Alternative Frontier    作:狼中年

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09 ドッグファイト《空戦》

 おそらくだが、アメリカ軍所属のF-15Eと相対して何分間たったのだろう。

 始めの2機を中破状態にし、戦闘力を奪った後、まだ、1機しか損傷させられていない。

 

 エクス

 「ちぃ! なかなかやる!」

 

 機体の性能的にはVF-25の方が圧倒的に勝っている。

 しかし、こうも攻めあぐねてる理由は敵機の数、統制のとれたコンビネーション、対人戦に特化された操縦練度によるものだろう。  

 エクスがF-15Eをロックオンし、攻撃を加えようとすると、別の機体が横槍を入れ、邪魔をしてくるのだ。

 エネルギー転換装甲とピンポイントバリア頼みで銃撃を無視して攻撃を加えてもいいのだが、ダメージはさほど無いとはいえ、攻撃をもらう度に此方の機動が止まる為、集中砲火に晒される恐れがある。

 

 エクス

 「くそっ! こいつら、連係が取れてやがる。 練度もかなり高いな。 特殊部隊か?」

 

 エクスの考えている通り、今、相手をしている部隊は、アメリカ陸軍のトップエース部隊"第65戦闘教導団(アグレッサー部隊を教導する特務教導部隊)インフィニティーズ"である。

 しかし、襲撃・鹵獲作戦に汚れ仕事専門の非正規部隊ではなく、正規部隊を、それもトップエース部隊を投入するなど、アメリカの本気度合いが伺い知れる。

 それだけ、バルキリーを手に入れたいのだろう。

 しかも、此方を撃墜しようというような攻撃はしては来ない。

 

 エクス

 「俺の機体を鹵獲したいんだろうが、そんな甘い考えでは鹵獲なんか出来ねぇぞ! 撃墜するつもりでかかってこねぇとな!!」

 

 突如、エクス機の動きが変わる。

 より、鋭く、攻撃的な機動に変化する。

 そう、相手を牽制・損傷させる為の動きから、撃墜・大破させる機動に変わったのだ。

 

 被弾を気にせず、機体をファイター形態に変形させ、エンジン出力にものを言わせ、最大出力で一気に囲みを突破。

 そうなると当然ながら、エクス機を追跡してくる敵機が出てくる。

 わざと速度を落とし、全速で追随してくる敵機を追い付かせる。

 全速で近付いてくる敵機を尻目に片方の脚部のみを展開、半ガウォーク形態になり、エアブレーキ状態を意図的に作り出し急速反転、一瞬で相手のバックを取り、同時に重量子ビームガンポットからビームを発射、管制ユニットを避け、敵機を蜂の巣にする。

 相手からすれば、急に相手が消えたと同時に撃ち抜かれたと感じただろう。

 

 エクス

 「1つ! 次っ!」

 

 エクスは今しがた撃墜した敵機に目もくれず、次の獲物を視界に捕らえ、襲いかかるのであった。

 

◆◆◆◆◆

 

 ユウヤ

 「こいつ、なんて反応速度してやがる。」

 

 俺達が目標を囲んで既に数分、鹵獲するどころか、損傷の1つも与えられていない。

 それどころか、少しでも隙を見せれば攻撃を加えようとしてくる。

 数の利を生かし、目標を囲み、疲弊を待って鹵獲するつもりだったのだが、何時になったら大人しくなるんだ、こいつは?

 そもそも、相当な時間、飛行しているはずなのに、なんで、ガス欠にならないんだよ!

 絶対におかしいだろ!

 と、そんな事を考えていると、突如、目標が放つ雰囲気が豹変する。

 いや、これは雰囲気と言うか、殺気のように感じる。

 今まで、繰り返し行っていた回避運動を止め、戦闘機に変形する。

 俺達も、ここぞとばかりに36mm弾を大量に叩き込むが、やはりダメージらしいダメージは与えられていない。

 目標は銃弾をものともせず、アフターバーナーを吹かし加速、囲みを突破された。

 僚機の1機が逃がすまいと追随する。

 

 レオン

 「やめろ! 追うな。」

 

 レオンが制止するが、遅かった。

 信じがたい機動で一瞬のうちにバックを取り、そのまま、撃墜しやがった。

 

 シャロン

 「なんて無茶な機動をするの!」

 

 シャロンの言う通りだ。

 なんなんだ、あのデタラメな機動。

 あれで乗っている衛士は大丈夫なのか?

