Alternative Frontier    作:狼中年

13 / 17
10 プロトタイプ《試作》

 アメリカによる、襲撃事件から約3ヶ月。

 ついに、帝国製バルキリーの試作機が完成したとの事だ。

 

 ちなみに、あの事件の後、バルキリーの機体情報をアメリカ初めとした諸外国に提供したのだが、なかなか、面白い反応が返ってきている。

 特にアメリカは喉から手が出る程に欲した情報であったらしく、大統領自らの正式な謝罪と、今後の作戦行動における物資の補給などを提案して来た。

 さらには、今回の襲撃を計画した首謀者、大統領補佐官だったらしいが、失脚・更迭されたらしい。

 何でも、大統領補佐官は自身の権限拡大を狙って、大統領にも知らせず極秘で襲撃作戦を計画・実行したらしいが、正直、何処までが本当なのかは解らない。

 ただ、約3ヶ月前に実施された明星作戦時にG弾を使用をして以降、アメリカ国内でもG弾驚異論が噴出しており、このままでは、アメリカが真っ二つに割れてしまう可能性すら出てきた為、G弾の使用を制限せざるおえない事態になっているとの事だ。

 故に、強力な戦術機の開発は急務であり、今、開発中の新型は勿論の事、マクェクスが持つ技術を使用した新たな設計思想の機体を開発したいのだとか。

 

 しかし、提供した機体情報はあくまでダミー、囮だ。

 情報に虚偽はないが、ここまで感謝されると気が引ける、と言うか罪悪感が沸いてくる。

 しかしながら、マクェクスクルーの大半は大統領は兎も角、アメリカ政府や軍部に懐疑的な考えの意見も多い。

 帝国製のバルキリーが完成するまで我慢してもらおう。

 

◆◆◆◆◆

 

 唯依

 「おじ様!!」

 

 巌谷

 「おぉ、唯依ちゃんか!」

 

 マクェクスへとやって来た巌谷を唯依が出迎える。

 組上がった試作機をマクェクスに搬入する為である。

 今回、搬入される試作機は3機。

 今後、マクェクスでマクェクスの整備班や技術士官の監修の元、テストが行われる予定である。

 

 巌谷

 「んんっ! 篁中尉、任務ご苦労だった。」

 

 唯依

 「ハッ! 有り難うございます!」

 

 親しき仲だろうが、二人は軍人。

 今は任務中の為、直ぐ様、口調を軍人のそれに直す。 

 

 ヴォーパル

 「巌谷中佐、よくお出でくださった!」

 

 巌谷

 「おぉ、アロンダイト艦長。 漸く、ここまで漕ぎ着けました。 あなた方からの情報があってこその機体です。 テストが待ちどうしいですな。」

 

 ヴォーパル

 「ほぅ。 どうやら、良い機体に仕上がってる様ですな。」

 

 巌谷

 「勿論です。 帝国軍技術廠の総力を結集した自信作です。」

 

 エクス

 「おっ! 試作機、来たのか!」

 

 そこへ、エクスを初めとしたセイバー小隊の面々や整備班長、まりもなどが集まってきた。

 

 巌谷

 「皆さん、集まって来た様ですな。 では、早速、お披露目といきましょう。」

 

 巌谷がそう言うと、機体に掛けられていたホロが外され、全体があらわになる。

 

 巌谷

 「これが、"YVF-11J 試99式可変型戦術歩行戦闘機 雷電"です。」

 

 外観はオリジナルであるVF-11MAXLと大差はない。

 外観上の違いと言えば、翼下にあるパイロン4基の内、2基には74式近接戦闘長刀を取り付けてある事くらいである。

 これは、日本帝国の戦術思想である、近接剣撃戦重視の設計思想によるものだ。

 機体本体の方は、技術的問題とコストダウンの為、ガウォーク形態がオミットされているが、基本性能はオリジナルに劣るものではない。

 相手がBETAという事もあり、アクティブ・ステルスや、今の所、地上戦がメインである為、宙間装備(姿勢制御用のスラスターやアポジモーター、生命維持装置など)をオミットし、更なるコストダウンをしている。

