① ボーダー本部、司令官室にて
「 君があの大規模侵攻の時の? 」
その強面の人物が俺の事を観察しながらそう聞いたから
「 東三門でそちらの忍田さんと小南さんのお二人とと出会い、共闘しました 」
そう答える俺に
「 ボーダー志願で良いのかな? 」
その問い掛けには
「 国単位の敵に一人で立ち向かっても知れてますから… 」
そう答えると
「 それを私に信じろと? 」
今度の問い掛けには
「 別に… お互いに口先だけで信じる信じないを言い合いしてもしょうがないでしょう? こちらも今始めて会う貴方や未だ会っても居ない他の人を信じるとはさすがに言える訳ないんで御互い様でしょうから… 」
そう答えると
「 なら君が信じるのは一体何なのかね? 」
そう問われて
「 忍田さん、木崎さん、小南さんの三人が信じられるから… この先も信じ続けたいからでは理由になりませんか? 」
逆にそう聞き返すと
「 人間関係と言うモノは結局その積み重ねなんだろうな… わかった、君の身柄は君の直属の上司になる玉狛支部、支部長の林堂に預ける
なお、玉狛支部発足の際木崎、小南、迅の玉狛所属も正式に発表するからそのつもりでいるように
それまでは木崎、お前の預かりとするから任せるし忍田は色々な事務処理を任せる
沢村くんは忍田と共に書類の作成を手伝って上げなさい
小南… お前の隣の部屋が空いていたな? 雪柳の入居の準備をしてあげなさい 」
その城戸司令の言葉が終わるのを待っていた忍田さんは
「 木崎、後で六花を皆に紹介して上げるように… 俺はもう少し報告してから顔を出す 」
そう言われて案内された娯楽室
「 太刀川、冬島、 風間、 東、カピバラ ( 何でカピバラが? ) 、嵐山、柿崎、三輪、月見、沢村さんは司令官室で会ったな? 」
そう紹介されてキョロキョロする俺に
「 どうかしたの? 」
確か月見さんって言ったか?その人にそう聞かれた俺は
「 名前だけ聞いたことのある迅悠一って人が居ないんだなって… 」
そう俺が小さな身体を精一杯背伸びして探していると
「 やはり近界民贔屓の迅を探すのか… 近界民 」
そう言われてブチキレた俺は
「 三輪とか言ったな? 勝負しろっ! ……わかってるよ、木崎さん… 俺がソイツに敵いっこないって事位はね
でもね、あの化け物達相手に敵いっこないないからって言って逃げ出す位なら今ここには居ないし負けるとわかっていても退けない時って、あるでしょ? 」
そう言ったらバカにしたような顔したから
ー 疾風突きっ! ー
を、仕掛けてやったら顔を掠めたからキレた三輪のヤツに訓練室に放り込まれてトリガーを渡されて戦闘したんだけどメッタ斬りにされた
バカにされた上に手も足も出ずにやられた自分の弱さが悔しかった
負けるとわかっていた戦いでも負けたくない… その気持ちまで捨てている訳じゃないから悔しかった
戦いの前… 我を忘れる前の臆病な自分が情けなく、我を忘れてしまう愚かさが悲しかった
だから泣いた…
人として生きてきたすべてを否定されたのに、もしかしたら… って恐れている事をあぁもはっきりと言われたのにやり返せないでやられたのが悔しかった
散々泣いた後に俺に用意された個室に案内された俺、小南さんに促されるままに浴衣に着替え再び皆に挨拶にいった
歓迎会の焼き肉パーティーを仕切る嵐山さんがなんか生き生きとしているけど面倒じゃないのかな?
……… 赤ん坊?
どう見ても育児経験ありそうな人は居ない訳で泣き止まないその子を抱きながら狼狽えている月見さんに
「 オムツ、濡れてるんじゃないんですか? お腹も空いてそうだし… 」
俺にそう言われて、慌ててオムツを確かめる月見さんで隣室に連れていくのは良いけどその抱き方がぎこちないから俺も一緒についていったらオシッコだけじゃなかった
しかも、少し時間が経ってるみたいで端の方が乾き始めているから洗面器にお湯を張ってもらい要らないタオルを使って優しく拭き取りオムツを換装… なんちって
「 ミルクの支度出来てますか? 」
そう言って渡された哺乳瓶他一式でミルクをつくり飲ませていると
「 沢村さんや月見さんより手慣れてないか? 」
等と、余計な一言を言ったのは太刀川さんって人で二人から思い切り睨まれているよ、バカだな
赤ん坊がミルクを飲み終えると落ち着いたらしくて穏やかな寝息をたてて眠っている
「 落ち着いたみたいだからもう平気ですよ? 」
そう言って赤ん坊が眠っている部屋を暗くしてパーティー会場に戻ると
「 何か手慣れてるみたいだったけど? 」
そう呟くように小南さんが言うから
「 妹が居ましたから… 母ちゃんがパソコンで仕事してたから居眠りして起きない事がよくあったから俺がオムツ換えたりミルクを飲ませたりすることが少なくなかったんですよ
母ちゃん、あんまりおっぱいでないからって半々であげてたからな 」
そう説明すると
「 なるほど、そういう訳か… 」
そんな風に感心していたがこれが俺と林堂陽太郎との出会いだった
