女神転生Ⅳ the begin(メガテンⅣ×ペルソナ5)   作:アズマケイ

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車輪の女①

来栖が目を覚ましたとき、すでにアキラは起きていた。近場で買ったという毛布と枕をもちこみ、お休み、と寝る時間はほぼ同じなのにいつもアキラは起きる時間がはやい。仕事内容が仕事内容だから、もともとそういう訓練をしているのか、と聞いたら高校卒業後半年は訓練生だったと聞いた。銃の撃ち方、剣の使い方、心構え、いろんなことをたたき込まされ、基礎的なことを学び、ある程度使い物になるようになったから半年後に実践投入されたという。3年前は非常事態にも関わらず人員が離反する事態になり、指揮系統は分断され、抗争状態になったせいであらゆるものが非常事態という名の下に正当化された。だから15歳だったアキラは未成年だというのに戦場にかり出された。本来は訓練するのがふつうであり、この国では今でも18以下ではこういった職業に就くこと自体禁止されている。それもこれも悪魔という存在に対抗できる人間が少なすぎたためだ。アキラはあまりにもその才能が飛び抜けていた。それが幸運なのか不幸なのかいまでもアキラはわからないという。

 

 

普通を知らないアキラは来栖が友達と遊んだり、誰かとなにかをしたり、そういったことを話すたびに、とても楽しそうに聞いてくれる。なにかあるたびに悪魔討伐隊にアルバイトの名目で呼び出され、一見多忙なアルバイターという体だったという高校生時代である。ひとつ下だから真たちは知っているはずなのに、対して記憶に残っていないということは、目立たない生徒だったということだ。次のターゲットの娘が学校にいると知り、在校生の一覧をみているさなか、なんとなく卒業生の一覧をみたら名前で発見できたことを思い出す。名前がわからなければきっとあっさり見つからなかっただろう。その写真を見てようやく、真がそういえば見かけたことがある、と思い出すレベルだったのだ。案外わからないものである。

 

 

くあ、と大きく伸びをしたモルガナは寝心地のよくないベッドもどきから降りる。そしてアキラの近くに寄っていく。

 

 

「おはよう」

 

「どーしたんだ、アキラ?」

 

 

スマホを食い入るように眺めていたアキラは、はたと我に返ったように顔を上げると、おはよう、と笑った。

 

 

「ツギハギたちから何か連絡があったのか?」

 

「なにか気になることでもあった?」

 

「いや、違うんだ。むしろその逆」

 

「逆?」

 

「なにもないんだ」

 

「連絡が?」

 

「うん、昨日から何度もツギハギさんたちにメール送ってるんだけど帰ってこない。そんな暇がないほど忙しいのか、僕だけ爪弾きにされてるのかはわからないけど。今までこんなことなかったのにな」

 

 

困ったように頬をかくアキラは、どうしたものか決めかねているようだ。

 

 

「もう少し待ってみるよ。君たちが学校から帰ってきても連絡がないなら、少し身の振り方を考えないと」

 

「そーか、じゃあ学校行こうぜ暁」

 

「ああ、そうする。アキラは今日どうする?」

 

「今日は滝水さんのところに顔を出してみるよ。近況が聞きたいって連絡入ってるし」

 

「滝水の家か?」

 

「うん、そう」

 

「じゃあ、放課後、そっちにいけばいい?」

 

「うーん、まだなんとも。なにか動きがあったら伝えるよ。急を要する時は押し掛けるかもしれないけど」

 

「わかった」

 

「いってらっしゃい」

 

「ああ、いってくる」

 

 

アキラの見送りを背に、来栖は身支度もそこそこに学校に向かったのだった。

 

 

放課後を知らせるチャイムが鳴り響く。見計らったように振動するスマホを開いてみると、アキラからの着信だった。SNSではない時点で急を要する自体なのは明白だ。どーした、どーした、と目を丸くするモルガナとともにスマホをのぞき込む。

 

 

「どーした、アキラ」

 

「今、校門前にいるんだ。すぐきてくれ。車の中で話す」

 

「わかった」

 

 

いやな予感が的中してしまった。来栖は鞄を抱えて足早に校舎を後にする。校門前にでてきょろきょろあたりを見渡すと、少し離れたところに見慣れた車が止まっていた。来栖はあわててそちらに向かう。アキラは徐行しながら近づいてくる。不思議そうにすれ違う生徒の視線は無視して、来栖は反対側の扉を開けた。

 

 

「シートベルト頼むよ、飛ばすから。舌かんでも知らないよ」

 

 

ああ、とうなずいた来栖を確認するまもなく、アキラはウインカーを出す。生徒がまばらに登下校しているところを徐々にスピードをあげていく。信号すれすれを通り過ぎ、彼が向かうのはどうやら品川のようだ。

 

 

「どーしたんだよ、アキラ。ずいぶん急なお出迎えだな」

 

「僕もできるならこんなことしたくなかったよ。でも、そうもいってられなくてね」

 

「ツギハギさんたちに何かあったのか?」

 

「ああ、そのまさかだよ」

 

 

アキラは苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

 

「一応報告書は出したんだよ。独断で調べてたこと怒られるのは承知の上でね。でも、暁があった少年が言ってたように、すべてをマグネタイトに変換してしまうような恐ろしい魔人が生まれてしまうなら、対策立てないと全滅しちゃうだろ。これ以上置いていかれるのはいやなんだ、僕は」

 

「わかってる」

 

