泣き笑い   作:雨築 白良

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試験、玖

 

 

 残りの試験が後二つだと告げられた瞬間、受験生達の間に緊迫感が走ったのを感じた。

 あともう一息だと言われたも同然で、そこで気を抜かずに引き締める辺り、流石難関といわれるハンター試験にここまで残ってきた人達だと思う。

 逆にまだ試験が続くのだと、憂鬱になった僕であったから余計にだ。

 

 先の試験での試験官だったらしい男の指示で、箱に入ったカードを一枚引く。

 装飾も何もない、ただシンプルな紙には三桁の数字。それを数秒見つめて記憶し、とりあえず覚えたのは良いものの、どういうことか理解できないまま男の説明に耳を傾けた。

 カードに書いてあった数字のプレートを獲れば三点、自分のプレートも三点。それ以外のプレートは一点。

 期間中に六点を集めて所持しておくことが合格条件、であるらしい。

 狩るものと狩られるもの、といっていたのはこれの事かと頷きつつ、自分のターゲットとやらは誰だろうと周囲を見回した。

 そうして困って首を傾げる。

 

 僕が周りを見回して誰が対象なのか確認しようとした頃には、既に殆どの人がナンバープレートを付けていなかった。

 ぼうっとしていて気づいていなかっただけで、実は誰かに回収されたのかとか、もしかして試験がもう始まっていたりするのだろうかと驚いて焦ってしまいそうになったけれど、周りの様子にそうでないと直ぐに気づいて息を吐く。

 試験開始までは二時間程、島へ向かう船が辿り着いてからのことらしい。それまでは休憩時間ということで、各自が思うがままに休息を取っている。

 とはいっても、こんなに殺伐と警戒し合っている状態で身体が休まるかといえば別問題なのだろうけども。

 

 ちらほらとプレートを胸に付けたままの人がいることも確認して、僕はどうしようかと視線を巡らす。

 全体的に隠している受験生の方が多いようだったから、それに倣って一度付けていたプレートを外すと、衣装の垂れている布の裏側に見えづらいようにして付け直した。

 

 二時間を与えられても、特にすることもない。

 余りにも暇で気の向くままに船を探検しつつ歩いていれば、丁度こちらに歩いてきた銀髪の少年と鉢合わせて少し微妙な顔をされる。

 本気で嫌がっているような様子ではなく、冗談めかした態度で、思いがけず会ってしまったと言わんばかりの表現をされた。

 いや、口にも出されたのかもしれない。

 

「おっす、……なんでここにいんの?」

 

 何でと問われても適当に歩いてきただけで、特に理由はない。

 僕という存在はそこまで怪しくみられるのだろうかと不思議に思いつつそう言えば、そういうつもりで言った訳では無かったのだと、きまり悪い様子で目を逸らされた。

 そして何かに気づいたのかそれとも思い出したのか、小さく声を上げて僕を見る。

 

「そう言えばフーラってヒソカと知り合いなんだろ? 良かったらゴンにアドバイスとかやってくれねーか」

「ゴン坊ちゃんに?」

 

 どうしてだろうと首を傾げて問いかければ、さっき引いたくじ引きでゴン坊ちゃんが、あろうことかヒソカの番号を引いてしまったらしい。

 難しい分やりがいはあるようで、集中し始めてきたのを邪魔しないように立ち去ったところを僕と顔を合わせてしまったのだと。

 丁度良かったから、と前置きをおいて話すキルア坊ちゃんに『友達思いだね』と何処かで聞いた言葉を掛ければ、再び何とも言えない微妙な顔をされる。

 今度の顔は、色々な感情が混ざって複雑で、何を思っているのかを見て取れない表情だった。それでもそっぽを向きつつ言葉を濁し、言い捨てるように言葉を落として去っていく後姿を僕は眺める。

 

 死ぬには惜しいだろ。

 

 言い訳のように残したその言葉は、彼のどんな気持ちで吐き出されたものか。

 見事ヒソカのお気に入りと登録された坊ちゃん方が殺されるようなことはまだ、間違ってもないと思うから心配なんて要らないのだけど。

 それが誰かと懇意になるということなのだろうか。

 思春期で遊びたい盛りの子どもは友達を作りたいと思うものらしいし、あの様子ではキルア坊ちゃんも友達になりたいと願っているんじゃなかろうかと考える。

 

「あれ、そういえば友達ってどうやって作るんだろ…」

 

 ぽつり、考えながらふと思った疑問を口にして小さくうめく。

 同年代の友達とか遊び相手とか思いやりとか相互の理解とか心の壁とか、そういう単語はいくらでも説明されているしいくらでも文章として書かれていたが、肝心のそれが説明されていなかったことを思い出した。

