素晴らしき Dragon Quest 作:さんちょ
晴れて冒険者となった。
「ウェポンマスターですか! なるほどあなたなら最高のウェポンマスターになれますよ! いやなれるね!」
元いた世界でのバトルマスターという職業に加えて、君はこの世界でウェポンマスターという職を得た。ウェポンマスターとはそのままの意味で、あらゆる武器を使いこなす戦士の職業だ。君はウェポンマスターが得られるとあるスキルにひかれて選択した。
「おおおお! 昨日もすげぇ魔力高いやつがアークプリーストになったが、二日続けてこれかあ! 朝方にも知力と魔力が高い紅魔族が来てたみたいだが、本当にここは駆け出しの街なのかよ⁉︎」
「ぜひうちのパーティーに入って欲しいわ!」
「いいや、あの力強さは俺のパーティーでこそ輝くね!」
君は改めてウェポンマスターのスキルを冒険者カードで確認する。結構初期スキルポイントがあったので取得可能スキルを色々と取っておく。ただ一つ残念だったのは、元いた世界で無駄に余っていたスキルポイントをこの世界で使えなかったことだ。
──それにしても騒がしい。
目の前にいる男性職員しかり、周りにいる冒険者達しかり。君はその反応に優越感をそこそこ感じるが、元いた世界の住人達は君の実力に割と淡白だったので、ここまで騒がれることに困惑を感じる。
──ふぅ。
一呼吸で気持ちを切り替える。本来の目的を思い出す。よってそわそわと落ち着きなく視線を向ける冒険者達は無視。もちろん目の前の男性職員は思考から除外。
君はテンションアゲアゲの男性職員からさっさと離れ、クエストが貼ってあるらしい掲示板へと向かう……途中に横目で樽を発見した。
「な、なあ、あんた、俺たちのパーティーに──」
──ぐしゃ。
一瞬で樽を粉々に破壊し、中身を確認する。チッ、空だった、しけてやがる。
「ひっ」
君は特に期待はしていなかった樽(壊)から早々に意識を外し、掲示板へと足を進める。
その道中、見つけた壺や樽をほぼ無意識のうちに破壊しながら、君はまだ見ぬクエストに期待を寄せる。
そういえばいつからかギルド内の喧噪が嘘のように静まっている。ここの人間は感情の振れ幅が極端だなと君は的はずれな感想を抱いた。
そして念願、掲示板の前。期待せずにはいられない。
どれどれと、そこに貼られている内容を見る。
『栗ネズミの討伐』
『街の郊外にある屋敷の墓掃除』
『ジャイアントトードの討伐』
『大量発生したスライムの討伐』
『家出したお嬢様の捜索』等々……。
目移りするほどにどれも魅力的なクエストだ(君は基本どんなクエストでも魅力的に見える)。
君は目線をさまよわせながら、どのクエストをまず受けるかを考える。
──栗ネズミとはモンスターのことなのか?
──スライムはあの世界と同じなのか?
──墓掃除とは本当にただの墓掃除なのか?
君は頭を悩ませながら、ふと掲示板にクエストの張り紙から離れた位置にある張り紙が目にとまる。
【パーティーメンバー募集してます。優しい人、つまらない話でも聞いてくれる人、名前が変わっていても笑わない人。クエストがない日でも、一緒にいてくれる人。前衛職を求めています。できれば歳が近い方。当方、最近13歳になったばかりのアークウィザードで──】
どうやらパーティー募集? いや友達募集の張り紙のようだ。
誰かがそう望むならそうする、それが君のスタンスだ。この彼なのか彼女なのかわからない人のパーティー(友達)となってもいいかなと君は考える……が、コレは君の手に余った。記された条件のほとんどを満たすことはできるが、年齢はどうしようもない。天使として生きた年齢でも、人間として生きた年齢でも、13歳とは離れている。
君はちっとも残念とは思わずにさっさと諦め、クエストの選択へと移る。
@@@
結局、栗ネズミの討伐を選んだ。未知のモンスターを知りたかったというのが主な理由だ。
ギルドを出るときに二人の男女に肩を貸してもらっている、ぐったりとした魔法使いの少女とすれ違ったが、あれは大丈夫だったのだろうか。というか、あんな幼い少女も冒険者なのか。