 それより、撃墜された僚機は?

 どうやら、ベイルアウトしたようだ。

 いや、人の心配をしている場合じゃ無い。

 あんな、常識はずれな機動をされたら、俺だって何時、撃墜されるか分かったもんじゃない。

 目標はまだ、此方に向かい突撃してくる。

 どうやら、俺達は起こしちゃマズイものを起こしてしまったらしい。

 

◆◆◆◆◆

 

 クラウ

 「艦長! セイバー1がアメリカ陸軍と思われるF-15E と交戦中の模様。」

 

 ヴォーパル

 「至急、フランベルジュ中尉に連絡! スクランブルだ!」

 

 クラウ

 「了解。 セイバー小隊、スクランブル発進願います。」

 

 慌ただしくなってきたブリッジに唯依がやって来る。

 新型機開発の進捗をヴォーパルに報告に来たのだ。

 

 唯依

 「い、いったい、何事ですか?」 

 

 クラウ

 「それが、機体のシェイクダウンに出ていたエクスが、アメリカ軍所属と思われる部隊に襲撃されています。」

 

 唯依

 「襲撃!? もしかして、狙いはあなた方の機体の鹵獲?」

 

 クラウ

 「おそらくは。」

 

 唯依

 「では、帝国を通して、厳重な抗議を……」

 

 ヴォーパル

 「いや、それはマズイ。 日本を巻き込む事になってしまう。 只でさえ反米感情が高まっている今の情勢でアメリカの不条理な行動を指摘させれば、溜まっている不満が爆発し、国自体が暴走しかねん!」

 

 確かに今の日本は反米感情が最大限まで、高まっている。

 日米安保条約の一方的な破棄に始まり、G弾の日本国土への予告なき投下までしたのだ。

 この上、帝国の協力者を自国の利益の為に襲撃したとなれば、国民はおろか、軍部、ひいては政府までもが暴発しかねない。

 

 唯依

 「し、しかし…」

 

 ヴォーパル

 「君はアメリカと戦争をしたいのかね?」

 

 唯依

 「い、いえ、けっしてその様な事は。」

 

 ヴォーパル

 「ならば、今回は黙っていたまえ。 今はタイミングが悪い。 後々、対策はする。」

 

 唯依

 「わかりました……」

 

 唯依は納得しきれていない表情をしているが、あくまで、エクスやヴォーパル達の問題であり、今回の事案は帝国からしたら、第3者である。

 下手に帝国が関わると、国と国との対立になってしまい、世界の情勢を鑑みるとそれは非常によろしくない。

 

 そんな、ブリッジでのやり取りとは関係無く、セイバー小隊はスクランブル発進の準備を終え、発進体制に入っていた。

 

 ティア

 「セイバー2、出るわよ!」

 

 ティアに続いて、カロンとグラムも発進していく。

 

 ティア

 「セイバー2から、セイバー3、4。 セイバー1が襲撃されている地点まで、カッ飛ぶわよ! 二人も遅れずに付いてきて!」

 

 カロン

 「了解だ、お嬢さん。 いや、隊長代理殿とお呼びしますかな?」

 

 ティア

 「だ~か~ら~、お嬢さんって呼ばないでっていっつも言ってるのに… あぁ、もう。 好きに呼んで! 今はエクスの救援が最優先!」

 

 カロン

 「隊長に限って、そんな簡単に墜とされるとは、思えないが。」

 

 グラム

 「しかし、万が一と言う場合もありますし、急ぐに越した事はないとおもいます。」

 

 ティア

 「そう言う事。 ほら、行くわよ!」

 

 カロン・グラム

 「「了解。」」

 

◆◆◆◆◆

 

 なんてこった。

 たった数分で、5機のF-15Eが撃墜された。

 襲撃当初は12機いたが、2機が中破、5機が大破し、残るは、俺と隊長であるキース中尉、それと、レオン、シャロン、ガイロスの5人だけだ。

 撃墜された奴等は全員、ベイルアウトした様だから、死んではいないだろう。

 

 ユウヤ

 「このままじゃ、全員、ヤられちまう。」

 

 目標からの攻撃をなんとか、回避しながら打開策を考えるが、なんにも浮かんでこねぇ…

 まさか、これ程までの機体性能と衛士としての技量に差があるとは思っていなかった。

 標的から殺気らしきものを感じ取って以降、俺達はまったくと言っていいほど、攻勢に出れていない。

 というか、ロックオンすら出来ていない。

 いくらなんでも、速すぎる!