「うん、ありがとう。ツギハギさんは受け取ってくれたよ。こんなことがわかるってことは、戦ったのかってすごく怒られたけど。まあ、適当にでっちあげたよ。一応、時間を操る魔人はいるんだ。僕は討伐したこともある。前言ったと思うけど、魔人は死そのものだから死ぬという概念がない。何度だって復活する。常駐させないことが大事なんだ。あいつらの勢力下に置かれた土地はなにもいきられなくなる。狂いきった世界になる。そいつらを討伐する途中で見せられた幻影だってことにしておいたよ。だから、なにも知らないまま大聖堂に討伐作戦を決行したわけじゃないはずなんだ」

 

「連絡がない?」

 

「うん、一度もね。ダメもとで松田さんや悪魔絵師に連絡を入れてみたんだけど、詳しくは教えてくれなかった。でも、松田さんのところに連絡が入ったのが聞こえた」

 

「どんな?」

 

「まさか、なにかあったのか?」

 

「そこまではわからない。ただ、あの松田さんがひどく動揺してたからただ事じゃないはずなんだ。あの人が取り乱したのは、先輩が無限発電炉ヤマトで行方不明になったことを聞いたときだけだから」

 

ハンドルを持つ手が白む。アキラは気持ちばかりが急いているようだ。ほんとうは来栖やモルガナが帰ってくるのをまつ前に、単独で向かってしまいたい衝動を必死でこらえながらきたことが伺える。一人になったらまともではいられなくなる。アキラが常々口にしていることだ。来栖たちを迎えにきたということは、まだ人間でいたいのだ、アキラは。きっと。それにほっとしてしまう来栖である。

 

運が悪いことに赤信号に捕まってしまう。ここはなかなか青信号にならない上に時間が短い。舌打ちをしたアキラに、落ち着いてくれよ、とモルガナが乱暴な運転になりつつあるアキラをたしなめる。わかってるよ、と返す言葉には刺があるが、大きく息を吐くことでなんとか落ち着こうとしているのがわかる。でも歩いていくには、各駅にあるターミナルにアクセス制限がかけられてしまい、きっとアキラは大聖堂がある最寄りの品川の駅にすぐいくことができない。それがわかっているのだろう、だから車で行こうとしているのだから。

 

「どうするんだ」

 

「もちろんいくよ、このままね。あ、もしかしてなにか準備した方がいいかい?」

 

「いや、大丈夫。この間のままだろ、後ろのトランク」

 

「ああ、もちろん」

 

「ならいい。いこう」

 

アキラは青信号が点滅し始めたあたりでようやく回ってきた手番、一気に車を進めてしまう。アクセルを踏み込むタイミングが早い気がする。ハンドルがやけに大きくきられている。気持ちが焦っているのはわかる。来栖はただ静かに前を見ている。そんな人間が隣にいることはかえって自分の焦りを自覚してしまうようで、アキラはばつが悪そうに沈黙した。ごめん、と小さくつぶやく。気にするな、と来栖は返した。どっちが年上だかわかったもんじゃねーな、とモルガナがちゃちゃをいれる。ようやくアキラの口元がゆるんだ。

 

ここのところのアルバイトは、移動手段がもっぱらアキラの車だったものだから、装備品といった持ち運びに困るものはトランクにつっこむ日々が続いていた。アキラはその職業柄銃や剣を携帯することが特別許されている特殊な職業である。おかげで怪盗団はアキラがルブランに滞在することをかぎつけてから、アジトがルブランなのをいいことに自分の荷物まで近くの契約駐車場に止めてあるアキラの車に押し込めるようになってしまっていた。アキラは注意はするもののとがめはしない。銃刀法違反などのリスクはいつだってつきまとうのだ、一般市民の隠れ蓑をしている彼らは。そのめんどくささは高校生時代にいやと言うほど味わっているそうだから、むしろアキラは理解者だった。それに味を占めた怪盗団の荷物は増えることはあっても減ることはない。おかげで彼女ができても乗せられないとアキラは冗談めかしてわらっている。そんな暇がないくらい忙しくしてやると思いながら、来栖はここにいるのだ。

 

これが終わったら、悪魔討伐隊の標的である大物政治家を教えてもらう約束をしているのだ。なにがなんでもアキラには人間として生きてもらわないと困る。そう告げるとアキラはちゃっかりしてるなあと笑うのだ。もちろん来栖にとってはそれだけではもうすでになくなっているのだけれども。

 

「さあ、ついた」

 

それはアキラの過去に影を落とす事件の集結をまってからと決めている。だから来栖は車から降りて大聖堂を見据えるのだ。モルガナは二足歩行の黒猫になっている。

 

「メメントスの浸食がひでーな、これじゃシャドウにつられて悪魔がよってきちまう」

 

「これじゃ、ツギハギさんたちは一般市民の保護に手間取ってるのかもしれないな。想定より人員がさけなかったのかもしれない。これは作戦が長引いてるのかもしれないな。応援にいかないと」

 

アキラはためいきだ。いつもの悪魔討伐隊の抱えているジレンマを思い出したのだろう。

 

「怪盗団の出番てわけだな」

 

「そういってくれると助かるよ、ジョーカー、モナ」

 

「なにいってるんだ、俺たちだけじゃないだろ」

 

「ああ、そうだね。ありがとう」

 

来栖の言葉にアキラはうれしそうに笑う。そしていつのまにか変わっていた怪盗服を翻し、来栖たちは大聖堂に侵入を決行したのだった。


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