素晴らしき Dragon Quest   作:さんちょ

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Ⅴの不運主人公にしようと思ったけど、万能性でⅨ
Ⅸは何年も前にやったので変な矛盾があるかも
二人称、君


第1話 世界は救われた

 世界は救われた。

 

 女神の果実がもたらした災厄は地に落ちた天使によって終息した。人知れず地の底に潜み、世界を恐怖に陥れる名だたる大魔王たちも、彼によってことごとく討伐された。

 

 彼とはつまり、そう、君のことだ。

 

 星空の守り人として、人間として人間の世界に残り、あらゆる人々の願えを叶え、あらゆる災いを退けてきた。もうこの地に君が赴くほどの災厄の種は残っていない。もはや子供の頼み事か簡単なおつかい程度のものしか残ってない。あとはただ見守るのみ。

 

 君は達観した心持ちで《雨の島》と呼ばれる場所にいた。

 

 一年中降り続いているは雨は今日も休むことなく降っている。君はその島の中央、光り輝く大樹の足元に落ちいてる『世界樹の葉』を採取していた。もっとも君がこの手の類の蘇生アイテムを使用することは滅多にないだろう。

 

 君は雨に濡れることも構わず、空を見上げる。寂しい気持ちがこみ上げてくるのは、君が真心込めて育て上げた仲間たちがここにはいないからか。しかし、彼らをいつまでも自分に縛り続けることは君の意思に反した。彼らとて最早一人一人が一騎当千の強者なのだから。

 

 ふぅ、と暗い気持ちを振り払うように頭を振る。気持ちを切り替える。

 

 ──そろそろ帰ろう。

 

 君はいつものように拠点となる《セントシュタイン城下町》へと帰るために『ルーラ』を唱える。すると身体を青白い光が包み込み、見えない力が君を上空へと引っ張り上げる。高速で景色を後ろに流しながら、数秒と経たない内に君は西セントシュタインへとたどり着く。

 

 君は城下町の前にてふわっと軽く着地をする。

 

 日は既に暮れている。夜となりモンスターたちはより活発となるが、君の周囲にいるモンスターは君の姿を認めると全速力で彼方へと逃げ出した。彼我の力量差がわかるモンスターは嫌いじゃないと笑みを作る。

 

 君は勝手知ったる町へと入り、足取りに迷いなく宿屋へと向かう。見慣れた扉を開けば受付にいる素朴なバンダナをつけた少女と目があう。彼女、リッカは人当たりのよい柔らかい笑顔で君を迎える。流石は宿王、と君は笑顔を返して、初めの頃より随分と豪華になった宿屋歩く。自慢ではないがここまで宿屋が成長した原因のその三割くらいは君の呼び込みがあってのものだと思っている。

 

 君は感慨深いものを感じながら、リッカに話しかける。

 

「あら、ナイン! おかえりなさい!」

 

 君は宿屋に泊まることをリッカに伝える。なんと一晩三ゴールド! ──といってもこれは特別な従業員価格だ。もっとも体力を回復するだけなら無料の回復スポットがあるのだが、これはほとんど気分の問題だ。

 

 君がお客様だと理解したリッカは丁寧な接客でもって対応する。

 

「それではごゆっくりお休みください」

 

 

 身を清めた君は案内された部屋のベットに身を投げる。疲れたわけでは、ない。単純に日に日にやること……やるべきことがなくなり、存在意義を見失い始めたからだ。

 天使として生まれ、守護天使となり、地上世界の人々を助け、星のオーラを集めてそれを世界樹に捧げる。始めはそれだけで、天使界から落ちたときは女神の果実を探す旅に出て、そして天使としての最終目標である女神セレシアの復活は君の手で成された。それからは地底の魔王を討伐し、世界に安寧を取り戻した。

 天使であったころは死者を天に導いたり、馬小屋で馬の糞を片付けたりとしたが、それも結局は星のオーラを集めるため、ひいては女神セレシアを復活させるために帰結する。もちろん義務感のみでそれをしていたわけではない君は今でもそういうことはしている。しかし、女神セレシアが戻ったからには死者を天に導く必要はなくなり、星のオーラを集める必要はもうないため、()()()()()()()()()()馬小屋の掃除なんて進んでしようとは思わない。

 

 ──これから、どうしようか。

 

 君はどうしようもない行き詰まりを感じる。

 

 君が持つ能力として困っている人の頭上に青いふきだしを見ることができる。君はこの世界に存在する青いふきだしを持つ人間を片っ端から助けてきた。結果として人間たちは笑顔になった。もう青いふきだしを出している人間は(無限に同じ頼み事を繰り返す者以外)いない。喜べることなのに、君は変な気持ちになってしまう。

 

 ──これでは天使として失格だ。

 

 自嘲気味に笑みを浮かべる。

 そして、

 

