女神転生Ⅳ the begin(メガテンⅣ×ペルソナ5) 作:アズマケイ
「あった、これだこれ。俺こいつ知ってるかも」
竜司が見せてくれた怪盗お願いチャンネルのコメントに割り振られたナンバーを確認し、来栖はそこまで画面をスライドさせる。
【お袋を改心させてほしい】
母子家庭の兄を名乗る匿名の投稿だった。【賛美歌が聞こえる】という謎の言葉を繰り返し、妹を一度も外に出さず家に閉じ込めつづけている母親を改心させてほしいという内容だ。自分にはなんの干渉もせずネグレクト寸前であり、妹も連れて逃げ出そうとしたが頑なに母親が手放さない。引き離そうとするとヒステリックに叫ぶ。生きるのに精一杯な彼は家から出て離婚した父に身を寄せるしかできなかったらしい。母の名前、具体的な容姿、家出直前の様子、そして写真がはられている。
「でもこれってスパムじゃないの?」
「三島がそんなこと言ってたな」
「俺も初めはそう思ってたんだけどさ、なんかひっかかってたっつーか。気になってちょっと調べたんだよ」
「どの辺が気になったんだ?」
不思議そうに祐介は言葉を投げる。どうして通報しないのか。警察に助けを求めないのか。湧き上がる質問は掲示板の住人も同じらしい。煽りや荒らしも意に介さずひたすらコピペが繰り返されていた。気になった来栖が一度聞いたことがある。スマホの向こうでおたすけチャンネルの管理人はよくあるスパムだ、ユーザーごとブロックしたはずだとぼやいていた。大量にコピペしてくるから、たぶんなにかの改変なのだと。新しいパソコン媒体でも使って、新しいメルアドを取得して、新しいハンドルネームを用意して、執拗にここに書き込みを試みていた荒らしは、とうとう運営側の監視をくぐりぬけてしまったらしい。最近、書き込みの確認が追いつかず自動的に転送する設定にしていたがはじくワードが含まれていなかった。ごめん、今度からは気をつける、といわれた。そういわれてみれば、特大掲示板によくあるコピペにもにている。スパムにも似た文言だ。
「だってさ、変じゃね?こいつさ、ここのスレの奴らに特定されてんだよ、あんまり同じことコメントすっから。でも続けてんだわ。そんだけ助けてほしいんじゃねーかなって」
自分が特定されてしまうことも構わず書き込みつづける投稿者が気になり、なんとなく竜司はその特定と晒しがあっているのかの検証も兼ねて調べたらしい。アルコール依存と暴力が絶えない父親から逃れるように離婚した母子家庭の竜司はこのコメントに思うことがあったのかもしれない。怪盗団の面々は家庭事情をすでにカミングアウトされている、なんとなく察したらしく咎めはしなかった。
「だってここ、うちのアパートなんだぜ?どーりで最近シュージンの奴らよく見かけると思ったら」
「そうなのか」
「ああ、そういえば」
「そっか、この辺だっけ」
「おう。暁は来たのあんときだけだもんな、覚えてねえのも無理ねえか」
「なるけど、いいことを聞いた」
「おいこら祐介、俺ん家はルブランと違って広くねーんだよ来んな」
「......そうか」
「なんでそんな残念そうなんだよ、お前さ。なんか俺が悪いみたいな流れになるだろ、やめろよ」
あーもういい、続けるぞと竜司は無理やり話を戻す。何日も前の新聞や手紙が詰め込まれ、入りきらないものが散乱している部屋があるという。スーツを着た人間が何度も呼びかけているのを目撃したことがあるらしい。あと、そこに住んでいるのがかなりやつれているから中年の女性だと初めてみたとき勘違いしたけども、竜司の母親がご近所づきあいで聞いた話では意外と若い。かなり厳重に、病的な数の鍵をかけ、掛け持ちしているパートに勤しんでいるとのこと。名前は回覧板で把握している。コピペと一致する名前だ。
「でも女の子とかみたことねーんだよな一度も。つーか一人暮らしだって聞いてるぜ?」
「泣き声とか聞こえないのか?」
「いんや全然。むしろ静かすぎて不気味っつーか」
