女神転生Ⅳ the begin(メガテンⅣ×ペルソナ5)   作:アズマケイ

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the END

桜が舞っている。去年は見上げる気力も無かったが、今年は見上げることができている。ただ、それは別れの合図でもあった。

 

 

新島の借りたワンボックスカーに押し込められた来栖は、楽しそうにドライブの段取りをしている女性陣に占領された前の席を見て、男性陣が奥の席に追いやられたことを悟る。そして連行される犯人のごとく縮こまって座った。まさかのサプライズである。昨日しんみりと挨拶回りをしたというのに、これでは台無しではないか、とこみ上げてくるものをぬぐいながら、笑った。おおげさなんだよ、と竜司は笑う。来栖の地元を知ったとき、会えない距離じゃないと分かっていたではないかとも。そりゃそうだ。来栖の涙にあえて気づかないふりをして、車酔いの前科から窓際一択の祐介は問いを投げた。

 

「なぜ反対のホームに行こうとしてたんだ?」

 

彼らが呼び止めたとき、来栖は地元とは正反対の方向、学校の通学路となっていた路線に向かおうとしていた。

「まだ挨拶回りが終わってないんだ」

 

「えっ、まじで?誰よ、近くならよってもらおうぜ」

 

「アキラか?」

 

「ああ、昨日は悪魔がらみの事件があったらしくて、一日連絡がつかなかったんだ」

 

「相変わらず忙しそうだよなー」

 

「だが、彼らのおかげで俺達はこうして暮らせるんだ。感謝しなければな」

 

「だな。で、今日、会う約束でもしてたとか?」

 

来栖は首を振る。ダメ元でツギハギに連絡をしてみたら、今日は午前中有給をとっているという。その行き先を教えてもらえた来栖は、怪盗団としての活躍に敬意を表して記念に所持を認めてもらえたターミナルのパスを使い、移動しようとしていたという。来栖たちの会話が聞こえていたのだろう、女性陣がこっちを見ていることに来栖は気づいた。

 

「で、どこに行けばいいの?」

 

ハンドルを握る新島の表情は真剣そのものだ。大人数を乗せたレンタカーなんて責任重大な運転手を任されたのである、事故があろうものならえらいことになる。散々姉から脅かされたのだろう。彼女は若葉マークがよく似合う安全運転をしていた。

 

「真ちゃんは前見てて。カーナビは私が操作するから」

 

「ごめんなさい、助かるわ。ありがとう」

 

「私、これくらいしかできないから気にしないで」

 

ふふ、と春は笑った。

 

「暁君、どこにいるの?アキラさん」

 

来栖は青山霊園に向かってくれと告げた。

 

「驚いたな、どうしてここがわかったんだい?」

 

「ツギハギさんから聞いた」

 

「また?いつだったかと同じだね。ったく、あの人も何考えてるんだか。個人情報筒抜けじゃないか」

 

アキラは困ったような顔をして、頬を掻いた。さっきまで家の墓の手入れをしていたのだ。ただひたすらに無心で作業に没頭していた彼は、来栖が声を掛けるまで全く気がつかない有様だった。それだけ集中していた証である。ぎょっとした様子のアキラだったが、しんみりとしていたのを隠しようがない現状に諦めたようで、そのまま作業を中断して応じてくれた。

 

「今日が姉さんの命日だってわかったからどうしてもね」

 

「今日だったのか」

 

「ああ、そうだよ。今日があの男を除く大天使を皆殺しにして、悪魔討伐隊のみんなと白い繭を墜落させた日なんだ。僕が姉さんを殺した日だ」

 

「葬式は?」

 

「一応やったよ、ずいぶん前にね。父さんも母さんも。あのときはからっぽだったけど、今はやっと中身がはいった。できれば骨のひとつでも残っていればよかったんだけどね、どうしようもない」

 

アキラは淡々と線香を手向け、手を合わせる。来栖もなにもいわないまま、見たこともないアキラの家族の墓前に手を合わせた。アキラが言うには、このお墓に入っているのは位牌でも形見でもなく、姉だった人とたくさんの子供達が溶け出したマグネタイトが結晶化してできた鉱石なのだという。車輪の女、とアキラの悪魔辞典に登録されたあの魔人を討伐後、あそこに唯一のこされたもの。残滓、ともいうべきものだった。通常なら悪魔に渡せばあの魔人が取得していたスキルを覚えることができるが、アキラはそれをしなかった。換金すれば途方もない金額になるが、それもしなかった。ここに保管することは、マグネタイトの発露によってくる悪魔の出現率を高めることは分かっていても、アキラはどうしても墓に入れたかったらしい。もともと霊園地帯は人ならざる者が寄ってきやすい。霊脈にあるマグネタイトにより顕現化が容易になることを考えれば当然だが、ここは古くからその歴史が長いためほかの霊園よりも対処が可能だ。管轄している東京都が専属の部署を設けるくらいには対策は講じられているから安心だという。

 

「いくんだろ?」

 

「ああ、ほんとは昨日のうちに挨拶したかったんだけど」

 

「ごめん、どうしても今日が確保したくてね。無理言って変わってもらったんだ」

 

「そうなのか」

 

「ああ。君たちのおかげでメメントスの脅威は去った。でも、無限発電所ヤマトが稼働している限り、魔界と現実世界はつながったままだ。僕たちのやることはわからないよ。ずっとね。でも、変わることもある」

 

「なにかあったのか?」

 

