東方魂恋録   作:狼々

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どうも、狼々です!
今回から本編始まります。
7~9話を見てくださった方には少し説明的な文章になっています。
ご了承ください。
では、本編どうぞ!


第10話 隣に立つための努力。そして、出会い

宴はレミリアと咲夜、文、勇儀と萃香に挨拶・軽い会話や取材応答をしたところで終了を迎えた。

今は博麗神社に泊めてもらい、お風呂に入ってもう寝る準備も終わるところだ。

布団を敷き、その中に入った俺は一人呟く。

 

「霊力、か……」

 

俺はさっき霊夢に人間が精神的にじゃなく、肉体的に強くなるにはどうすればいいかを尋ねた。

返ってきた答えは、『霊力増幅』だった。

なんでも、弾幕という弾を出したり、空中浮遊したり、武器を霊力で覆って強化することに必要らしい。

霊力について大方理解した俺は、次に霊力増幅の方法を尋ねた。

答えは、『イメージ』だった。霊夢によると、霊力は自分の体じゃなく、魂そのものにあるらしい。

魂を意識して、自分に纏う感じだという。慣れたらイメージなしでもいいようだ。

 

「明日から、刀を練習すんのか……なんか、実感がわかないな」

 

思えば、幻想郷に来てまだ半日も経っていないのに色々あったものだ。

スキマに連れ込まれ、紫と出会い。幻想郷を助けてと言われ。

神社では霊夢、魔理沙に会って、幻想入りしたばかりの俺が主役の宴会を開いてもらい。

宴会では吸血鬼、鴉天狗、鬼と仲良くなり、紅魔館と地底に行く約束までした。

正直、今自分のいる幻想郷はユメの世界なんじゃないかと疑っている。

 

本当はまだ俺は自分のベッドで寝ていて、今幻想郷で眠ると起きたときには現実の世界で、

あの敬遠の権化のような学校生活が始まるんじゃないか。

……翔には悪いが、外にはあまり戻りたくない。

俺は、幻想郷を気に入ってしまった。……いや、そう言うと語弊があるかな?

 

()()()()()()()()()()

 

俺は、これがユメじゃないことを祈りつつ、意識を手放そうとする。

……のだが。

 

「……眠れないな」

 

今はもう1時や2時を回っているだろうに。俺はいつも、勉強は遅くても12時には終えて、ベッドに入っていた。

……ちょうどいいかな。

 

俺は布団を抜け出し、霊夢を起こさないよう部屋を、玄関を出る。

外へ出た俺は、夜の寒さに身を震わせる。そして、イメージをする。

そう、霊力増幅の練習を早速やってみる。

 

「体に、魂のエネルギーを纏う……」

 

 

もう2、3時間程経っただろうか。

俺は焦りを感じていた。

 

「ヤベぇ……上手くいかねえっ……!」

 

ホントに上手くいかない。いや、上手くいってるのかもしれない。かもしれないのだが……

 

霊力がわからない。どんな感じが霊力が出てるのかを理解できない。

要するに、霊力感知ができないのだ。この感覚でいいのか、駄目なのか……

 

「う~ん、これ、霊力出てるのか……?」

 

そう呟いた瞬間だった。後ろから突然に声をかけられたのは。

 

「出てるわよ。まあ、2時間だけだからほんの少し最初より増えただけね」

 

俺は驚いた。部屋から出たのが1、2時。それから約2時間の練習。

今がどれだけ早くとも3時、遅いと4時なのだ。こんな時間に外はおろか、神社に来るだろうか。初詣でもあるまいし。

俺はその驚きを隠せないまま後ろを振り返る。

 

そこには、紫が立っていた。

 

「……いつから、そこにいた?」

「出てきたのはついさっき。見てたのは最初から。」

「……」

 

外の世界で周りから聞こえた陰口に怒りを覚えていた気がするが……

やはり、隠れた努力は隠れたままの方がいいな。見られたときにどんな反応すればいいかわからなくなる。

 

「幻想入りして間もないのに、精が出るわね。」

「さあ、何の事だかな。少し早く起きたから、外の空気を浴びに来ただけだ」

「ふふふ、まぁ、そういうことにしておいてあげるわ」

「で、紫。なんか用か?」

「ええ、二つほど。一つは天の服よ。あなた、学生服のままこっちに来たでしょ?」

 

そう。俺は帰宅してすぐ寝ていたため、学生服のまま幻想入りしている。

今は、霊夢の用意してくれた和服を着ている。俺のためにわざわざ買いに行ってくれたらしい。

勿論、お礼は忘れてないよ?

