それは此処ではない何処か   作:おるす

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ノルマの一日一万票を終えたので投稿できましたよやったー。


七日目「装備品購入:アイテムを買ってみよう」

「ふう、買い物終わったー!」

「終わりましたねー。ってあれ、もう終わりなんです……?」

 武器屋を後にし近場のベンチに腰掛ける俺達。洋服店、武器屋と立て続けに濃い買い物をしたせいか、一仕事終えた感がすごい。

「何だかんだで総額十二万ゴールド以上の買い物したからな。これ以上の出費はちょっと……」

「確かに、サフランさんに出会ってなかったら、あの武器買えてませんでしたもんね」

「まあそれ以前に、お前があの店に案内しなければもっと節約できたはずなんだがな……」

「むぅ。でも一番良い店に連れて行ってくれ、って言ったのはイルさんじゃないですか」

「まあ、そうなんだが。あそこまで高級な店だとは思わなくて……」

 エニシダと取り留めのない話をしながらぼんやりと疲れを癒す。たらればの話はあんまり好きじゃないが、こういう風に今までの行動に問題が無いかを見つめる時間は大事だと思う。

「でも結果的にこんな良い服が手に入ったし、気に入った武器も買う事が出来た。お前のおかげだな」

「いえいえ、私は案内しただけですし……あと弄られただけですし…………」

 洋服店での出来事を思い出したのか、少しだけテンションが下がるエニシダ。

 ……いつまでも引きずられても面倒だし、ちょっとフォローしておこう。

「ほら、凹むなよ。……そうだ。何か食べたいものないか? お兄さんが奢ってあげよう」

「え、わ、悪いです。私まだお腹空いてないですし。あとイルさんはお兄さんって柄じゃ――」

 そう言った途端にエニシダのお腹がぎゅるると鳴る。

「うぅ、あうぅ……」

「……無駄に謙遜しなくていいから。取り敢えず何か買ってくるわ」

 返答を待たずにその場を離れ、近くに店が無いか探す。……お、発見。パン屋があった。おばちゃんが一人で店番をしてるみたいだ。

 ここは腕の見せ所だな。意識して子供っぽい声を作りおばちゃんへと話しかける。こう、なるべく愛らしく、可愛い感じで。

「すみませーん。お昼のおススメを二つー」

「あら、お買いものかしら。おススメを二つね」

「それなりにお腹に溜まるものがいいですー。友達がお腹を空かせているので」

「あらあらまあまあ。それじゃあバタールサンドとかどうかしら」

 そう言うとおばちゃんは奥へ引っ込み、二つに折ったフランスパンに、ハム、チーズ、レタスと言った具材をこれでもかと詰め込んだサンドイッチを出してくれた。めっちゃ美味しそう。

「おおー」

 素朴な反応で子供っぽい無邪気さをアピール。おばちゃんもにこにこ嬉しそうだ。

「お代は四百ゴールドね。二つだから八百ゴールドよ」

「はーい」

 銅貨を八つ渡して紙袋に入ったサンドイッチを受け取る。

「あ、そうそう。これもおまけであげるわ。自家製のレモネードなんだけど。パンだけじゃ喉がつっかえるでしょ?」

「え、いいんですか?」

「子供は遠慮するもんじゃないわよ? ああ、飲み終わったら容器は返してね」

 そう言うと、グラスを二つ乗せたトレーも手渡してくれる。紙袋とトレーで両手が塞がったが、何とか持てそうだ。

「おばちゃ――お姉さん、ありがとう!」

「あらあら、お嬢ちゃんったら上手いんだから……」

 お礼を言いエニシダの元へと戻る。にしてもお嬢ちゃん、お嬢ちゃんときたかー……男子らしく振る舞ったつもりなんだが、難しいものだ。

「あ、おかえりなさ――って、なんでそんなに大物なんですか!?」

「ふっ、我ながら完璧な立ち回りだった……」

 想像以上の成果だったのだろう、俺を見て目を丸くするエニシダ。それそれ、その反応が見たかったんだよ。お嬢ちゃんとか言われたこともどうでも良くなるね。

「ほら、腹が減ってるんだろ。とっとと食うぞ」

「あ、えっと、お金は」

「いいから、早く食え」

「あうう」

 二人してしばしサンドイッチに舌鼓を打つ。どうも焼きたてのパンだったらしく、外はカリカリ、中はふんわりと仕上がっていて非常に美味しい。ハムやチーズの塩気も相まってもりもり食が進む。おまけで付けてくれたレモネードもパンで乾いた口内を程よく潤してくれた。あっという間に完食。

