素晴らしき Dragon Quest   作:さんちょ

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第5話 地に堕ちた天上の祝福

 汝、欲するところを示せ。──さらば与えられん。

 

 

 君は水色髪の少女と茶髪の少年へと問いかける、困ったことはないのかと。

 

 ──さあ、クエストを開示しろ!

 

 君が微笑みを浮かべて返答を待てば、二人組は揃って首を傾げた後、

 

「うーん、しいていうなら何か食べるものが欲しいわね」

「そうだな。ここ最近ろくなモンが食えてないし……困ってるっていうなら、美味いモンが食えてないってとこかなぁ」

「そうそう。エリス教会の炊き出しにも行ってるけど、ちょっと貧相だし。あそこ清貧が美徳とか言って、食材をケチってるんだわ!」

「ん? おい。教会の炊き出し? そんなん俺聞いてないぞ」

「それに最近は公衆浴場で朝風呂に入ってるから、ちょっとふところが寂しいのよね」

「朝風呂……? おい、まじで俺聞いてないぞ!」

 

 二人で盛り上がってる彼らはひとまず置いて、君はクエストの内容を確認する。

 

【この貧しい女神に施しを!】

『アクセルでバイトに勤しむ女神と人間の少年に何か美味いものをくれ! と頼まれた。何か美味しい食べ物を与えてあげよう!』

 

 なんだか、女神のクエストという割にはガッカリ感を拭えない。世界を救え、くらいは言われると思っていた。しかし、クエストに貴賎は存在しない。

 君は『ふくろ』の中に何か食べ物はあったかなと考えながら、探る。そこでふと、あれがあったと思い出す。

 

 君は『ふくろ』からあるものを取り出して、二人組へと差し出す。

 

「「おお!」」

 

 二人組から感嘆の声が漏れる。

 

 君が取り出したのは『普通なチョコ』を十枚と『豪華なチョコ』を二枚である。これはリッカの宿屋にいるロク(なものをよこ)サーヌという女性がやっているWi-Fiショッピングで、ある時期だけ買えるものだ。

『普通なチョコ』はそれほどではないが、『豪華なチョコ』はそれなりの回復アイテムだったりする。

 

 君からチョコを受け取った二人組はどこかそわそわして落ち着きがない。

 

「これってまさかチョコか? しかもこの二つはなんか高級品っぽいぞ!」

「どうしましょうカズマさん! 割と冗談で食べ物が欲しいって言ったら、予想外に高くて美味しそうなものを渡されたんですけど!」

「落ち着けアクア。……なあ、確認なんだが、これってマジで貰ってもいいのかですか?」

 

 いきなりかしこまった(どこかおかしい)言葉づかいになった少年が問うてきたが、それがクエストのクリア条件なので貰ってもらわないと君としては困る。それとも、そのチョコは気に食わなかったのだろうか?

 

「いやいや、そんな! ありがたくもらうよ! ……おい、アクア、マジでくれるって。やっぱ元天使ってのは本当みたいだぞ!」

「だからそう言ってるじゃない! ほらほら早速食べましょ!」

「おい駄女神、ちゃんと天使様にお礼言えよ!」

 

 ありがとねー、と笑顔を向ける水色髪の少女。君はそれを見ながら、脳内に『CLEAR‼︎』の文字を認め、微笑む。クエストクリア。この時こそが至福……っ!

 

 君が笑顔を向ける先では二人組がチョコの包装を解いている。

 

「なあ、この高級そうなのは取っておこうぜ。なんかもったいねぇし」

「ええー、今食べちゃいましょうよ! こんなに美味しそうなのに!」

「んーでもなー……ゴクリ。わかった、二つあるんだから今のところは一つだけ食べよう。もう一つは取っておくってことで」

「それもそうね!」

 

 少年の提案を聞いた少女は、『豪華なチョコ』を綺麗に真ん中から半分に割り、一つを少年に差し出す。そして少年と少女は同時にチョコに噛みついた。

 

「「ウマ──!」」

 

 声を揃えて、感嘆の声を上げた。

 そこからは、少年はゆっくりと味わって食べ、少女はガツガツと勢いよく食べていた。当たり前だが、少女は少年より先に食べ終えた。

 