 視界に捕らえても、一瞬で目の前から消えて、いつの間にか、後ろにいる。

 仲間からの警告で後ろを取られたのを気付くレベルだ。

 

 レオン

 「ユウヤ! また、後ろを取られてるぞ!」

 

 ユウヤ

 「うるせぇ。 またって言うな! くそっ、引き離せねぇ!」

 

 機体を前後左右、上から下まで使って動き、目標から離れようとするが、まったく離れない。

 直ぐ様、ロックオンされ、管制ユニットの中はアラートが喚き散らしている。

 目標からのビームが迫り、回避運動を執るがかわしきれず、左腕に被弾、左腕が根元からごっそり無くなる。

 なんなんだ、あのビームを発射するライフルは?

 戦術機の装甲だって、レーザー級のレーザーに数秒なら耐えるはずなのに、あのビームは一秒も耐えられずに貫通しやがる。

 

 シャロン

 「ユウヤ、下がって!」

 

 被弾した俺を後退させようと、シャロンが俺の方に意識を向けたまま前に出る。

 それが原因で、目標から目を離してしまった。

 既に、銃口はシャロンに向いている。

 そして、無慈悲にも銃口からビームが迸り、シャロンに向かってくる。

 このままだと間違いなく、被弾・撃墜は免れないタイミングだ。

 だが、シャロンが撃墜される事は無かった。

 被弾直前に、レオンがシャロン機に体当りし、射線上から押し出した。

 

 レオン

 「シャロン、無事か?」

 

 シャロン

 「助かったわ。 ありがと、レオン。」

 

 しかし、レオンの機体の跳躍ユニットに掠ったらしく、速度が落ちている。

 これではレオンは次の攻撃から逃れるのは難しいだろう。

 そんな時、アラートが鳴る。

 接近警報だ。

 レーダーを見るとこっちに接近してくる3個の光点が表示されていた。

 恐らくは、目標の援軍だろう。

 

 ユウヤ

 「クソッ! ここでだめ押しかよ…」

 

 ハッキリ言って、作戦を遂行するのはもう無理だ。

 そう思っていると、キース隊長からの通信が入って来た。

 

◆◆◆◆◆

 

 エクス

 「外したか…」

 

 必殺のタイミングで攻撃をしたのだが、相手の身を呈しての体当り回避でかわされてしまった。

 しかし、相手の推進系に幾ばくかのダメージは与えたので次で墜とせると確信していた。

 続けざまに攻撃を仕掛けようとした所に通信が入る。

 

 ティア

 「エクス! 聞こえる?」

 

 エクス

 「ティアか! あぁ、聞こえてる。 速かったな。」

 

 ティア

 「もしもの事があったら大変だもの。 大丈夫だとは思ってたけど、急いで来たの!」

 

 そうは言っているが、表情が固い。

 大丈夫だとは思ってはいても、やはり、心配だったのだろう。

 

 エクス

 「俺はこんなとこじゃ、死なないさ!」

 

 エクスはティアを安心させるためか、殊更、自信たっぷりにいい放つ。

 

 エクス

 「さて、援軍もきた事だし、さっさと片付けるとしますか!」

 

 エクスは気合を入れ直し敵機に向かう。

 しかし、敵機は此方の援軍を探知したいたのだろう。

 既に、離脱行動に移っていた。

 

 カロン

 「なんだ!? 俺達は出番なしか?」

 

 グラム

 「良いじゃないですか。 隊長も無事だったんですから。」

 

 ティア

 「そうね。 出来れば人間同士で潰し合いはしたくないもんね。」

 

 エクス

 「そうだな。 俺達の敵はあくまでBETAどもだ。 人間じゃない。 何かしらの対策は必要かもしれないがな。 よし、帰投しよう。」

 