 

「ああ、そうだったな」

「そこで! 優しい可愛い紫さんが、クローゼットごと幻想郷に持ってきました!」

 

おお、それはありがたい。普通に。

あえて『優しい可愛い』には触れないでおこう。あながち間違っていないのがまた……

 

紫は意外に用意が良い。その点では優しいと言えるだろう。

可愛さは……誰が見ても「可愛い」と言うだろうな。そもそも幻想郷には、全体として美少女・美女が多い気がする。

 

「ありがとう、助かるよ。で、どこにあるんだ?」

「もう天の新しい家に運んどいたわ」

「白玉楼に置いてくれるとは、もっと助かるよ」

「あら、白玉楼は霊夢から聞いていたのね。二つ目はついさっきできた用よ。天、霊力の感覚教えたげるわ」

「いいのか?」

「いいから言ってるのよ。私は妖力――妖怪の使う、霊力と同じようなものを出すわ。感覚は似たような感じだから、問題はないわ」

 

妖力もあるのか。妖怪だから、か……

 

「……え、紫って妖怪なの?」

「ええ、そうよ。言ってなかった? それも、結構強い方なのよ?」

 

ま、強いのはその能力を使えるからじゃなくて、使うこと自体にあるようなものだしな。

自由に使えてるってことは、それだけ強いことの証明みたいなものだ。

 

「強いことは薄々感じていたよ。早速教えてもらいたいんだが」

「わかったわ。――ただ、気絶しないでね? 最初は弱く、徐々に強く出していくつもりだけど、一応ね♪」

 

――え? 気絶?

頭のなかでその言葉が響いてすぐ、気配のようなものを紫の周りから感じる。

 

「その感覚を体で覚えて。頭で理解できるようなものじゃないから。」

「――ああ」

 

徐々に気配が強くなっていく。その気配は徐々に強大に、凄絶になっていく――

 

気がつくと、それはもう気配ではなくなっていた。

実体がある、と言われたらそう感じる程に。けれど、目の前には一人の少女が、日の入りの陽光に照らされるのみ。

 

いつしか、足が震え始めた。膝が笑い始めた。手汗が止まらなくなった。

 

力の差。それは、絶対的で、覆すことの出来ないもの。

力の差。それは、どんなに愚かな者でも理解することのできるもの。

力の差。それは――相手が自分より強いことを認めると同時に、自分が相手より弱者であることを受け入れること。

 

まさにそれは、紫と俺は――()()()()()()()のようだった。

 

「――、―ら! そら! 天!」

 

はっ、と俺の意識が自由になる。

冷や汗が止まらない。震えも一向に止まる気配が無い。

いつの間にか紫の周りからは気配は消えていて、俺を心配そうに見つめる紫が、俺の肩を揺すっている。

 

「天、大丈夫? ごめんなさい、少しやり過ぎたわ……」

「あ、ああ……だ、大丈夫、だよ……」

 

声も震えている。その様子を見た紫が落ち込む。

 

「紫、そんな顔しないでくれ。紫が力になってくれることがどれだけありがたいか、心強いか身を()って知ることができた。何より、霊力の感覚が十分すぎる程にわかった。ありがとうな、紫」

「……そう言ってもらえると、嬉しいわ」

 

彼女の顔はほんの少し、嬉しそうな微笑を浮かべていた。

今の言葉は本心だ。実際、これ以上ない位に実感できた。

ただ、それと同時に自分の弱さも痛感した。

相手が強いとはいえ、少女一人に畏怖さえしてしまう自分には、失望してしまう程だ。

 

――だからこそ、俺は努力で強くなりたい。彼女に追いつく位には。

追い越すとまでは言わない。せめて、同じ場所に、隣に立てるようになる。いつか、絶対に。

 

俺は、霊夢が起きる約二時間、紫に指導をしてもらいながら、霊力増幅を進めていた。

 

紫は、霊夢が起きたようだから帰るわ、といってスキマに入っていった。

俺は紫にありがとう、助かったよと一言言って別れ、玄関に入る。

 

廊下で俺は、部屋から出てきた霊夢と鉢合わせる。

そういえば、霊夢は宴会で酔いつぶれていたな……寝る前も顔色が悪かったが、大丈夫だろうか。

どうやら、ここでは未成年でも飲酒が可能なそうだ。勇儀と萃香と一緒に日本酒を飲んだが、

猪口(ちょこ)一杯分どころか、一口飲んだだけで胸焼けを起こしていた。まあ、それはどうでもいいか。

取り敢えず、朝の挨拶を交わす。そこで思い出す。一睡もしていないことに。

――あ、寝てねぇや。今日大丈夫か?