「ねえ、それってやばくない?警察とか行かないの?」
「ガセの可能性はないのか?竜司」
「異世界ナビがヒットしなきゃ俺だってそう思ったよ」
「そんなにやばいの?じゃあ急がなきゃ」
「竜司の家の近くだろ、やばいな」
「そういうことなら早くいえ」
「わるかったな、どーせ俺は順番考えるの苦手だよ」
竜司は苦い顔をする。今はパレスを形成するには至らなくても、いずれ強力なシャドウはやがて特異な異空間をつくり独立してしまうのだ。メメントスから湧き出したそれは現実世界を侵食し、悪魔を呼び寄せる事態にまで発展してしまう。自分の家と目と鼻の先にまでメメントスが広がりはじめていて、その原因がパレス寸前の異空間を作りはじめているのだ。万が一がよぎると竜司は焦燥感ばかりが先走り、うまく伝えられないようだった。気持ちはわかる。がしがし頭をかいた竜司にモルガナは笑う。
「そう拗ねんなよ、竜司。たまには役に立つじゃねーか。今回は珍しくお手柄だぜ」
「珍しくってなんだよ、珍しくって。いちいち一言余計なんだよ、この化け猫」
「誰が化け猫だ!ったく、せっかく人が心配してやってんのに」
「えっ、さっきのどの辺りにそんな要素あったんだよ!?」
「褒めてやっただろ」
「いやわかんねえよ」
もちろん全会一致である。
「アキラに連絡入れた方がいいな」
「おう、頼むぜ暁」
今回初めてのパーティ加入となる。合流場所はメメントスの入り口だ。メメントスが拡大するたびに警備範囲が増えていく悪魔討伐隊は来栖が説明するまでもなく、竜司の家ほど近くまで巡回の範囲は拡大していたらしい。アキラ曰く適当な人払いの情報が自治体から流され、黄色いテーピングが該当エリアを囲う。怪盗団が暴れることでメメントス内のシャドウが活性化し、放出されるマグネタイトは現実と魔界の境を曖昧にして悪魔を引き寄せる。今まではその強大なシャドウが消えるまでひたすら待機と討伐だったが、ようやく力をふるえるとアキラはやる気に満ちていた。
「アキラは免許もってたよな?」
「え?ああ、うん、一応ね。でもなんだい、突然」
来栖たちは顔を見合わせた。
「おー!これでやっと壁にぶつけなくてすむのか!頼むぜ、アキラ!」
モルガナは嬉しそうだ。疑問符が乱舞するアキラの目の前で、モルガナは突然クラシックな真っ黒の車に姿を変えた。さーどうぞと運転席に押し込められ、隣には昨日までモルガナカーをゲーム経験のみで運転していた来栖が乗り込む。ようやく悪酔いから解放されると祐介は嬉しそうだ。興味津々で後ろから覗き込む彼らの視線を感じながらアキラは大衆意識に刷り込まれたバスになるネコに苦笑いした。どうやらオボログルマのように白骨化した中の人はいないらしい。
「よーし、出発だ!」
モルガナカーのライトが点滅する。車はゆっくりとはしりはじめた。
「そーいえばさ、アキラって臨時加入だけどコードネームどうするの?」
「たぶんメメントスだけだろうし、僕はいらない気がするけどね」
「却下だ」
「まさかの即答?!」
「ったりまえだろ。カッコつかねえじゃねーか。な、ジョーカー」
「ああ。それに俺たちの実力が図りたいとはいえ、一時的にでも俺たちの仲間になるんだ。流儀には従ってもらう」
「あっちの世界でも力を振るうかもしれないとジョーカーから聞いたぞ、アキラ。ならなおさらお前から俺たちの素性がバレたら困る」
「う」
「じゃあさ、じゃあさ、なにがいいかな、アキラのコードネーム」
「サムライなんてどうだ?東京を守るために戦う悪魔討伐隊はまさにサムライだ」
「なんか言いにくくね?ブシドーはどうよ、ブシドーは」
「ブシドーってなにそれ、いいやすいけどなんか違わない?サムライかー、ブシ?ムシャ?モノノフ?」
「あはは、外国人みてえ。ニンジャ、サムライ、ブシドー」
「あのね、君達。なんか遊んでないかい?サマナーとかバスターでいいからね?」
「サマナーって、アキラたちみたいな悪魔使いのことだよな?」
