素晴らしき Dragon Quest   作:さんちょ

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オリジナル職業あり
やまなしおちなし


第2話 いとも容易く行われる

 ここで一つ、君は致命的なミスに気づいた。

 それというのも──、

 

 君の今の職業はバトルマスター。ひたすら敵を攻め続ける攻撃のスペシャリストだ。悪くはない。決して悪くはないが、これから魔王討伐の冒険をするにあたっては最良ではない。

 まず、バトルマスターは『ルーラ』以外の魔法が使えない。回復魔法も攻撃魔法も補助魔法も使えないのは冒険する上で欠点となる。ある程度は特技で補うことができるとはいえ、脳筋職であることに変わりない。

 なら職業を変える、つまり転職すればいいだけの話ではある。君は賢者の特技として覚えた『ダーマのさとり』を使えば、いつでも転職することができる。できるはずだが……。

 

 ──そんなことって……。

 

『ダーマのさとり』が使えない!

 

 正確に言うなら、この異世界ではダーマ神と交信できない。つまり君はこの世界ではバトルマスターとして冒険をしなければならない。

 ため息をつく。

 

 ちなみに余談だが、天の箱舟を呼ぶためのアギロホイッスルも『ダーマのさとり』と同じ理由で意味をなくした。

 

 

 さて、気持ちを切り替え君は街の門へと歩き出す。門の両脇には衛兵と思しき者達がいる。君が近づくと衛兵達は訝しげな表情を浮かべて、自然な動作で門をふさぐように君の前へと出る。

 

「ちょっといいかな」

 

 衛兵が頭の先から足の先まで君を見る。ちょうど君が抱える練金釜のカマエルのあたりで視線が止まるが、表情に不審を浮かべるだけにとどまった。

 そこでまだ挨拶をしていないことに君は気づく。なるほど、挨拶しない者を不審に思うのは当たり前のことかと、変な勘違いする君はにっこりと笑顔を浮かべ、

 

『こんにちは』

 

「「⁉︎」」

 

 挨拶をした君を見て二人の衛兵は驚愕を顔に貼り付ける。

 

 ──……あれ?

 

 君は予想外の反応に内心困惑する。

 彼らの視線から君の頭上を見ていることはわかる。なら、今君の頭上にあるものはと言われれば、それはしぐさコマンドによって生じた『こんにちは』というふきだしのみだ。君は首をかしげる。

 

 しかし、君の困惑は杞憂だった。彼らはチラチラと視線を君の頭上に向けながらも、彼らの顔にもう驚愕はなかった。あるのは少しの好奇と……諦観?

 

 二人の衛兵は互いに顔を合わせ、口を開いた。

 

「(よくわかんないことをする……つまりコイツは冒険者だろう)」

「(ああ、上等そうな服を着てるから始めは貴族かなんかだと思ったが、コイツは間違いなく冒険者だろう)」

 

 彼らは互いにひそひそと言葉を交わしたのちに、こちらに向き直る。

 

「あー、いちおう確認するが貴族とか王族ではないよな?」

 

 その質問に頭上に文字通り疑問符(『?』)を浮かべるが、君は元天使であっても貴族なんてものではない、ましてや王族ではないと伝える。

 

「ああ、ああ、わかってたぜ」

 

 何故かしたり顔で鷹揚に頷く衛兵。そして人の良い笑みを浮かべて街への道を開ける。

 

「ようこそ冒険者。ここは駆け出し冒険者の街《アクセル》だ」

 

 アクセルと口の中でつぶやき、君はセレシアの情報との一致を確認する。

 

 君はいちおう歓迎(?)されたようなので、門を通ろうするが、

 

「おっと、そうだ、とりあえず名前だけ教えてくれ」

 

 慌てた様子で、今気がついたかのように、衛兵がペンと紙を薄い木の板に乗せて差し出した。君はわざわざ入門に面倒だなと思いながらも、さらさらと自分の名前、ナインと書き込む。

 

