女神転生Ⅳ the begin(メガテンⅣ×ペルソナ5)   作:アズマケイ

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遭遇イベント①

ペルソナ5 第1話

20××年に入ってから東京がおかしくなっている。そう、彼は思っている。突然、意識を失い廃人状態になり、大事故を引き起こす運転手、容態が急変して亡くなる政治家。こころ惹かれる事件はたくさんある。エコービルやサンモールでカルト集団の内紛と思われる猟期的な事件が起こったり、ガス爆発によってビルが突然消失してしまう奇怪な事故も起こっていた。彼が一番聞いたのは一瞬で多くのテナントを抱えたビルごと消え去った事故だろうか。竜司や杏から中学時代の友人が消息不明になっていると聞かされた。この事件に心ひかれる。この事故の原因をつくった人間がいたら、きっと極悪人なはずだ。怪盗団続行を決定した時点で必要になってくるのは次のターゲットである。なかなかパレスを形成できそうな大物がヒットしないなか、つぶやかれた言葉だったが建設会社の問題なのか、地盤沈下で地下に飲まれたか情報まちだ。スマホをいじっていた彼に階段から声がする。

 

「いつまで寝てんだ、おい。休みだからって寝坊できる立場かよ。さっさと起きろ」

 

彼はあわてて階段を駆け下りた。

 

「よう。今日はよく寝てたみたいだな、パトカーあんなにすごかったのによ」

 

くあ、とあくびをしながら男は乱暴に涙を拭った。彼はベルベットルームでイゴールたちにこれからについて説明をうけるため、深い眠りに落ちていたのだ。目が覚めるわけがない。たしかにぜんぜん起きなかったなあと足下で少年のような声が眠そうにあくびする。なんのことだと疑問をとばせば、テレビみたほうがはやいといわれる。

 

緊急ニュースが入ってきた、とアナウンサーは告げる。

 

「これで3件目かよ、さっさと捕まえてくれねえと困るっての」

 

佐倉はぼやいた。

 

井の頭公園で猟期的な殺人事件が起こったらしい。またカルトの仕業かね、と佐倉はつぶやく。ここのところ、カルトを思わせる事件が続発しているが、あまりにも陰惨なためかかえってニュースにはされないようだ。ネットの方がよくもわるくも伝達が早い上に詳細だ、真偽はおいといて。犯人がまだうろついてるかもしれないから、吉祥寺周辺は道路封鎖するという。半年もこう似たような事件が続いていると佐倉は教えてくれた。最初は怖かったが最近は慣れてしまってふつうに外出する人間もいるらしい。カルトなんて非現実的な抗争だ、よほどのことがないと一般人はまきこまれようがない。佐倉は気にもとめない。まじかよ怖すぎだろとモルガナは声を震わせた。大いにうなずきたい。

 

「これじゃメシがまずくなるな。テレビ切るぞ」

 

詳細を説明しはじめたアナウンサーに顔をしかめた佐倉は彼がうなずく前にテレビを切った。

 

彼の朝食は喫茶店ルブランの主人お手製カレーである。コーヒーとよく合うカレーであり、ここにやってくる常連はだいたいそのセット、もしくはコーヒー目当てにやってくる。住居は別に持つマスターは閉店後家に帰ってしまう。喫茶店ルブランの屋根裏部屋が彼の居城だ。ルブランとは別に家がある佐倉は閉店するとすぐ帰ってしまう。そうなれば外から鍵をかけられてしまい、外出を禁じられている彼はどこにもいけなくなる。保護観察処分で親元から引き離されて東京にやってきたばかりの彼は、まだ自由に動けるほど信用を勝ち取ってはいなかった。転校初日からパレスという異なる世界に迷い込んでしまい、昼休みにようやく現実世界に帰還、学校に遅刻した。もちろん1年間限定の保護者である佐倉に連絡が行き、それなりの長話があったらしく風当たりはきつくなるばかり。しばらくは大人しく真面目に学生生活を送らなければならない。土日になればなにかと雑用を言いつけられる。さっさとすませて竜司たちと遊びたい。彼はテレビから流れてくる朝のニュースをBGMに、カレーを食べ進めていた。

 

「やっちまった」

 

カウンターの向こうでたくさん並んでいる、選りすぐりのコーヒーをひとつ持ったまま佐倉はため息をつく。スプーンをとめ、どうしたのかと聞いてみれば、にやりと笑みが浮かぶのが見えた。これはやぶへびだったかもしれない。こないだのように夜までこき使われるコースだろうか、と身構えていると、佐倉はちょうどよかったとすっからかんの瓶をおいた。

 

「ストックが切れちまったんだ、買い出し頼むぜ。どうせいつかは行かせようと思ってたしな、ちょうどいい。いってこい」

 

3つ、4つ、と瓶が並べられる。ルブランで扱っているコーヒー豆や入れ方は夜の手伝いのついでに教えてもらっている彼は、それがどれも市販ではないことをしっている。どこで売っているのかまではしらなかった。どこかと聞けば新宿と返される。

 

「神舞供町だ」

 

