創世機神デウスマキナ   作:黄金馬鹿

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説明回


Chapter1.8

 部屋に入ると、中はかなり広く、扉とは反対方面の壁には巨大なスクリーンがあり、そこには小難しい情報が羅列されており、正しくここが本拠地だと言わんばかりの雰囲気があった。

 扉の上に貼ってあるパネルには、指令室と無機質な文字が書いてあり、結構親切だった。中ではジョンが一人、扉からかなり近い所にあるデスクの椅子に座っていた。同じ高さに他のデスクが無いのを見るに、やはりジョンの立場はかなり上の方なのだと分かった。そんなジョンは二人の視線に気が付いたのか、振り返り、二人を確認すると立ち上がった。

 

「おや、来ましたね」

「あ、はい……その、遅れてごめんなさい」

「いいんですよ。ここはズヴェーリが出ない限りはそこまで厳しくありませんから」

 

 ジョンの言葉を聞いて、下の方を見下ろすと、そこでは二人のインカムを着けた職員の二人が携帯を見たり本を読んだり、結構リラックスして座っていた。

 確かに、そこまで厳しくなく、結構楽な職場のようだ。確かにすれ違った職員たちは皆、そこまで疲労が溜まったような表情はしていなかった。

 

「さて……東雲君。まず、君には一つ聞いておかないといけない事があります」

「聞かなきゃならない事?」

 

 ジョンの問 部屋に入ると、中はかなり広く、扉とは反対方面の壁には巨大なスクリーンがあり、そこには小難しい情報が羅列されており、正しくここが本拠地だと言わんばかりの雰囲気があった。

 扉の上に貼ってあるパネルには、指令室と無機質な文字が書いてあり、結構親切だった。中ではジョンが一人、扉からかなり近い所にあるデスクの椅子に座っていた。同じ高さに他のデスクが無いのを見るに、やはりジョンの立場はかなり上の方なのだと分かった。そんなジョンは二人の視線に気が付いたのか、振り返り、二人を確認すると立ち上がった。

 

「おや、来ましたね」

「あ、はい……その、遅れてごめんなさい」

「いいんですよ。ここはズヴェーリが出ない限りはそこまで厳しくありませんから」

 

 ジョンの言葉を聞いて、下の方を見下ろすと、そこでは二人のインカムを着けた職員の二人が携帯を見たり本を読んだり、結構リラックスして座っていた。

 確かに、そこまで厳しくなく、結構楽な職場のようだ。確かにすれ違った職員たちは皆、そこまで疲労が溜まったような表情はしていなかった。

 

「さて……東雲君。まず、君には一つ聞いておかないといけない事があります」

「聞かなきゃならない事?」

 

 ジョンの問いをおうむ返しで有希は確認する。ジョンはその言葉を聞いて一回頷いた。

 ジョンは一泊置いて本命の質問を口にした。

 

「デウスマキナでズヴェーリと戦う事。それは、自らの命を散らせる可能性が大いにある事です。君は、命を懸けて戦う意思は、決意はありますか?」

 

 ジョンの問いは、至極真っ当な物であり、一番必要な物であった。

 有希は昨日、二度も感じた。ズヴェーリとの命のやりとりを。二度目はジョン達の不手際故に起こってしまった戦いではあったが、それでも有希に戦いは命を失う恐れのある物だという物を肝に銘じさせるには十分な物だった。

 

「……無い、って言ったら」

「その時は、デウスマキナの事は口外しない事を約束してもらって、何時もの日常に戻ってもらいます」

「あ、結構優しいんですね」

「まぁ、本人がやりたくないと言っているんです。私たちはその意思を尊重しますよ」

 

 ジョンの言葉に有希は安心し、確信した。この人たちなら、信用できると。この人達の指示ならきっと、非道な事を命令はしないだろうと。

 