 これにより、機体の軽量化にもなり、機動性の向上に一役かっている。

 主機には、熱核タービンエンジンを採用し、オリジナルに耐久性では劣るものの、出力では勝っている。

 エンジン出力のアップの恩恵として、本来はVF-19以降の標準装備である、ピンポイントバリアの使用が可能。

 ただし、長時間の連続使用や複数個の同時使用は出力の関係上、不可能である。

 左腕のシールドにも手を加え、多重構造にした上にエネルギー転換装甲でもあるので、数発であれば、レーザーも防御可能だ。

 ファイター形態での操縦法は従来の戦闘機と変わらないが、バトロイド形態では、戦術機のそれと同様のシステムになっている。

 これは機種転換を容易にする為である。

 しかも、網膜投射式ではなく、モニター式が採用されており、これにより衛士適性レベルが引き下げられる筈だ。

 OSも致命的な欠陥のある従来のものではなく、バルキリーに搭載されているものをコピーしたものである。

 武装面では、マガジン式ガトリングガンポットを標準装備とし、オリジナルにある銃剣はオミットされ長刀を2刀装備し、他にも戦術機用の銃器は基本的に運用可能であり、オプションパックも用意される予定である。

 コスト的には、武御雷ほど高価ではないが、不知火よりは高価である。

 しかし、整備性は武御雷より、遥かに容易である。

 

 実は、この新型戦術機"雷電"は開発が始まるまでに、色々な障害が立ち塞がった。

 その中でも一番厄介だったのが、軍需産業と癒着していた政府高官やバルキリーの性能に疑問を抱く軍上層部の一部だ。

 軍需産業からすれば、高性能な新型機が完成すれば、自社の機体が売れなくなる、ひいては利益が減ると考え、繋がりのある政府高官達に開発中止を働きかけたのだ。

 それに呼応する形で、軍上層部の一部の将校がバルキリーの性能に対し、疑問の声をあげた。

 本当に現行機を超える性能があるのかと。

 そこで、軍需産業には、試作機の設計・製造は技術廠で行うが、制式採用機の生産は各企業に委託すると打診した。

 すると、現金なもので直ぐ様、手のひらを返し、新型機の開発を支援し始めた。

 疑問をもつ一部の上級将校には、バルキリーと戦術機の模擬戦を実際に目の前で見せる事で、バルキリーと戦術機の性能差がどれ程のものか見せ付けた。

 内容としては、エクスが駆るVF-25SC対94式不知火5機のハンデ戦(ハンデをもらったのは不知火)だ。

 この模擬戦にて、エクスはバトロイド形態のみで戦い、被弾ゼロで完勝している。

 しかし、それでもバルキリーの優位性を認めたがらない将校も居たのだが、紅蓮大将の一喝により、沈黙したのだ。

 

 巌谷

 「まだ、テスト前なので問題点などの洗い出しは終わってませんが、現時点でも、武御雷に勝るとも劣らない性能に仕上がっている筈です。」

 

 ヴォーパル

 「ふむ。 制式採用機の完成が待ちどうしいですな。 ところで、テストパイロットには誰が?」

 

 巌谷

 「3号機はまだ決まってませんが、1号機には篁中尉を、2号機には神宮寺軍曹を予定しています。」

 

 巌谷の発言を聞き、唯依とまりもが驚きの表情を見せる。

 二人ともに、事前の説明を受けておらず、口頭で行きなり指名されたからだ。

 二人は日本帝国軍の中でも指折りの衛士なので、適任ではある。

 しかし、戦術機としては前代未聞の可変システムを搭載した初の機体である。

 

 唯依

 「おじさ… いぇ、巌谷中佐。 自分は何も聞いておりませんでしたが?」

 

