女神転生Ⅳ the begin(メガテンⅣ×ペルソナ5)   作:アズマケイ

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遭遇イベント③

怪盗団アジトの会話を録音した生徒会長は、その音源を再生しながら顔面蒼白の彼らに条件を提示した。校長先生に提出するまで2週間の期限を与える。現在高校生を中心に、あらゆる手段で弱みを握られ、運び屋などをさせられる被害が渋谷で多発している。その犯罪の元締めを改心させろ。それができたら通報はやめる。心の怪盗団を自称するなら、これくらいたやすいだろう、君たちの正義を見せてほしい、と不敵に笑った。最初から最後までリードを握られてしまい、おもしろくないと竜司は舌打ちをする。なんなのあの上から目線、と杏は去っていった生徒会長の後ろ姿に不機嫌さを隠さない。

 

『気をつけろよ、お前ら。相手はなかなかの切れ者だ、気持ちはわかるけどここは条件をのもうぜ』

 

「でも名前すらわかんねーんだろ、どうやって探せっつーんだよ」

 

「そうそう。つーかなんでそんなこと生徒会長が私たちにお願いしてくるのかな?そこがよくわかんないんだけど」

 

「ほんとにな。どーするよ、リーダー」

 

「まずは情報を集めるしかないだろう、被害にあった生徒から一味の活動場所を聞き出して、末端を捕まえて、そこから名前だけでも聞かないと」

 

「そうだよなあ」

 

心の怪盗団には流儀というものが存在する。まずは大衆の共通意識であるはずの迷宮メメントスから、あまりに強大すぎる意識を持つために独立してしまったエリア、通称パレスを特定しなくてはならない。アクセスするアプリを起動するには、まずパレスの持ち主の名前、そしてその持ち主が固執している場所、そしてそれをなんと認識しているのかキーワード検索してヒットしなければならない。たとえば怪盗団の初仕事だった体育教師の鴨志田は、オリンピックも経験したバレーの実力者であり、私立の知名度を上げるために召集された経緯があるため表だって悪行を告発できない土壌ができあがっていた。ある程度の違法行為は黙認され、隠匿され、そして生徒は我慢を強いられる環境は、好き勝手できる城のようなもの、と無意識のうちに考えていた。そのため、鴨志田、学校、城、と検索すればパレスに侵入することができる。今、怪盗団に生徒会長からもたらされた情報は、正直なにひとつないのである。名前がわからない、どこで悪行をしているのか渋谷という漠然とした場所しかない、あとどんな場所だと勘違いしているのかなんて連想しようがない。たった2週間で3つも検索ワードを見つけなければならないのだ。かなりの突貫工事である。

 

「でもさ、それが正義だって思ってたらどうするの?パレス自体なかったりして」

 

『それが一番やっかいなとこだな、正直パレスがないと我が輩たちはお手上げだ』

 

うーむ、とみんな頭を悩ませる。高校生相手に搾取を繰り返す犯罪者集団の頭は、今の現状を無意識のうちに悩むことなんてあるのかと。そもそもパレスは正常な状態であれば存在しない。メメントスの中に溶けていく。パレスは持ち主がどこかおかしい、どこか間違っている、なにか違う、認識はどうあれ何か思うところがあってこそ発生しうるものなのだ。その核となるものを取り除くことで、凝り固まった視野が一気に開け、持ち主は自由に思案し、思考し、その結果改心につながっている。簡単にいえば、根っこがまともであることが前提なのである。ただパレス自体が存在しないことがある。たとえば端から見ればいくらゆがんでいたとしてもそれが本人にとっての正義、信念、あるいは平常時となんらかわらない場合。それは本人の認識と心の感情が一致しているため、ペルソナになりえることはあってもパレスにはなり得ない。怪盗団が洗脳ではなく改心というのはそのためだ。人間は三大欲求で生きている。それもメメントスを形成するお宝だが、それを盗むことは廃人になることを意味する。あるいは精神を書き換えてしまうことにつながる。そうではなく、パレスを形成する、あるいは形成しうるほどその人間のあり方を根本からゆがめてしまう欲望限定で盗むことが怪盗団なのである。だから自然とねらうのは大物だ。小さなお宝を盗んでしまうとその人にとっては洗脳になってしまうこともありうる。