「……戦います。ビヨンドホープと一緒に、朱里を守るために!」

「有希……」

「……わかりました。しかし、東雲君の行動や精神状態次第ではビヨンドホープから降りてもらう可能性もあります。それは了承しておいてください」

「はい!」

 

 その心に恐怖は無かった。ただ、あるのは親友である朱里を守るという心のみ。三年前のあの時から朱里にはいつも助けてもらっていた。だから、今度は朱里を助ける側に回りたい。誰にも真似出来ない、ビヨンドホープに乗るという行為で朱里を守りたい。

 その意思をジョンはしっかりと受け止めた。しっかりと警告はした。なら、後はこちらが最善を尽くしていくだけだ。

 ジョンは有希の言葉に頷いて、ここからが本番だと言わんばかりに、咳払いをした。

 

「では、東雲君がビヨンドホープのパイロットになる事を了承した所で、まずは、ズヴェーリの事について、お話ししましょうか」

「な、何でズヴェーリの事を?」

「世間一般に与えられているズヴェーリの情報は、私たちの持つ情報とは違います」

 

 ジョンの言葉に有希と朱里は首を傾げた。

 まず、世間一般に与えられているズヴェーリの情報というのは、不定形の未確認生命体だという事。その正体は不明、どこから発生したのかも不明、ただ、人間を襲っているため、相手に意思疎通の意思はないという事。

 完全なるUMA。それがズヴェーリという生き物だ。

 しかし、本当は違う。ジョンは有希達の前でそう言い切った。ジョンはオペレーター二人に視線を送って打ち合わせしていた物をモニターに出させた。それは、かなり古い映像であり、場所は分からないが、荒野だと分かった。

 

「こ、これは?」

「この地球上で初めて、ズヴェーリが出現した瞬間です」

 

 その言葉を聞いて有希と朱里が息を呑んだ。

 世界で初めてズヴェーリが出現した映像。それは、有希達の、教科書で習った記憶では第二次世界大戦終了直後の、ズヴェーリによって滅んだ中国から始まった。それを思い出してから右下にある数字を見ると、それは確かに第二次世界大戦終了から一年しか経っていない時を示していた。

 何でこんな映像が。そもそも、ズヴェーリはどこから生まれたのか、何を目的に行動しているのか、全てが不明の筈。有希達の困惑を解消することなく、ジョンは再び口を開いた。

 

「この映像の地は、かつて中国として存在した、今はもうズヴェーリの大量発生地域として人の住めなくなった土地での出来事です。それでは、再生を」

 

 ジョンの言葉にオペレーターの二人がパソコンを操作して映像を再生する。

 そして流れた映像では、最近では余り耳にしない、中国語に似ている言葉が流れ、カメラの視点が移動して後ろを向いた。

 そこには、巨大な岩が荒野の中心であろうクレーターの中に存在し、そこを中心に何人もの人が世話しなく動いていた。

 

「こ、これは……?」

「この映像から一か月前に飛来した、隕石です」

 

 隕石。直径数十メートル、いや、数百メートルはありそうなあの石が。あんな物が落ちたら被害は尋常では無い事は有希達でもわかる。その意見を補完するようにジョンは有希達に説明を始めた。とはいっても、簡単に、だが。

 まず、あの隕石が落ちたとき、世界中で地震を観測した。その大きさは、東京タワーやスカイツリー並みに大きく、それの地球への直撃は、中国一帯に甚大な被害をもたらしたと思われた。しかし、隕石の被害にあったのは、隕石から数キロ程度が荒野になったのみ。そのため、全世界の科学者が研究を申し出たが、中国はそれを独占。以後、中国が隕石の研究を行った。

 これは、それから一か月後の隕石を記録した映像。そして、ズヴェーリの謎の一つを紐解く映像として、各国で国家機密レベルのプロテクトがかけられた映像だという。

 翻訳も無く、中国語と隕石が延々と流れる映像。若干朱里は退屈に思えてきたが、有希は違った。

 何か、見過ごせない。あれをしっかりと記憶に留めておけと心の中の何かが叫んでいるようにも思えた。

 そして、数分後。映像に異変が起こった。

 

