素晴らしき Dragon Quest   作:さんちょ

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サブタイに意味はない


第4話 冗長な日々に転機

 どうしてこなったかと問われれば、君が悪いと答えられよう。

 

 君は留置場の冷たい床の上にいた。別に罰金を払うことを拒否したわけではない。昨日の今日での再犯に反省が足りていないと思われたらしい。ゆえに一日反省しろと言われ、ここに放り込まれた。

 

 ここに入れられる際に、『ふくろ』と『そうびひんぶくろ』が取り上げられた。なんかロッカーみたいな場所に入れられていたから、中身を弄られる心配はない。つまり、今の君は身につけていた防具以外を剥ぎ取られた状態だ。

 しかし、それで君を無力化できたと思っているなら大間違いだ。君がいた世界で取得した素手スキルによって、君は無手でも十分に戦える。君の目の前にある鉄格子など、軽く粉砕できるわけだ。

 そして君はそんな荒事をしなくとも脱出はできる。

 

 君はどこからともなく歪な形をした金色の鍵を取り出した。その名を『最後のカギ』と呼ぶ。この鍵にかかれば、いかなる扉だろうが宝箱だろうが開錠することができる。

 

 君は牢屋の扉を見る。ダイヤル式の鍵がかけられている。鍵を通すための鍵穴などはない。

 しかし、慌てることではない。『最後のカギ』とは最高峰の『開錠』の魔法がかけられたマジックアイテムのことだ。鍵穴を通す必要はない。ゆえにこの牢屋における牢屋としての監禁機能は、君に通用しない。

 

 ──しかし。

 

 君は『最後のカギ』を空気に溶かすようにどこかへとしまう。

 

 脱獄はしない。

 それというのも、あのセナとかいう女性から、冒険者カードには犯罪歴が記録されるという話を聞いたからだ。君はすでに不法侵入やら窃盗やらの犯罪を犯している。そのせいで信用を失うのは、君の望むところでない。それに犯罪歴のせいで普通は受けられるクエストが受けられなくなってしまっては大変困る。

 

 よって、君は牢屋の中で何をするわけでもなく──というわけはなく、元いた世界で覚えた『お宝』スキルの『盗賊の鼻』という特技で、近くにある宝物の数を数えていた。

 

 

 あれ? そういえばカマエルどうしたっけ?

 

 

     @@@

 

 

 一日経ち、留置場から解放される。

 

「おう、またな」

 

 君は途中から同じ牢屋に入れられたダストという金髪の男に別れを告げる。

 ダストはとても気さくな男で、君が最近アクセルに来たと言えば色々な情報を教えてくれた。色々とは色々だ。それ以上でもそれ以下でもない。

 

 君は返してもらった『ふくろ』と『そうびひんぶくろ』を装着し、目の前にいるセナを見る。

 彼女は初めて会った時から変わらぬ仏頂面で、

 

「これに懲りたら……懲りたのか? まあ、もう二度とあんなことはするな。いいか、絶対だ。絶対にするなよ」

 

 念を押すセナ。それはもしかしてフリか? 彼女は君が犯罪を犯して再び留置場に戻ってくることを望んでいるのだろうか。

 君は一応、善処すると応える。

 

「本当だろうな」

 

 なおも訝しげな顔をするセナ。腕を組む彼女はきっと君のことを信用していない。

 君がそのことを問い詰めれば、セナは呆れたようにため息をついた。

 

「当たり前だ。信じろという方がおかしな話だ。お前に信用があると思うな」

 

 酷い話である。どうすれば信用を勝ち取れるのだろうか。

 

「警告しておくが、この街の衛兵にはお前のことは常識知らずとして知れ渡っている。いつでも監視の目があると思って社会奉仕に努めることだ。そうしたらいつかは信じてやらんこともない」

 

 セナの話から、君は一夜にして有名人になったようだ。今の職業はバトルマスター兼ウェポンマスターであるが、まるで魅力のステータスがカンストしたスーパースターのようだ。

 

 君は人々の視線を集めている状況に優越感を感じながら、セナにお世話になった告げる。そして次もよろしく頼むとお願いしておく。

 