 

 

「まあ、たしかにそうだな。でも、もしパレスがあって、改心に成功したらどうなる?」

 

どこか楽しげな彼の声に、反応したのは竜司だった。

 

「やっべえ、興奮してきた。怪盗団の知名度、やっべえことになんじゃねーの?」

 

「そっか、たしかにぜんぶ自白しちゃうんだもんね。警察すら手がだせない大物だっていってたし」

 

「怪盗団がやったと世間が認知すればメメントスのさらに奥までいけるはずだ。やってみる価値はあるだろ?」

 

「失敗したら警察に捕まるけどな!」

 

『背水の陣ってわけか!さっすがは我が輩の見込んだ男だぜ、ジョーカー!よーし、しばらくは情報収集といこうぜ、おまえら』

 

メンバーがやる気を出したところで、話が変わるんだが、と彼は1枚の名刺を差し出した。

 

「んだこれ、警備会社?なんだよ、バイトでも見つけたのか?」

 

竜司の言葉に彼は首を振る。そして、先日の土曜日に起こった一連の出来事についてかるく説明した。

 

「はああっ!?んだよそれ、まさかモナと会ったことあんのか?」

 

『そんなわけないだろ、竜司。こっちの世界の我が輩にわざわざフルコース注文するなんてあんなおもしろい奴一度あったら絶対覚えてる』

 

「ああ、たしかにモナが男か女かもわかってなかった。初対面だと思う。しゃべる猫だと思ってたしな」

 

「ペルソナ使いとか?」

 

「そこまではさすがにわからないな」

 

「もしかして、斑目がいってたメメントスを悪用してるやつと何か関係あるんじゃない?」

 

『我が輩もちょっと思ったんだが、あのミリタリーショップ経由で知り合ったからな。下手に探りをいれてこっちつつかれても困るんだ。あそこにはパレスやメメントスのお宝持ち込んでるからな』

 

「んだよ、次から次と問題出てきやがって、めんどくせえ!」

 

「これくらいの方がおもしろいじゃないか」

 

「楽しそうだなあ、おい」

 

いつまでも中庭の自販機コーナーでだべっている訳にもいかない。別の高校に通っている新しい仲間である喜多川と合流するため、彼らは渋谷駅に向おうとした。

 

「あれ、通行止め?」

 

「うわ、まじかよ。これじゃ通れないじゃねーか」

 

『そういえばパトカーがやたら多かったな』

 

「なんかあったのかな?」

 

「でもなんも聞いてなくね?でけえ事件なら早くかえれってなるだろ、ふつう」

 

「そうだね、どうしたんだろ?」

 

モルガナが入っている鞄がやけに重く感じた彼は、ふと鞄に目を落とす。ぎょっとした彼はあわてて竜司たちを呼んだ。振り返った二人は、メメントスでもパレスでもないのに、二足歩行の黒猫となっているモルガナに絶句する。あわてて自分の姿を確認するがさいわい学生服のままだ。鴨志田のパレスを攻略しているときは学校が舞台だったからなんら違和感はなかったが、パレスは核となる劇薬レベルの欲望を奪われると大衆意識と同化してなくなってしまう。鴨志田のパレスがなくなってからは、このあたりまで広がったメメントスを攻略する以外怪盗団として活動することはなくなっている。だから晴天の霹靂なのだ。モルガナが二足歩行の黒猫のような生き物になるのは、メメントスやパレスといった世界に限定されている。だから現実世界とそちらの世界の区別ができないくらい忠実に再現された世界でも、モルガナを見ればどちらか判断することができる。モルガナがこの姿ということは、ここはメメントス、もしくはパレスだろうか。そちらの世界に入るアプリは起動すると問答無用で周囲の人間を巻き込んでしまい、自由に行き来ができるモルガナすら気づかないことの方が多いのだからやっかいである。もしかしてなにかの罠だろうか、それとも気づかなかっただけで誰かのパレスがヒットしてしまったのだろうか。彼らはスマホを操作してみるが起動した形跡がない。というか、メメントスやパレスを表示しない。現実世界であちらの世界にいくときの検索モードのままである。彼らは混乱した。これは現実世界だといっている。でもモルガナは。

