がっこうぐらし

そこで起きた出来事は彼女達だけが味わった事なんかじゃない。惨劇なんて何処にでもあった。


いわゆるモブ目線の話です。

たまに学園生活部の娘達でも書きます。




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『もし最後に誰かに逢えるなら誰に逢いたい?』


十字架の塔

その日は何時もの何でもない日常だったんだ。

 

「それでさぁ、由紀ったらウケるんだよ!注意された途端にまた、グーって寝てんの!」

 

「ふーん。よっぽど眠かったのかな?その由紀ちゃんって子は」

 

僕達がいるのは少し丘の上にある十字架の塔と呼ばれる建物が建っている広場だ。巡々丘市内ではこういった場所は珍しくない。あっちこっちに十字架や慰霊碑のようなモノが設置されている広場、公園がある。霊園だって少なくないのだ。僕達は、毎週土曜か日曜にこの場所に来ては今週あった事や、面白かった事とか、とにかくここで何か話すのを習慣にしている。

 

「いやぁ、でも休み時間は元気だからなぁ。だからこそかもしれないけど。でも、たまに他のクラスの娘に馬鹿にされたのか落ち込んでる時はあったりするんだよね」

 

「どんな子なの?」

 

僕達が毎週必ずここで話すのには理由があったりする。彼女、柚村 貴衣(ゆずむら きい)の親類が昔あった大災害で亡くなり、此処で眠っているらしい。彼女は小学校の頃にその話を聞いてから毎週、外せない用事や行事がある時以外は必ず訪れるそうだ。なんでも、自分(子孫)の元気な姿を見せて安心して欲しいのだとか。

 

「んー、一言で言うなら子供っぽい!かな」

 

「なるほど」

 

「でもね、由紀って数学とか国語はあまり得意じゃないんだけどさ、地理とか社会、後音楽とかは他の人よりもずっと得意なのよ。音楽はもしかしたら絶対音感とか持ってるのかもって思うくらいに」

 

「仲良しなんだね」

 

「うん。あの高校で私の初めての友達だから」

 

「そうなの?」

 

それは初耳だ。彼女の友達だから知らなくて当然とか人によってはあるかもだけど、僕は知りたかったかも。って、なんかキモイな。

 

「ほら、私って首にチョーカーしてるじゃん?」

 

「そうだね。似合ってるよ」

 

「あ、ありがと。ってそうじゃなくて!」

 

彼女の首に着けてるチョーカーは決してオシャレで着けてる訳ではない。あのチョーカーは中学生の頃に亡くなった祖母に買って貰ったものだと。それで毎日身に着けてるのは、着けてると時々亡くなった祖母の温もりや思い出を思い出せるからだそうだ。まぁ、この話でも分かるかもだけど彼女は割とこういった事を信じやすい。それは悪い事じゃないし、むしろ先祖を大事にしてるんだって誇りに思ってもいいくらいだ。って僕は個人的には思う。でも、周りからしたらそうじゃないのだろう。

 

「私が学校に入学したばっかの頃は、このチョーカー着けてたのと、チョットしたオシャレのつもりで今のような赤いメッシュ入れてたからそれもあって、不良だー。って周りから敬遠されがちだったんだよね。後、チョーカー着けてる理由でも知られたら引かれちゃったし」

 

「・・・うん」

 

「でも、そんな時一番最初に話しかけて来てくれたのが由紀なんだ。『これ、教えて!』って。しかも、その時の問題が中学生の頃にやったような漢字の問題で、悪気は無かったんだけど、つい吹いちゃってさ。そしたら『もぉー、ひどいよぉー』ってそれが可愛いくてさ。」

 

「そうだったんだ」

 

「うん。で、それからは由紀をキッカケにクラスメイトが話しかけてくれるようになってさ。もし、由紀があの時話しかけてくれなかったら私、未だにボッチの不良モドキだったのかもね。本当に由紀には感謝してるよ」

 

なるほど。由紀ちゃんがいなければ今の彼女はいないという訳か。これは僕も由紀ちゃんには感謝だな。ん?

 

「貴依、時間過ぎてるよ」

 

「え、あ、ホントだ」

 

今日は僕達二人共用事がある。その為に四時には帰らないといけなかったのだが、今は4時半。

 

「それじゃ、もう行くね。また来週も来るからさ」

 

「同じく。また来週も来ます」

 

「じゃ、行こっか」

 

「うん」

 

 

 

それからは、僕達は駅前まで二人で歩いた。二人共用事は市外だったからだ。その日は日曜だった。だから

 

「じゃ、また明日ね」

 

「うん。また明日」

 

そう言って別れた。

 

 

 

 

 

また明日なんて日はもう来ないとも知らずに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日から一週間。『コレ』が起こってからは六日が過ぎている。『コレ』が起こった日は僕は熱を出してしまい、学校には行かず家で寝ていた。だから巻き込まれていなかった。僕が『コレ』を知った時は午後四時を過ぎていた。

 

貴依が心配だった。でも、迎えに行こうと思った時に親が帰ってきて、家から出るなと言って部屋に入れられた。これはあの時行かなかった事に対しての言い訳だ。

 

 

それから、その日の夜七時くらいに電話が掛かってきた。相手は貴依だった。

 

 

 

『おい、貴依無事なの!?大丈夫!?』

 

『・・・うん、大丈夫。藍輝(あいき)は?』

 