 巌谷

 「あぁ、すまない。 事後承諾みたいな形になってしまったな。 この新型機を完璧なものに仕上げるには、より優秀な衛士にテストしてもらうのが、必要不可欠なのだ。 どうだろう、二人とも。 引き受けてはもらえまいか?」

 

 どの様な機体にしろ、テストパイロットの腕いかんで新型機が傑作機になる事もあれば、駄作・欠陥機になる事もある。

 であれば、優れたパイロットに機体を任せ、テストをした方が良いに決まっている。

 唯依やまりもは何処に出しても恥ずかしく無い優秀な衛士だ。

 テストパイロットには、うってつけだろう。

 

 唯依

 「了解しました、巌谷中佐。 自分で良ければ引き受けさせて頂きます。」

 

 まりも

 「自分も慎んでお受けさせて頂きます。」

 

 巌谷

 「うむ。 二人とも、宜しく頼むぞ。」

 

 唯依・まりも

 「「ハッ! 全力を尽くします。」」

 

 これで、試作機の3機のうち、2機のテストパイロットが決定した。

 しかし、試作機は3機。

 まだ、1機残っている。

 

 エクス

 「残りの1機は俺が…」

 

 ティア

 「こんのバカ! アンタには自分の機体があるでしょ! アンタの機体はアンタ以外、乗りこなせないんだから、大人しく自分の機体に乗ってなさい!!」

 

 エクス

 「でも、たまには…」

 

 ティア

 「デモも、カカシもない!」

 

 相変わらず、普段はティアに頭の上がらないエクスだった。

 しかし、エクスの気持ちも分からんでもない。

 テストパイロットというば、謂わばエリートの証だ。

 パイロットであれば、誰しも一度はやってみたいと思うものである。

 

 

 巌谷

 「ハッハッハッハッ。 二人とも仲が良いな。 残念だが、大尉。 そこまで興味を持ってもらえたのは嬉しいが、三人目の目星は大方ついている。」 

 

 巌谷の言葉を聞き、エクスがガックリと肩を落とす。

 確かにエクスはエースではあるが、テストパイロットは経験した事がない。

 そもそも、新型機など次から次になど、出来るものではないので、経験者の方が圧倒的に少数ではあるのだが。

 

 ティア

 「ところで、唯依、まりも。 戦闘機の操縦経験はあるの?」

 

 ティアの疑問ももっともである。

 戦術機はその名称にもある通り、戦術歩行"戦闘機"とあるが、純然たる戦闘機とはまるで別物である。

 戦術機はあくまで、人型兵器なのである。

 

 唯依

 「いえ、戦術機での飛行経験はあるけど、普通の戦闘機は乗った事がないわ。」

 

 まりも

 「私も、戦闘機は経験がないわ。 BETAを相手していると空を飛ぶなんて自殺行為だし。」

 

 ティア

 「じゃあ、まずは飛行訓練からね。 戦闘機を飛ばせなきゃお話にならないわ」

 

 エクス

 「そうだな。 俺達がみっちり教えるから安心しろ!」

 

 ティア

 「アンタは教えなくていい! アンタの機動なんて誰が真似できるのよ。」

 

 エクス

 「…………」

 

 またもティアに意見を封殺されるエクス。

 確かに、エクスの戦闘機動を真似でもした日にはグロッキーになる事は確実だ。

 

 まりも

 「ティア、お願いできる?」

 

 ティア

 「任せて!」

 

 唯依・まりも

 「「宜しくお願いします!」」

 

 唯依とまりもの飛行訓練と試作機"雷電"のテストが始まろうとしていた。

 




 第10話です。

 大変、遅くなり申し訳ございません。
 仕事が忙しすぎて休みがない……
 誰か、休みをくれ……

 今回は試作機のお話です。
 ちょっと完成が早すぎな気もしますが、さらっと流してください。
 3号機のパイロット、誰にしよう…
 これって人が思い付かないですよねぇ。
 誰がいいですかね?

 感想や意見、評価等がありましたら、よろしくお願いします。

 では、また次回で。

 
 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。