「あ、あれは……」

「き、きもちわる……」

 

 隕石から、いきなり、白黒で分かりにくいが、粘着性のある液体が染み出し、地面に粘液の水たまりのような物を作り始めた。それを見た研究者達は急いで避難し、クレーターの中から抜け出した。

 そして、粘液がクレーターの半分くらいまで溜まった所で、更なる異変が起きた。粘液がいきなり動き始めて形を作り上げ始めた。その粘液は段々と膨れ上がるように立ち上がっていき、腕を二本、足を二本形成。そして、頭を思われる部分を作り、その中には赤い球体が浮かんだ。

 ズヴェーリだ。それも、世界初の、人型ズヴェーリ。有希と朱里はそれを見て一瞬、息をする事すら忘れていた。

 急にガチャガチャと動くカメラ。そして、ズヴェーリがカメラの方に歩き始めた所でカメラの映像は途切れた。これが、カメラが壊れたのか、それとも撮影していた人が撮影を止めて逃げたのかは分からないが、それでもあの映像は、ズヴェーリの、どこから来たのかという謎を一つ解明してみせた。

 

「あれが、ズヴェーリ……宇宙から来た、人類の天敵、本能のままに動く宇宙の獣がこの地球に初めて産まれた瞬間です」

 

 いきなり告げられた真実に有希と朱里は硬直した。

 何もかもが不明なズヴェーリ。その中で分かっているのは人類の天敵である事だけ。そうやって何度も教えられてきたのに、その全てが無駄になったような気がした。が、そんな物はどうでもいい。一番驚いたのはズヴェーリが地球ではなくこことは違う星、もしくは隕石の中から生まれたという事。

 じゃあ、何でズヴェーリは人間を襲うのか。それをジョンに聞いてもジョンは首を横に振るだけ。どうやら、ここはまだ分からない事らしい。

 何だか頭が痛くなりそうだった。昨日今日と色んな事を知りすぎたせいで、色んな事の当事者だったり被害者だったりになってしまったせいで頭の許容できる範囲をとうに超えてしまいそうだった。が、ジョンはそれでも止めない。彼としても、なるべく早くにこちらの出せる情報については知っておいてほしかった。出せる情報を出さずにわだかまりがこの後作られるくらいなら、今の内に話しておきたかった。

 

「すみません、まだ話は始まったばかりでして……この話が終わったら、後で駅前に出来た高級スイーツ店で好きなだけ奢りましょう。この下に居る深海君と原田君が」

「「ちょっ!!?」」

 

 いきなりのジョンの無茶振りに下に居たオペレーター二人、深海と原田が抗議の声をあげる。しかし、その前に年頃の女の子二人は目を輝かせてびしっと姿勢を正した。

 下のオペレーターはぶブーイングを飛ばすが、ジョンは聞いていない。が、彩芽がすぐ近くまで行き、後で特別手当は幾らか出すからというと、二人は渋々だが了承した。少しは手当が出るのなら、と言った感じだが、それでもきっと、財布は多少なりとも薄くなるだろうと思うと二人は何でか泣けてきた。

 そんな二人を会話から省いてジョンは話を続ける。

 

「では、次にズヴェーリの種類からいきましょうか。これは、東雲君には必要不可欠な情報です」

「え?ズヴェーリって人型しかいないんじゃ……」

「いえ、あまり数がいないのでそこまで知名度はありませんが、ズヴェーリには三種類あります。それが、これです」

 

 ジョンの言葉に合わせて深海と原田は給料分の仕事としてスクリーンに画像を映し出す。

 そこには、大量のズヴェーリに混ざる、青色の戦車のような物と、空を飛行する青色の戦闘機のような何かが写しだされていた。二つとも画質は荒い物の、それは二人の目には、変形を遂げたとしか言えないようなズヴェーリに見えた。まさか、とジョンと視線を合わせれば、ジョンは頷いた。