「ふむ、ナインね。おしオーケーだ」

「じゃあ通っていいぞ」

 

 君は許可をもらい、いよいよ《アクセル》の街へと足を踏み入れる。──と、そこで思い出したかのように君は振り向き、先の衛兵達に宿屋の場所を聞く。

 

「宿屋? まあ、いくつかあるが……」

 

 衛兵はふところから地図を取り出し、君に指し示す。

 

「今いるのがここだ。そして一番安い宿屋がここ。もうちょい高くて質がいいのだとここ。この街で一番高いのはここだな」

 

 今聞いた情報を記憶し、『ありがとう』のふきだしを発生させながら礼をする。

 

「お、おう、じゃあ気をつけてな」

 

 君は世話になった衛兵に別れを告げ、今しがた聞いた一番安い宿屋へと向かう。

 

 ──そういえば。

 

 君はあの衛兵達が君の服装について何か小声で言っていたのを思い出す。君の今の装備は最高の防具である全身金ぴかぴーではなく、エルシオン学院の制服を着ている。つまり、赤を基調に金で縁取ったブレザーに、黒を基調にすそを金にしたズボンである。

 君はこの装備を、何故か男でも着れるメイド服の次に気に入っている。だってなんかカッコいい。どこかあの世界の時代を二歩とか三歩先に進んでいる最先端な感じがするのだ。天使の服とか今にして思えばかなり風変わりな格好だと、君はそれを考案した偉い人に失礼ながら思った。

 

 

 君は石造りの街並み──壺発見 破壊 収穫なし──を見ながら、歩みを──樽発見 破壊 馬の糞入手──進める。建物は君がいた世界ではよく──樽発見 破壊 ネロイド入手──見るレンガ造りのものだ。異世界だという──樽発見 破壊 収穫なし──のに親近感がわく。

 

 君は街の見物をそこそこに、足早に宿屋へと向かう。

 

 

 君が見上げる宿屋は確かに安宿と呼んでしかるべき建物だった。外観のみの感想だが、リッカの宿屋には遠く及ばない。まあ贅沢は言わない。というか野宿でもいいが、とりあえずカマエルをどこかに置いておきたいという気持ちがあった。

 

 君はカマエルを脇に抱えてから、扉を開き宿屋へと入る。見たところ大部屋一つに雑魚寝という形式の宿屋のようだ。

 

 君はカウンターと思しき場所で新聞を広げている中年の男に声をかける。

 

「ん、いらっしゃい。()()()一晩千エリスでさあ」

 

 宿屋の主人の言葉に君はおやと表情に出さずに驚く。エリスとは聞いたことがない単位だ。話の流れからお金の単位だろうが、ゴールドは使えないのだろうか?

 

 君は一ゴールドをカウンターに起き、主人にこれが使えるかを尋ねる。

 

「んー、これは?」

 

 異国の貨幣だと答える。

 

「悪りぃがここで取り扱ってんのはエリスだけでさあ。コイツじゃ払えねぇ」

 

 そう言って一ゴールドが突き返される。君はそれを『ふくろ』の中に無造作にしまって、それからふと思い出したように『ふくろ』の中からあるものを取り出した。

 それをカウンターに置く。

 

「これは?」

 

 グビアナ金貨であると答える。

 

 これは銅貨、銀貨、金貨とある内のグビアナ金貨という骨董品に近しい換金アイテムだ。特に売ることもなかったので『ふくろ』の中にバカみたいにたまっている。

 

 君はグビアナ金貨を指差し、買い取って欲しいと頼む。宿屋の主人はそれを聞くと金貨を手に取り眺めながら、

 

「んー、いやーね。オレにはこういうものの適正価格ってのがピンとこないわけでさあ。これが金でできているってことはわかるが、それ以上はなんにも」

 

 宿屋の主人は悪いねと顔を横に振る。

 君は当てが外れたと、金貨を再び『ふくろ』に戻す。今日は宿屋を諦めるかと考える君に、ふと、宿屋の主人がこう提案してきた。

 