「ふう、ご馳走様でした」

「あむあむ。イルさん食べるの早いです……」

 エニシダはまだ時間がかかりそうだな。手持無沙汰なので何となく食べる姿を見てみる。

「……じー」

「あぐあぐ」

「じー」

「……あの、見られてると食べづらいんですが……」

「ああ、お構いなく。ただの暇潰しだから」

「暇潰しなら私なんかじゃなくて周りを見ればいいじゃないですかっ」

「もぐもぐしてるエニシダが面白くてな……」

「何で!? ただ食べてるだけですが!?」

「うーむ、見てると何となくほんわかするというか、なんというか……はっ、これが親心って奴なのか……? 年頃の子を持った親の心境……!?」

「もう、何でもいいから話しかけないで下さい! ちゃちゃっと食べちゃいますので!」

「ちぇー」

 見過ぎたせいか急いで食べられてしまった。もうちょっと見たかったなー。

「それじゃ、容器返してきますね」

 エニシダはそう言うとパン屋へ向かって行く。おばちゃんと二言三言話してすぐに戻ってきた。

「えっと、どういう会話してきたんですか……? イルさんの事、よく出来たお嬢ちゃんって褒めてたんですけど」

「……企業秘密だ」

「あと私の事も綺麗なお姉さんって褒めてくれましたよ。お姉さんって」

「良かったな、若奥様――ごがががが!」

 

 

 仕切り直して。

「さて、これからどうするべー」

「ベーってなんですか、べーって」

 近場の時計で時間を確認してみる。時刻は午後二時を回ったところか。日没までは結構時間があるなぁ。

「取り敢えずこの街の事まだ全然分かってないし、その辺ぶらぶらするか」

「そうですね、ぶらぶらしましょうかー」

 当てもなく移動を始めようとする俺達。と、そこへ――

「え、あれ……? エニシダ……? もしかしてエニシダ……?」

「ん、なんでしょう。聞き覚えのある声が……?」

「ああ、やっぱりエニシダだー! うわーい!」

「って、その声はブルーエルフィンちゃ――ひぐぅ!?」

 声のした方へ振り向いたエニシダに突如として何者かが突っ込んできた。良い感じに頭突きがみぞおちに入ったようである。ナイスなチャージだ。

「遠路はるばるブロッサムヒルに来たし、折角だからってエニシダのおうちに行ってみたんだけど、留守だったから何処行ったんだろうってすっごい探したんだよー!? 朝からずっと探してて、もう疲れたからって何となくここに来てみたらやっと見つけたし! というか、何でいつもの服じゃないの!? そんなお洒落な服を着て今まで何してたの!? はっ、もしや良い人でもできた……!? そこんとこどうなのさエニシダー!?」

「……! ……!!」

 何者かは尚も頭をぐりぐりとエニシダのお腹に押しつけながら一方的に話し続ける。金髪を三つ編み二つで纏めた、ファンシーな装いの少女だ。背中には何故か羽根が生えている。こういう人種もいるのか。

 ……それにしても何かエニシダの顔が青くなってきてるし。そろそろ止めないと不味そうだ。

 仕方がないので少女の肩を掴み、両者を引きはがす。

「誰かは知らんがもうやめてやれ。こいつリバースしちゃうぞ」

「あ、えっと、ごめんなさい……?」

 少女は突然俺に掴まれたことに驚いたのか、先程の勢いから一転、借りてきた猫のように大人しくなってしまった。開放されたエニシダもむせてはいるが何とか無事なようだ。

「げほっ、ごほっ……お久しぶりです、と言っても一昨日以来でしょうか」

「なに、この子はやっぱり知り合いなの?」

「ええ、ブルーエルフィンちゃんって言って同じ魔女仲間なんですよ」

「ふーん? 魔女なのか」

 手を離してしげしげと眺めてみる。あ、よく見たらこの羽根作り物なんだな。何でこんなの背負ってるんだろう。……罰ゲームかな?