 

「私たちはこれを、戦車型ズヴェーリ、戦闘機型ズヴェーリと呼び、従来の人型を人型ズヴェーリと呼んでいます」

「戦車型に戦闘機型……」

「戦車型ズヴェーリは一か月に一度の大進行の時に現れます。それ以外では一回か二回出てきた程度でしょうか。そして、戦闘機型ズヴェーリは奴らが本土に上陸する際にこれに変形してから訪れます。戦闘機型で移動し、人型になって地面に降り立つといった感じです」

「あ、だからあんな内陸にピンポイントで……」

「そういう事です」

 

 ズヴェーリはよく、内陸だろうが関係なく現れる。有希達一般人はそれを地面から、もしくは空で湧いたとでも勝手に思っていたが、本当はあの隕石の所で戦闘機型に変形してからここまで飛んできている。それが分かり、今度は先ほどの恐怖のような感情ではなく、一つ謎が解けてすっきりしたと言った感情が沸いてきた。

 

「実は、空を飛んでいるデウスマキナは、それを未然に迎撃する目的もあって飛んでいるんですよ。最も、デウスマキナは二機とも近接武装しかなかったので、今まで成功はしませんでしたが……」

「え?でも、ビヨンドホープにはミサイルがありましたよ?」

「では、そこに関して今度は話しましょうか。ズヴェーリに関しては、後はコアが赤い球体、程度しか分かっていませんので」

 

 それはこの間聞いたし、別にいっか。と有希と朱里は見合って頷く。と、丁度そこで彩芽が椅子をどこからか持ってきた。二人に、疲れるから座って。と言って座らせ、先ほどまで立って話していたジョンも椅子に座った。やはり、椅子がある方が長時間の話は楽だ。

 ジョンはさて、次はお待ちかねのデウスマキナについて話しましょうか。と言ってから深海と原田に伝えてスクリーンにとある一枚の写真を写した。そこには、三機のデウスマキナが、昨日見た格納庫とは違う格納庫で整備されていた。

 赤のデウスマキナ、草薙ノ剣。白と青のデウスマキナ、ビヨンドホープ。そして、黒いデウスマキナ。

 

「あれ?ビヨンドホープ、何だか細い……?」

 

 その写真の中で何かに気が付いたのは有希だった。

 自分の乗機であるビヨンドホープは、自分の記憶しているビヨンドホープよりも少し細身のように見えた。ジョンは有希の言葉を一旦置いておいて、まずはデウスマキナの事について話しましょうと言い、次の写真を出すように伝えた。

 そこに写ったのは、またもや隕石の写真だった。

 

「また隕石……?」

「はい。これは、アメリカにズヴェーリが落ちてきた数か月後に落ちてきた、デウスマキナのコアが発見された隕石です」

「「えっ!?」」

 

 有希と朱里の驚愕の言葉が重なる。元々、デウスマキナとは、各国がズヴェーリの脅威を排除するために一から作ったスーパーロボットの筈。

 二人の疑問の尽きないような顔にジョンはまぁ、お二人の持つ知識の殆どは情報規制の中で都合よく捻じ曲げられて伝えられた情報だと言うと、二人の顔はなんだかゲンナリしているようにも見えた。しかし、ジョンは話を止めることなく続ける。

 

「デウスマキナは第二次世界大戦から十年後に完成しました。ですが、そのコアは隕石から回収された物で、純地球産ではありません。もっと言えば、デウスマキナの全身のパーツの設計図も、召喚機も、そのコアの中に入っていたデータの中から使えそうなものを拾い集めた物です」

 

 設計図は私達にも公開されていませんので、召喚機だけの公開となりますが、とジョンは草薙ノ剣の、小さな刀を象った物が付いたネックレスの画像を見せた。これが、咲耶が言っていた召喚機だろう。

