第一次深海大戦   作:夜間飛行

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今回は艦娘たちのもともといた時代が舞台となっています。吹雪が覚えた違和感とは?


Welcome to the war to end all wars
歴史学講義


1945年4月23日

横須賀鎮守府

この日の鎮守府は様子が違った。やたらと静かなのだ。いつもはうるさい工廠も静まり返っている。外を出歩いている艦娘もいない。間宮も伊良湖も鳳翔も臨時休業している。提督室にも誰もいない。

 

それもそのはず今日は深海棲艦の日。深海棲艦について学習する日なのだ。

 

これは世界中どこの陸海軍でもそうしている。なぜ今日が深海棲艦の日なのかというと、初めて深海棲艦の攻撃を受けたといわれる1900年の謎の爆沈の日付は文献によりまちまちで原因もただの事故とする学者もいる。

 

翌年の4月23日に受けた攻撃が一番日付と原因がはっきりしているからだ。これにより4月23日を深海棲艦の日にしようと世界で決まっている。

 

この日は全員講堂に集まり、今は深海棲艦と人類の戦い歴史について勉強をしている。講師は提督だ。

 

提督「深海棲艦の人類への攻撃はこの本では1900年12月31日にイギリスの貨物船サウサンプトン号が受けた攻撃が初めてだとしている。では吹雪。我々帝国海軍の前に初めて深海棲艦が姿を現したのはいつのことか?」

 

吹雪「はい。公式では1901年6月1日の龍翔丸への攻撃が初めてだと言われてますが、非公式ですと同年3月21日の天虎丸への攻撃が初めてです」

 

提督「そうだ。では、夕立。」

 

夕立「ぽい!」

 

提督「この『深海棲艦』という名前をつけたのは誰か答えてみろ。」

 

夕立「えーと・・・わからないっぽいぃぃ・・・」

 

提督「これはさっき教えたはずだぞ?あの時飢えた狼のように聞いていればわかる問題だ」

 

足柄のような言い方をする提督。

 

提督「『深海棲艦』という名前をつけたのは当時の海軍大臣山本権兵衛中将だ。わかったか?覚えとけよ?」

 

夕立「ぽい」

 

提督「今我々が学んでいる第一次深海大戦はそれまで人類が経験してきた戦争とは大きく異なった。何がそれまでと異なったか。それは第一次深海大戦が人類が初めて経験する国家総力戦の様相を呈したことだ。長門。国家総力戦とはなんだ?」

 

長門「国家総力戦とは国家が国力の全て、つまり軍事力、経済力、科学力、技術力、政治力、思想面の力を戦時体制で運用して争う形態のことです。」

 

提督「国家総力戦の特徴は?」

 

長門「その勝敗が国家の存亡に直結するため途上で終結させることが困難なことと市民生活にまで影響が及ぶことです。」

 

提督「完璧だ。さすが長門。」

 

長門「勿体なきお言葉です」

 

提督「では次は兵器の話をしよう。戦争では起こる度に新兵器が登場してきた。では第一次深海大戦ではどんな新兵器が登場したか。誰でもいいから答えてみろ」

 

那智「戦車」

 

睦月「飛行機です」

 

電「機関銃なのです」

 

加賀「毒ガス」

 

提督「その通り。あとは迫撃砲、火炎放射器、潜水艦とかだな。初めて戦車が使われたのは1916年7月1日から同年11月18日まで行われたソンムの戦いだが、ではその使われた車種は答えれるか?」

 

あきつ丸「マークI戦車であります!」

 

提督「陸軍のお前には愚問だったかな?この戦車が登場したことによって地上戦は新たな時代を迎えた。次は毒ガスについてだ。第一次大戦で初めて使われた毒ガスは『チクロンB』で、使用された場所はベルギーのラーフェンシュタール村だ。開発者はフリッツ・ハーバー博士だ。そして・・・」

 

数時間後

 

提督「以上で今回の講義を終了する。」

 

金剛「あぁ〜、やっと終わったデスネー」

 

霧島「お姉様、だらしが無さ過ぎますよ?」

 

金剛「今回の講義は難し過ぎマース!だいたい何デスカ国家総力戦の日本における歴史的意味合いって!?」

 

榛名「国家総力戦のナントカについては仕方ありませんが、他のこともあまり私たち3人と大差ありませんでしたね、お姉様。」

 

比叡「英国生まれですから欧州のことは私たちよりもご存知だと思ってました」

 

金剛「英国生まれデスケド大戦前デスネ。それで完成したらスグニ日本に送られマシタカラ。」

 

各々艦娘たちは帰り始めた。

 

最上「第一次大戦は陸戦が中心だったからね。あきつ丸にとっては簡単だったんじゃないの?」

 

あきつ丸「そうでありますな。基本的なことはほとんど士官学校でならったことばかりでしたな。」

 

赤城「間宮にでも行きますか、加賀さん」

 

加賀「そうしましょう、赤城さん」

 

提督「赤城と加賀はこの前のボーキサイトの異常消費の件で1ヶ月間宮禁止になっただろ。破ったら1ヶ月延ばすとも言ったはずだが?」

 

赤城・加賀「・・・」

 

吹雪「私もそろそろ帰ろうかな。あっ」

 

バサッ

 

吹雪は教科書を落とした。

 

吹雪「ん?」

 

吹雪は偶然開いたページの1枚の写真に注目した。それはイタリア戦線に参戦する部隊を捉えた写真だった。どこだか分からないが違和感を覚えた。

 

吹雪「なんだろう。うーん。ま、いいか!さぁ支度支度。」

 

睦月「吹雪ちゃん!早く行くよ!」

 

吹雪「待って!今行くよ!」

 

教科書を閉じ、吹雪は睦月と夕立のもとに向かっていった。

 

この日は深海棲艦の攻撃もなく、それぞれがそれぞれの1日を過ごしていった。

 

 

 

『歴史ーー大抵は悪党である支配者と、大抵は愚か者である兵士によって引き起こされる、主として取るに足らぬ出来事に関する、大抵は嘘の記述』 ーアンブローズ・ビアス『悪魔の辞典』より


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