 

「おいおい、なんだよこりゃ」

 

「モナがこっちの姿ってことはここってメメントス?」

 

「いや、違うな。お前等が怪盗の姿になってない」

 

「モナがこの姿になったのは、このあたりからだ。ちょっと調べてみよう」

 

彼は慎重にすれ違う生徒たちに気づかれないようモルガナを隠しながら歩いてきた道を戻る。パトカーが封鎖するように立ちはだかる通学路から離れるに従い、鞄が軽くなっていく。気づけばモルガナは黒猫の姿に戻っていた。

 

「わけわかんねえ、なんだこれ」

 

『聞きたいのはこっちだ』

 

「ほんとにね、なんだろこれ。こわいんだけど」

 

「現実世界とメメントスの境界が曖昧になってるのか?」

 

「え、なにそれ怖い」

 

「洒落になんねーこというなよ、暁」

 

竜司はひきつった笑みを浮かべる。彼は歩きなれた通学路を見渡す。意識を集中させると青い扉の前で囚人録をくるくる回して遊んでいる双子の片割れを見つけることができた。

 

 

「牢獄が恋しくなりましたか、囚人」

 

「なんで君がいるんだ。今までベルベットルームのアクセスポイントじゃなかっただろ」

 

「すでにわかっているのではないですか。メメントス、パレス、あなたの更生を促進する場所ならば扉は開かれるのです。どのようなところにも」

 

「つまり、今のこのあたりはメメントスだっていいたいのか?」

 

「そういうことです」

 

彼はためいきをついた。意味が分からない。メメントスなら登下校している生徒たちはなんの違和感も持たないまま歩いていることになる。この先は最寄りの駅だ。駅の真ん前に学校はある。その通学路を封鎖するようにパトカーがあるせいで、生徒たちは迷惑な顔をしながら一つ先の駅を目指して歩いている。

 

「境界はこの辺、ゆがみの中心はどっちだ?」

 

「あそこです」

 

彼女が指さすのは駅である。彼が嫌でも連想するのは破棄された地下鉄で構成されている広がり続ける謎の迷宮、メメントスである。パトカーさえなければ警戒したが、KEEPOUTの線が張られ、両脇を警官が固めているのだ。近づくことはできない。ここがメメントスというならペルソナ能力はつかえるはずだ。怪盗のときのように身体強化したペルソナの力を駆使して不能侵入という手もあるが、いかんせん一般人もいることを考えると通報されたら困る。考えあぐねていると彼女は不思議そうにいった。

 

「変なことをいいますね。あれが人間にみえるのですか。あなたの目は節穴のようですね、囚人」

 

「なんだって?」

 

その意味を彼が問うより先に、ずっと警官たちを見ている彼らに気づいたらしい警官が近づいてくる。やばい、と思ったらしい杏たちは、野次馬です、と不自然な敬語で返した。警官は不自然に沈黙したまま、目深にかぶった帽子の向こうから不自然に赤い目を向ける。

 

「本日より・・・・・・新たな・・・を配備・・・」

 

「え?なんかあったんすか?」

 

「本官の・・・術・・・・・・貴様・・・も・・・・・指導ッ」

 

躊躇なく拳銃が抜かれる。ぎょっとした竜司はちょ、ちょっとたんまと叫んだ。

 

「・・・を・・・・・へ移動させるか?ならば・・・突入・・・・・・・許すまじ・・・・・・」

 

90度曲がってしまった腕を回し、むちゃくちゃな方向から無線を始めた警官は、その先にいる彼に目を向けた。

 

「本部・・・・応答せよ・・・・!逃走中の・・・・・・怪盗・・・発見ッ・・・!さあ、観念しろ・・・・本官・・・・・・からは・・・逃げられんッ!」

 

「暁、よけろ!」

 

「逃げて、暁!」

 

乾いた音がする。モルガナの悲鳴が遠い。ガラスが砕け散る音がした。

 