「ああ、そうだよ。デビルバスター、デビルハンター、色々呼ばれてるけどデビルサマナーが一番知られてるね」
「たしかアキラは悪魔を憑依させてペルソナのように使ったり召喚したりするんだったな?じゃあサマナーでよくないか?」
「えー、サマナーってまんまじゃね?」
「まあサマナーって呼び名は悪魔にも知られてるから、シャドウと悪魔の識別にも使えるしありかもしれないね」
「んー、でもサマナーってなんか魔法使いみたいじゃない?アキラって銃も刀も本物だしなんか違うかも。どっちかっていうと前衛タイプじゃない?」
「僕が前衛?」
「あれ、違うの?」
「一応悪魔使いの僕はサポート特化なんだけどね」
「はあ?刈り取る者に一人で向かってたやつが前衛なわけねーだろ!」
「たしかにあれは後衛じゃないな」
「あれは見事な手合いだった」
「うわまじかよ、あいつに一人で?アキラって以外とバトルジャンキー?」
「違うからね?あの時は依頼人の護衛任務中だっただけで、戦う人間が僕だけだっただけで」
「ないわー、さすかにないわ。後衛が護衛任務受けるかよ普通」
「君達意外と容赦ないな」
「やっぱサムライだよ、ラストサムライ」
「いや、悪魔討伐隊は僕以外にもいるからね?」
「アキラは外務省の外郭団体にいるんだ、サムライみたいな階級なのもあながち間違いじゃないだろ?」
「やけにサムライ押すね、来栖君。気に入ったのかい?」
「正直祐介は天才だと思った」
「ジョーカーがいうならなおのこと俺は賛成だ」
「でも言いにくくね?」
「そのうち慣れてくるんじゃない?サムライは英語でもサムライだし」
「まーたしかにそうか。なら俺もさんせー」
「あたしもー」
「にゃはは、決まりだな?じゃあ今日からアキラのコードネームはサムライな!」
「これでいいな?」
「YESしか認めない流れだよね、これ。まあ僕はなんでもいいけどさ」
「ならいっそのこと、ガントレットのコードネームもサムライにしたらいいんじゃないか?」
「なにいい事思いついたみたいな顔してるんだよ、ジョーカー!僕は絶対に嫌だからね!?」
「さて、着いたぞお前ら」
メメントスでより強い自我をもつシャドウを探知できるモルガナカーが促してくる。来栖たちは軽く体を動かしながらあたりを警戒する。おしゃべりは終わりだ。来栖は慣れた様子で編成を伝える。変に歪んでいる空間をくぐり、彼らは先を急いだ。
「んだこりゃ?」
それは明らかに今まで退治してきたシャドウとは違うものだった。
「なんで規制線が張られてるんだろ?」
アキラは驚いたのか目を丸くしている。無理もない、それは昨日までの職場そのものだった。
「うわ、とうとう出やがったか」
モルガナはめんどくさいという顔をしている。そして説明を始めた。メメントスは、大衆意識から生まれた欲望の吹き溜まりである。だれもが持ち得る強すぎる感情から生じたゆがみは時にパレスとなり、メメントスから独立して孤立無援の領域となる。そこの主の意識を投影した人間が生まれる。認知上の人間、とモルガナは称した。まるでクローンのようにそっくりだが、現実世界ではいっさい影響を与えない、いわば偽物だと。その偽物はこまったことに、メメントスが大衆意識であるが故に、大衆がイメージするものが具体化してしまうことがよくある。
凶悪事件が起こるたびに規制線が張られ、物々しい警備体制がひかれ、その中に入っていく武装をした集団を目撃した大衆によって生まれた悪魔討伐隊と出会ったのは数日前の話だ。銃声が響くのに、情報規制がかけられ、内部で行われている掃討作戦の内容が全くわからない。軽率にその様子をネット上に乗せようとしても、決まって不自然な形で圏外になってしまう。それもこれも悪魔によって魔界化してしまったエリアの奪還作戦のため、悪魔の掃討を行っている。しかも敵がスマホを通して悪魔を召喚するのを防ぐためのジャミングなのだが、なにも知らない一般人にとっては凝り固まったイメージは覆しようがない。悪魔の存在は非公開が原則だ。