 

「そ、そうだったんですか……」

「だから、私たちは名付けたのです。神が人に与えた機械仕掛けの神の化身、デウスマキナと」

 

 まぁ、誕生秘話に関してはこの程度ですね、とジョンは咳払いしてから、次はデウスマキナの歴史について話しましょうと言い、再びスクリーンは変わり、今度は少し古めの、黒いデウスマキナとズヴェーリの戦う写真が写し出された。

 

「この黒いデウスマキナの名前は、当時はありませんでした。このデウスマキナが動いていた当初、動けたデウスマキナはこの一機だけでしたから」

「でも、このデウスマキナ、昨日格納庫を見た時はありませんでしたよね?何でなんですか?」

「……盗まれたのですよ。このデウスマキナは」

「ぬ、盗まれたぁ!!?」

「あ、あの大きなロボットが、ですか!!?」

「はい。今から三年ほど前でしょうか……黒いデウスマキナのパイロットが事故で亡くなってから七年程が経った頃です」

「あの、なんか凄い黒い話が出てきた気がしたんですけど……」

「彼女は交通事故で運悪く亡くなってしまっただけですから、大丈夫ですよ。実験とかで死んだ、とかじゃありませんよ」

 

 とは言ったが、ジョンの顔は余り気分の良さそうな物ではなかった。やはり、仲間が死んでしまうというのはどうしようもなく悔しくて悲しい事なのだろう。

 

「この黒いデウスマキナは唯一パイロットを複数選んだデウスマキナでした。大体、パイロットが二十台後半に入ると動かなくなるので、その度にパイロットの選抜を行ってました。当時の黒いデウスマキナのパイロットが亡くなる数か月前に東雲君の前任である、遥君がやってきました。彼女はその数か月後にやってきた咲耶君と共に戦い、パイロットが居なくなった黒いデウスマキナは整備されるだけに留まってました。そして、遥君が死んだ三年前、私たちは黒いデウスマキナのパイロットを探しました」

 

 こう、召喚機を持ちながら街の中を歩き回るんですよ。で、適正のある子が近くに来ると光るんですよ。ただ、子供を見ながら歩く様はさながら不審者のようでしたよ、とジョンは面白おかしく説明した。

 

「ただ、その時に召喚機を盗まれましてね……しかも、盗んだ子がどうも、パイロットの適正があったらしく、そのまま何処か分からない場所に召喚されて……」

「えぇ……」

 

 若干警備ザル過ぎないかな?とは思ったが、確かに召喚されたらもう戻ってくるまではこちらからはどうにもできないのだから仕方がないだろう。

 

「まぁ、黒いデウスマキナに関してはまた今度にしましょう。ここからはビヨンドホープに関して説明ですね」

 

 そういったジョンの言葉に応えてオペレーターの二人が画面に写真をうつす。そこには、やはり有希の記憶よりも僅かに細身なビヨンドホープが写し出された。

 

「SRDM-002、デウスマキナ二号機、ビヨンドホープ。対ズヴェーリ戦闘及び災害救助を想定したスーパーロボット。格闘戦を想定した性能と武器を与えられた機体です。武装は、ソードトンファーのみでした」

「ちょ、ちょっと待ってください!武装はソードトンファーのみって……」

 

 その言葉に有希は思わず声を上げた。ジョンは有希の言葉に一つ頷いた。言いたいことは分かる、と言っているようだった。

 

「えぇ。本来、ビヨンドホープの武装は一つだけでした。しかし、今の東雲君の乗っているビヨンドホープはミサイルと火炎放射があります」

「ほ、本来……」

「ビヨンドホープは爆発から三年で、恐らく進化したのでしょう。ズヴェーリに負けないために」

「し、進化って……」

 