 ──もう寝よう。

 

 君は現実から逃げるようにまぶたを閉じた。

 

 

     @@@

 

 

 ……ナイン……、

 

 …………ナインよ……、

 

 ……………………………………。

 

 

 

「──起きるのです!」

 

 

 

 うひゃあっ⁉︎

 君は鼓膜を破るような大声で一気に覚醒する。寝ていた体勢から慌てながらも即座に飛び起き、腰を落としてすぐさま周囲を警戒する。

 しかし、警戒するまでもなく君はここがどこであるかを察した。

 

 《神の国》。正しくはそこにある神の宮殿、その二階。

 

 白を基調とした壁面が囲う中、床には絨毯のように草原が広がり、それを暖かく照らすように、ガラス窓の向こうから柔らかい日差しが降りそそでいる。神聖であり幻想的。そんな言葉が似合う領域だ。

 

 そんな領域には今、二人の人物がいた。一人は言わずもがな君。そしてもう一人は、君に向かう会う形でいる女性、いや女神。白き肌を純白の羽衣で包み込み、黄金色の髪には草冠がのっている。そう、彼女こそが女神セレシア。人間を信じた心優しい女神だ。

 

 君は気づけば、片膝をつき、臣下の礼をとっていた。

 天使ではなくなった君だが、セレシアが上位者であり君が臣下という絶対関係は魂に刻まれたことだ。

 

 ……と姿勢を正したはいいが、今の状況に疑問を覚える。君は確かにリッカの宿屋で眠りについたはずだ。これが夢でないことは感覚でわかるが、だからこそわからない。何故、《神の国》にいるのか。何故、女神セレシアが目の前にいるのか。

 君はそれを問う。

 

「ナイン、実は折り入って頼みたいことがあってあなたをここへ呼び出しました」

 

 よく響く美しい声でそういう女神。

 そして顔を上げた君は気づいた。セレシアの頭上に青いふきだしがある。──クエストだ。

 

 君はその頼み事を受けることを決定事項に、その内容を尋ねる。

 

「ええ、実は私の知己が担当する世界が魔王の侵攻のせいでピンチのようなのです」

 

 だいたいクエスト内容が推測できた君はセレシアに質問をする。

 

 ──その世界とはラヴィエルの天使の扉を通った先にある、この世界によく似た別の世界のことですか?

 

 君は天使の扉を通って別の世界に行ったこともあれば、別の世界から君と同じ運命を背負った者をこの世界に招き入れたことも何度もある。セレシアがわざわざ呼び寄せてまで言うということは、やはり何か違う話なのだろうか。

 そしてその予想は当たった。

 

「いえ、違います。この世界とは違う、正しく異世界のことです」

 

 ふむ、となるとつまりどういうことなのか?

 君はある懸念──もし異世界に行ったらこの世界で自分という存在はどうなるのか?──を抱く。というのも、この世界の人々は天使達が星に還ったとき、その存在をすっかり忘れてしまっているからだ。守護天使像からは刻まれた守護天使の名前は消え、最初から天使なんて存在はいないという状態になっている。

 君は不安を覚える。異世界で魔王の侵攻を止めるというクエストは一朝一夕では終わらないだろう。その間、リッカの宿屋の従業員としての呼び込みはどうなるのか、それだけが気がかりだ。君がいなくなったくらいで宿屋がどうかなるとは思わないが。

 それに女神セレシアのことだ。君がこの世界にしがらみを持っていると知って、君の存在を人々から忘却させるかもしれない。何故なら彼女はエルギオスを倒すためだけに君を人間になるよう強要した存在だ。君という存在が別の世界に行ったせいで人々の不安を招かないように、君という存在を消すことに躊躇は覚えないだろう。

 まあ、セレシアの全てを知っているわけではない君の評価……だが、今回はある程度当たっていた。

 

「ええ、そうです。ごめんなさい、ナイン」

 

 つまり、その言葉が全てを表していた。君の存在はこの世界から消える。

 

 とても申し訳なさそうに俯き謝罪するセレシア。実はそれほど気にしてない君としてはこちらの方が申し訳なくなる。君にとっての優先順位はクエストがほぼ最上位と言ってもいいので、セレシアが謝罪するようなことは正直言って些事だ。

 

 ……というよりも、今はその異世界の方が気になる。

 

「え、ええ、ずいぶんとあっさり受け入れてくれるのですね。いえ、駄々をこねられてもそれはそれで困るのですが……。はい、異世界のことですね──」

 

 何故か信じられないといった風なセレシア。彼女は君がエルギオスを倒すために人間になる必要があったとき、寸の躊躇もしていなかったことを忘れたのだろうか。

 

 まあ、それはいいとして。

 

 問題は異世界だ。どうやらその異世界とやらは基本的にこの世界と感覚は変わらないようだ。モンスターがいる。魔法がある。何の問題もない。

 

