銀魂 赤獅子篇   作:to.to...

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第五訓 漫画の世界では斬撃が普通に飛ぶから気を付けろ

「おいおい、やたら騒がしいな」

 

 

 真選組屯所の一室にて。

 珍しくもここに訪れていた銀時は、机越しに沖田へ話し掛ける。

 

 

「昨日のあの後起きた事件で、皆浮き足立ってんでさァ」

 

 

 ()()()というのは、桂を追って沖田達三人が炎亭を飛び出していった時の事を指す。

 つまり、銀時が手錠を掛けられたりしてから一日が経過していた。

 今日銀時が屯所に足を運んだ目的は、その手錠を外してもらう為である。

 

 

「……はい、取れやした」

 

「ったく。事件(それ)が無けりゃ、こんな所に二度も来なくて済んだのによ」

 

 

 実は昨日の夕暮れにも、銀時は一度訪れていた。

 しかし屯所内はかつてない程騒々しく、対応が追い付かなかったのだった。

 

 

「コイツの所為で着替えすらもままならなねェ。ケツもろくに拭けなかったんだけど」

 

「旦那、何か臭うんで近寄んねーでくれます?」

 

「誰の仕業だと……!」

 

「大成さんでさァ」

 

「ああ、そっか」

 

 

 それにしても外は騒然としている。

 今も廊下を、数人の隊士が右往左往と駆けて行った。

 銀時は先程からその喧騒に、気を取られてばかりだった。

 

 

「税金泥棒がこんなにも働き者だとァ知らなかったな。昨日の件ってのは一体何だ?」

 

「旦那は『警察狩り』って知ってやすか?」

 

 

 嫌味は無視して、逆に沖田は問い返した。

 

 

「いや、聞かねェ」

 

「まァそうでしょーね。とっつぁんと見廻組が規制してやすから」

 

 

 そんな情報を話してもいいのかと、内心呟く。

 だが銀時の思いとは裏腹に、沖田は事件の詳細を語り出した。

 

 

「二十件にも及ぶ警察関係者だけを狙った辻斬り。桂の側索中、その凶行にウチの隊士が殺られたんでさァ」

 

「それが昨日の」

 

「えぇ。目を見張るほど鮮やかに、首を一刀両断。重要参考人として、当時その隊士の側にいた男を捕らえやした」

 

 

 沖田が何故この件を打ち明けるのか、銀時は察した気がした。

 

 

「なぁ、その男ってのはもしかして……」

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「どういう事アルか!?」

 

 

 赤獅子についてもう一度尋ねる為、炎亭に赴いていた神楽と新八。

 しかし店は()()()によって封鎖され、検分の手が回っていた。

 

 

「日原さんはつい昨日、僕達と談笑してたんですよ!?たった一日で一体何が……」

 

「童共に用は無い。失せろ」

 

 

 訴え掛ける新八だが、仏頂面の隊士は軽くあしらう。

 その姿勢は硬く、話し合いの余地は無いと感じられた。

 

 

「こうなったら……真選組の所に行こう。銀さんもいるはずだし、土方さん達なら事情を知ってるかも」

 

 

 不本意そうな表情を浮かべる神楽だが、異存は無いようであった。

 そうして二人は炎亭に背を向ける。

 そこに何を思ってか、先程の見廻組隊士は声を掛けてきた。

 

 

「……待て。そういえば小僧、今この店の亭主と談笑したと言ったな」

 

 

 軽率な発言だった、と新八は後悔する。

 

 

「やはり用ができた。お前達、少し同行してもら」

 

「その必要はない」

 

 

 更に、割り込むように放たれた声が一つ。

 隊士も含め三人は、店内から現れた今井信女に視線を向けた。

 

 

「信女!」

 

「副長……!いいのですか?」

 

「今の私達にその情報はいらない。立ち去りなさい」

 

 

 そう、冷淡に告げる。

 訝しげな眼差しを向けながらも、新八と神楽はその言葉を飲み、真選組屯所への道程についた。

 

 

「……」

 

 

 その背中を見送ると、再び信女は店内に戻る。

 そこに検分を行っていた隊士の一人が、何かの包みを抱えて寄ってきた。

 

 

「今井副長、戸棚よりこんな物が」

 

「これは?」

 

 

 黒地の布に、独特な模様の刺繍が施されている。

 隊士はそれを広げると、中からは古めかしい包丁が顔を出した。

 しかし、大切に包装されている割には錆が目立つ。

 それにこの腐食の仕方は――――

 

 

「……血」

 

 

 信女にはすぐ見切れた。

 これは人血により生じた錆であると。

 

 

「どう致しますか?」

 

 

 ――――これも、今は不必要。

 そう割り切って隊士に命じた。

 

 

「戻しておいて」

 

「物的証拠の一つとして回収しなくても……」

 

「構わない」

 

 

 既に信女の関心は移っているようで、何かを探るように店内に目を配っていた。

 

 

「他にはないの?」

 

「いえ、特にこれといった物は……。ごく普通の定食屋です」

 

「そう」

 

 

 無感情に短く吐く。

 そして詳しい検分の報告を聴くでもなくして――――

 

 

「副長?」

 

 

 信女も、炎亭を後にした。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「俺達が本気で、大成さんが警察狩りだと疑ってるとでも?」

 

「はぁ!?」

 

 

 唐突に述べた沖田に、銀時は眉をしかめた。

 なら何故大成を捕らえたと問い返す。

 

 

