女神転生Ⅳ the begin(メガテンⅣ×ペルソナ5)   作:アズマケイ

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遭遇イベント②

大衆の共有する意識によって作り上げられた起源不明の異なる世界、メメントス。現実世界の天候が反映されるそこは、その広大さに加えて、無数のシャドウが徘徊する迷宮となっている。一度の探索で踏破できないほどの難易度だというのに、内部の構造は出入りするたびに変化するというのだから、入念な準備が求められる。

 

 

破棄された地下鉄に毛細血管のような導線が張り巡らされ、そのさきは常に闇。機能している路線もあるのだが、シャドウで満員となる地下鉄はずっとずっと奥まで彼らを運んでいる。その先はどんな場所なのかわかったものではなく、定期的に走る列車を追いかけるほどモルガナカーはスピードが出ない。ひかれでもしたら死ぬ。それでも、大衆が怪盗団を知るたびにメメントスは怪盗団を受け入れていき、奥へ奥へと進入を許し、顔パスできる範囲は着実に広がっている。その最も深い階層あるお宝を求めてモルガナは侵入を試みたが、一個人の欲望が強大すぎるためにひとつのエリアとなってしまう現象が頻発し、その時発生する歪みによって今の姿になり記憶がなくなってしまったらしい。怪盗団が活動するのは、人々が怪盗団の存在を信じ受け入れ、大衆意識を変えることでメメントスへの侵入を容易にする目的もあったのだった。そこでは多くのアイテムを入手することができるのだが、出所不明のお宝を事情も聞かずに買い取ってくれる店はそう多くない。

 

 

渋谷のセントラル街にあるミリタリーショップは、怪盗団の装備を調え、換金も出できる貴重な資金源だった。メメントスやパレスでは、モデルガンは本物に似せてあればあるほど、本物だとシャドウが勘違いしてくれれば銃弾が勝手に補充される仕組みになっている。だからこそ、裏通りに構えているこの店の主人のカスタマイズ技術は、かかせないものだった。人相が悪く口も悪い店主は昔やくざだったとの噂もあり、それなりに危ないつきあいが今でもあるのか、時々警察が出入りしたり怪しい人間が出入りしたりしている。定期的に出所不明のお宝を持ち込み、モデルガンの改造を頼む謎の高校生に、店長の岩井はバイトをすることを条件に応じてくれた。指定された場所への運び屋、相手とのやりとり、そして交渉中の見張り、危険性がひくいもの、という条件をこちらがつけたこともあり、ちょっと危険なアルバイトは怪盗団をする上での予行練習みたいな側面があった。

 

 

今日はクラスメイトの三島が運営している怪盗お願いチャンネルにあった、複数の依頼を達成したためお宝がたくさん手には入った。パレスが形成される一歩手前のシャドウは、倒すとその欲望を吐き出していく。メメントスから出ればよく似た偽物ができあがるので、よく似た贋作ということで岩井は引き取ってくれた。

 

 

「毎度思うが、ほんとどっからこんなもん仕入れてくるんだ。よっぽどお前の方があぶねえことしてんじゃねえのか」

 

 

深入りする気はみじんもないが、ダイヤモンドにパール、サファイアと鑑定すれば恐ろしい完成度の紛い物、といわれるだろうお宝の数々。保証書がなく出所不明のものを定期的に売りにくる高校生。岩井はなんとなく彼の正体を勘ぐっているようだが、深入りしないのはお互い様だと軽口をたたく程度である。ばれないと思ってる方がおかしいので、そっとのほうが彼としてもありがたいのだった。

 

 

「でもま、そのおかげで新しい取引先が見つかったから感謝するぜ」

 

 

なんのことだと疑問を投げれば、さきほど買い取ったばかりのメメントス産のダイヤモンドを手に、岩井は笑う。

 

 

「ちょっと大口の取引先なんだがな、お前から買い取ったこの宝石どもはまとめてそっちに卸すことにしたんだよ。流すルート調節する手間が省けてありがてえ上に、結構でかい取引してくれることはもう契約済みだ。礼として、ちょっとはグレードあげてやるよ」

 

 

