女神転生Ⅳ the begin(メガテンⅣ×ペルソナ5)   作:アズマケイ

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遭遇イベント⑤

「ねえ、君達、今日時間はあるかい?」

 

「時間?」

 

「なんで?」

 

「僕の上司が聞きたいことあるんだってさ」

 

「......アキラは防衛大臣のタマガミさんがつくった組織だったな。大丈夫なのか?」

 

「というか、怪盗団てバレてるのに捕まえる気ないよね、アキラ」

 

 

アキラはうなずいた。

 

 

「メメントスの起源はわからないけれど、人間の無意識が物質世界と精神世界の間でない場所にできるなんて異例中の異例なんだ。僕の上司はそれを危惧してる。メメントスの最下層になにがあるのかは、僕たちとしても気になってるんだ。一応僕たちも出入りはしてるんだけどね、いかんせんさける人間が限られてる。僕たちはメメントスに寄ってくる悪魔の掃討が任務だから、持ち場を離れるにはいかない。そんな中現れたのが君達だ」

 

 

どうやらアキラの組織は三年前の戦争で人員が激減し、慢性的な人員不足になっているらしい。メメントスにパレスが出現するようになったのは知っているがそこまで潜るには人がたりない。手をこまねいていたところ、怪盗団が消してくれた。目的はどうあれパレスの有無は悪魔の出現を激減させる。だからアキラの組織は怪盗団を敵対視する気はないようだ。アキラの組織は政府組織の外郭団体のひとつである。勝手な行動はとれない。ただこちらの不都合になることは公式な申し出がなければ開示しない。お役所仕事はよくもわるくも怪盗団にとっては幸運だった。

 

 

「だって僕の管轄外だからね。僕らの相手は悪魔が基本だ。あとはメメントスや魔界との境界があいまいになったところに迷い込んだ一般人の保護。君達はただの学生だろ、ちょっと世間を騒がせてるけど」

 

「やっぱり大人にはまだまだその程度の認識なのか。我輩たちの活躍もまだまだたりないってことだな」

 

「なんか悔しいな」

 

「正式に申し込むと君達未成年だから親に連絡いくけど?」

 

「それは困る」

 

「それにさ、正直僕たちは手が回らない。それだけに悪魔とたたかえる人は貴重なんだ。上司がね、君達と会いたいのはどんな人なのか知りたいのもあるんだと思うよ、たぶん。今僕らは人不足でね。情報流すから代わりにメメントスいくなら調べてくれないかな」

 

 

悪い話ではない。怪盗団も世間の知名度を上げなければメメントスの奥にはいけないのだ。いずれ大物を狙うことになる。その情報が貰えるなら。彼らはアキラについていくことにした。

 

アキラに案内されるがまま歩いて行くと、蒼山一丁目駅の関係者以外立ち入り禁止な扉に入る。スタッフだけが入ることを許された通路を抜け、その先にあるエレベーターみたいな場所に出た。入って、といわれるがまま足を踏み入れる。

 

 

ミラーボールの内側に閉じ込められてしまったようだ。そう錯覚しそうになる。白、白、白、白、見渡す限り真っ白な世界が広がっている。辛うじて角度によってアクリルのようにきらめく白い筋があるおかげで、立体の世界に立っているのだという確信を得ることができている。恐ろしく変わり映えのしない真っ白な世界は、たくさんの長方形が無数に幾重にも折り重なって、球体のような空間として広がっている。その四角と四角の間には小さなコードが張り巡らされていて、電気が通っているのか物凄い早いスピードで光の粒子が走り抜けては消えていく。じいっと見つめていると目がちかちかしてきそうになって、目のやり場に困っていた来栖はその流れを追いかけるのをあきらめた。違和感と圧迫感がある。息が詰まりそうになる。

不安になって後ろを振り返ると、そのいくつもある四角い平面のうち、いくつかが発光しているのに気が付いた。

 

 

「これがターミナル、いわゆるワープゾーンだよ」

 

 

アキラの声がよく響く。

 

 

「残念ながら僕みたいに所属する人間しか使えない。でも制服姿のまま、東京駅の警備会社にみんなを引率するのは目立っていけない。それはよくないだろ、お互いにさ。一応、公的な機関にも悪魔に対する部署はあるんだけど、たてわりの弊害で横の連携がうまくいった試しがないんだ。だから、僕らは警察の悪魔対策室とは仲が悪いし、君たちが逮捕される事態になったら手が出せない。だからせめてこのターミナルシステムは有効につかってね。あ、日常的につかうのは構わないけど夜しか使えないから注意だよ。一度いったことがないと使えないしね。アクセスするにはアドレスがいる。セキュリティクリアランスに直結してるから僕はあんまりいけないんだけどね」

 

「すげえ、ゲームみてえ!ほんとにあんだな、ワープゾーン!」

 

「電気だけなら無限にあるからね、今の東京は」

 

「どうやってワープするの?」

 

「みんなを1と0にして転送するんだ」

 

「マトリックスみたいな?」

 

「古い映画知ってるね」

 