 ヒソカに聞いたことや、今までのサーカスで見てきたことを振り返ってつなぎ合わせてみても、前後は憶えているのに重要な間が良くわからない。

 そう考えると、実はこれって結構難しいことなのかもしれないと思えてきた。

 

 まぁ、それはいいのだ、僕には関係のない事なのだから。

 知らないことは出来ないし、彼等がどうなろうともどうでも良い。

 だが感情が変化していく様子を見れたことは有益であるし、頼まれてしまったからには僕の出来ることをやろうと、キルア坊ちゃんが出てきた方へと足を進め、受験生達の中でも小柄な身体を探して目を向ける。

 

 はたして、探していたゴン坊ちゃんの姿は直ぐに見つかった。

 船の壁に沿うようにして座り込んだ釣り竿を持った少年なんて、軽く見回しただけで直ぐに気付く。

 どうやって声を掛けようかと少し悩みながら近づけば、僕に気が付いたゴン坊ちゃんの方から声を掛けて来た。

 

「あれ、フーラ仮面は取り返せたんだね」

「うん。化粧も取れかけてたからねー、直ぐに返して貰えたから良かったかなぁ」

 

 本当に何で一度は取り上げられたのか。

 恐らくは多少の思惑と思い立った気まぐれが大部分だったのだろうけど、それなりに長年付き合いがある僕からしてもアイツはちょっと良くわからない。

 行動に規則性があまり無い割に、執着することにはとことん執着するし、かといって急に飽きて捨てることもあるし。

 奇をてらうけれど根っこは堅実、いややっぱり良くわからない。

 

「さっきキルア坊ちゃんに会ったら助言してやれーって言われたけど、ヒソカの番号引いたんだって?」

「オレ頑張るよっ」

「いやまぁ、胸を借りる気持ちで思うようにやればいいと思うけど」

 

 別に止めるわけでも説得をしに来たわけでもないのだ。

 助言といわれても特に言えることは余り無いし、下手に緊張しすぎてやらかして、ヒソカが不機嫌になることがあったら困ると様子を見に来た程度のものなのだから。

 

「それにしても……ヒソカ、かぁ」

 

 思わずため息混じりに呟けば、正面を見つめていた彼の目が僕に向けられて、意外そうな声が上がる。

 

「フーラでも難しいの?」

「そりゃ僕だってアイツを相手にするのは嫌だよ」

 

 相手が誰であったとしても、戦闘や殺し合いは苦手なのだけど。

 多分、ゴン坊ちゃんやキルア坊ちゃんと戦うことになったとしても僕が負けるのだろうと思う。二人とも僕の知らないような動きをするし。

 クラピカ坊ちゃんは良くわからない、単純な身体能力でいえばどっこいどっこいだろうか。レオリオの旦那ならもしかしたらどうになかるかもしれないけど、体格だったら確実に負ける。

 そもそも僕はヒソカみたいな戦闘狂でも無いし、戦闘は専門じゃないのだ。

 襲われるようなことこそ数多くあれど、それも職業柄鍛えられた身体能力にものをいわせて避けているばかりだし、実は人を殴ったことも無い。

 一応は保護者であるアイツと比べてみれば、なんて温和なことか。

 と、脳裏で最後にあったヒソカの姿を思い出して、一つだけ教えられることが有ったのだと口を開いた。

 

「あー、そういえばトリックタワーでヒソカってば怪我してたよ」

 

 左肩。見たところ刃物を受け止めた痕だったような気がする。

 やろうと思えばあんな傷もつかなかっただろうに、妙な所で気が長いのか何なのか、ある程度までは自らに枷を作って遊ぶのだから意地が悪い。

 

 嗚呼ヒソカの性格の悪さはどうでも良いのだ。

 僕が上げたのは今アイツが怪我をしていて、遊びの延長線上と認識しているが故に油断があるということ。

 身体能力が少しばかり恵まれているだけで正面から戦うなんて出来る筈もない僕からすれば、そこを突かない方がおかしいくらいの隙。

 ヒソカからプレートを奪おうというのだから、普通の方法じゃあ難しい。

 

 周りから指示を受けて大人しくその通りにするような子どもでは無いだろうと、役に立つかもわからない情報も落としたし、さっさと立ち去ることにする。

 離れながら振り返って見た様子は真剣で、人間は本気で考えている時にはこうなるのかと、小さく頷いた。

 

「まぁ、僕がやっても滑稽だよなぁ」

 

 





 今回は書きながら、ものすっごい平和だなぁと思った回。
 コミュ障は友達の作り方に悩むものです。…え、私だけじゃないですよね?

 くじ引きについては敢えて原作に関係する人にしようかなーと思っていたのですが、スマホのアプリでくじを作って、実際に引いて決めました。
 狩る人も狩られる人も。
 結果については……うん、これはきっと運命だったのです。
 未来は初めっから決まっているから大丈夫ですよ。

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