日本刀を突きつけられ、有希と朱里は生唾を飲むことしか出来ず、大人しくビヨンドホープから降りた。というよりも、消した。
ビヨンドホープの中にあったレバーを引くと、ビヨンドホープと有希と朱里は光に包まれ、ビヨンドホープは光の粒子となって消え、有希と朱里はそのままゆっくりと地面に降りていった。その際に有希のパイロットスーツは光に変わって元の制服に戻った。
その後に日本刀を持ったデウスマキナも光に包まれ光の粒子へと変わり、その中心から光の球体がゆっくりと地面に降りてきて、地面に当たった瞬間に弾けた。中から出てきたのは先ほど人を何人か殺していそうな目でこちらを見てきた女性、というよりも同年代の少女だった。
長い髪を後ろで纏めた少女は有希達と同じ制服に身を包み、持っていた鞄から棒状の何かを取り出すと、徐に片方の先端を引っ張り――というよりも、鞘を抜いて中から出てきた刀身の先端を有希に突きつけてきた。
有希と朱里はそれを見て全く同時に小さな悲鳴を上げて両手を上げた。
「じゅ、銃刀法違反!!」
咄嗟に出た言葉がこれだった。なんだか語彙力に悲しくなってきた有希だが、それでも目の前の銃刀法違反者は小刀を有希に突きつけたまま。
「悪いけど、政府から許可は貰ってるのよ」
「あ、そうなんですか?なら安心……」
「何の!?」
「いや……なんのだろう?」
「こんな時にポンコツにならないでよ有希!」
刃物を突き付けられているのに何やっているんだ目の前の二人は。と少女はずっこけそうになっているが、溜め息をついて再び眼光を強める。
その有無を言わせない眼光に有希と朱里は無理矢理に口を閉ざされる。
「漫才に付き合っている時間は無いの。早く召喚機をこっちに渡しなさい。あれはあなた達の手にあっていい物じゃないわ」
有希と朱里はその言葉を聞いて首を傾げ、顔を見合わせた。
召喚機?何それおいしいの?いや、機械でしょ。そんな会話を視線で繰り広げている。
だが、召喚機を知らないのも事実。どうやって何を返せばいいのか分からない。
そんなグダグダしている有希と朱里にイライラしたのか目の前の少女はいきなり足を地面に叩き付けた。その音でビクッと体が震え上がった。
「死にたいのなら言ってくれたらいいのよ?」
「い、いや、そ、その……召喚機って何の事かなぁって……私は特に何もしらないかなって……」
「そんな訳無いでしょ?早くビヨンドホープの召喚機を渡さないと私も力尽くで奪うわよ?」
「本当に知らないんですってばぁ!!あ、朱里も何か言ってよ!!」
「あ、私関係ないので……」
「まさかの裏切り!!?」
「だって私何も分からないもん!!」
「いや、そうだけどさ!せめて助け舟出してよ!ね?三百円あげるから」
「三百円って、それ、私が昨日有希にあげたご飯のお釣りじゃなかった!!?」
わーわーと二人しかいないのに姦しい二人。それに段々と苛立っているのか青筋が浮かんでいる少女。
流石に我慢の限界なのか、小刀を投げようと段々と小刀を持った腕を上へと上げていった。
しかしそれに気がつかない二人。そして、天辺を向いた小刀をそのまま投げ下ろそうとしたその瞬間、何者かがそこに乱入してその腕を掴んだ。
「はい、そこまで。咲耶ちゃん、流石にそれは投げちゃ駄目よ。そっちの子達も、少しいいかしら?」
女性の声。その声を聞いて有希と朱里は少女の方を向いた。
少女の方には、スーツを着た女性が少女の小刀を持つ手を掴んで立っていた。可笑しい、さっきまでこの周辺には誰もいなかったのに。
誰?何者?そう思いながらも有希と朱里は上げていた両手を下げた。それを見て少女も小刀を持っていた手を下げた。それを見て女性はよしよし。と呟いてから有希と朱里と咲耶と呼ばれた少女の間に入った。
「えっと……貴女は東雲有希ちゃんよね?そっちの子は有希ちゃんのお友達の錦朱里ちゃん」
「「は、はい」」
「私は日本政府直属の特殊害獣駆除科所属の……まぁ、役員だと思っておいて?」
「は、はぁ……」