「ううん! 美味しかった! ありがとね!」

 

 弾ける笑顔でまたお礼を言われた。まさか、チョコだけでこれだけ感謝されるとは思っていなかった君は少しだけ驚く。君はチョコだけじゃ満足してくれない時に備えて、『バースデーケーキ』や『クリスマスケーキ』も差し出すつもりであったが、どうやら簡単なクエストだったようだ。

 

 すると、少年が口をもぐもぐさせながら、こんなことを言ってきた。

 

「でも、本当によかったのか? なんか食った感じかなり高級品っぽかったけど。それをタダで俺たちに渡しちまって。いや何かお返ししろって言われても困るんだけど……」

「そうね。私という女神に貢物を捧げてくれたのに、それに報いないっていうのは私の沽券に関わるわ!」

「……お前に沽券なんてあったのか。でも、そう言ったって、俺たちに渡せるもんなんてないぞ。金なし物なし。それともお前が持ってるそのヒラヒラでも渡すのか?」

「何言ってるのよ! この羽衣は立派な神具なのよ。いくら感謝の気持ちと言っても渡せるわけないじゃない!」

 

 水色髪の少女は少年から守るように淡い紫色の羽衣を抱きしめる。

 少女はそうじゃなくて、と言ってから、

 

「私は女神なのよ。そのお礼だって女神っぽいことに決まってるじゃない」

「つまり、どういうことだ?」

「そう、つまり──あなたに女神アクアの祝福を捧げるわ!」

 

 そう言った少女は祈るように手を組み、朗々と何かの詠唱を始めた。

 そして──

 

 

「──あなたの人生の無事を祈り、女神アクアの祝福を! 『ブレッシング』!」

 

 

 

 ──そして君は彼らと別れた。

 

 別れる際に聞いたことだが、少年は名をサトウカズマと言い、少女の名前はアクアで、本当に女神だったらしい。

 彼らとはまた会うような気がしている君は、その名前をしっかりと覚えておく。

 

【この貧しい女神に施しを!】

『アクセルにいる女神アクアとカズマに食べ物が欲しいと頼まれ、普通のチョコと豪華なチョコを渡した。お礼に女神アクアの祝福に幸運を授けてくれた』[CLEAR‼︎]

 

 

     @@@

 

 

 ……で、女神アクアの幸運はさっそく効果を発揮した。

 

 ──カランカラン。

 

 君の目の前にいる男が手に持つ鐘を鳴らす。

 

 

 ここは商店街。その一角に作られたスペースに、回すと色のついた球を吐き出す抽選器が置いてある。これはこの商店街で一定以上の金額の買い物をした者が利用できる抽選である。

 君は期間限定で行われるそれに偶然遭遇した。射幸心を煽られた君は条件金額の買い物を済ませ、思い立ったが吉日と抽選場に赴いていた。

 

 そして現状に至る。

 

 目の前にある抽選器。ソイツが吐き出した球の色は金だ。近くにある景品表を確認してみれば、金色は一等の当たりである。

 抽選の係員は狂ったように鐘を振り続けている。近くにいた住民が鐘の音に反応してなんだなんだと視線を向ける。そしてそれが抽選で一等を当てたことだと知ると、ある者は驚き、ある者は悔しそうに、ある者は同情した視線を、ある者は憐憫の眼差しを──いや何故だ。

 

 君がそのことに疑問を思う中、係員が一等の景品を大きな声で言い放った。

 

「おめでとうございます! 一等の景品はなんと『水の都アルカンレティアでの高級宿四泊五日の無料宿泊券』です!」

 

 その言葉に観衆がどっとわく。

 

「高級宿だって羨ましい」

「いやでも『あの』アルカンレティアだぜ」

「あー、そうか『あの』アルカンレティアか……」

 

「アルカンレティアって『あの』アクシズ教の総本山だろ」

「ああ、『あの』有名なアクシズ教徒が街中にうじゃうじゃいるらしい」

「あそこのエリス教徒はかわいそうなことになってるらしい」

 

