大進行を凌いでから数日後。有希と朱里は咲耶に連れられてとある場所に来ていた。
そこは、霊園。そこまで大きくはない霊園だが、その中にひっそりと造られた墓。その前に三人は立っていた。
「咲耶さん。ここは……」
「遥のお墓よ。形だけ、だけれども……私は遥の死を認めたくなくって来なかったの。でも、ようやく決心がついたわ」
墓が綺麗にされているという事は、きっとジョンや源十郎がよく来ていたのだろう。咲耶は買ってきた線香に火を付けて香炉の中に入れ、墓の前でしゃがんで手を合わせた。
「何年も来なくってごめんなさい、遥。私はまだ一人前とは言えないけど……でも、貴女の助けた子と一緒に一人前になるわ。だから、ゆっくりと休んでて。私がそっちに行くのは、もっと後になりそうだから、首を長くして、ね」
そして咲耶は目を閉じて、立ち上がった。もう、言うことはないだろう。死者に縛られるのは、ここまでだ。
「ごめんなさい。つき合わせちゃって。一人で来るのは、ちょっと怖かったの」
「大丈夫ですよ。それに、私も遥さんに言いたい事がありますし」
「はい。遥さんに言いたいことがあるのは、咲耶さんだけじゃないんですよ」
「そうなの?じゃあ、場所を代わるわね」
咲耶が墓の前から退き、その代わりに有希と朱里が並んで墓の前へと行ってしゃがんだ。
「遥さん。あの時助けてくれてありがとうございました。ちょっと大変な事はありましたが……私は遥さんの分まで生き続けます。だから、ズヴェーリの事は大船に乗ったつもりで任せてください」
「遥さん。有希を助けてくれてありがとうございます。あの時有希を助けてくれたから、私はまだ、こうして笑顔でいられます。だから、私の親友を助けてくれて、本当にありがとうございます」
手を合わせ頭を下げる二人を見て咲耶は少し口角を上げた。
「遥。貴女は本当に凄いわね。貴女はこんなにも感謝されてるのよ」
『じゃあ、咲耶は顔を合わせてお礼を言われるように頑張らなきゃな』
「えぇ……え?」
咲耶が後ろから聞こえてきた声に反応したが、後ろに誰も居なかったはずだと思って振り返った。が、やはりそこには誰もいない。
きっと悪戯好きな霊か、どこかの人を助けるために爆発したお人好しな霊のせいだろう。そう思い、咲耶は笑ってから、空を見上げた。
空は、彼女が乗っていた希望と同じ色をしていた。
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「ジョンさん。本当に教えなくてもいいんですか?」
特殊害獣駆除科の本部。そこで源十郎はジョンと相対して話していた。その顔は談笑をしている顔ではなく、どこか険しい。ジョンはその言葉に少し表情を暗くして頷いた。
「確かにこれは事実です。しかし、これは本当に微々たるもの。計算上は彼女が一生を終えるまでこの数値は五パーセントも増加しません」
「しかし!!」
「それに、余り不安にさせるものではありませんよ。これは、知ったところで彼女の不安を増やすだけです」
「……別に俺はジョンさんが決めたのなら口答えはしません。ですけど、もしこの数値が今後、驚異的な速さで増加していったら……」
「その時は素直に話しましょう」
二人の前に置かれた紙。それは、有希が三年前に入院した時に受けた身体検査の結果の紙。そして、もう一枚の紙は、つい一か月前に有希の受けた身体検査の結果の紙だった。
その紙の一部には、こう書かれていた。
浸食率五四・七パーセント。そして、浸食率五四・八パーセント。
有希の体は、徐々に、本当に徐々に、ビヨンドホープのコアに侵食されつつあった。
それはつまり、有希の元の体は完全に消え去り、ビヨンドホープが有希の体全てを乗っ取るという可能性があるという事を示していた。
有希はまだそれを、知らない。
次回を更新するとしたら、またChapterを全部書ききってからになるので、かなり先になります
次のChapterでは三機目のデウスマキナも登場予定です