 

「おはよう、霊夢」

「ええ、おは――ッ!」

 

突然、霊夢は言葉が途切らせ、寝ぼけ気味だった表情を強張らせて、思い切りバックジャンプをしていた。

ジャンプで俺から距離をとった霊夢は、昨日は見せたこともないような真剣な表情をしつつ、拳を構えていた。

――()()()()()()()()()()()()()()

――ゑ? 何事?

 

「天、あなた、どうしたの……?」

 

一切こちらへの警戒心を解かずに問われる。

 

「いや、どうしたって言われても――」

「あなたの霊力はどうした、って言ってるのよ!」

「お、俺の霊力が?」

 

俺に自覚がないとわかったためか、霊夢は構えていた拳を下ろし、警戒心もなくなっていた。

 

「……ええ、そうよ。昨日のあなたとは訳が違うくらい霊力が増えているわ。その証拠に、霊力がだだ漏れよ」

「そうなのか? 俺は特に何も感じないが……取り敢えず、どうやって止めればいい?」

「霊力を出すときとは逆のイメージよ。魂にエネルギーを送り戻すの」

 

俺は、意識を集中させる。俺の魂へ……戻していく……

もう霊力の感覚がわかる俺は、霊力の溢れが止まったこともわかり、止めるのにもそう時間はかからなかった。

 

「……ねえ、その霊力は本当にどうしたの? 一晩でそんなに増えるものじゃないわ。人間が増やそうと思ったら、その量にするには一年以上はかかるわよ?」

 

俺は目を見開く。俺としてはたった一晩頑張っただけだ。

……これが『努力』の能力か? いや、それだけじゃないだろう。

努力量に応じた結果が出るのだから。割りに合っていない。不釣り合い過ぎる。

 

あの時、俺には他に何があった……? 紫の指導? 恐怖感?

……ああ、成る程。多分これだな。

 

「霊夢には言ってなかったな。紫によると、俺は能力持ちらしいんだ。『努力が実りをもたらす程度の能力』、努力量と、多分()()()()()()()()()()()()に応じた結果が約束される。さっきまで、紫に霊力の出し方を教えてもらっていたんだよ」

「……信じ難いわね、幻想入り一日もしないで能力を持つなんて」

「俺自信も、な」

「ま、いいわ。私が楽だし。ああ、その霊力の大きさなら、空も余裕で飛べるわね。飛ぶだけに霊力を使うなら1時間は飛べる量ね。後は飛び方を知るだけよ」

 

おお……! 早くも飛行人間に成れるのか! しかも1時間も飛べる。予想外の進展だったな……

 

「じゃ、朝食を済ませるわよ。準備しなさい」

「ああ、了解だ」

 

俺は霊夢と一緒に朝食を済ませた。

金銭的な問題か、料理の質が何か貧相な感じだったが、触れないでおこう。

 

宴会で耳に入った話だが、ここは参拝しにくい所にあって、参拝客が少なく、お賽銭が集まりにくいらしい。

だが、霊夢が信仰を集めるようなことをしないのも理由の一つだとか。

生業は妖怪退治と、異変解決らしい。異変とは、いつもと大きく違うことが起きることらしい。

幻獣の侵攻も異変に入るのだろうか?

 

 

昼になり、白玉楼に出発する準備ができた。といっても、学生服持っただけだが。

 

「じゃ、行くわよ」

「ああ、頼むよ」

「捕まってね、振り落とされないように気をつけなさい。一応落ちてもいいように私も握っておくわ」

「助かるよ」

 

俺は霊夢と若干手を繋いだような形になり、空を飛び始めた。

おお……! やっぱ凄えな……感動する。

 

「博麗神社は幻想郷の東端よ。今から向かう白玉楼は、北西にあるからね」

「了解。……なあ、霊夢。空はどうやって飛べるんだ?」

「移動時間は暇だし、教えてあげるわ。時間がちょっとだけ余ってるから、ほんの少しなら練習もしていいかもね。ええっと……大体飛び方には二種類あるわ。一つが飛行方向の逆に霊力を打ち出すようにして勢いを出す方法。もう一つは、霊力を調節して自分の体の落下を止めたり、進んだりする方法。おすすめは後者よ。前者は止まるときに勢いを相殺しないといけないから、咄嗟の事態に対応できないわ。その点後者は、判断とほぼ同時に飛行方向や速度を変えられるし、調節そのものもし易いわ。やってみる?」

