女神転生Ⅳ the begin(メガテンⅣ×ペルソナ5)   作:アズマケイ

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???との戦い

1月某日、アキラから連絡が入った。アルバイトを再開しないかと持ちかけてきたのだ。もちろんだ、正体不明の少年の約束が守られるとすれば、間違いなくそろそろである。そう告げれば察しがいいねとアキラは困ったように笑った。なんでも去年のクリスマスの次の日から、アキラと来栖を名指しで指名した依頼が喫茶店フロリダに入っているらしい。期限は特になく、依頼人はアキラによく似た少年だという。警戒するに越したことはない。

 

フロリダで待ち合わせた依頼人は、少年ではなかった。代理人を名乗る男を前に、明らかにアキラの動揺が目立つ。にこにこしながら名刺を差し出した男は、依頼人のところに案内するからきてくれと促した。

 

「ええ、そうです。私はあくまでも案内役にすぎません」

 

そういって男はフロリダの扉をくぐる。その先にはどこかの研究所が広がっていた。思わず後ろを振り返った来栖だが、通路が続くだけである。

 

「ここは」

 

「ずいぶんなお膳立てだね。暁、ここは東京中の電力を補うだけでなく、日本の電気輸出の要である無限発電炉ヤマトだ」

 

「魔界とつながっている、あの?」

 

「ああ、そうだよ。どうやら招待状だったようだね」

 

「準備はいいかい?」

 

凜と通る声が響き渡り、あたりはしんと静まりかえった。問いかけているのではない、有無を言わさぬ先導である。ごくりと来栖は息をのむ。殺気を滾らせているアキラが男に斬りかかりやしないかと、発砲しやしないかと気が気では無かった。アキラの心境を知っているのか、男は嘲りの笑みをたたえている。微塵も言葉には出さないが態度が語っている。

 

「覚悟はできてる。はやく通せ」

 

「相変わらず落ち着きがありませんね、アキラくんは。あのときのように私の忠告は聞いておくべきですよ」

 

アキラの眼光が鋭くなる。

 

「僕の心は僕一人のものだ。誰のものでもない。勝手に入ってくるな、僕は今アンタの相手をする気分じゃない」

 

「いやですねえ、私はあなたの願いを叶えて差し上げようとしているだけですのに」

 

「彼がそれを望んでるとしても、アンタが仲介する理由はなんだ。彼は人間のまま逝かせてやるべきだ。余計なことするんじゃない」

 

「一人にしないでくれ、寂しい、そう思っているのはほかならぬ貴方でしょうに」

 

「うるさい」

 

歪な感情がアキラに浮かんでいる。お姉ちゃんの彼氏であり、一緒に遊んでもらった記憶もあるお兄ちゃんだった人だ。同時にお姉ちゃんを誘拐して、悪魔に貶めた犯人であり、アキラが悪魔使いになるきっかけになった惨劇の首謀者でもある。憎悪とかつての親愛がない交ぜになった複雑な感情は男を満足させた。アキラの感情を激しく揺さぶっているのが分かる。来栖はその様子を見守ることしかできない。アキラには濁流のような感情がちらつく。その揺らぎを見るたびに面白そうに男は笑い、来栖は心配でたまらなくなる。

 

「あのとき私はいったはずですよ、どうあがいても絶望的な状況で最後まであがき続けろと。これだから人間は面白い。どうか最後まで神の信仰を示す偶像としての活躍を果たしてください、英雄よ。契約はいまだ果たされず、対価も支払われない。はやいこと私の手を取りに来てください」

 

「それは断ると前もいったはずだ」

 

「そのせいで貴方はその手でお姉ちゃんを殺しましたね」

 

「今でも夢に見る。でも間違ったとは思ってない」

 

「おやおや、そうでしょうか。まあ、貴方の中ではそうなんでしょう、貴方の中ではね。まさしくその通り。ですが私はいつでも最適解を常に提示してきたではありませんか、何がご不満なのです?」

 

「最適解がいつだっていいとは限らない」

 

「これだから人間は変質しすぎているのですよ。大いに悩んでください、その生を終えたとき、時を忘れる最高の瞬間でもって永遠に貴方をもてなして差し上げますよ」

 