「DVDで見た」

 

「へえ。まあ、あんな感じだよ」

 

「駅にあるのか?」

 

「うん、だいたいの地下鉄には網羅されてる。僕の職場は東京駅だからね。駅にあった方が便利だろ?」

 

 

ちょっとした節約である。冗談めかしていうアキラの笑いの後、座標を求めるアナウンスが流れ、アキラは慣れたようにキーボードを叩く。中央の球体が遠心力で宙に浮かび始めたころ、世界は琥珀色に塗りつぶされた。

 

さあいこう、とアキラはスイッチを押す。スタッフオンリーの通路を抜け扉に向かうと、何度もテレビで見たことがある雑踏がある。竜司は興奮気味にすごくねあれとまくし立て、しんじらんない、と杏はぼうぜんとしている。目を丸くした来栖は時計をみる。たった数秒の出来事であった。

 

 

「地下鉄はこんな感じ。わかったかな?それじゃ、僕の組織の支部にいこうか。ここから降りたら秘密基地の意味がないからね」

 

 

同じ手順を踏み、彼らはターミナルに再転送された。エレベーターのような浮遊感とほんの少し音が遠くなる感覚。次第に慣れてきたミラーボールの真ん中で彼らはアキラがなにかをスキャンするのをみた。音をたてて四角い光がさしこみ、ミラーボールが乱反射してあたりを眩しく照らした。

 

どこかの建物の内部のようだ。ちょっとしたスペースがあり、右と左に別れた廊下は細長くつづいている。さすがに職場だからだろう。アキラは何度もここに赴いているようだ。こっちだよ、と怪盗団に振り返ると軽く案内してくれた。シフトが入っている隊員の寝泊まりする寮のスペース、購買、訓練場、談話室、変わりばえしない風景がつづいたことで、来栖たちはここがどこかの地下施設だと察した。下がることはあっても上がる気配がない。どんどん先に進んでいく。たぶん、この真上が警備会社なのだろう、岩井から来栖が預かった住所は。スマホで検索しようとするがさすがに圏外だ。ジャミングされているのか、地下だから電波がとどかないのかはわからなかった。

 

 

そして不意にアキラは来栖がみたことのない表情になる。ノックを数回、想像していたよりもずいぶんと若い男の声がする。アキラはノブを回した。なれた様子で様々な所作をこなしたアキラは、男を見上げる。おそらく、彼がアキラの上司であり父親でもある津木という男だろう、とようやくこちらを向いた男をみて、杏がえっと声をあげる。うわ、と思わず口に出たのは竜司。そして来栖の鞄の中で目を丸くして、なんだこりゃフランケンシュタインか?とこの間来栖が読んでいた本を思い出したのはモルガナだ。来栖は二の句が告げない。

 

 

男は顔の大部分をひどく損傷した形跡があり、上からチグハグな形で縫い目が走っている。現代医療でここまで杜撰な処置はありえないだろう。ならば自分で行ったか、それしか行えない環境にいたかのどちらかだ。もともと無愛想な男なのだろう、ただでさえ人相の悪い顔が悪化していた。アキラはあーもうとため息をつく。

 

 

「なに高校生威圧してるんですか、ツギハギさん。ただでさえ顔怖いんだから笑顔くらいつくらないと、いつまでたっても結婚できないですよ?」

 

「おい、アキラ。何度もいってるがツギハギはやめろ。おまえの真似して他の奴らまで呼び始めたぞ」

 

「だって津木じゃ僕と被るじゃないですか。ツギハギってニックネームくらいフレンドリーにネタにしないとだめですよ。そもそも回復を悪魔任せにするからそんなことになったんでしょーが」

 

「ああ、いつものサポート役かいなかったからな」

 

「いつの話してるんですか、しかも根に持ってるし。だいたい悪魔に逃げられるなんて信頼関係なさすぎですからね?どうせ使い捨て道具みたいな扱いだったんでしょ」

 

「おまえみたいな関係構築できるほど柔軟じゃないんでな」

 

 

ツギハギと言われた男はようやく笑う。だいぶん雰囲気が和らぎ来栖たちはほっとした。座ってくれ、と促され、怪盗団はソファに座った。

 

とりあえず、ここに来てくれたことを歓迎すると言われた怪盗団は、少々戸惑う。アキラから言われていたとはいえ、生真面目そうな男である。怪盗団の存在には眉を寄せそうだが、アキラによほど信頼をおいているのか、全く警戒するそぶりはない。

 

 

「まずは初めまして、とでも言おうか。俺は津木、アキラが何を吹き込んだかはしらんが、一応説明しよう。ここは防衛省が管轄している悪魔専門の討伐組織だ、他にもいくつも悪魔を専門に扱う部署はあるが基本的には内閣府の要請で専門対策室がつくられない限りは横の連携より上からの指示で動く場所だ。俺は陸上自衛隊からこちらを任されている。アキラや君たちのように特別な力よりは重火器の扱いの方が慣れてるんでな、あまり攻撃に悪魔はつかわん。だから悪魔について聞きたいならアキラに聞いてくれ。怪盗団についてはアキラに一任してある。なにかあればアキラを通じて俺に連絡してほしい。よろしく頼む」

