、どうやって止めればいい?」
「霊力を出すときとは逆のイメージよ。魂にエネルギーを送り戻すの」
俺は、意識を集中させる。俺の魂へ……戻していく……
もう霊力の感覚がわかる俺は、霊力の溢れが止まったこともわかり、止めるのにもそう時間はかからなかった。
「……ねえ、その霊力は本当にどうしたの? 一晩でそんなに増えるものじゃないわ。人間が増やそうと思ったら、その量にするには一年以上はかかるわよ?」
俺は目を見開く。俺としてはたった一晩頑張っただけだ。
……これが『努力』の能力か? いや、それだけじゃないだろう。
努力量に応じた結果が出るのだから。割りに合っていない。不釣り合い過ぎる。
あの時、俺には他に何があった……? 紫の指導? 恐怖感?
……ああ、成る程。多分これだな。
「霊夢には言ってなかったな。紫によると、俺は能力持ちらしいんだ。『努力が実りをもたらす程度の能力』、努力量と、多分
「……信じ難いわね、幻想入り一日もしないで能力を持つなんて」
「俺自信も、な」
「ま、いいわ。私が楽だし。ああ、その霊力の大きさなら、空も余裕で飛べるわね。飛ぶだけに霊力を使うなら1時間は飛べる量ね。後は飛び方を知るだけよ」
おお……! 早くも飛行人間に成れるのか! しかも1時間も飛べる。予想外の進展だったな……
「じゃ、朝食を済ませるわよ。準備しなさい」
「ああ、了解だ」
俺は霊夢と一緒に朝食を済ませた。
金銭的な問題か、料理の質が何か貧相な感じだったが、触れないでおこう。
宴会で耳に入った話だが、ここは参拝しにくい所にあって、参拝客が少なく、お賽銭が集まりにくいらしい。
だが、霊夢が信仰を集めるようなことをしないのも理由の一つだとか。
生業は妖怪退治と、異変解決らしい。異変とは、いつもと大きく違うことが起きることらしい。
幻獣の侵攻も異変に入るのだろうか?
昼になり、白玉楼に出発する準備ができた。といっても、学生服持っただけだが。
「じゃ、行くわよ」
「ああ、頼むよ」
「捕まってね、振り落とされないように気をつけなさい。一応落ちてもいいように私も握っておくわ」
「助かるよ」
俺は霊夢と若干手を繋いだような形になり、空を飛び始めた。
おお……! やっぱ凄えな……感動する。
「博麗神社は幻想郷の東端よ。今から向かう白玉楼は、北西にあるからね」
「了解。……なあ、霊夢。空はどうやって飛べるんだ?」
「移動時間は暇だし、教えてあげるわ。時間がちょっとだけ余ってるから、ほんの少しなら練習もしていいかもね。ええっと……大体飛び方には二種類あるわ。一つが飛行方向の逆に霊力を打ち出すようにして勢いを出す方法。もう一つは、霊力を調節して自分の体の落下を止めたり、進んだりする方法。おすすめは後者よ。前者は止まるときに勢いを相殺しないといけないから、咄嗟の事態に対応できないわ。その点後者は、判断とほぼ同時に飛行方向や速度を変えられるし、調節そのものもし易いわ。やってみる?」
俺は、ああ、と肯定の意を示す。霊夢は進行を止めて浮遊のみを行う。
「じゃあ、今私が言ったようにやってみて」
俺は意識を集中させる。今俺は霊夢に引っ張られているが、本来は落下が始まる。
上に向けて霊力を調節……
「重力を自分だけ逆に働かせるような感じよ」
重力を上に……
ジェットパックみたいな感じか……?
すると、一瞬だけ、ほんの少しだけだが霊夢の力を借りずに空中に留まれた。
だが、すぐに落ちて霊夢の支えを借りることになった。
「……驚いたわ。まさか一瞬とはいえ飛行もやっちゃうなんてねぇ。天、あなたにはセンスが……才能があるわ。このまま練習していれば、きっと一週間で――!?」
霊夢がそこまで言ったところで変化が起きた。
「一週間で――何だって?」
俺は必死に浮遊を行っている。それを表情に出さずに、あくまでも自慢顔で、余裕のある表情を見せる。
見栄は張りたいものだな。実際浮くだけでも超嬉しい。
「あ……あ……」
霊夢は驚きを思い切り表情に出して、ろくな声を出していなかった。
……あ、ヤバイ。もう落ちそう。限界……
「な、なあ霊夢、さっきはあんなこと言ってたけどもう限界なん――――だあああぁぁぁ!」
俺は本来の摂理に則って下に落下を始める。
「ちょっ、そ、そら~!」
霊夢が正気に戻り、俺を再び掴んで落下を止める。
「あ、危なかったぁ……」
「サ、サンキュー……俺、死ぬとこだったわ……!」
「あんたねぇ……見栄張ってないで無理なら無理って言いなさいよねぇ……」
「いや、霊夢を驚かせたかったんだよ。俺超嬉しかった。ソラ、トベタ。」
「なんで片言なのよ……まあ、今までで一番驚いたかもね」
「今度はもっと長い時間の浮遊と前進だな……」
「そうね――じゃあ、白玉楼行くわよ!」
その霊夢の声が、まるで嬉しいかのように声が大きくなっていたことに、
俺は満足気に笑みを浮かべていた。
「着いたわよ」
「ここが白玉楼……?」
そこは辺りが薄暗く、目の前にはとてつもなく長い階段があった。
「正確にはまだよ。冥界には着いたわ。この階段の先が白玉楼っていうお屋敷よ」
「……この階段登るのか……?」
この階段を登るとか軽く絶望だ。
取り敢えず先が全く見えないくらい。
「まさか。飛んで行くわよ。ちょっと休んでただけ。さあ、行くわよ」
「悪いな。疲れてるよな」
「いいのよ。その代わり、ちょっと飛ばすわよ!」
そう言った霊夢は俺の腕を掴み、急加速した。
わ~速い。いつか俺もこの速度で自由に飛びたいな……
飛行の目標を決め終えている頃には、もう階段を登り――否、飛び切っていた。
霊夢と俺が着地して辺りを見渡すと、霊夢の言っていたであろうお屋敷と、沢山の桜があった。
中間テストが5月の終わり頃。外の世界ではもう春も終わりなのにな……にしても、綺麗だ。
それらに見惚れていると、一人の銀髪の少女が立ってることに気付く。
向こうもこちらと同様、気付いた様でこちらへ向かってくる。
「やっほ~妖夢~!」
「こんにちは、霊夢。――お待ちしておりました、新藤様」
それが、彼女――魂魄妖夢との、最初の出会いだった。
ありがとうございました。
刀を出そうと思いましたが、どうやら次回になりそうです。
紫の妖力のところで書き方を少し変えてみました。今後こういうことが何回かあると思います。
そしていきなりの天の成長。センスもあるとのことで。
妖夢と出会いましたね。まだ会話してないですが……
次回は刀入手と妖夢と修行についてを書こうと思っています。
ではでは!