「やっぱり、全然反省していない!」

 

 怒れるセナを背に、君は街へと繰り出す。何をしようかと考え、よしクエストを受けようと思い立つ──、

 

 

 ──のだが、君はやはりカマエルをそのままにしておくわけにはいかなかった。よって一度君が泊まっている宿屋へと向かう。

 

 

     @@@

 

 

 安宿から錬金釜のカマエルを回収した君は、家を買おうと決意した。別にトチ狂ったわけではない。

 君がカマエルを置くために泊まっていた安宿は、ころころと値段が変わるし、錬金釜は珍しいのか同じ部屋の住民の注目を集めてしまう。後者は特に問題はないが、前者は連泊するにあたって色々と問題がある。

 そこで牢屋の中でダストから教えてもらった情報が役に立つ。

 

 ダストからは安い物件の話を聞いた。そこは物置小屋程度の大きさで、すぐそばに幽霊騒動が起きるいわくつきの屋敷があるため、タダに近いくらいに安くなっている。つまり、このまま安宿で連泊するよりも結果としてコストが安く済む。

 

 君は早速、不動産屋で件の物置小屋を一括で購入した。

 

 そこは長年人の手が入っていないようで、ほこりにまみれている。君は真面目に掃除する……ことなく、テキトーな扇を装備し、風を起こしてほこりを外へと吹き飛ばした。

 

 君は元々あった机の上にカマエルを置く。

 

「ご主人様、久しぶりに錬金なさいますか?」

 

 そう聞くカマエルに今は必要ないと応える。若干落ち込んだ様子のカマエルを後に、君は小屋の外に出る。

 

 幽霊が出るということなので、君は一応対策として『破邪の剣』と『光の剣』を扉の前に埋める。ついでに周囲に『聖者の灰』をまいておく。

 

 これで大丈夫だろうと、君は晴れやかな気持ちでギルドへと向かった。

 

 

     @@@

 

 

 ギルドの掲示板に貼られているクエストを確認する。全体的にアクセル近くの森でのクエストが前に見た時から減っていない。というかほとんど変わっていない。

 ギルド職員から聞いた話だが、森に悪魔型のモンスターが確認されたらしい。それに対して冒険者達に森での活動を控えるよう職員達が注意していた。森でのクエストが減っていないのはこれが原因であろう。

 

 しかし、森での活動を控えるように言われているのは、駆け出し冒険者にとってそれが危険であるからだ。つまり、君には関係ない話である。

 

 君は珍しい採取系クエストを発見する。

 基本的にモンスターのいない森であるため、薬草採取のようなクエストはない。しかし、ここ最近の悪魔型モンスターのせいで森も安全とは言いがたい状況となっている。ゆえにこんなクエストが珍しいことに張り出されたのだろう。

 

 君は迷うことなくそのクエストを受ける。そして早速森へと行こうとするが、

 

 

 ──そこで君に声がかかった。

 

 君は声をかけてきたのがギルド職員、より詳しくはギルド一番人気の受付嬢であることを認める。

 まだ今日はこの街で法を犯してはいないはずだ。それを頭の中で確認しながら、君は彼女へ話をうながす。

 

「ええと、ナインさん? 確認なんですが、三日前に農業区で栗ネズミを討伐してますよね? その他にも、大量発生したスライムを討伐したり、ゴブリンと初心者殺しを討伐してたりしてますよね?」

 

 まあ、そう呼ばれるモンスターを討伐したのは確かだ。そういうクエストだったはずだが、

 

「ええ、そうです。そうですが……ナインさん、あなたギルドにクエストを受けたことを報告してませんよね?」

 

 報告。……報告?