思わず目を見開く彼になに想像してんだと佐倉は笑った。

 

「安心しろ、田舎もん。未成年がいけねえとこ俺が使いに出すわけねえだろ」

 

『いやいやちがうそうじゃねーよ、さっきのニュース見てなかったのか、この親父』

 

モルガナはじっと佐倉をみる。似たような顔をしている彼に佐倉は肩をすくめた。

 

「大げさなんだよ、吉祥寺なんて遠いだろうが」

 

しぶる彼に、駄賃はずんでやるから、と万札を追加される。しぶしぶ彼は了承した。

 

佐倉は常連の知り合いから彼の両親に相談を受け、身元引受人となっただけでありほとんど赤の他人だ。家庭環境に問題があると家庭裁判所に判断されてしまった以上、地元に彼の居場所はもうない。ここを追い出されたらそれこそ行くところがなくなる。それを連日言い続けている佐倉が問題行動を唆すわけがない。でも、更生を促す立場としては放置がすぎる上に待遇がすさまじく悪い。皿洗いをしたら看板をクローズからオープンに掛け替えてくれ、とついでのようにいわれ、うなずくと素直なとこあるじゃねーかと笑った。いつもこうなら楽なんだがなとぼやかれる。1週間の記録を促され、日記を手渡す。ぱらぱらめくり始めた佐倉は裁判所におくる資料づくりのために預かるぞと一声かけると奥に引っ込んでいった。

 

『かぶくちょうってどんなところなんだ?』

 

興味津々で足下にじゃれついてきた猫の声が頭に響く。隣のイスに上った少年のような声に、彼はスマホの検索結果を提示する。ウィキペディアの受け売りだ。ま、まじかあ、と及び腰なのは彼と同じ反応だ。器用に画面をスライドさせていく猫はペルソナ使い以外にはにゃーにゃーないているようにしか聞こえない。モルガナはついて行く来満々のようで、はやくゴシュジンの仕事片づけようぜとしっぽを揺らして待っている。

 

「にゃーにゃーうるせえな、わかったわかった。ほらメシだ」

 

ふたたび佐倉が帰ってくる。猫用に小さく分けられたそれが皿におかれ、水も用意された。モルガナは待ってましたとばかりに飛びかかる。猫の体ではおいしそうなにおいが漂うカレーが食べられない拷問である、と毎朝嘆いているのだ。毎晩スーパーで調達した夕飯と銭湯の往復を繰り返す彼からすれば、お手製のご飯が用意してもらえる時点で自分より待遇がいいんだから文句言うなという気分である。モルガナの餌箱も洗うのは彼の仕事なのだ。皿を平らげたころ、佐倉がやってきた。

 

「こいつがメモだ、そんで代金。種類間違えるなよ」

 

どうやら事前に連絡を入れるような気遣いは全くする気がないらしい。心配なら電話してけ、とカウンター隅の電話を指さされる。彼はとりあえず電話することにした。電話の相手は佐倉くらいの男性の声で、ルブランと名を告げればいつのまにアルバイトを雇ったんだと驚かれた。タダ働きだけどなとモルガナが茶々を入れる。紙を読み上げると準備しておくといわれた。配送サービスはやってないようだ。個人経営の店なのだろうか、というかルブランのような喫茶店のようだ。てっきりコーヒー専門店だと思っていた彼は拍子抜けである。とりあえずいこう、と準備を整え、彼は土曜の街に繰り出した。

 

 

あらかじめ聞いていた住所を入力したスマホを頼りに新宿地下街の東階段を上る。東口大通りから北の歌舞伎町に入り、北東へ。知る人ぞ知るといった通路を歩いていく。ルブランとよく似た雰囲気の昔ながらの喫茶店があった。やっとついたな、と鞄の中で猫がぼやく。

 

いかにも昭和の雰囲気を醸し出している赤い電話がおいてあり、煉瓦づくりの建物をくぐると年季の入った木製のイスやテーブルが並んでいる。壁にはたくさんの落書きがある。若い客もわりとくるのか、愛想のいい店主が応じた。ルブランの名前を出すと待ってたよとフロリダと名前の入った紙袋を渡された。

 

『せっかくだしなにか頼んでこうぜ、ジョーカー』

 

すでに客はちらほらいる。並々と次がれたイチゴジュース、ぶあつくてふわふわのピザトースト、ピザ、ウインナーコーヒー、たまらずモルガナが顔を出す。彼は無言でチャックを狭めた。彼はおすすめだというウインナーコーヒーを注文した。ルブランとはちがった趣だが落ち着いて話をするにはいい場所だ。

 

『本でも読むか?』

 

たしかに読みかけの本があったはずだ。こんなに落ち着いた雰囲気の喫茶店ならいつもより読むスピードが上がりそうである。お釣りは駄賃だと佐倉からいわれているのだ、ピザトーストを追加で注文して、彼は本を広げた。

 

すっかり読むのに夢中になり、気づいたらお昼ほど近い。着信を告げるブザーが鳴る。午前中はルブランの手伝いで明いていないと知っている竜司たちはこのころだいたい見計らってメッセージを送ってくるのだ。確認してみると竜司だった。