 

俺は、ああ、と肯定の意を示す。霊夢は進行を止めて浮遊のみを行う。

 

「じゃあ、今私が言ったようにやってみて」

 

俺は意識を集中させる。今俺は霊夢に引っ張られているが、本来は落下が始まる。

上に向けて霊力を調節……

 

「重力を自分だけ逆に働かせるような感じよ」

 

重力を上に……

ジェットパックみたいな感じか……?

 

 

すると、一瞬だけ、ほんの少しだけだが霊夢の力を借りずに空中に留まれた。

だが、すぐに落ちて霊夢の支えを借りることになった。

 

「……驚いたわ。まさか一瞬とはいえ飛行もやっちゃうなんてねぇ。天、あなたにはセンスが……才能があるわ。このまま練習していれば、きっと一週間で――!?」

 

霊夢がそこまで言ったところで変化が起きた。

 

()()()()()()()()()()()()。さすがに前進等、動くことはできない。浮くので精一杯だ。

 

 

「一週間で――何だって?」

 

 

俺は必死に浮遊を行っている。それを表情に出さずに、あくまでも自慢顔で、余裕のある表情を見せる。

見栄は張りたいものだな。実際浮くだけでも超嬉しい。

 

「あ……あ……」

 

霊夢は驚きを思い切り表情に出して、ろくな声を出していなかった。

 

 

 

 

 

……あ、ヤバイ。もう落ちそう。限界……

 

「な、なあ霊夢、さっきはあんなこと言ってたけどもう限界なん――――だあああぁぁぁ!」

 

俺は本来の摂理に則って下に落下を始める。

 

「ちょっ、そ、そら~!」

 

霊夢が正気に戻り、俺を再び掴んで落下を止める。

 

「あ、危なかったぁ……」

「サ、サンキュー……俺、死ぬとこだったわ……!」

「あんたねぇ……見栄張ってないで無理なら無理って言いなさいよねぇ……」

「いや、霊夢を驚かせたかったんだよ。俺超嬉しかった。ソラ、トベタ。」

「なんで片言なのよ……まあ、今までで一番驚いたかもね」

「今度はもっと長い時間の浮遊と前進だな……」

「そうね――じゃあ、白玉楼行くわよ!」

 

その霊夢の声が、まるで嬉しいかのように声が大きくなっていたことに、

俺は満足気に笑みを浮かべていた。

 

 

 

「着いたわよ」

「ここが白玉楼……?」

 

そこは辺りが薄暗く、目の前にはとてつもなく長い階段があった。

 

「正確にはまだよ。冥界には着いたわ。この階段の先が白玉楼っていうお屋敷よ」

「……この階段登るのか……?」

 

この階段を登るとか軽く絶望だ。

取り敢えず先が全く見えないくらい。

 

「まさか。飛んで行くわよ。ちょっと休んでただけ。さあ、行くわよ」

「悪いな。疲れてるよな」

「いいのよ。その代わり、ちょっと飛ばすわよ!」

 

そう言った霊夢は俺の腕を掴み、急加速した。

わ~速い。いつか俺もこの速度で自由に飛びたいな……

飛行の目標を決め終えている頃には、もう階段を登り――否、飛び切っていた。

 

霊夢と俺が着地して辺りを見渡すと、霊夢の言っていたであろうお屋敷と、沢山の桜があった。

中間テストが5月の終わり頃。外の世界ではもう春も終わりなのにな……にしても、綺麗だ。

それらに見惚れていると、一人の銀髪の少女が立ってることに気付く。

向こうもこちらと同様、気付いた様でこちらへ向かってくる。

 

「やっほ~妖夢~!」

「こんにちは、霊夢。――お待ちしておりました、新藤様」

 

それが、彼女――魂魄妖夢との、最初の出会いだった。




ありがとうございました。
刀を出そうと思いましたが、どうやら次回になりそうです。
紫の妖力のところで書き方を少し変えてみました。今後こういうことが何回かあると思います。
そしていきなりの天の成長。センスもあるとのことで。
妖夢と出会いましたね。まだ会話してないですが……
次回は刀入手と妖夢と修行についてを書こうと思っています。
ではでは!

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