今回は日向・伊勢ペアと摩耶・鳥海ペアを中心に話を展開します。月の光の中で彼女たちはどんな話をするのだろかか。
夕食も済ませ、風呂にも入った。あとは寝るだけ。提督室では大淀と提督が今後の予定を話し合っていた。
提督「明日はゴーヤたちにオリョクルに行ってもらわなければ・・・赤城、加賀の件がまだ片付いてないからな。昨日まで3ヶ月ぐらい連続で行かせてたけれどまだ足りない。まだまだ頑張って貰わなければ・・・」
大淀「(ご愁傷様です・・・)」
潜水艦娘の部屋
ゴーヤ「・・・!?・・・何か悪寒がしたでち。」
ハチ「私も」
イク「イクも」
ニム「同じく」
イムヤ「まさか・・・!?」
しおい「また!?」
ロー「行かされるの!?」
全員「イヤァァァァ!!」
この日潜水艦娘の悲痛の叫びがこだました。
深夜。寝静まった鎮守府。摩耶が寝ているベッドに鳥海がやって来た。
鳥海「摩耶」
摩耶「・・・ん・・・何だよ、鳥海。用事があるんだったら明日にしてくんねぇか?」
鳥海「一緒に寝ても、いい、か、な・・・?」
摩耶「・・・は?」
鳥海「一緒に寝てもいいかな?」
摩耶「何で?」
鳥海「ほ、ほら、今日は一緒に寝たほうがいいような気がしたのよ」
摩耶「変な奴。ま、いいけどよ。」
ベッドに入る鳥海。しばらくして鳥海が話しかけた。
鳥海「摩耶。もしも明日、自分が
摩耶「アタシだったらそんな日が来ねぇように、演習をしっかりやって、練度を上げる」
鳥海「そうじゃなくて
摩耶「それでもアタシは練度を上げる。だってそうしねぇとみんなを守れねぇじゃねぇか。お前はその賢い頭でみんなを守れるが、アタシはバカだ。戦うことでしかみんなを守れねぇよ。」
鳥海「・・・」
摩耶「ただ、それでも
鳥海「ねぇ、私今すごく怖いの」
摩耶「何が?」
鳥海「あなたがいつか居なくなっちゃうんじゃないかってことがよ」
摩耶「大丈夫だよ。お前を残して死なねぇし、どっか行ったりもしねぇから心配すんなって。もう遅いしアタシは寝る。お前も早く寝ろ」
鳥海「うん、おやすみ」
鳥海は不安を消し去ることができなかった。摩耶がいつかどこか果てしなく遠い場所に行ってしまう。そしてそれが今生の別れになってしまう。そんなあり得ないと思うが底知れぬ不安を胸に抱えながら眠りについた。
埠頭で1人座る日向。彼女の目の前には全てを飲み込みそうな暗い海。灯りはなく美しい満月の光だけが彼女を照らしていた。
伊勢「何をしてるの、日向?」
日向「ん?ああ、眠れなくてな。そこら辺を歩き回ってたらここから見る満月が綺麗でな、見ていたところだ。伊勢はなぜここに?」
伊勢「起きたら日向がいないから、心配になって探してた」
日向「それは心配をかけたな。すまなかった」
伊勢「隣座ってもいい?うわぁ、本当に綺麗だね満月」
日向「なぁ、私たちは今こうやって月を眺めているが、先の大戦の人たちもこうやって月を眺めてたんだろうか?」
伊勢「どうしたの急に。」
日向「ふと思いついたひとりごとみたいなものだ」
伊勢「うーん、どうだろうね。でもきっと眺めていたと思うよ。だって月はたった一個しかないからね。世界中のみんなが同じ月を見てる。きっと兵士たちも故郷の家族とか恋人を思っていて、家族や恋人の方もそうしていたと思うよ」
日向はそう答える伊勢の横顔を見て少し微笑んだ。
日向「そういえば私の子供の頃の話をしたことはあったか?」
伊勢「無いよ」
日向「女学生の頃、民族みたいなのが好きでな、親から貰った小遣いを貯めてはそういう本をよく買いに行ってた。これはその頃読んだ本の内容なんだが、アジアの未開の密林の奥地に住むある部族は月のことを混沌とした世界を照らす神の手と考えているそうだ」
伊勢「だとしたらその神様は無能だよ。その神様はこんなに明るく照らしているのに世界は混沌としたままじゃない。全能の神様なら深海棲艦から海を取り戻すことぐらい簡単でしょ?」
日向「私はこう思うんだ。神は確かに正しい道を示してくれている。だけど、私たち人類がその道標の指示に従わないだけじゃないのか。今のこの状況はこれまで多くの罪を犯してきた人類に対する神からの天罰じゃないのかって」
伊勢「じゃあ、その神様からの天罰に逆らってる私たちはなんなんなの?」
日向「さあな。でもこれだけは言える。私たちがいなければ、人類はとっくに滅亡してる。私たちは戦うことを運命付けられている。みんなを守ることが私たちの使命なんだって。」
伊勢「・・・」
日向「・・・」
若干の沈黙。海の音だけが静かに聞こえる。後ろから声が聞こえ沈黙が破られる。
憲兵「お前たち、こんなところで何してる?もうとっくに消灯時間は過ぎてるぞ。早く部屋に戻って寝ろ。」
伊勢「あっごめんなさい!すぐ戻ります!日向急ぐよ!」
日向「ああ、わかった」
急いで走り去っている伊勢と日向。憲兵はその後ろ姿を見ていた。
憲兵「戦う運命か・・・」
憲兵は自分でも聞き取れないぐらい小さな声でそう呟いた。
『戦いは相手次第、生き様は自分次第』 ー小野田寛郎