Alternative Frontier    作:狼中年

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13 トランスポート《転移》

 クラウ

『シース1からセイバー小隊全機。 至急、デフォールド地点に急行してください。』

 

 通信機から混乱の入り交じった声が聞こえてくる。

 確かに、今の状況でデフォールドアラートが鳴れば混乱するだろう。

 事実、エクス達も混乱から抜け出せずにいる。

 

 クラウ

 『セイバー1、聞こえていますか?  聞こえているなら復唱を。』

 

 エクス

 「あ、あぁ。 こ、こちら、セイバー1。 了解した。」

 

 エクスらしからぬ、歯切れの悪い返事だ。

 其ほどに混乱しているのだろう。

 なにも、デフォールドアラートだけで、混乱しているのではない。

 勿論、それもあるが、レーダーが捉えた反応が理解出来ていないのだ。

 

 クラウ

 『接近後、可能であれば回収、その後、帰還してください。』

 

◆◆◆◆◆

 

 ???

 「……ここは?」

 

 「気が付かれましたか、少佐。」

 

 ???

 「何処だ、ここは?」

 

 「マクェクスの医療室です。」

 

 ???

 「マクェクス? マクロスの間違いじゃないのか?」

 

 男が医療スタッフに聞き返すなか、ドアが開き壮年の男性が入室してくる。

 

 ヴァーパル

 「おぉ、気が付いたか。 気分はどうかな? "ロイ・フォッカー"少佐。」

 

◆◆◆◆◆

 

 所変わって、ここは工作室。

 中では、一人の年若い男性が、自身の身体からパーツらしきものを取り外し、真新しい、パーツらしきものを組み込んでいく。

 明らかに、普通の人間ではない。

 そう、彼はサイバーグラント、分かりやすく言えば、サイボーグだ。

 

 クラウ

 「調子はどうですか、少佐?」

 

 ???

 「稼働率92%。 90%以上は正常だ。 パーツの提供に感謝する。」

 

 クラウ

 「いえ、礼には及びません。 同じ世界の同胞ですから。」

 

 ???

 「同じ世界? 妙な言い回しをする。 だが、俺は全てを思いだし、女王バジュラと融合したバトル・フロンティアに突撃して奴等と共に死んだ筈だ? そうだ! ランカは!?」

 

 クラウ

 「これから、それを説明します。 "ブレラ・スターン"特務少佐。」

 

◆◆◆◆◆

 

 そして、ハンガーでは。

 

 「まさか、試作段階の最新鋭機を拝めるとはな。」

 

 エクス

 「あぁ、俺も最初は自分の目を疑ったよ。 この世界では絶対見ることがないと思ったからなぁ……」

 

 エクスと整備班長の前には、赤と白のツートンカラーで前進翼と4発のエンジンが特徴的な機体が鎮座している。

 所々が破損し、コクピットブロックは大破しているが原型は留めている。

 

 エクス

 「班長。 こいつ、直せるかな?」

 

 「多分な。 VF-25のパーツに互換性があるはずだからいけると思うぞ。」

 

 エクス

 「なら、頼む。 こいつが使えれば、切り札になりうるからな!」

 

 「わかった。 何とかしてみよう。」

 

◆◆◆◆◆

 

 数時間後、ヴァーパルを初めとしたマクェクス主要クルーと先程収容されたフォッカーかブレラの両名はブリーフィングルームに集合していた。

 フォッカーとブレラの二人に今までの経緯と、この世界の情勢を説明する為だ。

 

 フォッカー

 「すると、なにか。 俺は死んだと思ったらいつのまにか、別の世界に跳んだって事か? バーロー!! んな事が有る訳ねぇだろうが。」 

 

 ブレラ

 「俺も、フォッカー少佐と同意見だ。 常識的に考えて、有り得ない。」

 

 二人の意見も、尤もではある。

 しかし、次元を跳躍して、この世界に転移してきた事は紛れもない事実である。

 しかし、解せない事柄もある。

 実際、二人の記憶では、二人共、死亡した筈なのだ。

 

 クラウ

 「私達は、フォールドの失敗でこの世界に転移して来たと考えてます。 もしかしたら、お二人もフォールド失敗の影響で転移したのでは?」

 

 フォッカー

 「いや、俺はゼントラーディ艦から脱出する時に、バルキリーのコクピットブロックごと潰された筈だ。 フォールドは関係ないと思うんだがな。」

 

 確かに、回収したVF-1Sの損傷はかなり、酷いことになっている。

 フォッカーの言う通り、コクピットブロックを潰された痕跡も残っている。

 

 ブレラ

 「俺は、女王バジュラと融合したバトル・フロンティアのブリッジに突撃した後、ブリッジの爆発に巻き込まれ、そのまま、乗機と共に爆散した筈だ。」

 