『僕は家に居たから問題無いよ。それより貴依は大丈夫なの?避難できた?』

 

『・・・・・』

 

『貴依?』

 

『ねぇ、藍輝』

 

『何、どうしたの?』

 

『待ち合わせ』

 

『え?』

 

『待ち合わせしようよ。あの広場でさ』

 

『いや、それより避難した方が』

 

『ねぇ、知ってる?』

 

『・・・・・何を?』

 

『あの広場にある十字架の塔ってさ、言い伝えがあるんだよね。逢いたい人に逢えるっていうさ。だから・・・あそこで日曜日にまた逢おう?』

 

『何・・・・言ってるんだよ。たか』

 

『・・・それじゃあ、もう、切るね。私、眠いや』

 

『貴依?おい貴依!』

 

『おやすみ、藍輝。またあの十字架の前で逢お、、、』

 

ブーッ、ブーッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後からは、彼女から連絡が来る事も無かったし、連絡が通じた事も無かった。三日後に待ちきれずに家を飛び出し学校に向かった。途中何度か噛まれかけたが、運良く助かった。学校に着いてからは、一日以上かけて彼女を探したけど見つける事は出来なかった。彼女の教室にも向かったがあったのは大量の夥しい血と彼女の机の上に置かれていたチョーカーだけだ。彼女が無事だと信じて僕はそのチョーカーを持っていく事にした。彼女との待ち合わせを思い出したからだ。

 

 

そして

 

 

 

 

今が『コレ』が起こった日から六日後。待ち合わせの最初の日曜日だ。

 

今、僕はあの十字架の塔の下にいる。ここには何故か『奴ら』がいないから安心して休める。後は彼女を待つだけだな。あぁ、そう言えば、貴依覚え違いしてたな。

 

十字架の塔の言い伝えは実は僕も知っていた。前に祖父に聞かされたからだ。ここは、逢いたい人に逢える場所ではない。正確には

 

 

『もう逢えなくなった人に逢える場所』

 

 

「だったよね。間違えてたでしょ貴依?」

 

「・・・・・・・」

 

「しかし、まさか一週目の日曜に逢えるなんてね。僕はもうちょっと掛かると思ってたけど。これもこの十字架の塔のおかげかな」

 

「・・・・・・・」

 

あぁ、そう言えば

 

「僕さ、ここに来る前に奴らに足やられちゃってさ、上手く歩けそうに無いんだよね。だから申し訳無いけど貴依から来てくれない?」

 

ざっ、ざっ、

 

彼女は僕に歩み寄って来てくれた。

 

ざっ、ざっ、

 

さっきから意識が朦朧とする。

 

ざっ、ざっ、

 

もしかしたら僕も『奴ら』になるんだろうか。

 

ざっ、ざっ、

 

それも、いいかもしれない。だって

 

「・・・・ヴウゥゥ」

 

彼女と同じになれるのだから。

 

ざっ、ざっ、

 

彼女が僕の前に辿り着いて屈んできた。

 

「あーあ、貴依、髪荒れてるじゃん。こんなに真っ赤にしちゃってさ」

 

左手で、彼女の頭を撫でる。それと同時に胸に何かが突き刺さったような痛みを感じる。

 

「そうだ。チョーカーだけどさ、スカートのポケットに入れとくよ。首に付けてあげたいけど腕が上手く上がらなくてさ。ゴメンネ?」

 

もう、両腕とも自由が効かない。脚も動かない。これは詰みだろう。

 

「ホントは、僕は貴依の分まで必死に生きるって頑張らないといけないのかもね」

 

胸に飽きたのか、今度は腕を食べてる。

 

「でも、僕ってば駄目な奴だからさ、貴依がいない世界で生きてくとか、とても無理だったからさ」

 

生きるだけだったら、無理せずに家に居ておけば良かったのだ。あの電話で彼女がどうなったかくらいは察せられたのだから。でも、そうはしなかった。

 

「それに、貴依割と寂しがり屋じゃん。そんな貴依を置いて過ごせる訳無いって」

 

とりあえず、彼女を見つけよう。そう思って無理して探しまくったりしたり、ここまで来た結果が今だ。

 

ところで

 

「不思議だな。なんで胸食い破られてるのにこんなに喋れるんだろう?」

 

これも人体の神秘なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いや、馬鹿か?』

 

「え?」

 

 

それは、懐かしい声だった。でも前から聴こえたんじゃなくて、後ろからの声だ。

 

『いやいや、察しろよ』

 

察し?

 

・・・・・・あぁ

 

「そういう事ね」

 

『そういう事』

 

「でも、良かった。貴依に逢えて」

 

『来るのも、逢うのも私が思ってたより大分早いんですけどね』

 

「まぁまぁ、それだけ貴依への愛があるって事で」

 

『はいはい。それじゃ、行こっか?』

 

 

「どこへ?」

 

『何処へでも。私達は何処へでも行けるよ』

 

「そっか」

 

『そう』

 

「そんじゃ、はい」

 

『ん、何よその手?』

 

「今度はもう離れないように繋いどこうかと」

 

『・・・・・もう、離れないよ』

 

 

そう言って彼女は僕と手を繋いでくれた。

 

 

 

 




夜に懐かしい曲を聴いてつい書いてしまった。

反省はしている。後悔はしていない。

ついでに自分は十年程前に亡くなった、散々喧嘩した婆さんに逢いたいです。


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