創世機神デウスマキナ   作:黄金馬鹿

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今回は余り話が進行しません


Chapter1.5

 連れて行かれた場所は普通の応接間だった。小奇麗な応接間に案内された二人はここで待っていてねと彩芽に言われ、有希と朱里は指されたソファに座った。

 咲耶は既に彩芽に連れていかれていない。ここにいるのは有希と朱里だけ。何時もなら姦しい程はしゃぐのだが、ここでは違う。二人とも、借りてきた猫のように大人しい。

 日本政府直属と言っていたが、名刺も貰っていない。もしかしたら嘘かもしれない。ガチガチになりながらも二人仲良く待っていると、扉が規則正しくノックされた。

 その音にビクンと飛び跳ねると、ゆっくりと扉が開けられた。開けられた扉から入ってきたのは初老というには少し老いすぎた一人の優しそうな老人だった。

 

「おや、驚かせてしまいましたかな?」

 

 老人はそう言って朗らかに笑うと、杖なんて必要がなく、若い人と何ら変わりない歩き方で歩くと有希達の目の前のソファに一人分のスペースを残して座った。

 老人を見て有希達はホッと息を吐く。この人なら何だか大丈夫かもしれないと。

 

「東雲有希君と、錦朱里君だね?」

「「は、はい!」」

 

 何だか教師に授業中にいきなり指名されたときのような返事をしてしまったが、老人はハハハと笑うだけ。

 どうやら、二人の反応が面白かったらしいのだが、それでも緊張はしている二人からしたらあまり笑える事ではない。それに気が付いた老人はおっと、失礼しましたと言ってから一度咳払いしてから再び二人と向き直った。

 

「私はここの……まぁ、リーダーだと思ってください。あまり長ったらしく役職名を言うのも退屈ですし覚えにくいですからね」

 

 どうやら、いい人みたいだ。有希と朱里は二人揃って肩の力を抜いた。

 これは名刺です。と渡された二枚の名刺には、確かに彼の長ったらしい役職名が記載されていた。が、注目すべきところはもっと別にあった。

 名前だ。彼の名前。それは、苗字と名前から成る日本人らしい名前ではなく、たった三文字で、カタカナで書かれていた。

 ジョン、と。

 

「「ジョンさん……?」」

「はい。まぁ、偽名なんですけどね。役職柄、本名はあまり知られたくないのですよ」

 

 一瞬、二人の緊張感が高まったが、ジョンの説明で幾らか和らいだ。

 確かに、こういう役柄で政治が絡まったりした場合、何かしらの事件に家族が巻き込まれる可能性があるかもしれない。それを防ぐためだろう。ある意味では抜け目のない人だ。

 有希と朱里が貰った名刺をしまうと、ジョンは口を開いた。が、その瞬間に扉が少し乱暴に開かれた。再びそれにビクりとする二人。だが、入ってきた人物を見てマヌケな顔を晒した。何故なら、その人物は有希と朱里がよく見知った顔だからだ。

 

「すみません、ジョンさん。遅れました」

「いいんですよ、源十郎君」

「いやぁ、咲耶の奴がヤケにイライラしていましてね……何とかするのに時間がかかっていました。で、東雲と錦、さっきぶりだな」

 

 入ってきたのは、有希と朱里のよく知る教師、前川源十郎だった。実に一時間ちょっと振りの再開だった。まさかの人物に有希と朱里は絶句しざるを得ない。

 何でこの人がここに?そんな疑問を晴らすかのように源十郎はポケットから名刺を取り出すと有希と朱里に差し出した。

 教師としての名刺か?そう思って名刺を確認すると、その役職に再び絶句した。

 特殊害獣駆除科。そこに所属するパイロットの特訓のコーチであり、エージェントであると書いてあったのだ。

 

「教師は仮の姿。その正体はエージェントだったって訳だ」

 

 そんな設定、今時ドラマでも使い古された物みたいだとは思っても驚きで声が出なかった。まさか目の前にそんな古臭い設定をマジで引っ提げた人間が居るとは思ってもいなかったし、その人間が顔見知りだとはさらに思わなかった。

 ジョンの、カミングアウトが速すぎましたかね?という言葉なんて二人の耳には入ってこない。もう今日はデウスマキナの事だったり小刀突きつけられたリ変な場所に連れてこられたリでもう一杯一杯だった。

 しかも、ズヴェーリに追いかけられてからまだ三時間も経っていないのにこの密度の話が何度もあったのだ。一般人である二人には一杯一杯でない訳がなかった。

 そんな二人を見てか、ジョンは二人に提案をした。

 

「では、今日の所はメディカルチェックだけして残りは明日でどうでしょうか?流石に、メディカルチェックだけはこちらもさせてもらいたいので」

「ま、まぁ、それくらいなら……私も何か超常現象起こしたわけだし」

「そ、そうだね……」

 

 そんなこんなで二人は源十郎に連れられてメディカルルームへと連れてこられた二人は病院で着る様な服に着替えさせられ、女性のスタッフの案内の元、CTスキャンのような物で体を検査したり、普通の健康診断のような物もさせられたり。