「あ、あんまりじろじろ見ないでくれない?」

「ああごめん、つい」

「で、エニシダ。この子はだあれ?」

「えっと、この人はイルさんと言いまして、色々と複雑な事情があって今街の案内をしてるんです」

「ふうーん?」

 今度はこちらがじろじろと見られる。見るなと言った本人が見てくるのは中々理不尽だ。

 ……まあ子供だししょうがないな。だが俺はこの程度で怒るほど狭量ではないのだ。

「なんていうか、良い服着てるし、髪長いけど、ええと、男の子……だよね……?」

「……うむ、男だが」

 男の子と言われて若干ムッとしたが、子供相手に苛立つのも大人げないので華麗にスルー。

「そんな子が滅多に私服なんか着ないエニシダと一緒……これはやっぱり……」

「いやいや、ブルーエルフィンちゃん。私服は割と着てるよ? 会合で会う時にはいつもの服で通してるだけで……」

 エニシダの訂正もブルーエルフィンには届いていないようだ。にしてもブルーエルフィンって名前はちょっと長い。三文字位に省略した方が良いと思うんだが。

「やっぱり、エニシダの彼氏……!? 年下が好みだったなんて……!」

「ぶふぉ!?」

 想像の斜め上の言葉が出てきて思わず吹き出してしまう。今こいつとんでもない事を口走りやがった。

「あう、あ、ち、違いますよ!? イルさんとはそういう関係じゃ……」

「何が違うのさ!? こんな真昼間から男女二人で歩き回ってるのは大抵恋人同士でしょ!」

「こ、ここ、恋人……」

 恋人というワードに反応したのか赤面して固まるエニシダ。おい、そういう反応すると誤解が更に深まるぞ。

「ああ、やっぱり赤くなったって事は付き合ってるんだね! 付き合い始めの初心な感じなんだね!?」

「ち、違いますよ! まだ付き合ってませんからね!?」

「まだ!? まだって事はそのうち……!? やっぱりそうなんだ!」

「あ、うあ、そういう意味じゃ……」

 案の定というか、これ以上ない程に燃え上がるブルーエルフィン。それとは対称的に段々と狼狽えていくエニシダ。お前ほんと説得下手だな……

 それにしてもこの辺で止めておかないと。変な噂になるのも嫌だし。

 またしても少女の肩をがっしと掴み、正面から顔を見据える。

「おい、ちょっと黙れブエル」

「な、ブエ――!?」

「ブルーエルフィン、略してブエルだ。まあそれは今はどうでもいい。俺とエニシダは全然そういう関係ではないし、今後そうなる予定もない。分かったか」

「え、でも」

「付き合っていない、いいね?」

「あっはい」

 俺の有無を言わさない説得で大人しくなるブエル。よしよし、いい子だ。

「あぅ、予定もないと明言されてしまいました……」

 ……エニシダが若干不穏なことを口走っているが無視だ無視。落ち着いたので話を仕切り直そう。

「んで、ブエルは何でエニシダの事探してたんだ?」

「えっと、その、ちょっと用事でブロッサムヒルに来たから、折角だし終わらせたらエニシダと一緒に色んな所、行きたかったなって……」

「ふむふむ、なるほど?」

「ウィンターローズからここまで来るのに結構かかっちゃったし、今日を逃したらもう帰らないといけなくて。だから、さっきエニシダを偶然見かけてすっごい嬉しくなっちゃって、その、ごめんなさい……」