「うん、僕も帰ることにしたんだ。おじいちゃんたちの家に」

 

「え?あの病院に?」

 

「ああ、もともと僕がツギハギさんのところに居たのは、お姉ちゃんの事件が未解決で犯人が捕まってないことが最大の理由だったんだ。何もできない子供だった僕を孤児院に預けるのはあまりにも危険だってね。でも、僕は悪魔使いとして部隊に所属してるし、事件も解決した。いつまでも男所帯の職場の寮にいたんじゃ彼女だってできないだろ」

 

来栖は思わず笑う。

 

「なんだよ、笑うなよ。これでも真剣なんだからね?」

 

「でも、そんなあっさりできるのか?」

 

「なんで?」

 

「津木って名乗ってただろ?無かったことにできるのか?」

 

「ああ、あれ?あれは僕が関係者だってバレるから名乗っちゃだめだっただけさ。僕は津木隊長の養子になったわけじゃないよ。僕の戸籍はそのままだ。今はたぶん、おじいちゃんたちの籍に移動して、そのままじゃないかな。だいたいあの人、まだ30代だよ?そんなこといったら殺されるって」

 

『うっそだろ、あの顔で30代!?』

 

モルガナの驚愕につられて来栖ももっと上かと思ってたと告げた。アキラは苦笑いする。実は三者面談のとき、シュージン側に事情を説明して保護者代わりに出席してもらったことがあったのだが、父兄代わりだと思われたのかずいぶんと若いという発言すらなかったと隊長が落ち込んでいたと白状した。あのときは機嫌が直るまで苦労したとぼやくのが聞こえる。やっぱり傷がわるいのだ、傷が。ブラックジャックじゃあるまいし、いろんな肌をかき集めて縫い合わせるなんて素人仕事をやったせいでビジュアルに致命的なファンブルが生じてしまっている。茶化すアキラを見ていると、たしかに保護者と子供というよりは、年の離れた親友同士といったほうが近いのかもしれなかった。戦友であることには違いないのだろう。そして、彼らとはまた違ったつながりがアキラと来栖にもあるのだ。

 

「今度遊びにいくときは、そっちに電話したらいい?」

 

「ああ、そうして。たぶん、夜勤だとあっちに詰めることになるけど、たいていはあっちから通うことになる」

 

「わかった」

 

『ってことは、今度アキラと会うときは、あの寿司いっつも食えるってことだな!』

 

「いやいやいや、さすがに僕だって給料日じゃないとみんなの分出すのは無理だからね?!」

 

『よーし、暁、ツギハギにアキラの給料日聞こうぜ!』

 

「頼むからやめてくれ、洒落にならない。というか先輩に集らないでくれ、後輩だろ」

 

「全然そんな気しないけどな」

 

「まあ今更だけどね」

 

来栖は周囲を見渡す。

 

「あの人は、どうなるんだ?」

 

「ああ、先輩のこと?」

 

来栖はうなずいた。

 

「どうもなにも、行方不明のままだよ。お姉ちゃんと違って、なにも残らなかったし、あそこであったことは僕たちだけしか知らない。説明しようがない。この国の法律に則り、あと4年経てば市ヶ谷駐屯地の敷地内にある霊園にからっぽな棺がまたひとつ増えることになる」

 

「市ヶ谷の・・・・・・ああ、悪魔討伐隊は防衛省の管轄だからか?」

 

「うん。もし僕が仕事中に死んだら、僕も埋葬されることになる」

 

「縁起でも無いからやめてくれ」

 

「これは事実だからね、忌避することじゃないよ」

 

アキラはおだやかである。ずっと安否が不明だった人々が残念な結果だったとはいえ、それが判明するのとしないのでは残された人たちの心境はずいぶんと違うらしい。

 

アキラのいう霊園とは、この国が悪魔の脅威にさらされる覚悟を決めたときから、着々と進められてきた国の方向転換によって誕生した、いわば戦没者慰霊施設だ。悪魔がらみの事件の戦没者や犠牲者などの墓地が存在する。自衛隊の管轄にあり、一般人は入場が制限されているものの、来栖のように協力者として功績を残した人間は立ち入りが許されることもある。アキラがいうには、識別番号が刻印されており、情報センターでデータベースに氏名を入力すれば場所が確認できたり、あらゆる宗教、宗派、宗旨による埋葬を許容しており、信仰の自由を保障することでいろんな宗教性を受け入れたりしているのは、モデルにした某国を参考にしているようだ。

 

「いずれ、赴く日もあると思う。まだそのときじゃないけどね」

 

「行っても?」

 

「もちろん」

 

アキラが行くならば、来栖も行かなければならない。彼が望んだとはいえ、思念体が砕かれる音をはっきりと来栖は聞いていた。モルガナも来栖もアキラの共犯なのだ。説明しようがない、彼らだけの現実である。4年後か、と来栖は思う。4年たったら自分はなにをしているだろうか。さすがにそれはまだわからない。

 

「待たせてるんじゃないかい?」

 

「ああ、じゃあ、そろそろ」

 

「じゃ、元気で。あっちでもなにかあったら連絡してくれ。力になれることがあるかもしれない」

 

「わかってる。ありがとう」

 

『ワガハイがいるから安心だな』

 

「あはは、そうだね。暁をよろしく、モルガナ」

 

『おーよ、もちろん!まかされたぜ!』

 

手を振るアキラを背に、来栖は元来た道を帰る。桜色の綺麗な道が目前に広がっていた。


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