「保護の為でさァ」

 

「保護?」

 

「大成さんは警察狩りに仕立て上げられた可能性。それを考慮してるんです」

 

 

 なるほど、無能警察もそれほど単純ではなかったか。

 内心銀時は毒づいていると、次は沖田が質問を投げ掛けてきた。

 

 

「旦那、飛ぶ斬撃を見たことありやすか?」

 

「おい、何時から『警察狩り』から『海賊狩り』の話に変わったんだ」

 

「懸賞金3億2千万の中井和哉の事じゃなくて」

 

 

 三刀流マリモの話は置いといて、沖田は続ける。

 

 

「俺達も馬鹿じゃねェ。大成が下手人ではない証拠なんて、いくらでも挙げられまさァ。故に今回の犯行は、飛ぶ斬撃(これ)が使われたと考えられる」

 

 

 次に、そう考察する理由を述べた。

 

 

「現場近くの民家の塀に、一直線の刀傷を見つけやした。この傷跡は殺られた隊士の身長と、首の断面の角度を計算した際、その延長線上に位置する」

 

「まさか、真犯人は一刀流三十六煩悩鳳の使い手だとでも!?」

 

「もうそれ完全に■■ノア・ゾ■じゃないですかい」

 

「お前のそれも伏字になってねーぞ」

 

 

 もはや会話はあらぬ方へ向かっている。

 それを沖田は強引に修正した。

 

 

「だが、それに似た芸当を成せる奴を、俺ァ一人知っている」

 

 

あの暗殺剣、あの剣技は身体によく染み付いている。

 廃ビルで剣を交えた時の光景を脳裏に浮かべながら、その名を告げた。

 

「見廻組副長、今井信女」

 

「アイツか」

 

 

 確かに、彼女なら可能かもしれない。

 過去に共闘した経験のある銀時は、そう納得した。

 

 

「……てこたァ、お前等は見廻組が一枚噛んでると?」

 

「噛んでるも何も、一連の事件に見廻組が何らかの形で関与している事は明白」

 

「何故」

 

「警察狩りの捜査は見廻組が独占してんでさァ」

 

 

 銀時は昨日の土方と大成の会話を思い起こしていた。

 それが土方の苛立ちの要因だったのかと。

 

 

「その為、|俺達が警察狩りの現場に立ち入れたのは、今回も含めてたった数回しかない。事件が起きれば見廻組が手早く押さえやがるし、見廻組より早く駆けつけてもすぐに追い出されちまう」

 

 

 銀時の中で色々と合点がいった。

 

 

「そりゃ確かに、何か思惑がありそうだな」

 

「だから真選組(おれたち)は反抗に出ることにした」

 

 

 気付けば普段通りの悪戯気な面様が、沖田の顔に張り付いていた。

 

 

「見廻組には大成さんの身柄を捕らえるという目的があった。その大義名分で警察狩りの罪を擦り付けようって腹なら、先に大成さんを匿って妨害するまででさァ」

 

 

 僅かに身を乗り出し、楽しげに語る。

警察組織の愚かな内ゲバがそこにはあった。

 本当に大丈夫かと銀時は頬を引きつらせる。

 

 

「なァに、先に本物の下手人を挙げりゃいい話ですよ。だが――――」

 

 

 そう言い淀んで、沖田は一呼吸置いた。

 

 

「大成さんを狙った意図には、俺達の考え及ばない何か……深い理由がある。いまだ、本物の警察狩りの意図すら掴めていませんしねェ」

 

 

 多少の自嘲を込めて笑う。

 だがその表情を見るに、沖田は何かしらの予感を感じ取っているようであった。

 

 

「冗談めかして話してきやしたが、本当に今の大成さんは、放っておいてはいけない気がするんで。あの人の過去も相まって……」

 

「過去?」

 

 

 ここで銀時が予てより引っ掛かっていた事が、沖田の口から漏れた。

 

 

「そういや旦那達は、『赤獅子』について調べてたらしいですねィ」

 

「いや、それは……」

 

「誰の依頼かは詮索しないでおきやすよ。へへへ」

 

 

 弱味を握られた感じがして、あまり快くは受け取れられない。

 銀時の背に嫌な汗が滲み、不快感を加速させた。

 

 

「本当は本人から話すのが筋ってもんだが……まァ、旦那になら言っても構わんでしょう」

 

「大成の過去についてか?」

 

「ええ、俺の知ってる限りですが」

 

 

 そう予防線を張る沖田だが、大成の一歩踏み込んだ何かを知り得ているようだった。

 

 

「話しやしょう。大成さんと、赤獅子について」

 

 

 手始めにこれは知っていただきてェ、と沖田は語り出した。

 無意識の内か、その面持ちは真剣なものへと変容していたため、銀時も自然と気を引き締める。

 

 

「大成さんは、攘夷戦争の戦災孤児でさァ」

 

「……ッ」

 

 

 たった一言の言葉が、胸に刺さった。

 

 

「幼くして村も、友も、何もかも天人に焼き払われた。仕方無しに戦地へ放り出され、屍を漁ってでも生にしがみ付いた」

 

 

 その様が手に取るように容易く思い描ける。

 

 

「生きるために……生き残るために強くならざるを得なかった。そんな人です」

 

 

 血濡れた鏡を突き付けられたような感覚が、銀時を襲った。

 




第五訓……八割くらいまで書いた段階で、文章が全て文字化けしてしまい、書き直すのに時間が掛かりました(血涙)

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