「……」

「ブルーエルフィンちゃん……」

 たどたどしく俺達に説明してくれるブエル。なるほど、それならしょうがない。まったくもってしょうがないな……

「……エニシダ。俺の事はもういいから、ブエルと遊んでいってやれ」

「え、イルさん……? いいんですか?」

「ああ、どうせこの後は特に予定もないからな。ぶらぶらするのは一人でもできるし。それに、友達は大切にしてやるもんだ」

 ……友達のいない奴の言うセリフではないが、まあここはカッコつけておこう。

「え、いいの? エニシダと遊んでいいの?」

「ああ、もちろんだ。むしろ今まで借りていて申し訳なかった」

「わぁぁ……!」

 そんな俺の言葉で途端に笑顔になっていくブエル。根は素直な良い子なのだろう。微笑ましい限りだ。

「ありがとう、イルさん!」

「うむ、ちゃんと遊び尽くすんだぞ。ブエルは子供なんだから色々経験しておくことだ」

「言い忘れてたけど、そのブエルって略すのやめて!?」

「……ブエルって名前、カッコいいと思うけどなぁ。由緒正しい悪魔の名前だし、魔女にはぴったりだぞ?」

「悪魔の名前だったの!? というか、変なあだ名付けないでって言ってるの! そんなので喜ぶなんて、本当に子供なんだから!」

「……今度子供って言ったら、その羽根縫い合わせて二度と開かないようにしてやるから。覚悟しておけ……?」

「ひぃ!?」

「ちょっと、イルさん大人げないですよ!? 影も動かさないで下さい!」

 いけないいけない。ついカッとなって隠していた本音が出てしまった。いや、影だって勝手に動いただけだし。もー、制御のきかない能力なんだからーまったくー。

「まあ、その、なんだ。……エニシダ、後は任せた。また明日な」

「あ、はい。任されました。また明日会いましょう」

「何あの子……一瞬だけすごい殺気がしたんだけど……影も何か蠢いてたし……?」

「さ、さあ、ブルーエルフィンちゃん、気を取り直して遊びにいきましょう! イルさんはちょっと体調が悪いみたいなので!」

「あ、うん、そうだね……?」

 仲良く手を繋いで街へと繰り出していく二人。若干強引だったが、特に不審がられてはいないようだ。ナイスフォローエニシダ。

 見えなくなるまでしっかりと見届けた後俺も行動を開始する。

「さて、気を取り直してぶらぶらしますかねー」

 

 

 ブロッサムヒルの街並みを、ぶらり。

 中央通りに戻ってきた俺は取り敢えず南に行ってみる事にした。なんで南なのかは本当に気まぐれだ。特に意味は無い。露店や店先を覗きながら人混みに紛れふらふらと歩く。

「ふーむ……」

 時折世界花と太陽の位置から方角を確認しつつ歩いているおかげで、道に迷う心配などはないのだが、地図を持っていないので何処に何があるのかがさっぱり分からない。まあ、こういうのもいいだろう。特に目的がある訳でもないし。

「おお?」

 そうこうしているうちに何やら城壁に面したでっかい門に到着。門の向こう側では馬車などが止められており、大勢の人――守衛さんかな――が積み荷や書類のチェックのためだろうか、慌ただしく働いていた。恐らくは審査や検疫の類だろう。お勤めご苦労様です。けど重要な仕事なので頑張ってください。

「街の外には出ない方が良いか……」

 街道へ出て見聞を広めるのも悪くはないとは思うが、流石に買い物袋をぶら下げて出る気にはなれない。踵を返し、再び街を歩き出す。

「……」

 中央通りをそのまま取って返していく。行きには見落としていた店なども結構あるので自然と見回しながら歩いているが、中々にこれが面白い。

 と、見落としていたであろうある一店の露店に目が留まる。一見すると小物を売っているようだが……ちょっと近づいて見てみるか。

「へい、らっしゃーせー」

「らっしゃーせーって……」

 露店へと近づいた俺に呼び込みのお姉さんはコンビニエンスな声を掛けてくる。フードを目深に被っていて怪しいことこの上ない外見だ。どことなくやる気が感じられないのは気のせいだろう。

 ……にしても、何処でも呼び込みの声はこういう風に最適化されていくんだろうか。

「なんか色々あるな……?」

 露店の売り物を見渡してみる。

 敷物の上にある品々は大抵がデフォルメされた動物や建物、人形といったもので、それが所狭しとスペースの上で並べられている。例えるなら、フリーマーケットの中古品販売といった雰囲気だ。

 ……遠目では分からなかったが、この店は小物店なんかじゃないな。言うなればキャラグッズだ。キャラグッズが売っているのである。大事な事だから二回言いました、はい。

 取り敢えず、まずは露店のど真ん中で強烈に自己主張をしているこいつについて聞いてみよう。

「なあ、何で埴輪があるんだ?」

 そう埴輪である。土偶でもなく火焔土器でもなく、埴輪が鎮座している。なんだこれ。

「ああ、それは花騎士にハゼっていうめんこいのがいるんすけど、その子が持ってるのをパクっ……参考にぬいぐるみとして作ってみたんっすよー」

 俺の疑問にあっけらかんと答えてくれるお姉さん。本当だ、よく見たらこれぬいぐるみだ……というか、パクったって言いかけたけどこの店大丈夫か。著作権とか肖像権とか、色々と。

「大丈夫っすよー。ばれてもちょっぴり怒られるだけっすから。というかその前に逃げますしー」

 そんな俺の訝しげな視線を感じ取ったのか、フランクに釈明を始めるお姉さん。悪気はバッチリあるようだ。何というか商魂たくましいな……

「……通報した方がいいのかな?」

「ああ! 今のは冗談、ちょっとした冗談っすよー! 通報はやめてよねお兄さん。あっはっは!」

「……」

 ……ちゃんと俺の性別を看破しているあたり観察眼だけは確かなようだ。その腕に免じて通報はやめておいてあげよう。

 埴輪の事はそれなりに分かったので他の品も見てみる。

 緑色のゆるキャラめいた兎。真ん丸でそのままボールにも使えそうな、もっふもふのよく分からないもの。どう見てもキウイフルーツにしか見えない物に何故かくちばしと脚が生えた何か。スズメを極端にデフォルメして、更に巨大化させたぬいぐるみ。

 あと何故かアルマジロ。あれ、何でこいつだけまともなんだ……?