 気が付いたら一時間程度時間が経っており、有希と朱里は疲れた様な表情で更衣室のベンチに座っていた。

 

「どうだった?」

「異常なし。有希は?」

「特に。朱里と同じ。だけど、ちょっと格納庫に行ってくれって言われた」

「そうなの?じゃあ、ついていこっか?」

「うん、お願い」

 

 有希と朱里は再び制服に着替え、つい先ほど貰った地図を見ながら地下にしては無駄に広い本部を歩き回った。

 その途中、すれ違った職員らしき人は皆、有希と朱里の事を知っているのか、挨拶をしてから大変だったねとねぎらいの言葉をかけてくれた。

 そんな事がありながら、有希達は自動ドアを開けてとある空間に出た。

 格納庫。まさにその言葉がピッタリなこの空間には、赤いデウスマキナ、草薙ノ剣が無言で立っていた。その横には、大体二機のデウスマキナが入りそうなスペースも空いていた。

 有希と朱里が声を漏らしながら草薙ノ剣を見ていると、その草薙ノ剣を弄っていた男性が有希達の立つ鉄橋に降りてきてこちらに歩いてきた。

 歳は大体三十か四十か。いい感じに歳を取ったおっさんといった感じだった。その男はタオルで手を拭って額の汗を拭うと、改めて有希達に声をかけてきた。

 

「どっちがビヨンドホープのパイロットなんだ?」

「あ、私です」

 

 男の声に有希は素直に答える。すると、男は爽やかな笑顔を浮かべて挨拶をしてきた。

 

「そうかそうか。俺は梶田優誠。デウスマキナの整備長をやっている」

 

 つまりは整備士の中では一番偉い人なのだろうか。有希と朱里は自己紹介をしてから頭を下げた。

 そして、梶田はすぐに本題を切り出した。

 

「じゃあ、東雲ちゃん。あの空いているスペースにビヨンドホープを召喚してくれないか?」

「え?召喚?」

「あー……そうか、まだ何も知らないんだったな。じゃあ、言葉を変えるか。あそこの空きスペースにビヨンドホープを出してくれ。ついさっき、ビヨンドホープを呼び出したみたいにな」

 

 あぁ、そういう事なら。と有希は空きスペースの前に立つ。

 胸に手を当て、鼓動を確かめ、胸の内に眠るビヨンドホープを呼び覚ます。ドクンと一際大きく心臓が跳ねる。

 有希の胸元が金色に淡く光っていき、その光は徐々に大きく、確かなものになっていく。

 来た。目を開き、口を開く。

 

「来て、ビヨンドホープ!」

 

 有希の声に応え、ビヨンドホープは姿を現す。空間を割り、空きスペースに姿を現したビヨンドホープは床に足を着けた。

 本部全体が揺れたような気がしたが、まぁその程度は些細な事だ。

 梶田は召喚されたビヨンドホープを見てようやく帰ってきたな、と一言呟いた。

 

「ありがとな、東雲ちゃん。ビヨンドホープはこっちで整備しておく。後はジョンさんか彩芽さんに言って帰してもらいな」

「は、はい」

 

 よし、手の空いている奴はビヨンドホープの整備だ!という梶田の声に整備士達は反応し、ビヨンドホープの装甲に乗って整備を始めた。

 それを見てから有希達はもういいのかな?と相談してから格納庫を後にした。

 格納庫を後にして有希達は再び応接間に戻ってきた。勝手に色んな部屋に入ってはいけないと思って応接間に戻ってきたのだが、そこには誰もいなかった。

 しばらく応接間の物を色々と見ていると、最初の時と同じようにドアがノックされて中にジョンが入ってきた。

 

「指令室の方に入ってきても良かったんですけどねぇ……まぁ、いいでしょう。東雲君、錦君、お疲れさまでした。後は彩芽さんに送くらせますので、暫くお待ちください」

「分かりました」

「あと、明日も早朝にそちらのアパートに彩芽さんが迎えに行くので、最低限の外出準備だけしておいてくださいね」

「え?あの、私達、学校が……」

「それに関してはこちらの方で授業は公欠にしてから後日、その授業の事をこちらで教えますので、ご安心を」

「……なら、いいかな?」

「そう、だね」

 

 学校に行っても特に何かある訳じゃない。それに、後でその分の補填をしてくれるのなら有希達に断る理由は無かった。

 ジョンの言葉に頷き、承諾すると、ジョンは、それでは、彩芽さんを呼んできますねと言って離席した。

 二人がホッと一息をついた直後、再び扉が叩かれた。ジョンが出てから僅か数秒。何か忘れ物かな?そう思ったが、入ってきたのは彩芽だった。あれ、さっき呼んで来ると言ってジョンが出て行ったばかりじゃ?二人の頭の?マークを無視して彩芽は口を開いた。

 

「じゃあ、二人とも。送っていくからついてきて」

 