「オレには価値がわかんねーが、この宿屋を右に行った場所にあるところなら確か貴金属を扱ってる店があったはずでさあ。そこなら買い取ってくれるかも知れんね」

 

 なるほどと感謝の気持ちを『ありがとう』と頭上にふきだしで表現し、礼をする。宿屋の主人はギョッとした顔を浮かべていたが、頬をひきつらせながらどういたしましてと返していた。

 

 君は身体を反転し、宿屋を出る。

 

 君は宿屋の主人に教えてもらった貴金属店へと足を進めながら、グビアナ金貨は売れるだろうかと考える。グビアナ金貨は換金専用のクソアイテムであり、結構古いものだ。それを果たして〝貴〟金属と呼んでいいものか。まあ、もしダメだったらミスリル鉱石でも売ればいいやと楽観的に考える。

 

 

     @@@

 

 

 結局グビアナ金貨は売れた。収穫としてはグビアナ金貨一枚を売って十万エリスだ。宿泊代が今のままなら(それ以外にお金を使わないとして)百日は泊まれる。というかお金に困ったらまだまだ沢山あるグビアナ金貨を売ればいい。

 

 というわけで、君は宿屋に戻り、大部屋の一箇所を君のスペースとしてそこにカマエルを置く。

 君はカマエルに喋って変に騒がれたら面倒なので黙っているようにと命じる。

 

「了解しました、ご主人様」

 

 君はカマエルから了承を得ると、適当な布をカマエルにかけてから、宿屋を出る。

 

 ──気になっている場所がある。

 

 本来な宿屋と同じくらい教会を探さなければならない君だが、ここに来るまでに聞いた『ギルド』と呼ばれる施設。そこではなんとクエストが受けられるらしい。

 魔王討伐も大事だが、女神セレシアの話ではまだそれほど切羽詰ってはいないらしい。現にここ《アクセル》では魔王の脅威に怯えているという感じはしない。

 

 つまり君は考えた。いつものパターンで行こう。

 

 クエストをこなしつつ、新しい町や村、地域へと旅をする。そうしていれば自然と魔王へと近づくはずだ。ちなみにこれは経験談だ。

 

 そうと決まれば早速クエストである。『クエストキング』の称号は伊達ではない。

 

 

 そして君は冒険者ギルドだと思われる建物の目の前に来ていた。あの安宿よりも大きい建物だ。

 

 君は穏やかな気持ちの中に微かな期待を込めてギルドへと足を踏み入れる。瞬間、香ばしい匂いが身体にからみつく。

 

「いらっしゃいませー。お仕事案内なら奥のカウンターへ、お食事なら空いている席へどうぞ〜」

 

 愛想を振りまくウェイトレスの声と、幾人かの観察するような視線が君を迎える。

 君はさっと周囲を見て、まだ明るいのに酒を飲んでいる人達を見つける。ここは酒場も併設されているようだ。しかし、君の目的はなんといってもクエストである。食事をしている人達から視線を外し、奥のカウンターへと足を進める。

 

 カウンターには受付が四人いた。そのうちの女性の一人に何故か人が集中していることが気になるが、君は客が来ず、手持ち無沙汰にペン回しをしている男性職員の方へと行く。

 男性職員は君が来たことに気づき、優秀な作り笑いを浮かべて対応する。

 

「こんにちは、今日はどうされましたか」

 

 挨拶する職員に君も百点満点の笑顔を浮かべて『こんにちは』とふきだしを出して応える。

 

『⁉︎』

 

 目の前の職員と君を注目していた者達が驚きに目を見張るのを感じる。

 流石の君でもそろそろわかってきたことがある。どうやら()()()()()しぐさコマンドによる挨拶が珍しいようだ。君がいた世界でも使う人はかなり限られていたため、まあ仕方ないと言える。

 

 君は特に気にすることなく、ここに来た要件を直球に『クエストを受けに来た』と述べる。

 

「えーと、はいクエストですね……一つ質問ですが、あなたは冒険者ですか?」

 

 意味のわからないことを質問する職員。

 君は冒険者と言われれば冒険者である。では、それがどうかしたのか? 質問の意図が読めない。

 

「あーそうですね。少し質問を変えますが、冒険者カードはお持ちですか?」

 

 冒険者カード?

