Alternative Frontier    作:狼中年

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11 トライアル《試行》

 今、唯依とまりもは新型試作戦術機"雷電"のテストを行う為、飛行訓練の真っ最中だ。

 "雷電"は戦闘機形態と戦術機形態に変形可能な機体の為、戦闘機の操縦技能は必須なのだ。

 故にティアが教官役をかって出たのである。

 

 ティア

「唯依、機体がフラついてるわよ! まりもは水平飛行になってない! 機体が傾いてるわ。」

 

 通常であれば、シミュレーターでの訓練から始めるのが当たり前なのだが、いかんせん、時間がない。

 故に強引ともとれる実機訓練からのスタートである。

 しかも、唯依とまりもが今、使用している機体はVF-19Eだ。

 戦闘機形態とファイター形態では、操作性に差異が殆ど無い為、バルキリーを使用した訓練を行っている。

 VF-19はかなりピーキーな操縦性をしており、素人が扱うには劣悪な機体だが、この機体を操れる様になれば、VF-11をベースにした雷電を乗りこなすなど、朝飯前となるだろう。

 

 唯依

 「あわっ!? あわわわわっ!?」

 

 普段の唯依からは信じられない程のパニクりようである。

 

 ティア

 「もっとエンジン出力を上げて! コントロールスティックを確り保持! ラダー操作はAIに任せて、コントロールスティックに集中!」

 

 唯依

 「そ、そんな事言ったって! これ、過敏すぎるよ。 う、うわっ!?」

 

 案の定、スティック操作を誤り、地表に向かって急降下してしまう。

 

 唯依

 「わぁぁぁぁぁぁ!! ぶ、ぶつかるぅぅぅぅ!!」

 

 完全にパニック状態だ。

 しかし、サポートAIにより、軌道の自動修正がなされ、地表に激突する事無く上昇を始める。

 エクスやティアの様な生粋のバルキリー乗りは、この手の機能はOFFにしている(高速戦闘などの時はかえって邪魔になる)が、今は新兵訓練と同じ様な状況の為、ONにしている。

 ましてや、VF-19Eのファイター形態時は、エネルギー転換装甲が使えない。

 もし、墜落しようものなら、大惨事になってしまう。

 

 唯依

 「し、死んだかと思った…」

 

 ティア

 「だ、大丈夫、唯依?」

 

 唯依

 「もぉ、やだぁ~…」

 

 実際、唯依は涙目になっている。

 唯依が弱音を吐くなど珍しい事である。

 余程、怖かったのだろう。

 戦術機とバルキリーでは、同じ空を飛ぶでもスピードレンジがまるで違う。

 実際のスピードも体感速度も桁違いだが、こればっかりは慣れてもらうしかない。

 その頃、まりもはまりもで悪戦苦闘していた。

 

 まりも

 「なんで、水平にならないの? あぁ、もう! えぃ! ……あれ?」

 

 ティア

 「まりも… 水平は水平でも、背面飛行になってるわよ…」

 

 機体を水平にしようとして、コントロールスティックを倒したら勢い余って180度回転してしまい、背面飛行になってしまっている。

 これはこれで、高等技術なのだが、今は求められていない。

 

 まりも

 「もぅ、なんなのよ~! イラつくわねぇ~!」

 

 自分の思う様に動いてくれない為、フラストレーションが貯まってきているようだ。

 

 ティア

 「…ヤッバいなぁ… 思ってた以上に手間が掛かりそう…」

 

 その後、二人が戦闘機をある程度、自在に操れる様になるまで、実に2ヶ月以上かかったのだった。

 

◆◆◆◆◆

 

 唯依とまりもの飛行訓練に並行する形で、雷電の戦術機形態のテストは進められていた。

 戦術機形態では、従来の戦術機と基本操作は変わらない仕様の為、直ぐにでもテストが開始出来たのだ。

 しかしながら、変形テストや飛行テストなどは二人の訓練が終了した後となる。

 

 先ずは、歩く事から始まり、そして、走るにかわり、最後にはアフターバーナーを吹かせての高速ホバー移動と、段階を踏んでテストメニューを消化していく。

 不具合があれば、その場で申告し、問題点を洗い出し修正出来るのであればする。

 初期のテストはこの様な退屈な作業の繰り返しとなる。

 しかし、ここで不具合を残すと、完成後に影響する為、蔑ろには出来ない。

 延々と地味な作業を繰り返すしかないのだ。

 このテストの中にはエンジンの全力運転での耐久性や持続性、オーバーヒートからの復旧時間のチェックなども含まれてくる。

 