 回収したVF-27γは、確かに損傷はしているが、原型を留めている。

 機体の状況は転移前と転移後で、二人に差があるが、一つだけ状況に共通点がある。

 死亡した後、どちらもフォールドに巻き込まれているのだ。

 実際は二人共、死亡した後の出来事なので認識はしてはいないが。

 したがって、なぜ二人がこの世界に転移して来たのかは、答えが出ない問題なのである。

 二人は納得の行かない顔をしているが、どうしようもない。

 

 ヴァーパル

 「納得出来ない状況だと思うが今後の事を話し合いたい。」

 

 どの様な経緯にしろ、こちらの世界に転移してしまった以上、現段階では元の世界に戻る事は叶わないだろう。

 そこで、フォッカーとブレラの今後の身の振り方を話し合おうと言うのである。

 

 ヴァーパル

 「此方としては、二人にはこのまま本艦に残ってもらいたいと思っている。」

 

 二人共に、超一流のバルキリー乗りである。

 フォッカーはその名前がそのまま勲章名になるほどの伝説的なエースパイロットだ。

 ブレラは操縦技術もさることながら、サイバーグラントであるので、生身の戦闘でもEX-ギアを装着した兵士を上回る戦闘力を持っている。

 まぁ、機械の身体に生身という表現はおかしいが…

 

 フォッカー

 「……戻れないんじゃしかたねぇな。 死んだと思ったのに生きてたんだ。 なら、生きたまま、元の世界に戻りたいしな。 艦長、俺はこの艦に残る。」

 

 ブレラ

 「一つ聞きたい。 お前達はこの世界に残るか? それとも、元の世界に戻るのか?」

 

 ヴァーパル

 「今は方法がないが、戻るつもりだ。」

 

 ブレラ

 「ならば、俺も残ろう。 俺はこの世界で死ぬわけにはいかない。 元の世界に戻り、ランカを守る。」

 

 エクス

 「まさか、フォッカー少佐と飛べる日が来るなんてな!」

 

 ティア

 「そうね。 普通なら絶対、有り得ないわね。」

 

 クラウ

 「さらにブレラ少佐も加わってくれるとなれば、心強いですね。」

 

 本来であれば、生粋のバルキリーパイロットは異世界である為、補充がきかない状況だったのだ。

 そこへ、スーパーエース級のパイロットが二人も加わるとなれば、うれしい誤算だ。

 しかし、手放しに喜べる事だけじゃ無いのだ。

 

 クラウ

 「フォッカー少佐には悪い知らせがあります……」

 

 フォッカー

 「あぁん?」

 

 クラウ

 「少佐のVF-1Sなのですが、修理は不可能です… よしんば、修復出来たとしても、現行機との性能差がありすぎて、連係が取れません。」

 

 フォッカーの乗機であったVF-1Sはコクピットブロックが損壊しており、部品が無いため修理ができないのだ。

 更には、VF-1Sは最初期の機体であるため、現行の機種とは性能が違いすぎる為、連係どころか、巡航飛行にもついていけない可能性がある。

 

 フォッカー

 「……参ったな。 つーと、今の俺は足手まといってことか?」

 

 ヴァーパル

 「少佐には、VF-25に機種転換をしてもらいたい。」

 

 マクェクスにはVF-25Aが、予備機として1機、格納されている。

 それをフォッカー専用機として改修し乗ってもらおうと言うのだ。

 

 フォッカー

 「新型か。 どれ程のモノか楽しみだぜ。」

 

 クラウ

 「改修にあたって、なにか要望があれば、整備班に伝えてください。」

 

 フォッカー

 「了解だ!」

 

 クラウ

 「ブレラ少佐のVF-27γは修復可能ですが、少し時間がかかります。 ただ、BDIシステム(ブレイン・ダイレクト・イメージ・システム)は修復出来ません。 しかし、スーパーパックは自作可能なので、戦闘力自体は然程変わらないと思います。」

 

 BDIシステムとは、パイロットの脳と機体側のセントラルコンピュータを光学回路で直結することで、完全な思考のみでの操縦を可能とするシステムだ。

 さらには、機体に登録されたパイロットの脳波を感知することで、遠隔操作式の無人機としても運用可能にした物である。

 

 ブレラ

 「了解した。 インプラントを取り除いた今の俺ではどのみち使えない。 機体が直るのであれば問題ない。」

 

 フォッカーは機体の改修、ブレラは機体の修理、共に今すぐにも戦線に参加とはいかないようだ。

 

 エクス

 「それで、艦長。 配置的にはどうするだ?」

 