「えっと……偉い人、なんですね」
いきなりの自己紹介に自分達の名前が割られていることが吹き飛び、間抜けな返事をしてしまう。
朱里の言葉に女性は首を横に振った。
「そこまでよ。名前は服部彩芽。こっちの子は赤色のデウスマキナ、草薙ノ剣のパイロット、御剣咲耶ちゃんよ」
女性、彩芽は自分の名前を告げ、後ろの咲耶の自己紹介も済ませた。
咲耶はぶっきらぼうに御剣咲耶だ。と告げるだけだった。しかし、有希と朱里の反応はそんなぶっきらぼうでは済まなかった。
デウスマキナのパイロット。ネットやテレビで一切告げられていない情報なのに、それが目の前で簡単に告げられたことが何よりの驚きだったが、今さっきデウスマキナ――草薙ノ剣から降りてきたのだから今更だった。
最初は驚きかけたが、すぐに平静を取り戻した。
こちらの自己紹介は不要だろうか。でも、一応名乗っておくか。有希が声を出そうとしたとき、その前に彩芽が口を開いた。
「有希ちゃん達は正規パイロットでも無いのにデウスマキナを動かした。それだけならこちらでも対処は簡単なのだけど、有希ちゃん。貴女は本来この世界にはもう存在しない筈のデウスマキナ、ビヨンドホープを召喚して乗り込んで、動かしてみせた。それが問題なのよ」
有希が何で大変なの?と思考停止したような顔をしているが、朱里はなるほどと言わんばかりに納得していた。
肝心の有希が理解していないので、朱里がちゃんと聞いてと一回頭を叩いてから続きを。と朱里が彩芽に目で伝えた。が、彩芽は首を横に振った。
「ここでは人が来るかもしれないわ。少し遠くに私が乗ってきた車があるからそれに乗りましょう。特殊害獣駆除科の本部に案内するわ」
確かに、デウスマキナの情報は殆どが国家機密レベルの情報だ。それが盗聴等でバレてしまったらどんな事になるかわからない。
有希と朱里は特に用事も無いので歩き出した彩芽と咲耶と共に着いて行った。
そして無言で歩くこと数分。有希と朱里がビクビクして歩いていくと、彩芽が鍵を開けて乗り込んだのは黒塗りの車だった。
折角助かったのに何か変な事に巻き込まれたよーと有希が小さく震えながら呟いた。それが聞こえたのか、彩芽は車から有希に話しかけた。
「そんな怖いことはしないわよ。大丈夫、話を聞くだけだから」
「は、はいぃ……」
しかし、黒服の女性にそんな事を言われてもそうそう簡単にはうんと頷けない。
話といっても、色々ある。取調べだとか、強請りとか、拷問とか。もしかしたら明日の朝日が見ることが出来ないかもしれない。
ガクブルしている有希を見て彩芽が、まぁ仕方ないわよね。と呟いた。
助手席では常に咲耶が殺気を放って、彩芽はやれやれと言った表情で運転し、有希はガクブルと震え、朱里は有希の肩に手を置いている。が、やはり小さく震えている。
そんなこんなで運転は順調に進んでいき、着いたのは有希達の通う高校だった。
「あ、あれ?ここ、学校……」
「ここの地下にあるのよ」
咲耶の短かな説明の後に彩芽は車を教師専用……というよりも、誰も使っていないというか、使っている所を見たことが無い駐車場に来た。
その中の一つに車を止めると、車の中にあるとある端末を取り出し操作する。すると、一瞬車が揺れた。が、次の瞬間には車が地面へと潜って行った。いや、車が乗っていたスペースが急に地面の下へと潜って行った。つまりは、その部分だけがエレベーターになったのだ
それを見てはしゃぎ始める有希。そして、それに釣られて朱里も一緒にはしゃぎ始める。
こんな物、アニメや小説、漫画でしか見たことが無い。だから、興奮するなというのは無理のある相談だった。
真ん前の殺気を忘れ、はしゃぐ二人。そして、数十秒の降下の後にその降下は止まり、地下駐車場みたいな場所に着いた。
さぁ、降りてという彩芽の言葉で咲耶が何も言わずに車を降り、有希と朱里も共に車から降りる。
そして、彩芽は有希達に着いて来てと案内して二人を何処かへと連れて行く。
主人公とその親友、連行