「……なあ、この店の買っていく奴いるの?」

「いやぁ、さっぱりっすね! 品に縁のある方には好評なんですが、それ以外はお兄さんみたいな反応しかしないっす! あっはっは!」

「あっはっはって……」

 売る気があるんだか無いんだか……売っている人といい品といい、謎が多過ぎる……

 少しだけげんなりしつつも他の品も物色していく。

 ……すると、敷物の奥の方に予想外の物を見つけてしまった。

「こ、これは……」

 それは楕円形の球体、大きさは両手で抱えるくらい。申し訳程度に付けられた耳と四肢に、目、口、鼻、眉毛といった顔を構成するパーツがあざといくらいに可愛く付けられている。

 これは……どう見ても……

「ああ、それはビワパラさんっすね。可愛いでしょー?」

「いやこれ、カピ○ラさんでしょ?」

「違うっすよー。ビワパラさんっすよー」

「どう見たってカ○バラさんなんだが……」

「違うっすよー。ビワパラさんっすよー」

「…………」

「違うっすよー。ビワパラさんっすよー」

「何も言ってないだろうが!?」

 ……同じ返ししかしてくれなくなってしまった。しかしそうか、ビワパラさんか。なら仕方ないな、うん。

 何となく手に取ってみる。

「おおぅ、結構肌触りが良い……」

 すごい、モフモフだ。モッフモフである。それ以外言葉が見つからない。ハイモフリティ。あと、カ○バラさん特有のこの憎めない顔つきが実にチャーミングだ。

「はぁぁ……」

 見つめていたら思わず深々とした溜息が出てしまった。何て愛らしいんだろうか。こっちに来て初めて癒された気がする。エニシダにもそれなりの癒し力があったが、これには勝てないだろう。

 そんな俺を見て、お姉さんがニヤニヤ笑いながら話しかけてくる。

「お兄さん、ひょっとして可愛いもの好きー?」

「いや、これは別格というか、何というか……」

「……ギャップ萌え狙い?」

「うるさいよ!」

 いらんことを言う人だ。まあそれはそれとして。

「……これ、おいくらです?」

「五千ゴールドっすー」

「うわ、たっか……」

 想像以上の値段だった。だがこのモフリティ、見逃すには惜しい。露店って事はいついるか分からないし、何より運良く次に見かけても売り切れてたら多分、いや絶対絶望する。

「これ一つ、いや、二つ下さい」

「はいよー。色はどうするっすか? 茶色と白があるけど?」

「……両方一つずつで。あ、茶色い方は送ってもらいたいんですけど、できますか?」

「あいあい、出来るっすよー。送り先はー?」

「お城のナズナって人に送りたいんですが。あと、紙とかペンありますか。手紙も添えたいので」

「ほいほい、お城宛で紙とペンねー」

 さきの武器屋と同じ要領で手紙を書く。……書けた。お金と一緒にお姉さんへ渡す。

「ではよろしく頼みます」

「ほほい、毎度ありっすー。また来てねー。次もここに居るか分からないっすけど! あっはっは!」

 ひらひらと手を振るお姉さんの言葉を背に、店を後にする。手にはカピ……ビワパラさんの入った紙袋がある。

「ふふっ……」

 ちらちらと紙袋の中から覗く顔を見ると、自然と頬が緩んでしまう。ああもう可愛いな、ちくしょうめ。

「あらあら、あの黒い子。ニコニコして嬉しそうねぇ」

「よっぽど欲しかったものでもあったのかねぇ。ほほほ」

「……!」

 ……どうやら今のたるみ切った顔が誰かに見られていたようだ。声のした方を見ると井戸端会議に興じているおば様達がいた。どうやら話題のダシにされてしまったらしい。これ以上何か言われるのは嫌なので足早にその場を離れる。今後はなるべく人前で紙袋の中を見ないようにしないとなー……

 




初っ端から癒しグッズに大金を出すあたり彼の金銭感覚は歪みまくってますね。
良い子は真似してはいけません。


……話は変わりますが、風の噂だと三月末に設定資料集が出るようで。
あんな所やこんな所の設定が分かるとなるともう……しゅごい……
しゅごい書き直す所が出てきそう……


だがそれがいい。

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