 ヴァーパル

 「ふむ。 まずはフォッカー少佐。 少佐には中隊長をお願いしたい。 現在、マクェクスのバルキリー隊は6小隊24機の編成だ。 丁度、中隊規模であるし、今まではレーヴァテイン大尉が纏めていたが、負担が大きいとも考えていた。 少佐程の実力があれば、問題ないと思うのだが、どうだろう?」

 

 フォッカー

 「あ~、艦長。 ご指名の所悪いが、ある意味、新参者の俺が指揮をとったら、不満が出るんじゃないか?」

 

 エクス

 「それは無いんじゃないですかね、少佐。 俺達、バルキリー乗りからすれば、少佐は伝説のスーパーエースですからね!」

 

 ティア

 「えぇ。 フォッカー少佐を知らないバルキリー乗りは多分、居ないんじゃないかしら。 だって、少佐の名前がついた勲章があるくらいだし。」

 

 フォッカー

 「はぁ!? 俺の名前の勲章だぁ!?」

 

 "ロイ・フォッカー勲章"

 

 生前のロイ・フォッカーの数々の偉業を称え、制定された勲章。

 受勲資格としては、特に優秀な操縦技術を持つバルキリーパイロットに授けられるが、素行や態度で剥奪されることもある。

 因みに、3回受勲して、3回剥奪された、アホな人も一人存在する。

 

 フォッカー

 「マジか…… 本人からしたらこっ恥ずかしかないぞ……」

 

 エクス

 「あぁ、少佐。 俺も一応、受勲してます……」

 

 エクスの発言にフォッカーがジト目で見てくる。

 自分の目の前に、自分の名を冠した勲章を持つ者が居る。

 なんとも言えない恥ずかしさが込み上げてくることだろう。

 

 フォッカー

 「……諦めるか……」

 

 どうやら、流す事にしたらしい。

 

 ヴァーパル

 「話が脱線したな。 フォッカー少佐、中隊長の件、受けてもらえるかな?」

 

 フォッカー

 「俺でよければ、お受けします。 まぁ、暫くはシミュレーターと、機種転換訓練になりそうですがね。」

 

 エクス

 「これから宜しくお願いします! 少佐殿!!」

 

 フォッカーがヴァーパルからの要請を受諾したのを受け、エクスとティアが敬礼をしながら、挨拶をする。

 

 フォッカー

 「此方こそ、よろしく頼むぞ、大尉。 酒はあるんだろう? まずは俺の着任祝いだ!! 大尉、それと中尉、わかってるな!?」

 

 エクス

 「お供します!! それと俺の事はエクスと。」

 

 ティア

 「えぇ~。 私もなの……」

 

 世界が変わっても、フォッカーの酒好き、女好きは変わらないらしい。

 エクスはまだしも、ティアはげんなりしている。

 

 フォッカー

 「よし、エクス! 行くぞ! バーは何処だ!!」

 

 ヴァーパル

 「まぁ、まて、少佐。 話はまだ終わっておらん。 スターン少佐の処遇を説明してからだ……」

 

 早速、飲みに行こうとする3人をヴァーパルが止める。

 ブレラにも通達がある為、勝手にどっかに行かれては困るのだ。

 

 ブレラ

 「俺は何をすればいい?」

 

 ヴァーパル

 「スターン少佐には遊撃機として、単独で各小隊のフォローを任せたい。 少佐の能力とVF-27の性能があれば問題なくこなせると思うが。」

 

 VF-25とVF-27、姉妹機だが、純粋な性能はサイバーグラント専用機のVF-27の方が上である。

 さらには、それを操るブレラはサイバーグラントである。

 普通の人間とは隔絶した能力を持つ。

 遊撃には、操縦技術はもちろんの事、判断力や反射神経、耐久力など全ての能力が高水準でなければ務まらない。

 故にヴァーパルは高い能力を持つブレラに遊撃役をたのんだのである。

 

 ブレラ

 「了解した。 機体の修理が完了次第、任務に従事する。」

 

 二人の加入により、マクェクスの戦力は増強されたのは間違いないだろう。

 

 ヴァーパル

 「うむ。 二人とも、宜しく頼む。」 

 

 そんな時だ。

 ブリッジからのコールが鳴る。

 

 クラウ

 「艦長! ブリッジから連絡、香月博士から緊急通信! 通信、繋ぎます。」

 

 夕呼

 『聞こえてる? マズイ事になったわ! 今すぐにでも日本に戻ってちょうだい。』

 

 夕呼の声にいつもの余裕が感じられない。

 余程の事があるのだろう。

 

 ヴァーパル

 「何があったと言うのかね?」

 

 物語は新たな局面を迎える事になる。

 




 大変遅くなりました。

 第13話、ようやく完成です。

 なかなか、時間が取れなくて思うように執筆が進みません……

 キャラの追加により、一部タグを変更します。

 感想や意見、評価等がありましたら宜しくお願いします。

 では、また次回で!!

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