◆◆◆◆◆

 

 どうやら、追って来ないようだ。

 見逃してくれるらしい。

 

 レオン

 「手も足も出なかった…」

 

 レオンの言う通りだ。

 俺達はたった1機相手に12機で事に当たり、目的である鹵獲するどころか、ダメージらしいダメージすら与える事が出来無かった上に、大破5、中破3、小破1と被害甚大だ。

 

 キース

 「コマンドポスト、聞こえるか? 作戦は失敗。 これより、帰還する。 なお、ベイルアウトした奴等の救助・回収を頼む。」

 

 『コマンドポスト、了解。 帰還後、直ちに司令部に出頭せよ。』

 

 キース

 「了解。」

 

 まさか、失敗するとは思ってなかったんだろうな。

 コマンドポストの声に焦りが出ていた。

 俺も失敗するとは思ってなかったが、相手が悪すぎた。

 正直、あれほどまでの差があるとは、ここにいる誰もが思っていなかった筈だ。

 出来れば、2度と相手をしたくない所だな…

 

◆◆◆◆◆

 

 ヴォーパル

 「さて、このまま捨て置く訳にもいくまい。」

 

 エクス

 「抗議したって、俺達からじゃあんまり効果ないと思うぜ。 艦長。」

 

 マクェクスは高々、中隊規模(デストロイドも含めれば大隊規模だが)の1部隊に過ぎない。

 主権国家が、ましてや、大国アメリカがそんな1部隊の抗議をまともに取り合う事はないだろう。

 ましてや、アメリカだと言う確たる証拠もない。

 ユウヤ・ブリッジスとの会話ログは残っているが、そんな人物はいない、と言われたらそれまでだ。 

 

 クラウ

 「しかし、このままでは、いずれまた襲撃があるのでは?」

 

 ティア

 「多分、あるわね。 下手したらバルキリーを鹵獲出来るまで続くかも。」

 

 エクス

 「あぁ、めんどくせぇ! そんなに欲しけりゃくれてやりゃぁいいだろ!」

 

 唯依

 「しかし、これ以上、アメリカとの戦力・技術に差がついたら、アメリカの一国支配になって…」

 

 唯依の懸念も当然だろう。

 これ以上差がつけば、その発言力は更に増大し、アメリカ以外の土地でのG弾による、焦土化作戦を強行しかねない。

 

 エクス

 「別に、全部くれてやるわけじゃないさ。 バルキリーの機体設計だけのデータをくれてやればいい。」

 

 ヴォーパル

 「なるほど… そう言う事か。」

 

 機体設計だけのデータ。

 これが、どういう事かと言うと、動力となる熱核タービンエンジンはおろか、ガンポットやマイクロミサイルと言った武装、オプションパックのデータが無いと言うことだ。

 熱核タービンエンジンの高出力が無ければ、ピンポイントバリアは勿論、エネルギー転換装甲すら使用不可だし、高威力のガトリングガンポットや高誘導性能のマイクロミサイル、ハイマニューバミサイルも造れない。

 オプションパックによる、性能の底上げも無理である。

 

 クラウ

 「機体情報を囮にすると言う事ですか。」

 

 ティア

 「確かに食い付くでしょうね。」

 

 エクス

 「だろ? アメリカがそのオモチャ食い付いて遊んでいるうちに日本に頑張って貰って、日本帝国製のバルキリーを完成させる。 そうすれば、後から完成した日本製バルキリーの情報が漏れても、技術差は大分、埋るだろ。」

 

 この日を境にバルキリーの機体情報が世界各地にばら蒔かれたのだが、この情報を元に造られた戦術気が活躍するのは、まだ、先の事になるだろう。

 




 第9話、如何だったでしょう?

 案の定、ユウヤ達はボコられました。
 いくら数的有利があっても空中戦でバルキリーに勝つのは至難の業ですかね。
 
 最後にバルキリーの情報が世界にばら蒔かれました。
 今後、世界中で派生機が開発されるでしょうが、どの様な機体にするか、全く考えてません(汗)
 どうしよう……

 感想や意見、評価等がありましたら、宜しくお願いします。
 
 では、また次回で。

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