君は心配もそこそこにクエストの場所である農業区へと歩を進める。
そして農業区へと到着。君はそこにいた農家の人へと、自分は冒険者であるとカードを示しながら話しかける。
「お、栗ネズミを退治しに来てくれたのか」
君は自分が来たからには安心して欲しいと告げる。
「期待しているぞ。前に来た奴らは役に立たないどころか、栗の木を吹き飛ばしやがったからな。くれぐれも栗の木は傷つけないでくれよ。傷つけたら罰金だからな」
農家のおじさんは顔に小さく怒りを浮かべながらそう言い、一転君を訝しげな表情で見る。
「お前さんが冒険者なのは冒険者カードでわかってはいるが、その、栗ネズミは鋭いトゲをまとってるんだ。つまり、何が言いたいのかというと……そんな装備で大丈夫か?」
大丈夫だ、問題ない。
君は笑顔でおじさんに手をひらひらと振りながら、栗の木が立ち並ぶ農業区へと入っていく。
そしてある程度歩いたところで栗のようなトゲで覆われたモンスターを発見する。あれが栗ネズミなのだと確信する。栗を好んで食し、柔らかくて美味しい肉質をしているらしい。とりあえずモンスターリストに軽く書いておく。
それにしても栗ネズミは君を見ても逃げない。つまりはかなり強いモンスターなのか。とてもそうには見えないが。
君は間違っても栗の木を傷つけないように、
左手に『鉄の剣』を装備する。
ウェポンマスターのスキル《二刀流EX》。
既存の《二刀流》という両手にそれぞれ剣を持ってもある程度扱えるようになる武器スキルがある。そしてウェポンマスターの《二刀流EX》はそれを凌駕する性能を発揮する。
君は特に高くないはずのバトルマスターの器用さのステータスが上昇したのを感じる。
君は両手に剣を持ち、群がっている栗ネズミと対峙する。
そして栗ネズミが一斉に飛びかかる!
君はあまりにも遅いそれらを二刀でもって優しく斬り払う。その直後、周囲の栗の木をさっと見回し、傷が一つも付いていないことに安堵する。
君に断ち切られた十匹の栗ネズミ……その残骸が地面に落ちる。
わかっていたことだが、弱い。特技を使うまでもない。だが、別にそれは残念に思うことではない。君は戦闘狂ではないのだ(戦闘勝利回数が大変多いことによって授けられる称号『エリート戦闘民族』を持ってはいるが)。
どちらかといえばクエストを受け、クリアした時にこそ至福を感じる君としてはクエストの難易度は問題にならない。つまり、さっさと片付けてもっとクエスト受けようぜ、ということだ。
君の足元に散らばる仲間達の死骸を見て、ようやく彼我の実力差を知ったのか、栗ネズミどもが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
混乱したのか、君の元へと逃げてきた栗ネズミを『銅の剣』で地面に縫い止め、絶命させる。そして次の瞬間には君は駆け出していた。もちろん栗の木を揺らして栗を落とさないように、あまり空気を撹拌させないように気をつけながらだが……それでも君は速かった。
とりあえず目に付いた栗ネズミは刻んでおいた。
@@@
結局、昨日は栗ネズミの討伐の他にもう一つクエストを受けてクリアした。(ちなみに職員の説明不足によって君は受け取るはずの報酬を受け取っていない。というか、クエストを受けたことをギルドに報告していない)
そして今日も君はギルドに来た。
ギルドの扉を開けば、なぜか職員の方達から視線が突き刺さった。なんだろうか? 朝方ゆえにまだまだ他の冒険者がまばらなギルドを歩く。
すると、一人の女性職員が君の前に来た。
「──ナインさんですね」
疑問ではなく一応の確認という印象を受けた。君は特に身分を隠していないので素直に頷く。
確かこの女性は特に人気の受付の職員だったはずだ。そんな彼女が口を開き、意味のわからない言葉を発した。
「あなたに対して多数の通報が来ています」
考える。考えるがわからない。本当になんの話だ?