認知上の悪魔討伐隊は、ランダムで出現し、突然経路を道路封鎖してしまう。自己生成される迷宮が一本道だった場合、怪盗団は無理矢理突破することになる。困ったことに侵入者に対しても問答無用で攻撃を仕掛ける彼らである。見た目は普通の人間である。
「うわ、まじかよやりずれー」
「僕ほどじゃないと思うよ、スカル」
アキラは苦笑いして指差す先には、来栖たちが顔を合わせたことがあるアキラやツギハギ、といった人間によく似た顔があるのだ。やりにくいことこの上なかった。思わず来栖たちは同情した。
幸い現役の悪魔討伐隊は、認知上の悪魔討伐隊の装備や戦術を知っている。ようやく銃撃戦が終わりを告げ、来栖は息を吐く。認知上の存在は死んでしまってもすぐ復活する。はやいとこ、封鎖された場所を突破しなければならない。たいてい黄色いテーピングがされている。その先は大衆が知らないためだろうか、何かを隠している、という期待からか、高い確率で宝箱が出現するのだ。
「よし、宝箱だ」
この間作ったばかりのピッキングツールを使用して、宝箱をあける。中には貴重な宝石が入っていた。そういえば悪魔討伐隊は悪魔と交渉するために宝石を集めて回っている。怪盗団にとっても貴重な取引先だということを考えれば、ほかにも宝石を集めて回っていることをしっている人間がいるのかもしれない。なにはともあれ宝石をしまい込んだ来栖は、振り返る。認知上の悪魔討伐隊はランダムに出現する、シャドウとは異なる存在だ。倒してもうまみがないため、基本的に状態異常にして戦闘終了をもくろむ。今回も混乱している彼らは自滅を繰り返している。
来栖は混乱状態にある彼らがばらまいたお金を拾いあつめる。次々に倒れては不定形のなにかに戻り、近くにある排水溝の中に吸い込まれていく様子をながめていた。広範囲にかけられた混乱の効果はテキメンで、敵味方の判断すらわからなくなった彼らは差し違えたり、自滅したり、スキルカードやお金をばらまいたりして、次々に倒れて消えていく。
たいてい最後まで残るのは、状態異常に耐性があるのか、モデルとなった仲間のように運がバカ高くてそもそもかからない個体のいずれか。今回はアキラによく似た個体が残った。
偽物か、そうでないかはすぐわかる。アキラの怪盗服は白と茶色の和装の上から青色のコートを着ているのだ。そして左手にはガントレットとよばれている端末がついた機械仕掛けの腕の装備。偽物は悪魔討伐隊が悪魔掃討作戦を決行すると着ることになっている服装のはずだから、自衛隊やSWATとよく似た服装なのだ。だから、目の前にいるアキラは大衆のイメージでできあがったよくわからない部隊の人間である。
返事はない。ただ、呼ばれたことに反応した気がした。一瞬驚く来栖だが、ありえない、とすぐ否定した。あたりまえだ、彼はアキラの姿をしているだけで、よくわからない部隊、という概念が形になっただけなのだから。大衆は悪魔を使役していることを知らないから、偽物は悪魔を召喚してこない。武装している剣や銃で攻撃してくる。それでも自身のエネルギーを転化して精製する攻撃だ、一定数をすぎると転化するマグネタイトが枯渇してなにもできなくなる。回復要員をつぶしてしまえば、ただ殴ってくるだけになる。今の来栖には回避すらたやすい。振りかぶった勢いで剣は壊れかけのLEDを破壊し、あたりに破片が四散する。一瞬あたりが暗くなるが、電気で光っているわけではない。すぐに原理不明の光があたりを照らす。剣が突き刺さり、抜くのに手間取っている偽物を来栖は捕まえた。
「さあ、お楽しみはこれからだ」
抵抗する身体を羽交い締めにする。そして魔法を発動させる。認知上の存在を攻撃してもアキラには何ら影響はない。彼らは不定形にとけ、どこかに消えていった。
「アキラ、ちょっといいか?」
「なんだい、来栖君」
「これ、もっててもらってもいいか?」
「これは?」