 彩芽の言葉に二人は従って彩芽の後に部屋の外に出た。彩芽が歩いていく方向とは逆の方向を見ると、ジョンの後姿がまだ見えた。

 ジョンが彩芽の事を探しに言ったことを伝えると、彩芽は偶然この部屋の前ですれ違ったからいいのよ、と返した。

 そして二人は彩芽の車に乗り、再びエレベーターで地上へと戻った。地上は既に真っ暗。もう夕飯の時間も軽く過ぎていた。携帯で時間を確認すると、有希の腹の虫が小さく鳴った。

 それで顔が真っ赤になる有希とクスクス笑う朱里と彩芽。だが、なんだかんだで腹が減ったのは朱里も同じ。腹の虫が鳴らないようにそっと腹を押さえた。

 すると、彩芽が背中越しに魅力的な相談をしてきた。

 

「おなかが空いてるんだったら、ラーメンでも食べに行く?」

「い、いえ!流石に申し訳ないですし……」

「じゃあ、お礼って事で。ズヴェーリを倒してくれた報酬よ」

 

 そう言われると何だか断りづらい。朱里の方を向くと、朱里は頷くだけ。どうやら、有希に任せるらしい。

 じゃあ、お願いします。と有希はその提案に乗った。彩芽はよろしいと言うと車の向きを途中で買えた。

 

「有希ちゃん、朱里ちゃん。念のために言っておくけど、ビヨンドホープの事は絶対に口外禁止よ。これは国家機密レベルだからね。後、詳しい話は今日出来なかったから、明日話すわね」

「「は、はい」」

 

 運転している最中に彩芽は少し真剣な雰囲気を醸し出しながら有希達に警告した。

 やはり、有希が動かしてしまったとは言え国家機密の塊であることは変わりない。そうベラベラと話していいことではないし、話したら話しただけ有希と朱里の立場は危うい物となっていくだろう。

 恐らく、今日はその諸々の話をするつもりだったが、有希と朱里の事を考えてそれを取りやめ、明日に話すことにした。しかし、最低限のことだけはここで話した。つまりはそういう事なのだろう。

 有希と朱里を乗せた彩芽の車はとあるラーメン屋に止まった。特別変わった物はない、普通のラーメン屋だった。

 そこに入って有希と朱里はラーメンを注文し、彩芽とは世間話や最近あった面白い話をしながら食べ終えた。そして、有希達がラーメン屋を出たところで彩芽の携帯電話に着信があった。彩芽がその電話にでると、すぐに彩芽の表情が変わった。まさしく真剣そのものに。

 

「何ですって、新たなズヴェーリが?」

「ッ!?」

 

 その言葉を聞いた直後、有希の携帯電話も震えた。来た、来てしまった。二体目のズヴェーリが、今日。

 普段、ズヴェーリは一日に一体、それも三日に一度位のペースでしか来ない。たまに一日に二匹来るときはある。しかし、今日は朝のズヴェーリも合わせて三匹目。明らかに異常だった。

 彩芽は電話を切ると、有希を見た。その視線に有希は耐えれずに一度目を背けた。

 

「有希ちゃん。草薙ノ剣は今、久しぶりのオーバーホール中で動かせないの。今動けるのは、ビヨンドホープだけなの」

 

 その言葉を聞いて有希は再び彩芽を見た。

 戦えるのは自分だけ。戦わなければ関係のない人達が死んでしまう。

 なら、守らなくちゃ。あの時、命を張ってでも有希を守ろうとしたあの先代パイロットのように。

 

「私じゃなきゃ、動かせないんですよね?」

「そうよ」

 

 薄々感じていた。ビヨンドホープは、自分の手でなければ動かない。あのロボットには意思がある。まさしく、機神であると。

 だから、彩芽は、ジョンは、源十郎は、有希達に咲耶のように召喚機を渡せとは言わなかった。有希にしか動かすことができないから。守ることは、有希にしか出来ないから。

 

「……じゃあ、行きます」

 

 決意。或いは覚悟と呼ぶべきそれを有希は胸のうちで燃やした。ここで逃げたらあの日の爆発よりも遥かに苦しい思いをして死んでしまう人だっている。生き残れない人がいる。

 そんなの、許してはおけない。許してたまるものか。

 

「有希……」

「彩芽さん、朱里をお願いします」

 

 もし、負けたら、朱里も死んでしまうから。

 そんなの、絶対に許してはおけない。許せない。だから、朱里は預ける。彩芽も頷いた。ただ、朱里だけは納得していなかった。

 

「有希、私も……」

「駄目だよ、朱里……これは、私の戦いだから!」

 

 有希は駆け出す。ズヴェーリの居る位置は何となく分かる。だから、後はビヨンドホープと共に、まっすぐ、助ける!

 

「希望を超えて、未来を掴む!来て……ビヨンド、ホープ!!」

 

 発光。有希は夜の帳の中でも分かるほどの光に包まれ、球体となって空へ。そして、空が割れ、空間が裂け、ビヨンドホープがその姿を現す。

 全長四十メートルあるその巨体は地に足を着けた瞬間、緑色のツインアイが光り、足のローラーを動かして走り始めた。




ここまでだと咲耶がタダのキチガイにしか見えないという

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