 新しい固有名詞だ。君は素直に持っていないと答える。

 

「はい、わかりました。『ここ』で冒険者として仕事をするには手数料が必要になりますが……その上で冒険者になりますか?」

 

 なるほどと納得する。

 冒険者とは特別な意味を持つ言葉であるようだ。そしてその冒険者にならないとクエストを受けられないらしい。それは困る。ゆえに答えは冒険者になる一択。

 

 君は手数料はいくらかを問う。

 

「はい、登録手数料は千エリスとなります」

 

 君は迷いなく千エリスをカウンターへと置く。職員をそれを確認し、何か箱のようなものへと入れる。

 

「では、冒険者について簡単に説明しますね──」

 

 そう切り出した職員の話では、冒険者というものはこれまでの君と特に変わらない。人に害なすモンスターを討伐するのが主な何でも屋。冒険者とはそういうことを生業とする人達の総評らしい。

 そして冒険者には職業というものがあるという話だ。

 

 職員が君の前にカードを差し出す。これが冒険者カードと呼ばれるものなのだろうか。

 職員はカードを指し示しながら説明を続ける。

 

「こちらに、レベルという項目がありますね? ──」

 

 その内容はまあ君にとっては馴染み深いような新感覚のようなものだった。つまりは経験値とレベルとレベルアップとスキルポイント。

 君は早くクエストを受けたいという思いを顔に出さないように努めて、職員に説明をうながす。

 

「では、こちらの書類に身長、体重、年齢、身体的特徴等の記入を願います」

 

 君は目にもとまらぬ速さでそれらを一瞬で書き上げる。

 ハイ、と笑顔で職員に書類を差し出す。

 

「え、あ、え……?」

 

 職員はぽかんとほうけながらも、手は作業的に動く。

 

「……はい、結構です。では、このカードに触れてください。それであなたのステータスがわかります。そこに記された数値を元になりたい職業を選んでください」

 

 君は軽く指先でカードに触れる。

 

「はい、ありがとうござ────いふぁッ⁉︎」

 

 なんか職員が変な鳴き声をあげた。そのせいで周囲の視線が君に突き刺さる。

 

 ──大丈夫ですか?

 

 のんきに君が聞けば職員が胸に手を置いて息を整える。なんだろう? 持病の発作だろうか。

 

「ええ、すみません──いえ! 凄いですよこの数値! 全てのステータスが恐ろしいほどに高い! 特に筋力が頭狂ってる⁉︎ 魔力は低いですが、なんなんだこれはッ!」

 

 何かエキサイトしている職員。血が頭に上ってるのか、顔が異常に赤い。

 

 というか、筋力が高いのは当たり前だろう、バトルマスターなのだから。それに『力の種』を限界までつぎ込んだのだ。これで低かったら自信をなくす。

 

 君は火照った職員を手で扇いで気持ちの良い風を送る。しかし、まさにそれは焼け石に水だろう。

 

「これなら魔力によらない職業なら、ほとんどの上級職になれますよ! いや、なりましょう! おすすめはソードマスター、次点でクルセイダーでしょうか⁉︎」

 

 君は差し出されたカードを受け取り、どれどれと見てる。

 職員が言っていたソードマスターは最高の戦士、クルセイダーは最高の盾役だろうか。君は色々と見ながら、ふと目についた職業があった。

 

 まあ、これでいいだろうと君は何も考えていないようで、色々と考えて、選んだ職業を職員に伝える。

 職員はそれを聞いて、興奮したように言った。

 

 

 

「────ウェポンマスター、ですか!」

 

 

 




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