「なにを突っ立っているのだ、怪盗共。我がそんなに珍しいか」

 

地の這うような声がした。彼とモルガナの前に立ちふさがり、放たれた銃弾をいともたやすく粉砕して見せたのは牛の獣人である。

 

「我らによく似た者共を相手にしているとみたが、我をみたことはなかったか」

 

ちょっと残念そうに化け物はいう。

 

「まあいい、その異形の力が飾りでなければ我が主に力を貸せ、怪盗共。我を退屈させてくれるなよ」

 

「お前は?」

 

「忘れられし我が誇り高き名は、我が主のみが口にすることを許される。この唯一至高の古き盟約により、貴様等にはこの名を呼ばせてやろう。我が名は邪獣ミノタウロス。

コンゴトモヨロシク」

 

「モナ、こいつはペルソナなのか?」

 

彼の問いかけにモルガナはぶんぶん首をふる。

 

「ちがう、こいつはペルソナじゃない。シャドウでもない。人間がもっていいもんじゃない!」

 

「そこの人形はよくわかっておるではないか。よもや逃げるなどするまいな?貴様等も我が主と同じならば誇り高く戦い抜いて見せよ」

 

「に、に、人形ってなんだよ!我が輩そんな暴言はかれたの初めてだぞ?!せめて猫にしろ、人形ってなんだよ、我が輩がそんなにかわいいからってなああ!」

 

「モナ、落ち着け。いってることがむちゃくちゃだ」

 

「だ、だってよ、ジョーカー」

 

「さあ、覚悟を決めるがいい、怪盗共。ここからは空虚な言の葉ほど無意味なものはない。聞くだけ無駄な言葉などいらぬ。死して血の海に溺れるか、決意を新なる強さに変えるか、ふたつにひとつだ。さあ選ぶがいい。これより世界は戦場となる」

 

ミノタウロスと名乗った化け物がそう宣言した瞬間、世界は彼らの知るメメントスとよく似た異空間に様変わりした。人々がいる日常は塗りつぶされ、メメントスが覆い隠してしまう。そしてパトカーに乗っていたゾンビと化した警察官が大群となって襲いかかってきたのである。

 

 

彼はペルソナ能力が使えると確信した。根拠はなかったが、それはみんな同じだった。襲いかかってくるゾンビをアルセーヌの火炎攻撃で焼き払い、ナビゲートモードに入ったモルガナが弱点を記憶する。背後ががら空きだよ、という聞き慣れた声に、彼は振り返った。斬り伏せられたゾンビコップから黄緑色の光があふれ出す。どろりとした液体となり、それは溶けてしまった。

 

「こい、アエーシュマ!」

 

「わたくしはアエーシュマ、憤怒と激怒の帆を張りて、血の荒海を渡る者。貴方には残忍なる舵取りを任せましてよ。さて、我が主はなにをお望みかしら?」

 

「わかってるだろ、アエーシュマ。辺り一帯のゾンビコップに蜃気楼だ」

 

鮮やかな光に満たされたゾンビコップたちは幻に惑わされ、ろくに攻撃が当たらなくなる。これはチャンスだ、と彼は杏にバトンタッチした。高火力の火炎地獄があたりを覆い尽くす。一瞬にして化け物たちは焼き尽くされたのだった。こ、こわかったあ、とへたり込む杏に、下手なゾンビ映画より迫力あったな、と竜司は軽口をたたきながらも心臓の音がうるさいらしく息が荒い。大きく息を吐いた彼はアキラに礼を言う。いつのまにか加勢してくれていたミノタウロスたちの姿がない。

 

「会うのは3度目だね、来栖くん。もうこれは偶然じゃないな。僕の仲間を解放してくれてありがとう」

 

「仲間?」

 

「彼らは悪魔に殺されたあげく、使役されてしまったゾンビなんだ。僕の本職はこっち。コンゴトモヨロシクね」

 

アキラが見せたのは警察手帳によく似た身分証明書である。

 

デビルバスターズ、有り体に言えば悪魔討伐隊。詳しくは君のお仲間さんとどこかで話そうかと提案され、彼らが拒否することはなかったのである。


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