君が首をひねっていると女性職員は話を続ける。
「ある通報者の話では、夜中その方が家のベッドで横になっていると、あなたが鍵がかかっていたはずの玄関の扉を開き、家に侵入し、タンスを物色し、家にあった壺を破壊し、中身のネロイドを盗んで帰って行ったそうです。あと七名から同じような内容の通報が来ています。それに昨日あなたはギルドでも三個の壺と樽を二樽を壊しています。幸い中には何も入ってませんでしたが」
心当たりはあるが、それの何が悪かったのだろうか。というか、なぜギルドに通報が来ているのか。
「ナインさん、この内容に間違いはありませんね?」
まあ、間違いはない。どこに通報する要素があるかはわからないが。
「……認めましたね。では、警察の方が来るまでこちらで待っていてもらいます」
むぅ、と君は予想外の事態に唸る。ざっとギルド内を見れば、その総合戦闘能力は明らかに君の方が高いことがわかる。強行突破することは可能だろう。
しかし、ギルド職員の命令を無視したら心象が悪くなるかもしれない。そのせいでクエストが受けられなくなるのは問題だ。
君はおとなしく近くの席に座る。その様子にホッと息をつく職員方。
そして君は警察が来ると、警察署へと連行された。
街の中央区に位置する警察署。君はそこの取り調べ室に座らされていた。机を挟んだ向こう側には眼鏡をかけたキツめの印象を受ける女性が座っている。この部屋の唯一の扉の前には律儀に騎士が陣取っている。
君は状況をさっと確認して、目の前にいる女性を見る。名前は確か……セナと言っていたか?
セナは小さなベルを机に置く。
「これは嘘に反応する魔道具だ。発言の中に嘘があれば音が鳴る。……では、話を聞こうか」
君は興味を机の上のベルに向けながら、セナの話に耳を傾ける。
「まず、名前と出身地を聞こうか」
君は嘘をつく理由はないので、正直にナインという名前と天使界という出身地を告げる。
「て、テンシカイ。聞いたことはないがまあいい。……では次に今回の件について話してもらおう。お前は計七軒の家宅に侵入し、タンスや本棚を物色、そして樽や壺を破壊した。そのときに何点か窃盗を行った。またギルドでもその備品を破壊した。……間違いはないか?」
概ね合っている。だが、盗んだわけじゃない。
──ベルは鳴らない。
セナはベルに視線を向けてから、問う。
「では、なんだというだ?」
盗んだわけじゃない。貰ったのだ。
「貰った? しかし、お前は家主の許可を得ていないだろう。これは立派な窃盗だ。言いたいことがあるなら言ってみるがいい」
良い機会である。変な誤解を受けているようだからきっちりと言っておく。君は決意する。
まず大前提として君は自分が魔王討伐を目指していることを告げておく。されど流石の君でも独りで魔王を討伐できるとは思っていない。それは協力し合う仲間でもあり、それは回復するための宿屋でもあり、それは役に立つアイテムでもある。ゆえに君は傲岸不遜に言い放つ──だから提供しろ。
魔王に脅えているなら助けてやろう。だから提供しろ。彼らの提供によって魔王が倒されれば彼らも本望だろう? いっそ誇りに思ってもいい。
まあ、今さら壺や樽の中身に期待はしていないが。
というか、ここの住民は狭量すぎる。君がいた場所では壺を壊そうが、樽を壊そうが、タンスをさぐろうが、本棚の本を読もうが、そんなことで文句言うやつはほとんどいなかった。それなのに、この程度で通報とは……ケッ。
と、そこまで言ってセナが頭を抱えていた。頭痛だろうか。君は大丈夫かと心配する。
「ええ、はい、ええ。お前の言い分はわかった。いや、正直わからなかったが、わかったことにする。……一応聞くが、本当に魔王を倒そうと思っているのか?」
そんなことを聞くセナ。無論であると答える。
──ベルは鳴らない。
セナがさらに頭を抱えて、
「でも、それとこれとは話がちがう」
まあ、当たり前の正論を言った。
「現にお前が犯罪行為をして、被害者から通報された。そこは疑いようがない事実だ」
なるほど、なるほど。
つまり、セナ、あなたは自分に何を望むのかを君は問う。
「まず不法侵入に器物損壊、そして窃盗。この罪を償ってもらう」
具体的には?
「懲役三年、もしくはお前が盗んだネロイドや衣料品も合わせての罰金二百万エリ──」
わかった払おう。君は即答した。
しかし、今は手持ちが八万エリスしかないから工面したいと申し出る。なに、『ふくろ』の中のグビアナ金貨を売ればすぐにたどり着く金額だ。
もちろん、まだ机の上には嘘看破のベルがあるため、君の発言は保証されている。といっても、まだ一度も鳴っていないこの魔道具に君は疑問を覚える。本当に嘘を看破できるのか?
君は試しに『イザヤール師匠を尊敬している』と言ってみる。
──チーン。
どうやら本物のようだ。
そして結果から言えば、君は二百万エリスの罰金を無事支払い、罪を清算した。君は晴れ晴れとした気持ちでクエストを受け──、
──翌日、警察署。
「……またですか?」
無意識だった、反省はしている。
原作主要キャラとはちょっとずつ関わっていくつもり