「それを人は洗脳と言うんだ」

 

「人聞きが悪いですね、神に対する信仰を失った人間に対する再教育と言っていただきたい」

 

「好きにしろ、僕は興味ない」

 

アキラの言葉に男はため息をついた。ヤマトの扉を開く。来栖たちは光に飲まれた。かなり広い円形のドームである。そしておもむろに後ろの重厚なドアが閉まり、退路を断たれる。おそらく来栖たちが全滅するか、相手が敗北するか、どちらかを満たさなければ、男は扉を開ける気はないのだ。来栖はおそるおそるあたりを見渡した。その先にはふしぜんにゆがんだ空間があった。

 

「いこう、暁」

 

「ああ」

 

来栖は先に進んだ。

 

「ここが魔界?」

 

「僕も初めて来たけど、想像と違うな。魔界はあの世とこの世をつなぐ間の空間だと聞いていたんだけど」

 

「あの世?」

 

「ああ、いってなかったね」

 

「ってことは、ここで死んだら、あの世に直行?」

 

「まあ、そうなるかな」

 

「なんでそんな大事なこと言わないんだ」

 

「メメントスもパレスも同じような精神世界だったじゃないか、何を今更。君たちが体験してきた世界は、すべて現実世界まであの世が浸食していた証なんだよ」

 

「そうなのか、知らなかった」

 

「知らない方がいいこともあると思ってね」

 

「ならなんでいった」

 

「いい言葉があるんだ、一蓮托生」

 

「やめてくれ、まだ死ぬ予定はない」

 

あたりはまるで宇宙のように広い広い空間だった。遠くでは星々がきらめくのに、あたりは銀河系も何もない。ただ浮遊しているわけではなく、しっかりと足がついているのは平面の空間が存在しているからだろう。視認できないが謎のパネルが設置されているような感覚である。こつこつと冷たい音がする。音がする時点で宇宙ではない。息ができる時点で宇宙ではきっと無い。来栖もアキラも油断することなくぐるりとあたりを見渡した。張り詰めた緊張感の中、アキラは悪魔を召喚し、陣形を作る。来栖もペルソナを召喚する手はずを整える。彼らを焦らせるように、時間だけが過ぎていった。耐えきれずに来栖が声をかけようとしたとき、先に声を上げたのはアキラだった。

 

「花畑だ」

 

「え?」

 

それは不自然なほどの赤だった。名前は分からない。ただ真っ赤な花が咲いている。気づけば存在を視認できない足下にただひたすら広がる謎のプレート、つまり足下あたりは真っ赤な花で覆われており、来栖たちはそのただ中に居た。香りはない。ただ目に焼き付いている。

 

「あの世?」

 

「にしては悪趣味だな」

 

「たしかに毒々しいというか、きれいすぎて怖いね」

 

きっと普通の花ではないのだ。それだけはわかる。来栖たちは思うのだ。ここにはたしかに何か居ると。そして途方もない時間、彼らは歩いた。そしてその果てで、不気味な椅子をみつけた。その異様さに気圧されてしまうが、アキラは進もうとした。来栖の脳裏に光がちらつく。反射的に来栖はアキラを引き留めた。

 

『ここまでよくぞたどり着いたな、我が主よ』

 

勝手に来栖から出てきたアルセーヌが高笑いする。アキラは驚いた様子でアルセーヌを見上げた。

 

「アルセーヌ、それはどういう」

 

『なに、不自然だとは思わなかったのか?主よ。主のベルベットルームは偽神に乗っ取られ、大衆意識の最深部に幽閉されたも同然だったのだ。なぜ我が主の危機に出てこれたと思う』

 

「それはゲームの演出に利用されたんじゃないのかい?」

 

『我もそれを覚悟していたのだがな、ある男が我に取引を持ちかけてきた』

 

「取引?」

 

『ああ、ベルベットルームに幽閉されていた我を出してやる代わりに、アキラと共に自分を殺しに来いという奇妙な取引だった』

 

「それはどんな男の人だったんだい?」

 

『それはお前が一番知っているのではないか、アキラ』

 

アキラは今にも泣きそうな顔をしていた。

 