渡された袋を開けてみる。いろんなアイテムが入っていた。
「見てて思ったんだが、アキラはぜんぜん状態異常にかからないよな。いざというとき、もっててもらえた方が助かる」
「え?そうかな?」
「あ、そういえばそうだよね。一回も攻撃食らってないかも」
「そもそも標的にならねーよな、なんでだ?」
「そーいや、結構よけるよな、アキラ。悪魔討伐隊だから経験積んでんのかと思ったけど、また別の理由でもあんのか?」
「うーん、意識したことなかったな。たしか、今の僕はミノタウロスの能力がそのまま反映されてるんだよね?」
「まあな。でもアキラ自身の能力に上乗せされる形だから、まるきり同じになるって訳じゃないぞ」
「あ、そうなのかい?そんなにいわれると気になるな、ちょっと待って。えっとたしかステータス表示は・・・・・・」
ガントレットを操作し、アキラは能力を見せてくれた。
「運高すぎじゃね!?」
「え、そう?」
「なんか極端な能力値だね」
「あー、うん、ペルソナ使いのときと、悪魔使いの時じゃ戦い方が違うからね、僕は」
「え、そうなのか?」
「うん、そうだよ」
ステータスは、極端に幸運と速さ、そして魔力に極端に振られており、それなりに銃撃が高い。そのかわり体力や防御といった数値は瀕死の状態となっていた。ペルソナの補正がなければ簡単に吹き飛ばされてしまいそうな耐久性のなさである。
アキラはペルソナ使いである前に、悪魔使いである。人知を越えた存在を使役することができる、それ自体が大きな技能だ。腕っ節が強ければ補助を悪魔に任せて、攻撃の主戦力は自分とすることができたが、あいにくアキラは12のことから悪魔使いである。求められる戦力は悪魔のほうだった。だから、今も昔もアキラが担うのは補助役、回復、裏方、援護、そういった役割だった。攻撃は悪魔に任せて、自分はそれを円滑に行えるようにする能力を磨いてきた経緯がある。悪魔を召喚し、人頭指揮を執る。余裕ができれば銃による援護射撃。求められるのは状況を把握して迅速に動ける判断力と早さ、そして銃の腕。最近、ようやく斬撃が使い物になるようになった。そんなアキラの戦い方が加入してから1週間でようやくわかったらしい。
無理もない。ミノタウロスをペルソナとして降魔しているアキラは、物理と銃撃と早さに特化した完全脳筋野郎なのだ。魔法なにそれおいしいのレベルでスキルを全く覚えない。物理や銃撃に耐性がある奴には物置になるのかと思いきや、まさかの貫通効果のスキルを持っている。耐性を無視してごり押しすることが可能なのだ。そんな思考停止の戦い方をするアキラが印象的だったのだ、ペルソナを使わなければ補助役になるなんて誰が思う。
「悪いこといわないから、アイテムもっててくれアキラ。その幸運なら状態異常にもかからない」
「うん、それいいかも。さんせー。たぶん、メンバーで一番速いし、なにかとお世話になるかも」
「つーか、アキラってやたらクリティカル出すから、敵のダウンねらって俺らに回してくれた方が攻撃食らわなくてすむんじゃね?」
「お、いいこというじゃねーか、スカル。バトンタッチしてくれりゃ、ワガハイたちがアキラを守ってやれるぜ」
「あはは、ありがとう、スカル。しっかり繋げるから、あとはよろしくね。やらないといけないことをはっきりしてもらった方が僕も動きやすくなるからありがたいよ。じゃあ、今から僕はアイテム係だ。どのみち限界がきたら回復するアイテムが必要になるしね」
アイテムを受け取ったアキラだったが、まだ知らないのだ。来栖が迷うことなくアイテムをアキラに託したその訳を。
「うわっ、ジョーカーが激怒してる!しっかりしろ!」
「ジョーカーが絶望してるー!誰かサポートまわってやれー!」
「おーい、誰かジョーカー起こしてやれ!なにやってんだ、おいー!」
「ジョーカーが凍った!」
「ジョーカーが洗脳されて、敵と味方の区別が付かなくなってる!だれか目を覚まさせてくれ!」
またか!!