モデルガンが本物に近づけば近づくほど、メメントスでは絶大な威力を発揮する。現実世界ではたんなる良くできたおもちゃでも、あちらでは状態異常や属性攻撃を付与できる。願ったりかなったりである。彼はありがたいと笑った。ほんとお前ぶれねえなと岩井は笑う。岩井の中では筋金入りのガンマニアに勘違いが加速しているが、直に交渉したいというかと思ったというつぶやきには首を振らざるを得ない。怪盗団としての活動は匿名が絶対だ、正体がばれたら保護観察処分をくらっている身の彼は一発で少年院に送られる運命にあるのだ。岩井が仲介してくれるなら、それにこしたことはない。

 

 

「ま、報酬ははずんでやるから期待しろ」

 

「大丈夫なのか?」

 

 

さすがに心配になった彼の声に、岩井は口をつり上げる。

 

 

「心配しなくても、俺もお前もやべえことにはならねえから安心しろ。津木のことはよく知ってる、今の仕事する前からな。義理堅い上に口が堅い。それにこの取引だって公にゃできねえんだ、お互いそこはわきまえてる。建前ではな」

 

 

建前、の言葉に彼はひきつる。岩井は楽しそうに肩を揺らす。

 

 

「俺が前いたところと同じだろうって?いや、違うな。むしろ俺たちが捕まる側だ」

 

 

仰天する彼にいよいよ笑いがこらえきれなくなったのか、いつも冷静沈着でやけに肝が据わっている高校生が狼狽するのが楽しいのか、声を上げて笑った。ひとしきり笑ったあと、岩井は引き出しから名刺ケースを取り出し、1枚彼に手渡した。

 

 

「これが新しい取引先だ、覚えとけ。いいな」

 

 

岩井のいうとおり警備会社である。彼もよくしっている会社であり、イベント会社や警備会社、人材派遣会社など手広くやっている大手企業である。CMや広告はよく目にする。その警備会社はその大企業グループの支社であり、東京駅ほど近い場所にある。岩井からの意味深な言葉を聞いてしまうと意識してしまうのは霞ヶ関である。霞ヶ関ってまさか警察かなにかのOBがやっているのかと疑問を投げれば、その程度の想像はできるみたいで安心したといわれてしまう。津木という男はここの警備の部門を担当する人間のようだ。警備会社がなぜ偽物の宝石をほしがるのかよくわからないが、さすがに教えてくれそうな雰囲気ではない。

 

 

「さっそくだが行ってくれるな?」

 

『い、今からか!?スパルタだな、イワイ』

 

 

ぎょっとしたのは彼も同じである。

 

 

「今回ばかりはお互いご挨拶程度だ、心配すんな。これから運ぶ場所の確認をしてもらいてえだけだ」

 

 

岩井が提示したのは、3カ所である。井の頭公園、喫茶店フロリダ、そしてミッドタウン。今回の指定先はミッドタウン。チケットを渡される。どうやら予約席のようだ。相手が女の人だったらいいのになとモルガナはあからさまにがっかりして見せた。なにが悲しくて男二人、ミッドタウンのおしゃれなレストランでカスタマイズした銃なんて危ない代物を交換しなきゃいけないんだという話である。困ったように髪をいじる彼だが、岩井から渡された時間が刻々と迫っていることに気づいて、あわててミリタリーショップを後にしたのである。

 

 

 

スマホ片手に乗り換えを繰り返し、ようやくたどり着いた東京都で一番高いビルを見上げ、でけー、とモルガナは興奮気味にいう。ショッピングセンター、オフィスビル、ホテル、美術館、医療機関、いろんな施設で形成されているが、今回用があるのは一番メインとなるビルだ。指定されているのは、4階にあるレストランだった。いってみると、すでに用聞きはすんでいるのか、あっさりと通されてしまう。貸し切り状態なのか、警備会社の重役の取引とでもスタッフたちは思っているのだろうか、営業スマイルは全開である。ガーデンテラスには、すでに先客がいた。

 

 

「あれ、君は」

 

 

そこにいたのは、名詞にある古めかしい名前から想像される男性ではなかった。彼は一度だけみたことがある。喫茶店フロリダで記者と思われる藤原という男と謎の会話をしていた青年だ。たしか名前はアキラ。悪魔なんて単語が飛び出す奇妙な会話が気になり、何度か喫茶店フロリダに足を運んでいたのだが結局一度も遭遇できずだった。でも、どうやら覚えていたようだ。