 基本動作のテストが終了し、次は武装などを使用した攻撃面のテストとなる。

 専用装備となるガトリングガンポットの実射テストに始まり、既存の突撃砲やライフル、マシンガン等との互換性の確認や、FCSが銃器を認識するか等のテストも含まれる。

 FCSが銃器を認識しないと、ロックオンが出来ないのだ。

 パイロンに装着されている74式近接戦闘長刀の抜刀時、干渉する箇所の有無や納刀はスムーズに出来るか等のテストも行われる。

 攻撃面となれば、オプションパックのテストも含まれるのだが、スーパーパックとアーマードパックの実物がまだ未完成の為、後回しとなった。

 

 武装面のテストと並行し、防御面のテストも進める。

 しかし、少し危険も伴う為、無人もしくはオートパイロットで実施されるのが常だ。

 早い話がシールドや装甲、ピンポイントバリアに向かって撃って撃って撃ちまくり、耐久性や装甲限界値・破壊係数、ピンポイントバリアの連続使用可能時間を導き出し、設計通りの性能に達しているか確かめるのだ。

 しかし、ここで問題が発生した。

 ピンポイントバリアが正常に作動しないのだ。

 ピンポイントバリア以外には問題はない。

 しかし、いくら調査しようとも原因は発見されず、とりあえず究明は後回しにされる事になった。

 

 移動、攻撃、防御のテストが進む中、唯依とまりもの飛行訓練も粗方終了し、二人は必要不可欠な戦闘機動は習得し終えている。

 これ以上の技能となると実戦での経験と可変機構を使った機動になる為、実地での訓練となる。

 

 二人は訓練が一応の終了となった事で、戦闘機形態でのテストが開始された。

 実質、やることは戦術機形態とあまり代わり映えはしない。

 ただ、戦闘機形態では、エネルギー転換装甲が使用できない上に、戦術機形態に比べ機体にかかる最大Gが高い。

 その為、機体にかかる負荷はかなり大きく、限界を越えた場合、最悪、空中分解の可能性すらありうるが、戦闘機動でのGに耐えられなければ変型時にかかる負荷に耐える事など出来ない。

 故に、可変戦術機として、ここが完成への第一関門となるだろう。

 

 戦闘機形態のテストが開始されて数日、案の定、不具合が出た。

 機体フレームの剛性不足や関節部の強度不足が原因と思われる亀裂が両翼の付け根に入ったのだ。

 主翼は戦闘機にとって命でもある為、より頑丈に設計されたのだが、予想以上の負荷と加重、金属疲労があるようだ。

 故に、再設計し修正が完了するまでテストを再開出来ない。

 

 巌谷

 「……むぅ。 シミュレーションでは問題は無かったのだが… しかし、これ以上の剛性アップとなるとコスト的に…… いっそ、エネルギー転換装甲を使用して…… いやいや、それでは出力不足に…… あぁ、ピンポイントバリアの方もなんとかしなくては……」

 

 どうやら、改善策を模索している様だが、良い案は出てきていないようだ。

 どの様な物にしろ、開発というのは、科学と一緒でトライ&エラーの繰り返しである。

 正に、アレがダメならコレ、コレがダメならアレと言う感じである。

 解決策が捻り出されるまで、今暫く掛かりそうだった。

 

◆◆◆◆◆

 

 試作型雷電が使えない間、唯依とまりもは復習も兼ねて、VF-19Eでの訓練をしている。

 まだ、戦闘機には慣れきっていない為、あまり日数が開いてしまうと感覚を忘れてしまうのだ。

 なお、二人だけでの飛行訓練となると、不測の事態に対処しきれ無い為、VF-25Fに乗ったティアも同行している。

 

 唯依

 「やっぱり、雷電に比べて、このエクスカリバーは操縦難度が高いわ。」

 

 ティア

 「そりゃあねぇ。 元々、VF-19系列はエース用の機体だからねぇ。 それにE型はシリーズの中でも最終型だけあって性能はシリーズ中最高だし。」

 

 まりも

 「確かにこれだけピーキーな操縦性だと、乗りこなせる人は限られてくるか。」

 

 唯依

 「VF-19って、全部こんなにピーキーなの?」

 

 ティア

 「そんな事無いわよ。 んっとねぇ…」

 