いくらなんでも状態異常にかかりすぎだ、とアキラは声を上げる。だが、ほかのメンバーたちは慣れたもので、さっさと敵を片づけた方が早いとばかりにシャドウをなぎ倒す。さすがに数が多いときは、アキラにヘルプが飛んだ。運の能力値はここまで影響するのだろうか。アキラは今まで意識したことがなかったが、こうも状態異常を起こすスキルに狙われすぎている来栖を見ていると、じぶんの能力が高いことを自覚せざるをえなくなる。シャドウは来栖君に親でも殺されたのか!?とアキラが勘ぐりたくなるくらいには、来栖は状態異常の餌食になっていた。冤罪で前科をつけられる来栖だ、運が悪い、といえばそうなのかもしれない。とはいえ洗脳はいただけない。ただでさえ来栖はメンバーきってのエースなのだ。
アキラ、お願い!」
「はやいとこ、あいつを正気に戻してくれアキラ!」
「ごめんな、アキラ。ワガハイは回復に手一杯で手がまわらない!」
「ああうん、わかったよ。みんなはシャドウを頼む」
了解、と頼りになる仲間を背に、アキラは走る。
目が完全に据わっている来栖を前に、アキラは冷や汗だ。物理反射のペルソナをつけている来栖である。貫通持ちのアキラでなければ吹き飛ばされてしまうだろう。まったく、状態異常になりやすいなら、精神耐性のスキルを取得すればいいものを。アキラはもう慣れてしまったアイテムを手に、来栖に向き直る。
「目を覚ましなよ、来栖君」
呼びかけても返事はない。ただ不敵にわらった来栖は仮面を剥いだ。
「こい、ギリメカラ!」
容赦のない呪詛がアキラに絡みつく。笑えない冗談はよしてくれ、と冷や汗を掻きながら、不発に安堵する。ミノタウロスが払拭してくれたようだ。ミノタウロスが耐性をもっていなかったら死んでいたに違いない。背筋が寒くなる衝動にかられながら、アキラは来栖に近づく。最近の怪我は来栖からもたらされたものの方が多い気がする。なんてことだ、完全なフレンドリーファイアじゃないか。
「悪く思わないでくれよ、毎回毎回かかる君が悪いんだ!」
アイテムを封を開けた勢いで投擲する。クリーンヒットしたアイテムが来栖に降り注ぎ、ようやく瞳が正気を宿す。
「おれ、は?」
「まただよ、来栖君」
アキラ、あ、ごめん大丈夫か!?」
「もういいよ、慣れた」
「ジョーカーふっきー!ありがとな、アキラ!」
「今度は挽回してくれよ、来栖君」
「ああ、まかせてく」
「っていってるそばからああああっ!」
運が低いやつはこれだから!!せっかく洗脳を解除したのに、全体にぶちまけられた全体攻撃の影響をもろにくらった来栖が再び狂気を宿してアキラに襲いかかる。わざとやってんじゃないだろうな、とアキラが勘ぐりたくなるくらいには即落ちである。鍔迫り合いを回避して、アキラは距離を取る。ああもう洗脳解除できるアイテムはあと1つしかないんだぞ、誰かさんのせいで!絶叫するアキラにモルガナはあちゃーという顔をしている。
「はあっ!?まじかよ、ほかの奴倒した方がはやいじゃねーか!」
「ごめん、アキラ!せめてジョーカーがこっちこないよう押さえてて!」
「ああうんわかったよ、くそう!」
主戦力に襲いかかられたらほかのメンバーは為すすべがない。アキラは半ば意地になりながら隙あらば攻撃してくる来栖と相対する。怪我をさせるわけにはいかない、うかつに攻撃できない、にしたってこれで何度目だ来栖君のカバーにはいるの!?こっちの気遣いをいいことに来栖は全力で攻撃してくる。受け流しだって楽ではないのにだ。ああもうめんどくさいな!アキラはアイテム袋から最後のひとつを引っ張り出し、引きちぎる。ミノタウロスの強化により容易な封じ込めにかかった。そのナイフを剣でで受け止め、そのまま一気に間合いに入る。足蹴にしてバランスを崩させる。ミノタウロスの加護により反射は無効となり、アキラの攻撃はそのままダイレクトに伝わる。ナイフを遠くに弾き飛ばし、そのまま倒れ込んだ来栖にアイテムをぶん投げた。
「状態異常にかかる君が悪いんだ、少しは反省しろ」