 有希の言葉は困惑に満ちていた。朱里に関してはよく分からない情報を詰め込まれすぎてくらくらしてきた所だった。

 有希の困惑を解消するためにジョンはとある一枚の画像をスクリーンに写した。それは、昨日やった診断の結果。医者や専門家では分からないような言葉や図形が書かれた物だった。上の方に東雲有希診断書と書いてあったため、有希の物だと分かったが、逆に言えばそこしか分からないかった。

 

「これは有希君の全身をスキャンした物です。これが、ビヨンドホープの進化に大きく関係していると私達は思っています」

「わ、私が……?」

「そうです。この結果に、体の中に異物があるかどうかのフィルタをかけると……」

 

 ジョンの言葉に再び画像が入れ替わる。その結果図は、左側にある、有希の全身の輪郭だけが描かれた図の、内側の半分以上が真っ赤に染まっていた。

 その意味はよく分からなかったが、朱里は果てしなく嫌な予感を感じた。

 

「こ、これって……」

「……東雲君の全身の半分は、東雲君の物ではありません。内蔵の一部も、肉体の一部も、東雲君が三年前、爆発に巻き込まれた時に、自力では再生不可能となった場所全てが、人間の肉体に限りなく近い何かに入れ替わっています」

 

 ジョンが何を言っているのか、有希には分からなかった。しかし、朱里には断片的にだが、ジョンの言葉が分かった。そして、自分の中で整理して、朱里は自分の考えを口にした。

 

「じゃあ、有希がたった半年であの爆発の傷がなくなって、跡もなくなったのは……」

「そうです。体が代わりの物に入れ替わったからです。そして、それをやったのが――――ビヨンドホープのコアです」

 

 ビヨンドホープのコア。それが、有希の肉体を半分以上入れ替えた犯人だった。

 

「私たちの仮説では、ビヨンドホープが爆発したあの日、コアは砕け、吹き飛びました。しかし、コアは爆発に巻き込まれた東雲君と融合したのです。現に、東雲君の体からは常に小さく、ビヨンドホープのコアの反応が検知されています」

「ゆ、融合って……そんな非科学的な……」

「コアは今でもブラックボックスの塊です。そういう機能もあったのでしょう。そして、コアと融合出来たからこそ、詳細は不明ですが、東雲君は召喚機を用いずともビヨンドホープを召喚できた。そして、ビヨンドホープに関しては東雲君が錦君を守りたいと強く願った時に、融合したコアが何かしらの方法でビヨンドホープを再構成して召喚したと考えられます。何でその際にビヨンドホープが進化していたのか分かりませんが、コアが東雲君と融合した証拠にビヨンドホープの胸部にある筈のコアはよく似た、別の物質で出来ていました……で、話を戻しますと、融合したコアは宿主である東雲君を死なさないためにも、爆破で体の半分以上が使い物にならなくなった東雲君を助けるために、コアが作り出した、人間の肉体とは別の何かで作られた、似て非なる物で置き換えながら治療していったのでしょう。それが、東雲君のあの大怪我がたった半年で完治した真実でしょう」

 

 ジョンの言葉に、有希は何も言えなかった。流石に、十六歳の少女には荷が重い話でしたか。とジョンが今言った真実を伝えるべきではなかったかと若干後悔していると、有希は俯いたまま小さくジョンに聞いた。

 

「……じゃあ、私は人間じゃないってことですか……?」

「そんな事はありません。東雲君は確かにコアと融合した特別な存在です。ですが、人間である事に何も変わりはありません。東雲君を人間を認めない人がいたら、私たちはその人を殴ります。何故なら、東雲君は遥君とビヨンドホープが最後まで意地と根性で守り抜いた人です。そんな人を人間として認めないのは、私達は絶対に許しません」

 

 ジョンは有希の問いを間を置かずに否定した。そんな事はない。有希は人間で間違いないと。

 朱里もそうだよ、と有希に声をかける。有希はその言葉を聞いて――――




次回に続く

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