 

 

これをつかってくれ、と差し出されたのはカードである。アキラがスキャンしていたあれだ。特別性らしくターミナルを転送するためのキーらしい。

 

 

「どうしてそこまで我輩たちに協力してくれるんだ?って聞いてくれないか、ジョーカー」

 

「心配しなくても聞こえるんだがな」

 

「にゃうっ!?」

 

 

思わず来栖の膝の上に避難したモルガナはぶわっと毛を逆立てた。ツギハギは吹き出す。つられて来栖も笑う。アキラがモルガナの声がききとれるのだ。上司のツギハギも聞こえて当たり前だろうに。わ、笑うなよう、とモルガナは情けない声を出す。咳払いしたツギハギは目を細めた。

 

 

「悪魔を使役したり、交渉したりできるプログラムがあるんだが、それを起動できるやつのみがここにいる。適正があるらしいが基準はよくわからん。まあ、そういうことに縁がある奴らがたくさんいる。だからおまえの声はつつ抜けだから注意しろ、黒猫」

 

「猫じゃねえ、モルガナだ!」

 

「モルガナねえ」

 

 

ツギハギはスマホを取り出すとアプリを起動した。そして来栖たちに投げてよこす。

 

 

「俺が協力しようと決めたのはこいつだ」

 

 

そこにはメメントスやパレスを検索できる不気味な目玉のマークがある。

 

 

「アキラのスマホが最初だった。そして今じゃここの奴らで送りつけられてないやつのが稀だ。俺たちは時折迷い込む一般人の保護にあたってた。肥大化するパレスを跡形もなく消し去ってくれたおかげで、どれだけの人間が救われたと思う」

 

 

手口はしらないし目的もわからない。でもそれを上回るだけのことを怪盗団を名乗るやつらはやってのけた。それだけで十分だ、とツギハギはいう。東京を守るためなら悪魔だって使うのがこの組織の方針なのだと。

 

 

「始めはメメントスを広げて何考えてやがると思ったんだがな。メメントスが広がるたびに現実との境界はあいまいになり、悪魔が湧き出して来やがる。でもパレスを消し去れるのはおまえらだけなんだ。パレスさえ消えてくれれば、よってくる悪魔もだいぶ減る」

 

「え、ちょ、ちょっと待ってくれよ!メメントスが現実にも影響及ぼしてんのかよ!?」

 

「いや、ただしくはメメントスにつられて悪魔がくるんだ」

 

「あ、そっか。パレスって悪魔にとってご馳走がたくさんあるとこなんだっけ?」

 

「だから俺たちの学校近くにあいつらが?」

 

「ああ」

 

 

メメントスが広がるたびに悪魔が出現しやすくなるが、パレスがなくなってくれることでその確率は下げられる。メメントスがみんなのパレスならば、怪盗団が消してくれるかもしれない。なら支援すべき、そう考えたらしい。怪盗団にとっては思わぬ収穫である。かつてパレスがあった場所に悪魔という異形がいるなら、人間が被害にあうまえに。深入りしない代わりに協力関係とはこいつわかってんなとモルガナは満足げにわらった。交渉成立である。

 

 

 

「しかし奇妙なこともあるもんだ。怪盗団にまさか岩井んとこのアルバイトがね」

 

「僕も驚きました」

 

「おまえと会うのは3度目だもんな」

 

「ほお、どこでだ?」

 

「ああ、そういえばフロリダで」

 

「フロリダだと?おいこらアキラ」

 

「仕方ないじゃないですか。僕だって不本意ですよ。でも様子がおかしいって入り口で張られたらどうしようもないじゃないですか」

 

「もっと慎重にやれとあれほどいっただろう。やはり手を引くか?」

 

「いやですよ。絶対に手を引いてなんかやるもんか。ツギハギさんが協力してくれないなら、今度こそフジワラさんのところに行くまでです」

 

「部外者に情報を漏らすなと何度も言ってるだろう」

 

「そもそもせっかくの非番に呼びつける方が悪いんですよ」

 

「そう拗ねるな、アキラ。おまえがやると言ったんだろう、男なら有言実行だ。いいな」

 

「はいはい、わかってますよ。いわれた通りちゃんと怪盗団連れて来ただけまだいいじゃないですか」

 

「昨日の今日だというのに全く。謹慎くらってもろくに反省しないんじゃ意味がない。大人しくしろといったのにおまえは。これじゃ他の奴らに示しがつかん」

 

「いつの話してるんですか。僕はもう18ですよ、ツギハギさん」

 

 

ツギハギはためいきをついた。

 

 

「あとで情報やるから来い。諜報部が特定した情報だ、信憑性は折り紙付きだ。安心しろ」

 

「了解です」

 

 

アキラは笑った。

 

今日は帰っていいよといわれ、怪盗団たちは喜多川に詳細を告げるため渋谷に向かったのだった。


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