 試作機のYF-19に始まり、試作機のピーキーさを色濃く受け継いだ初期型のVF-19A。

 VF-19Aの操縦性をマイルド方向に向上させたVF-19C。

 さらに操縦性をマイルドにし、本格的な量産に移行されたVF-19F。

 VF-19Fをベースに指揮官機に仕様変更したVF-19S。

 固定武装を強化したVF-19P。

 シリーズ最終量産型の高性能機であるVF-19E。

 VF-19Eのモンキーモデル(劣化コピーの事)であるVF-19EFカリバーン。

 自由変型素材の実験データ収集用のVF-19ACTIVEノートゥングなどがある。

 

 まりも

 「エクスカリバーだけで、そんなにあるの!?」

 

 ティア

 「他にも、個人用にスペシャルカスタムされた機体もあるし、電子戦用のRVF-19EFウォーニングカリバーンなんてのもあるよ。」

 

 唯依

 「軍用機の個人用カスタムなんてしても大丈夫なのかしら?」

 

 ティア

 「基本的に正規軍はカスタムマイズしてないわ。 カスタマイズしてるのは大体、S .M .S所属の機体ね。 エクスの機体もカスタム機よ。」

 

 まりも

 「へぇ~。 エクスの機体はカスタム機だったんだ。 そう言えば、ティアとエクスって、付き合ってるの?」

 

 いきなり、話が飛んだ。

 前々から気になっていた事柄であるし、恋人の居ないまりもはちょっと羨ましいと思っているのだ。

 

 ティア

 「えぇ、付き合ってるわ。 なに? アイツが気になるの? あげないわよ?」

 

 まりも

 「い、要らないわよ! まぁ、確かにカッコいいとは思うけど…」

 

 唯依

 「腕前も超一流ですしね。」

 

 ティア

 「唯依も欲しいの?」

 

 唯依

 「要りません!」

 

 自分の恋人の需要の無さに軽くへこむティア。

 エクスを誰かに渡す気は更々無いが、それでも自分の恋人がもてる、と言うのは(嫉妬はするが)嬉しいので、こうもハッキリ拒否られると悲しくなってくるのだ。

 

 ティア

 「……もういい……」

 

 少しご機嫌ななめのようだ。

 

 まりも

 「そ、そうだ! メサイアはどんな機種があるのかな?」

 

 ティアの不機嫌な様子を見て、まりもは強引に話題をすり替える。

 自分でも強引すぎるか、と思ったが唯依も追随してくる。

 

 唯依

 「た、確かに高性能な機体ですもんね。 すっごい気になります!」

 

 ティアは暫く不機嫌な顔をしていたが、一つ溜め息を吐くとVF-25について説明を始める。

 

 YF-24エボリューションを大元にYF-25プロフェシーが開発され、それを正式化したのがVF-25A。

 A型をベースに空中格闘戦闘に特化したVF-25F、長距離狙撃用のVF-25G、指揮官用に調整されたVF-25S、電子戦用のRVF-25となる。

 因みに、マクェクスにはVF-25GとRVF-25は搭載されていない。

 

 まりも

 「エクスカリバーに比べて随分少ないわね?」

 

 ティア

 「新型機だからね。 まだまだ、バリエーションが少ないのよ。 でも、姉妹機のVF-27ルシファーとか、後継機にあたるYF-29デュランダルなんてのも開発されていたわ。」

 

 まりも

 「ふぅん。 基本的にはメサイアの方がエクスカリバーより高性能なんでしょ?」

 

 ティア

 「一応ね。 メサイアの方が良かった?」

 

 まりも

 「そう言う事じゃ無いわ。 単純に気になっただけ。 そうだ!! 折角だから2対1で模擬戦しない? ファイター形態のみで!」

 

 ティア

 「模擬戦? 私はいいけど、唯依は?」

 

 唯依

 「私もかまわないわ。 やりましょうか。」

 

 まりも

 「じゃ、決まり! 5秒以上、ロックオンされたら撃墜扱いで!」

 

 ティア

 「OK!」

 

 唯依

 「わかりました。」

 

 唐突に始まった2対1の変則模擬戦。

 唯依とまりもがどこまで成長したか、いい試金石になるだろう。

 純粋な戦闘機とすれば、前進翼を採用し安定性を犠牲にして、運動性と俊敏性を獲得したVF-19Eの方が有利だろう。

 しかも、2対1であり、数的有利も唯依とまりもにある。

 しかし、ティアには、これまで、バルキリーに乗り続けた経験と、癖を知り尽くした愛機VF-25Fが相棒だ。

 