「私の友達がアルカンレティアに行って帰ってきたとき、泣きながらアクシズ教徒になったって言ってたわ」

「アルカンレティアに行った美少年が誘拐されそうになったって話も聞いたことあるわ」

「アルカンレティアに行くなら絶対にペンを持つなって教訓があるらしいわ」

 

 何かやたらと不穏なささやきが君の耳に入る。君は嫌な予感を覚えずにはいられないが、そろそろアクセル以外にも『ルーラ』の登録先を増やしておきたいという思いがある。それに彼らがそこまで言うアルカンレティアという街にも興味がある。何故なら、彼らの言葉からアルカンレティアという街を予想してみれば、困っている人が沢山いるような感覚がする。つまりはクエストがいっぱい受けられそうだな! ということだ。

 

 君は嬉々として宿泊券を係員から貰い、『だいじなもの』にしまっておく。

 

 

     @@@

 

 

 さて、アルカンレティアに行くことが決まったのなら、まずは準備が必要だ。──といっても、君にとっては旅など身一つあれば事足りる。ゆえに君にとっての準備とは荷造りのような準備ではなく、旅に彩りを添えるための準備である。

 

 君はギルドの掲示板に貼られていたクエストの一つを脳裏に浮かべる。確かあそこにアルカンレティアまでの護衛任務があったはずだ。

 

 そんなことを考えながらギルドに向かっていた途中、君は気になる店を発見した。

 

 街の中央部から外れた場所にあるこぢんまりとした魔道具店。そこはメインストリートから外れていることもあって今まで本格的に立ち寄らなかった場所だ。君はどことなく陰の気が漂うその店に興味がわいた。

 君は迷いなく進路を変更する。

 

 ドアについた小さな鐘が君の入店を告げる。

 

「いらっしゃいませ、ウィズ魔道具店へようこそ」

 

 そんな言葉で出迎えたのは微笑みを浮かべる茶髪の女性だ。おそらくこの魔道具店の店員だろう。いささか以上に顔色が悪いのが気になるが、それより彼女から発される妙な雰囲気に君は眼を細める。

 

 ──が、それより君は店内の商品の方に興味がいった。

 

 見回せば今まで見たこともないようなアイテムが陳列されている。

 あの瓶に入っている液体はなんだろうか? あの水晶玉は何に使うのだろうか? あの帽子はファッション以上の価値があるのだろうか?

 

 君は手近な棚に置かれた小さな瓶を手に取る。

 

「あ、それはフタを開け──」

 

 女性が何か言い切る前に、君は瓶のフタをぽんと開ける。

 

 ──ッ⁉︎

 

 瞬間に感じた凄まじい悪寒に従って、君は店の扉を蹴破り、瓶を空に向かって放り投げた!

 

 そしてその判断は直後に間違っていなかったと知る。

 

 起きたのは小規模ながらも大きな威力を秘めた爆発。

 君の手より瓶が離れてから一秒と経たない内に瓶の中の液体が瞬いたかと思ったら、その直後に轟音を伴った爆発とそれによる爆風が発生した。君の剛腕でもって、はるか上空で爆発しながらも、近隣の家屋をびりびりと揺らしたことより、その強さは推して知るべし。

 

 そもそも君がその危険を感じ取れたのは、似たような感覚を知っているからだ。そう、アレは不気味な微笑みを浮かべるばくだん岩(モンスター)が『メガンテ』をする時の兆候に似ていた。それに君自身も職業がパラディンの時は『メガンテ』の呪文を使用することができ、経験済みだ。実際に『メガンテ』なんて役に立ったことなどないが。

 

 ちなみに『メガンテ』とは自身の命と引き換えに生命エネルギーを爆発させて敵を攻撃する呪文である。いわゆる自爆、自己犠牲の攻撃だ。でも、実際には犬死ににしかならない。というか、もし仲間が使ったのなら迷惑にしかならない。

 

 まあ、そんなわけで危うく店の中で爆発させることは阻止した君は再び店内に戻っていた。

 

「……あぁ、ああ……し、しょうひんがぁ……」

 

 なんか顔色の悪い女性がさらに青白くなっている。確かにアレが店内で爆発したと考えたら、この店の商品なんて全部ダメになっていただろう。いや、この店自体が無事であったかも怪しい。

 君は少なからず彼女に同情する。

 