ボーダー本部に来て育児の真似事をするとはさすがの俺にも全くの予想外の展開たが…
まぁいい、あの手付きと皆の会話から考えると月見さんより俺の方がマシみたいだし夏休みでもあるから俺がみるのが適任だろう
こうして、俺のボーダー隊員としての? 生活が始まる訳だがやはり嵐山さんや東さん、太刀川さんに無人島の事を聞かれその話をしている最中に忍田さんと林堂支部長(仮) が顔を出し
「 ダンジョンの事なら志願を募り派遣することが決まったから行きたい者は志願してくれれば防衛任務とは別任務として行ってもらいこちらの防衛任務はこちらで調整する 」
そう発表すると今度は林堂さんが
「 雪柳君 「 六花、呼び捨てで良いです 」 六花が持ってきてくれたマジックアイテムを色々と調べさせてもらいトリオン量子を別角度から研究を始めている
そのお陰で少しずつ新たな一面が見えてきたから皆も楽しみにしていてくれ 」
そう話すと
「 林堂さん、陽太郎… どうやら六花になついたみたいですよ? 大人しくオムツを換えさせてミルクも飲んでましたから 」
軽い調子で言う太刀川さんに
「 いや、たまたまでしょ? 」
俺が焦ってそう口を挟むと
「 私達は未だに一度泣かれると泣き疲れるまで泣き止まないのに一目見てオムツとミルクってわかったし対処の仕方も私達が知らない事を知ってて対応してましたからね 」
そう言われちまって陽太郎のベビーシッター公式認定か? ってそれ、全く洒落になら無いんだけどな…
そう思っていたら
「 六花って自分の評価低すぎっ! 私達より大人の沢村さんや月見さんがもて余してる陽太郎をあやしたり出来る人はボーダー基地には居ないんだよ?
戦闘だって剣の修行してるからって魔法を封印してるからで、魔法を使えばもう少しは抵抗できたんじゃないの ?」
そう言われて溜め息を吐き
「 それこそ敗者の言い訳だよ… 」
そう言って三輪を見ながら
「 勝てないまでもいつか三輪に俺を認めさせて近界民呼ばわりした事を謝らせるってゆーひとつの目標が出来たから修行に張り合いが出ただけだよ 」
( そうだ、もう泣くだけ泣いたんだから後はあの悔しさをバネして強くなるしかねえだろ?
待ってろよ、三輪秀次…絶対に謝らせてやるからなっ! )
そう思って打倒三輪秀次を心に誓う俺だった
まぁそんな柄じゃ無いのは百も承知だけど負けっぱなしでいるのは嫌だからな
② 居場所
「 何なのかな? 六花ちゃんと知り合ってホンの僅かしか触れ合ってないはずなのに… 」
「 そうね、 この調子じゃ秋になって六花が学校に行くようになったら…… 」
そのあまり嬉しくない想像にげんなりする沢村さんと月見さんが溜め息を吐いて
( 本人に行く気がないのだから無理して行かせなくても… )
と、泣きわめく陽太郎に手を焼く二人の愚痴は幹部には決して言えないものではあるのだがな
えっ? そうゆーお前は今、何処に居るんだって?
俺は今、ボーダーと提携を結んでいる病院でモルモットと化している
魔法を使う俺の魔力とトリオン量子の違い、因果関係に興味津々な医者達に要請されての検査入院中だが実は俺も気になっていた
モシャスの変化って現代医学の精密検査を欺けるのだろうか?
ほら、マジックアイテム…ラーの鏡で変化を暴くのはもはやテンプレだろ?
それなら、例えばレントゲンやMRIってゆうのかなそういった検査を受けたら俺の姿は一体どう写るんだろうか?
TSモノだと遺伝子は男ままだったりするしな
モシャスって一体、どのレベルまで変化するんだろうか? って結構気になっていた
そしてその結果を今見せられてるんだが… どうやら今のところ、レントゲンもMRIも欺いているらしい
後、俺敵に気になるのはDNA鑑定のみでそれ以外は忍田さんが解説してくれるだろうからそれまでは気にしないことにした
聞いてもわからないだろうからわかる人に解説してもらえば良い
特にトリオンがどーたらこーたらとゆー話はまずトリオン量子自体理解と言うか全く知らない俺が説明されてもすぐにパンクするだろうしな
……… う~ん、なにか忘れている気がして仕方ないんだけどなんだろうか?
まぁ良いか? 忘れちまってるって事なら大した事じゃなんだろう…
そう思っていたんだがその頃ボーダー基地では女子三人が陽太郎の愚図りに根を上げて
「 三輪、六花がここ出てっちゃったら責任とってアンタが陽太郎の世話しなよっ! 」
「 そうよね、その時は三輪君に陽太郎の事をお願いしようかしら 」
「 それよりしばらく見てなさい、私達は朝から気が休まらないんですからね… 」
そう言って三輪に陽太郎の世話を押し付けて暫しの休息をったんだそうだ
翌日の夕方本部基地に帰るとゲッソリとやつれた四人と笑顔の陽太郎が出迎えてくれて
「 陽太郎、か… 弟がいる暮らしっていうのも悪くないのかな? あははははっ、そしたら林堂さんがお父さんになるのか?」
そう言って苦笑いしたら四人はただ、虚ろに笑うだけだった