 君は疑問符を浮かべて、もしかしてそれは必要なことだったのかと慌てる。

 

「……はい、その通りです。農家の人がギルドに報酬を払いに来たのですが、ギルドには他の冒険者のクエスト失敗報告しかなくて……それで農家の人から詳しく話を聞けば、水色の髪の少年が栗ネズミを駆除してくれたと。でも、ギルドにはそんな人物が栗ネズミの討伐クエストを受けた記録はなく……」

 

 そして調べた結果、君にたどり着いたというわけだ。

 

「というわけで、これまで受けた(と思っている)クエストを全て教えてもらえますか? 全てのクエストの報酬を渡せるわけではありませんが、ある程度は報酬を渡せるので」

 

 人気受付嬢はこちらのミスです、すみませんと謝罪をする。

 それを見た君は、あのハイテンション男性職員が教えるはずだったのかと悟る。まあ、彼は精神がおかしかったので仕方がないだろうと君は頭を下げる受付嬢に頭を上げるよううながす。

 そもそも報酬欲しさにクエストを受けているわけではない君は特に気にしていない。

 

 

 それから色々とクエストの仕組みについて教えてもらい、いくらかの報酬を受け取った。その時に知ったことだが、あの人気受付嬢はルナという名前のようだ。君は親切な彼女の名前は覚えておこうと決意しておくことにする。

 

 

     @@@

 

 

 クエストを三つもクリアし、ほくほく顏の君はカマエル置き場の小屋へと向かっていた。そして不思議な二人組を見つけたのはその途中のことだった。

 

「まじかよ、またクビかよ。昨日、八百屋クビになったばっかなのに! つーか、畑で獲れた新鮮な鮎ってどういうことだよ! 舐めてんのかっ!」

「もー! 今日の稼ぎじゃお風呂入っただけですっからかんよ! 私が売り子やってあげったっていうのに、給料がこんだけってどういうこと⁉︎ 納得できない納得できない!」

 

 公園のベンチに座って悲鳴をあげている茶髪の少年と水色髪の少女。君は目立つ二人組に自然と目がいった。

 

「てかアクア! 昨日俺、商品は消すなって言ったよな!」

「だから、消す用の鮎と売る用の鮎を用意しなさいって言ったじゃない!」

「あっれー? なんでここで俺が責められてんだよ。つーか、あの消した鮎ってどこにいったんだ……?」

「だーかーらー、種も仕掛けもありません! って言ったじゃない」

「いやそんなわけないだろ。お前どっかに隠し持ってんじゃないのか! おら、ちょっと出してみろ」

「ちょっと、どこ触ってのよ! この! セクハラニート!」

 

 なにやら楽しそうにじゃれ合っている。

 

 しかし、畑から獲れた新鮮な鮎ってどいうことだろうか? 君はこの世界について野菜や果物が飛んだり跳ねたりするのは実際に見て知っているが、やはり魚のあり方も君がいた世界とは違うのだろうか?

 

 君がそんなくだらないことを考えていると、愉快な二人組の視線が君の方を向いた。

 

「ちょっとなに見てんのよ! 見世物じゃないわよ!」

「おいバカ、いきなり知らん人に絡んでんじゃねえよ!」

 

 君は一応周囲を確認してみるが、近くにいる人間はあの二人組から不自然に目をそらしている。つまり、あの二人組と目があうのは君だけである。

 

 君の方に近づく水色髪の少女を後ろから羽交い締めする茶髪の少年。君は困ったような顔をする。

 水色髪の少女は茶髪の少年を引きずりながら、君へと迫る。茶髪の少年はそれを阻止しようとしているようだが、

 

「おいアクア止まれ、止まれって……あれ⁉︎ なんで止まれらねぇんだ⁉︎」

「当たり前よ、カズマなんかのへなちょこ筋力で私を止められるわけないでしょ」

「……マジかよ」

 

 少年の努力むなしく君の前に来た水色少女は、自分を大きく見せようとしているのかふんと胸を張る。彼女は何かを言おうと君に顔を近づけて、

 

「……うん? なんか懐かしい匂いがする」

 

 と、いきなり君に匂いをかいできた。

 水色少女の豹変に驚く君と少年だが、即座に事態を理解した少年が少女を引っ張る。

 

「おい、いきなり何してんだよ。お前それセクハラっていうだぞ」

「違うわよ、なんだかこの人から親しみのある匂いがしたのよ。……それにカズマからセクハラについて言われてくないですー」

「おいそれどういう意味だ」

 