 

「今、暇?」

 

「暇だけどルブランじゃない」

 

「え、どこ?」

 

「神舞供町」

 

「はあっ!?」

 

「の喫茶店」

 

「びっくりさせんなよ」

 

「買い出し頼まれた」

 

「こんな時間まで?どこで道草くってんだよ、俺も混ぜろ」

 

「ならこい、待ってる」

 

「いやどこだよ」

 

スクショを張り付けると、渋谷のゲーセンにいたらしい竜司は、待っててくれと絵文字を最後にコメントがとぎれた。

 

『にゃはは、まだ帰らない気かよ。ゴシュジン怒るぞ』

 

どのみち今日は吉祥寺の事件のせいで警察の目が東京中で光っているのだ。メメントスにいくことはできない。それに未だ捕まらない殺人犯の情報をお願いチャンネルや三島あたりがつかんでくれないか確認するにはこき使われるルブランは向かない。たしかになとモルガナはうなずいた。思いつく検索ワードをメモに羅列してみる。思いつかなくなると彼はこのままお昼もすませるつもりでメニューを広げた。

 

「シュバルツバース?」

 

聞き慣れない言葉が隣から聞こえてくる。視線を投げれば周囲の注目に気づいたらしい青年は声が大きいですよとメガネの男性に冷ややかなまなざしをむけた。声が落とされる。彼はそれとなく聞き耳を立てる。

 

「それ、ほんとうなのかい?」

 

「気になるなら調べてみたらどうですか?東間夫妻、医療チームで乗ってるはずですよ、ニュースにもなりましたしね」

 

「それならボクもしってるよ、2回目なら」

 

「まあ、そっちの方が大ニュースでしたしね」

 

「そっか、君が」

 

「どうです、交渉材料になりませんかフジワラさん」

 

「いいね、いいよ。ボク、君みたいな賢い子供はきらいじゃない」

 

「それはよかった」

 

「なら、君のお義父さんに取り次ぎお願いしてもいいかな、アキラくん。いつもいつも門前払いくらっちゃってね、困ってるんだ」

 

「いいですよ。そのかわり」

 

「うん、わかってる。ボクのもってる情報はぜんぶ渡そう。それでいいかい?」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

彼はカレーを注文した。ルブランとは方向性は違うからお手柔らかに頼むよと笑う。こっちはこっちでうまそうだなとうらやましそうにモルガナはぼやく。ふいに青年がこちらをみた。

 

「ん?」

 

「どうしたんだい、アキラくん」

 

「いえ、なんでも。気のせいかな」

 

「?」

 

モルガナは沈黙した。飲食店に猫はまずい。

 

「まずはなにが知りたいんだい?」

 

「悪魔の目撃情報、きいても?」

 

「準備いいねえ」

 

地図を広げ始めるアキラという青年に、フジワラと呼ばれた男は苦笑いした。

 

悪魔?一般的な会話では聞き慣れない言葉である。なんの話をしてるんだろう、さっきから。カレーを食べながら、彼は耳をそばだてた。

 

シュバルツバースについて知りたがるモルガナに、無言で検索結果を渡す。21世紀初頭、南極に突如出現した謎の巨大空間だと彼は習った。あらゆる物質を飲み込み、拡大し続ける自然災害。国連が有人探索機を送り込み、4隻のうち1隻しか帰らなかった。しかも隊長は殉職、帰還を指揮したのは日本人。彼らの持ち帰ったデータによりシュバルツバースは縮小され、世界はブラックホールに飲み込まれる危機から去り、すでに××年になる。ついでにアキラについて検索をかけると、調査隊だったが帰ることができず、未だどこに亡骸があるのかわからない日本人夫妻がヒットした。どうやらアキラという青年は彼らの息子のようだ。おとうさん、ということは今はどこかに養子になっているのだろうか。こっちの世界もたいがいだな、とメメントスを思い出したのか、パレスを回想したのかモルガナは神妙な面もちである。音量は小さめだ。

 

そのとき、豪快に扉をあける音がする。

 

「おーっす、お待たせ」

 

彼はたまらず竜司をにらんだ。

 

「声が大きい」

 

周囲の視線に状況を察したらしい相方は、周囲にすんません、と謝りながら彼の向かいに座る。

 

「わりい、わりい。まさかこんな雰囲気あるとこだとは思わなくてよ」

 

「外から見えるだろ、ちょっとは察しろ」

 

「だって窓際はみんなしゃべってる感じだからさ、つい」

 

たしかに主婦層が目立ち始めている。彼は肩をすくめた。

 

「ここっておすすめなんだった?」

 

「カレー」

 

「はは、ほんとそればっかだな、お前。どんだけカレー好きなんだよ。いや、ルブランのカレーうまいけどさ」

 

「トーストもいける」

 

「んー、ならカレーかな。がっつりいきてえし」

 

すんませーん、と竜司は声を上げる。彼はコーヒーのお代わりを注文した。

 

 

 


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