 ──では早速送ってください。

 

 さっと『ふくろ』の中を確認した君はセレシアにお願いする。

 

「あ……えと、あの……本当にいいのですか?」

 

 今さらそんなことをセレシアは聞く。甚だ愚問である。セレシアが頭上に青いふきだしを出していた時点で覚悟は決まっている。

 

「わ、わかりました。それではお願いしますね?」

 

 言葉の直後、白く輝く魔法陣が君の足元に出現する。これが扉なのだろう。

 

「あとこれを渡しておきます」

 

 君はセレシアの手から一つのアイテムを受け取る。『お別れの翼』だ。

 

「これを使えばこの世界にいつでも帰って来れます。強制はしません。異世界に住み続けたいのなら、そのまま定住してもらってもかまいません。でも、帰ってきたくなったらいつでも使いなさい。私はどちらを選択しても、ナイン、あなたの選択を尊重します」

 

 優しい表情で言葉をかける、正に女神。

 君は深く礼をし、別れを告げる。

 

「──では行きなさい、ナイン。私はいつでもあなたを見守っていますよ……」

 

 そして君は明るい光に包まれた。

 

「あ、あと、あなたの他にも──」

 

 

     @@@

 

 

 青い空が見えた。

 これは夢である。君は感覚として理解した。

 

 夢の中で君は地面を背に落下していた。よくあることだ。君の人生の転機にはよく落下が伴っていた。それを考えれば落下は友達といえよう。

 

 空を見た。

 

 ──うん……?

 

 風を切って落ちる君は何かが小さく光ったような気がした。いや、それは勘違いではない。太陽の光を反射してキラッキラッと光る何かが君に高速で近づいてくる。

 

 ──もしや敵か!

 

 君は落下中にかかわらず背に携えた剣、『はやぶさの剣改』を構える。

 さあ来い、と君は段々と近づくものを注視する。

 

 ──人間……か?

 

 それはどう見ても人間であった。太陽の光を反射して輝いていたのは、その人間の見事に禿げ上がった頭だ。

 

 ──ん、いやというか……、

 

 よく見ると、それは君がよく知る人物だと知る。

 

 ──イザヤール師匠⁉︎

 

 そう彼こそが君の師匠たるイザヤール。何かと不運が続き死んでしまったが、女神セレシアの慈悲で人間に生まれ変わった、何かと可哀想な師匠である。

 何故ここに? と考えた君だが、そういえばここは夢の中だったと思い出す。すると流石に夢の中でとはいえ、師匠を切りつけるわけにもいかない。君は大人しく剣をしまい、受け止める体勢に変わる。

 

 イザヤールは段々と落ちてくる。こちらを見つめる目から気絶しているわけではないようだ。まあ、君の夢の中で出てくる師匠が気絶していては彼のメンツは丸つぶれだが。

 

 そしてようやく君の近くまで来たイザヤールを受け止めようと手を伸ばす。そしてそっと抱き止めようとしたところで、

 

 ──嘘⁉︎

 

 いきなりイザヤールは急停止し、君の手は空を切った。そして次の瞬間にはヤツは急加速をし、まるで体当たりでもするかのように君へと向かう。咄嗟に対応しようとするが君だが、いきなり身体が重くなり、思ったように動かない。

 

 そして、なんとあの野郎は腕を振りかぶり──

 

 

 

「────ザメハ(物理)ッ!」

 

 

 

 鉄槌が君の頭に落ちた。

 

 

 

 ハッと目を覚ました君は目の前が真っ暗であることに気づく。それに頭も嫌に重い。結論として何かが君の顔の上に乗っている。

 君がそれを押しのけようとする前に、それは自分から離れた。

 

「お目覚めになりましたか、ご主人様」

 

 聞いたことのある声だ。そしてすぐにその正体を君は理解した。

 羽がついた練金釜──カマエルだ。

 

 いや、しかしカマエルはリッカの宿屋に置いてあったはずだが。

 

「女神セレシア様からのご命令で、ご主人様について来ました!」

 

 なるほどと事情を理解する君は、でもリッカの宿屋は大丈夫なのかと尋ねる。

 

「大丈夫だと思われます。というよりも、わたくしを使われるのはご主人様だけですので」

 

 あんなに目立つ場所に置かれていたのに、自分以外の使用者がいないとは意外だと君は素直に思った。まあ、迷惑にならないのであれば、役立つといえば役立つので来てくれたことは嬉しいといえば嬉しい。

 

 君はカマエルを抱えて、すぐ近くに見える街の方を向く。女神の言葉が正しければ、ここは異世界であり、あの街は駆け出し冒険者の街《アクセル》のはずだ。

 

 君はクエスト『異世界救済』をクリアするために歩き出す。

 

 

 

 喜べ異世界、まもなく世界は救われる。




続く?

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