 ティア

 「じゃあ、スタート!!」

 

 ティアの合図と共に、3機は散開、模擬戦が始まる。

 早速、ティア機がまりも機の後ろにつく。

 まりもはアフターバーナーを吹かし、振り切ろうとするが、エンジン出力ではVF-25Fの方が上回っている為、引き離せない。

 

 まりも

 「振り切れない!」

 

 ティア

 「逃がさないわよ。 ほぅら、ロックオンよ!!」

 

 あっと言う間に、まりも機を捉え、ロックオンをかける。

 まりもも、ティアを振り切ろうと上下左右に機体を振り回すが、ティア機がピッタリ後ろに付いて離れない。

 

 ティア

 「2、3、4…」

 

 5と言おうとした所でピッピッピッと後方警戒アラートが鳴る。

 まりもが追い掛けられていた間に唯依がティア機の後ろに回り込んでいたのだ。

 

 唯依

 「間に合った! 貰ったわよ!」

 

 ティアはロックオンを解き、コークスクリューからの急降下で振り切ろうとする。

 唯依も振り切られまいと急降下し、ティア機に追随する。

 バックを取ってはいるが、まだ、ロックオンは出来ていない。

 本来であれば、急制動・逆加速でバックを取る所だが、今回の模擬戦では、ガウォーク形態は使用禁止なので、その方法は使えない。 

 唯依を振り切ろうとしていると、まりももティア機の後ろに回り込んで来た。

 後ろから2機に追い掛けられれば、いくらティアとVF-25Fのコンビといえど、逃げ切るのは至難の業だ。

 

 まりも

 「絶対、にがさないわ!」

 

 唯依

 「えぇ、確実に仕留める!」

 

 二人で協力しティアを追い込んでいく。

 絶対的優位に立ち、勝負を決めに掛かる。

 しかし、ティアの表情にはまだ余裕が見え、口許がニヤッと綻ぶ。

 

 ティア

 「まだ、甘い!」

 

 コントロールスティックを引き、機首を上方に向け、スロットルは全開まで、開ける。

 ラダーと尾翼を調整し、上昇を抑えると機首が上方を向いているにも拘わらず、上昇せずに前進している。

 前進はしているが、空気抵抗を受ける面積が多い為、減速され、唯依とまりもはティア機を追い抜いてしまった。

 

 唯依

 「えっ!? あっ!!」

 

 まりも

 「あれ? どこ?」

 

 先程まで目の前にいた、ティア機が視界から消えた。

 正確には空気抵抗を利用して減速し、追い抜かせたのだが。

 コブラと呼ばれる高等テクニックで、一気に形勢を逆転させ、2機同時にロックオンで捉える。

 

 ティア

 「いただきぃ!!」

 

 混乱から復帰しきれていない間に、5秒以上ロックオンを掛け続け、勝負を決めたのだった。

 

 唯依

 「ダメだったか…」 

 

 まりも

 「油断した… まだまだね…」

 

 ティア

 「二人共、いい線いってたよ! でも、私に勝つにはもう一工夫欲しいかな?」

 

 唯依・まりも

 「「ハァ…」」 

 

 勝てる、と思っていただけに、軽く落ち込んでいるようだ。

  

 ティア

 「じゃ、そろそろ戻りましょっか!」

 

 そう言うと、3人は帰路に着くのであった。

 

◆◆◆◆◆

 

 その頃、マクェクスでは、ヴォーパルと夕呼が通信で今後の事に関して会話をしていた。

 

 ヴォーパル

 「我々は一度、宇宙に上がる予定だ。」

 

 夕呼

 『は? いきなりね。 なんで急に?』

 

 ヴォーパル

 「月に…」

 

 図らずして、舞台は一時、宇宙へと変わる事となる。

 




 お待たせしました。
 第11話です。
 リアルが忙しすぎて、執筆速度が駄々下がりです…

 この前、感想の返答にも書きましたが、試作型雷電は欠陥機です。
 今の所、少ししか欠陥が発見されていませんが、ボロボロ出てきます。
 ま、いずれは完成しますが、何時になるかは未定です。

 初めての戦闘機がVF-19って、なんて罰ゲーム!?
 実際、まともに操縦できるんだろうか?
 YF-19よりはマシか……
 あれ、殺人マシーンだし……(テスト中にテストパイロットが死んでいる)

 感想や意見、評価等がありましたら、よろしくお願いします。

 では、また次回で。

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