 再び言い合いを始める二人組。君は仲の良さを感じずにはいられない。

 

 取っ組み合いをしていた水色髪の少女は、そうじゃなくてと両手をつかみ押し合っていた茶髪の少年を突き飛ばす。少年はいきなりのことでバランスを崩していたが、少女はそれを気にとめることなく、君へと向きなおる。

 

「むむむー」

 

 唸りながら君を見る少女。それを少年が呆れた様子で見ている。

 

「その水色の髪といい、懐かしい匂いといい……もしかして──」

 

 少女は何かひらめいたとばかりに、

 

 

「──もしかしてあなたは私の生き別れの弟っ⁉︎」

 

 

「なんでやねん!」

 

 突飛なことを言い出した少女にすかさず突っ込みを入れる少年。コンビネーションは抜群だ。

 

 少女はいきなり否定されたためにまた少年に突っかかっている。

 

「なんでよ! 私の勘がこの人は私に近しい人だって言ってるのよ! そりゃもう、私の弟って決まったようなもんじゃない!」

「いや、んなわけねぇだろ。実感ないが、お前っていちおう女神なんだろ? その弟が人間なわけないだろ」

「あっ、それもそうね!」

 

 変わり身が早い。君は一瞬で掌を返した少女に感嘆する。割と突っ走るような性格をしていると思っていたが、どうやら切り替えは早いらしい。

 彼らの間で気になる言葉が聞こえたが、君はひとまず彼らの勘違いを正しておく。つまりは、今は人間だが元々は天使であったということを。

 

「……え? 天使? まじで。いや嘘だろ」

「なるほどねぇ。それだったら懐かしい匂いがしたのも頷けるわ! 女神と天使はヒラメとカレイくらい近い存在だって聞いたことがあるもん!」

「いや、ヒラメとカレイは全然近くねぇよ。……てか、まじで天使なの? 天使って俺を見送ってくれて、今アクアの後釜やってるやつだろ?」

「そうよ。ああ思い出したらイライラしてきちゃった。あの子ったら私の言葉を無視して!」

 

 君が自分の正体を告げたら、君の知りえない話を繰り広げ出した二人組。

 

「でも、おかしいわね。天使から人間になるなんて簡単なことじゃないし、そもそもやる意味がないわ。どうしてあなたは今人間なの?」

 

 と、いきなり少女に話を振られた。

 君は特に隠すこともないので、自分より上級の天使が堕天使となったので、それを倒すために人間となったと話す。

 

「なるほどね」

「ん? どうしてそうなるだ?」

 

 納得する少女に、疑問符を浮かべる少年。

 薄々気づいていたが、この少女は天使の事情に詳しすぎる。いったい何者なのだろうか。この少女のことを少年は女神と言っていたが……。

 

 君が少女について疑問を抱いていると、少女は少年に説明していた。

 

「いいカズマ。天使っていうのはね、自分より上級の天使には反抗できないのよ。それは堕天使になっても同じこと。つまり、その上級の堕天使を倒そうとするなら、天使以外の何かになって天使の性質を捨てないといけないの。わかった?」

「お、おう。……お前って本当に女神だったんだな」

 

 少年の最後の言葉は少女には伝わらなかったようだが、君には聞こえた。やはりこの少女は女神なのだろうか。君が抱いている女神の印象は、『最も慈悲深い無能』である。女神とは一番大変な時に木になっているような存在だ。

 

 

 ──と、色々と脱線してしまったが、君はさっそく本題に入ることにする。

 

 そもそも、君がただ目立つからという理由で二人組に視線を向け続けるわけがない。そこにはちゃんと理由がある。そして君がそれほど注目するのはただ一つ。

 

 水色髪の少女の頭上に、茶髪の少年の頭上に、それはある。

 

 ──青いふきだし。つまりはクエストだ。

 

 君は改めて二人組にこう声をかけた。

 

 

 何か困っていることはありませんか……と。




とりあえず接触
でもまだバイト生活の彼らと冒険することはない

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