その刹那、突然の閃光と轟音がとどろく。反射的にアキラたちは目をかばった。強烈なまぶた裏の残像が消え去る頃、ようやく視界が回復した来栖たちがみたのは、二人の少年だった。

 

「あ」

 

来栖は声を上げる。いつもいつも来栖の前に現れるのに、ベルベットルームの住人のように他の人は全く存在を知覚できない奇妙な少年。こうしてみると本当にアキラと似ている。その身に纏っている衣装が日本人離れしすぎているから、かろうじてそれがアキラとの違いを強調していた。あと、彼はアキラより幾分幼い。その少年は不気味な椅子に座っている。傍らには青年がいる。来栖はアキラがいよいよ泣きそうな顔をしているのに気がついた。

 

「待ってたぜ、怪盗サン。ちゃんとアキラも連れてきてくれたんだな」

 

「君がここの王様かい?」

 

「王様ねえ、そんなガラじゃねーけどな。みろよ、人が誰も居ねーのに王も神もあるかよ。ただまあこの世界の主かといわれたらそうだな」

 

「俺達を呼んだ理由は?」

 

「ん、おもしろそうだから?」

 

「そうではなく、アルセーヌと取引をしたためでは?」

 

「ああ、そうか。人はなにを行動するにも理由がないと不安になるみたいで大変だな。わすれてたわ、そんな感覚。アンタたちの目当てはこいつだろ?」

 

少年の手の中には、煌々とゆらめく光がある。

 

「それは?」

 

「ん、アキラがセンパイとよんでた人間の魂?」

 

「!?」

 

「いっただろ、ここは魔界だ。あの世とこの世の境目にある。俺はここの主だっていっただろ、それくらいできるさ」

 

来栖たちは身の毛がよだつのだ。ここでようやく少年の足下に転がる光の砕け散った破片の山に気づいたから。槍で貫かれたり、剣で切られたり、獣の牙でかみちぎられたり、それはまさしくスプラッタホラーも真っ青な虐殺の現場だった。はたからみれば赤い花のそばできらめく謎の光のかけらたちなのに、意味を知ってしまうと恐ろしい。来栖たちよりずっと小さな躯のくせに、たいして強くなさそうに見えるのに、この異様な重圧感はなんだろう。見た目通りの存在ではないことは確かである。傍らで控えている青年は、その体躯に見合った巨大な太刀を構えたかと思うと、足下にかろうじてあった一瞬でその光のかけらを葬り去った。そして、もったいぶるような動きで、ゆっくりと動作をして、椅子に座る青年に視線を投げた。許可をといっているようにもみえる。プレッシャーしか感じない。アキラたちは汗が伝う。

 

「お前が呼んだんだ、きっちりもてなせよ」

 

青年は礼をしてアキラたちに向き直る。

 

「これで取引は履行された。協力に感謝するぞ、アルセーヌ」

 

『その魂をお前達から奪い返し、滅するのが取引なのでな、まだ達成されてはいない」

 

「たしかにそうだ」

 

無表情な青年である。来栖はアキラを見た。

 

「センパイじゃないのか?」

 

アキラは困った顔をしている。

 

「似てる。それは間違いない。でも違うんだ。僕の感がそう言ってる。あいつらは悪魔だって」

 

少年はにやりと笑う。そしておもむろに立ち上がった。

 

「おもしろそうだから、相手になってやるよ」

 

その言葉に静寂が訪れた。青年はゆっくりと太刀を抜く。体躯を悠々と超すその大きさをものともせず、振りかざす。

 

「それは、ガントレット?いや、もっと新しい・・・・・・君はいったい」

 

少年は腕にある端末を操作し、悪魔を召喚する。アキラは戸惑いを隠せない。悪魔がなぜ悪魔召喚プログラムをつかうのか、いや使えるのかが分からないのだ。それでも戦うというのならやるしかない。来栖から投げられた視線に、アキラはうなずいた。ぴりぴりとした緊張感が肌を焼く。

 

「さあ、ショータイムといこうじゃねえか」

 

「神殺しとして主殿と共に戦うことをお許しください」

 

「ああ、いいぜ」

 

だれもしらない戦いが幕を開けた。

 


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