 

 

「喫茶店フロリダにいたよな?」

 

 

うなずけばやっぱりとアキラは笑った。

 

 

「もしかしなくても、来栖暁って君のことか?岩井さんが雇ったバイトのガンマニアの高校生って」

 

 

どうやら岩井はこの警備会社によほどの信頼をおいているらしい。

 

 

「奇妙な縁もあるもんだね、一度ならず二度までもとは。僕は××警備会社の津木アキラというんだ、よろしく」

 

 

アキラは名刺を差し出す。今年入ったばかりだから着られてるでしょこれ、とセンスのいいスーツを指さし、アキラは笑う。新入社員らしい。下っ端は大変だよねと彼がじぶんより年下の高校生、しかもバイトだと岩井から聞いていたらしい。としるやアキラはあっさりと警戒心をといていた。津木?この間藤原から盗み聞いたときは、東間だった気がする。やはりこちらが今の名前なのだろう、両親が不慮の事故で行方不明になってからもう何年もたつのだ。身寄りがなければ養子になって名字がかわることもあるだろう。

 

 

「君も岩井さんの代理?」

 

 

そうだ、とうなずけばやっぱりとアキラはため息をついた。

 

 

「だからこんな高いところやめとけっていったのに。予約しといて、柄じゃないからいってこいとかお互い苦労するよね。まあ、代金はもう払ってあるし、食べちゃおうよ、もととらなきゃもと。あ、敬語とかいらないよ、気楽にいこう。どうせ秘密のバイトみたいなもんだしね、お互いさ」

 

 

余計なところで見栄はっちゃって、と上司に向けるにはあるまじき暴言の数々である。もしかしなくても、アキラは津木という男の養子となっているのだろう。想像していたよりもラフな感じの夕食となりそうで彼はほっとした。

 

 

「僕、シュージン卒なんだけど、来栖くんは?コーセイかい?」

 

「シュージンだ。今年の春、越してきた」

 

「へえ、そうなんだ。意外だな、来栖君はコーセイっぽいのに」

 

「そうか?」

 

「うん、真面目っぽいし、冷静沈着って感じだし。ずっと僕のこと観察してるみたいだしね。あ、でも、ガンマニアっていうならシュージンもありかな、結構な個性的なやつ多いでしょ?」

 

「ああ、たしかに」

 

 

竜司や杏、生徒会長、個性的な先生たちを思いだし、彼は大きくうなずいた。

 

 

『それお前も含まれてるぞ、ジョーカー』

 

 

えっ、という反応をする彼に、モルガナはおいおいとじとめである。

 

 

立ち話もなんだし座ろうと促され、彼は向かいに腰掛けた。こだわりの厳選野菜や自家製ハーブを取り入れ、素材重視のフランス・イタリアンを軸にした創作料理の店のようだ。桜の季節はもうすぎてしまったが、初夏の兆しが濃厚な緑の木々が目下に広がる公園はライトアップされていて、それなりに見応えがある。彼女とイルミネーション見に来たほうがよっぽど有意義だ、不毛すぎる、男二人とか、いないけどさ彼女なんて、とアキラはぼやいた。なかなかおもしろいやつだとモルガナはにやついている。上質な素材を使った上質なコース料理なんて滅多にこれるもんじゃない。打ち上げでつかった高級ホテルのビュッフェとはまた違った楽しさが味わえそうだ。

 

 

「すいません、ベジタリアンコースありますよね、ここ。追加してもらってもいいですか?支払いはここに」

 

 

ちゃっかり養父の名刺を差しだす。領収書をお願いする。経費で落とすつもりらしい。大丈夫なのだろうかそれ。ちょっと心配になるが彼はなに

もいわなかった。それよりベジタリアンコースの方が気になる。そういう主義なんだろうか。

 

 

「え?変更か?違いますよ、もう1コース追加してください」

 

 

は、はあ、と戸惑いながらもスタッフは引っ込んでいった。

 

 

「一応貸切だし、話は聞かれないと思う。だからさ、出してあげたらいいんじゃない?モルガナくん、いや、ちゃん?変わってるよね、喋る猫」

 

 

彼とモルガナは凍りついた。

 

 

 


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