「あ、あの、その……大変申しにくいのですが……」

 

 戸惑いがちに口を開いた女性に、君はみなまで言うなと、あの爆発した瓶の置いてあった場所に貼ってあった値札分のお金をすかさず渡す。というか、地味に高いな。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 感謝の言葉を聞きながら、商品を弁償した君は先の瓶があった場所の隣の瓶を指差して、これは何かと問う。

 

「あ、それは強い衝撃を与えると爆発するポーションです」

 

 気をつけてくださいね、と苦笑しながら言う女性を横目に、ではこれは? とその隣の瓶を指す。

 

「それは水に触れると爆発するポーションです」

 

 ──……へぇ。

 

 ニコニコ笑顔で解説する女性に、さらに隣の瓶について聞く。

 

「それは温めると爆発します」

 

 丁寧に教えてくれる女性。君は脳裏にある考えが浮かんだ。

 

 ──もしかしてこれは詐欺というやつではないか?

 

 だってそうであろう。

 

 ここの棚にある瓶は一歩間違えばすぐに爆発してしまうようなポーションばかり。それに値段もお高め。これは実は、誤ってポーションを爆発させてしまったお客に弁償と称して多額のお金をむしり取るための詐欺ではないか。

 思い返してみれば、この店自体、言っては悪いがボロっちい。壊れたとしても、簡単に建て直せるものだ。この店の商品を十個程度弁償させればお釣りがくるだろう。

 

 君は疑いの目を女性に向ける。

 

「?」

 

 君の視線に可愛く首を傾げる女性。なんとなく目線をそらせば、色々な商品が目につく。もっと言えば、バカみたいに高い値札が。

 

 やはり、これは詐欺である。キッと鋭い視線を女性へ向ける。

 

「???」

 

 さらに首を傾げる女性。そんなしぐさをしても君は騙されない。

 

 恐らく手段はこうだ。きっと彼女は、強い衝撃を与えると爆発するやら、フタを開ければ爆発するやら、温めると爆発するやらの意図しない欠陥品を大量に安値に仕入れたんだろう。そしてそれを高値で販売する……ように見せかけて、きっと客の誰かが罠に引っかかり、商品をダメにする瞬間をその微笑みの裏に隠して待っていたんだろう。そして彼女はいざ商品がダメになった時に、その薄幸そうな外見を生かして同情を誘い、お金を貰うのだろう。

 

 ──なんて悪どい手口だ(妄想)!

 

 君が勝手な妄想で目の前の女性を悪役にしたところで、ようやく気づく。

 

 ──こやつ、中々強い!

 

 そう、それは弱者にはない強者のオーラだ。元天使としての所感を述べれば『イケイケな氷』のイメージを彼女から感じる。

 

 ここで息の根を止めるべきかとも考えたが、まだ実害が出ているわけではない。君は基本的に明確な敵意のない敵をいたぶる趣味はない。ゆえにここは見送る。

 それに明日からはアルカンレティアに行くし、それに合わせて護衛のクエストを受けなければならない。この女性とクエストのどちらが優先度が高いかと聞かれれば、クエストと即答する。

 

 君は女性としっかりと視線を合わせる。

 

「え、えーっとー?」

 

 困惑したような女性を無視して、君は宣言する。

 

 ──自分はあなたに目をつけた。決して見逃さないし、逃がさない。あなたがどこにいても見つけてみせる。

 

 そう言い切った君は、決まったっ! などと思いながら踵を返す。

 

「あ、え、あれ? え、それってもしかして、ええええっ! わた、でも、いきなりそんな──」

 

 後ろが騒がしいが、きっと悪事を見抜かれたことに対して、見苦しい言い訳をしているのだろう。

 ふっと、君は笑みを浮かべて、扉に手をかけながら振り返る。

 

 ──また来る。

 

 そう一言残して、店を出た。

 

 君はいい仕事をしたと爽快感を覚えながら、ギルドへと向かった。

 

 

 でも、あの女性に対して必要以上に敵意を持ったのは何故だったのだろうか?

 君は一人、頭をひねっていた。




アルカンレティアでカズマ達が冒険始めるまで時間を潰します

次回更新は遅れまする

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