第一次深海大戦   作:夜間飛行

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前置きがかなり長くなってしまいました。いよいよ今回から物語が始まります。


事件

1945年4月24日

横須賀鎮守府

いつもと何ら変わらない静かな朝だった。総員起こしのラッパが鳴り響き、鎮守府全体が活動し始める。

【食堂】

A.M.6:00

長門「北上と大井、瑞鶴と加賀を一緒に組ませるか。あとは・・・」

陸奥「ご飯の時ぐらい仕事のこと考えるのやめたら?」

 

比叡「お姉様、今日はどんな予定ですか」

金剛「午後から演習デース!」

榛名「・・・」

金剛「Oh,榛名どうしたネー。全然ご飯食べてないデスネー?調子悪いんデスカー?」

榛名「いいえそういうわけではありません。ただ昨日夢を見てしまって・・・。」

金剛「Dream?」

榛名「暗い海の中を私と金剛お姉様が進んでいたら、お姉様がいつの間にかいなくなるんです。探していたら、足元に金剛お姉様のカチューシャが流れてきて私一人が孤独になるという夢です。私、前世(あの時)みたいに1人になってしまうんじゃないかって・・・。」

金剛「No problem 榛名。榛名の周りには誰がイマスカ?」

榛名「金剛お姉様、比叡お姉様、霧島」

比叡「それに他のみんなも」

霧島「榛名お姉様は1人なんかじゃありませんよ?」

金剛「もう二度と可愛い妹を1人になんてさせないデース!」

榛名「ありがとうございます。榛名はもう1人なんかじゃありません!」

 

食事の時間は終わり、それぞれの勤務が始まる。

 

P.M.2:25

 訓練場に摩耶、金剛、あきつ丸、日向、長門、陸奥の6人の艦娘がいた。その内摩耶と金剛は演習の準備、日向は提督への報告、あきつ丸は甘味処間宮へ、長門と陸奥は演習の見物をしにきたなど、ここへきた理由は皆それぞれであった。報告に向かっていた摩耶はふと空を見上げた。

 

摩耶「一航戦か・・・」

 

そこには一航戦の艦載機が見事な陣形を成して飛んでいた。

 

摩耶「アタシもしかしたらあそこでとんでいたのかもしれないな。」

 

彼女は艦娘になる前に艦娘になろうか飛行士になろうか悩んだ時期がある。一度は飛行士に決め、訓練を修了したものの艦娘になる夢を捨てきれず、元々海が好きだったこともあり、艦娘への転属を希望した。艦娘の訓練は厳しいものであったが、苦痛ではなかった。何よりも海の上を滑るという感覚が楽しくてたまらなかった。こうして彼女は訓練を修了し現在に至っている。

 

金剛「Hey!アッキー!どこへ行くのデスカー?」

あきつ丸「間宮へ行くところであります!」

間宮へ向かうあきつ丸は艦ではあるが所属は一応陸軍となっている。彼女は艦娘になる前は戦車兵で、支那戦線で戦っていた。そこに陸軍で揚陸艦を建造するという計画が持ち上がり、彼女に辞令が下った。そして1945年3月に彼女は艦娘となった。

 

見物に来ていた長門、陸奥は今後の作戦行動と練度について話し合っていた。

 

陸奥「FS作戦がじきに開始されるけどその辺はどうするの?」

長門「今、今度新たに編成される第五遊撃部隊の隊員を選定中だ。」

陸奥「候補は?」

長門「金剛、北上、大井、加賀、瑞鶴、そして吹雪を入れようかと思っている」

 

金剛と日向は艤装を装着し演習をする仲間を待っていた

金剛「Hey 日向!早く演習を終わらせてteatimeにスルネー!」

日向「静かにしてくれないか?だが、そうだな。瑞雲の手にかかればこんな演習すぐ終わらせてやる」

 

偶然訓練場にいた6人。だがそれは偶然ではなかったのかもしれない。突然空の雲行きが怪しくなる。

「何?雨?」

「あんな雲は見たことがないな」

雷鳴が聞こえてくると、各々が建物内に避難しようとした。その時特大の雷が訓練場に落ちた。鎮守府中が停電し、提督が

大淀に声をかけた。

提督「大丈夫か?大淀。今の雷はかなり近かったな。どの辺りに落ちた?」

大淀は雷が落ちる瞬間を目撃していた。そして口を開いた。

大淀「訓練場です!今あそこには金剛さん日向さん長門さん陸奥さん摩耶さんあきつ丸さんが!」

提督「何っ!?」

急いで訓練場に向かうと訓練場の施設は無事だったもののそこに6人の姿はなかった。その後、他の鎮守府からの応援部隊と共に鎮守府及び周辺海域の捜索が数週間にわたって行われたが何一つ見つからなかった。

この日長門、陸奥、金剛、日向、摩耶、あきつ丸、以上6名の艦娘は横須賀鎮守府から完全に消失したのであった。

この事件は「海軍戊事件」とされ、海軍の超重要機密事項となり、横須賀鎮守府及び捜索に参加した艦娘たちには箝口令が敷かれた。そしてこの日長門たちは出撃をしており、敵艦に撃沈されたということにされた。

後日、横須賀鎮守府では長門たちの葬儀が執り行われた。長門たちの棺が運び込まれる。その棺は異様に軽かった。棺にはそれぞれの名前が書かれた名札と重しの砲弾が入っているだけだった。提督の弔辞を述べた。

 

提督「・・・であった。長門型戦艦1番艦長門、長門型戦艦2番艦陸奥、金剛型戦艦1番艦金剛、伊勢型戦艦2番艦日向、愛宕型重巡洋艦3番艦摩耶、特種船丙型あきつ丸。以上6名は国家に命を捧げ自らの使命を全うし壮絶な戦死を遂げた!総員以上6名に敬礼!」

 

「捧げぇ銃っ!」

 

葬送のラッパが鳴り響き、棺がそれぞれ別々の内火艇へ運ばれる。出発してしばらく鎮守府の正面数百メートルのところで停船し、棺を海に沈める準備を始めた。艦娘の棺は名札の上の方を外に向けて沈められる。いつまでも敵を見据え、仲間を守れるように。

 

提督「沈めろ!」

 

弔砲が鳴り艦娘たちは一斉に敬礼をした。18発の弔砲と哀しい海鳥の鳴き声がこだました。

 

 

 

『兵を送りてかなしかり。戦地へ行く兵隊さんを見送って泣いてはいけないかしら。どうしても、涙が出て出て、だめなんだ、おゆるし下さい』 -太宰治『懶惰の歌留多』より


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