休みが終わったので仕事に入ったからです。
ですので更新はまちまちです。
雲雀恭弥との生死をかけた鬼ごっこに勝ち逃げを果たしたツナは夕方ごろになってからバイクを乗り捨て、そのまま自宅に戻った。
家に入ると既にリボーンが戻っており、何やら満足気にコーヒーカップを持って優雅にエスプレッソを飲んでいた。その隣でユニが真っ赤な顔をしてある物を持っている。ユニが持っていたそれはツナの昔の写真が詰まったアルバムで、その中でもユニが見ていたのは幼い頃におねしょをして泣いた写真と12歳の頃にわけあって女装した時の写真だった。
「何見てるのさ」
ツナはそう言いつつユニからアルバムを取り上げる。
そこでツナが帰ってきたことに気が付いたのか、ユニは顔を真っ赤にしながらツナの顔を見つめる。
「あ、お帰りなさい。ツナさん」
「ただいまっと。あー、疲れたよ…………」
京子から貰った目薬を眼球に差しながらそう呟く。
今日一日に色々とあり過ぎた。何故か強制的なパワーアップさせられた上に直死を使い過ぎた状態になり、その上で恭弥との死闘と言う名の生死を掛けた鬼ごっこから逃げることに成功したのだ。本当に色々あり過ぎた。疲れても仕方がない。
そう考えているとユニは突如真顔になり、ツナの顔に自身の顔を近づける。
「沢田さん。ファーストキスのことについて詳しく聞かせてください」
沢田さん、ユニがツナのことをそう呼ぶ時は余裕が無い時で尚且つ怒っている時だ。
「うん。どうしてユニがその事を知っているのかな?」
その話をした時、ユニは家の中で大人しくしていた筈だ。
そう疑問に思ったツナはユニに尋ねてみるが何故か顔を逸らした。
「……………あまり詳しく聞かないことにするけどさ。別に怒らなくても良いんじゃ」
「それはダメです!!」
宥めようとするツナに対してユニは怒気を強めて詰め寄る。
心なしかその瞳には涙が浮かんでいるような気がした。
「だって、私…………沢田さんのお嫁さんなのに、キスだってまだしてないんですよ? それに、沢田さんは遠くに行ってしまいそうで――――」
「ユニ」
「えっ?」
涙をポロポロと流し始めたユニの顔を上げさせ、その唇と自身の唇を重ね合わせる。
触れていたのはほんの一瞬に過ぎなかったが確かにそれは間違いなくキスであり、ユニは目を丸くしていた。
外から発せられツナに向けられている殺意が更に濃厚になった。
「はい。俺のセカンドキスはユニの物で、ユニのファーストキスは俺の物だよ」
「え、あ……………」
己がキスをされたということに気が付いたユニは顔を真っ赤にして俯く。
そんなユニを膝の上に乗せる形で座る。本当に小さく脆い身体だ。身体に浮かび上がっている線や点が見えなかったとしてもそう思ってしまう程に弱々しい。本当に少し力を込めただけで壊れてしまいそうな程で、それ故にツナは守りたいと思っている。
「ユニのような可憐な女の子の嫉妬なら可愛いけどさ。ユニは笑顔の方が似合ってるよ」
「そ、そうですか? えへへ…………やっぱりツナさんは悪い人です」
「悪かったね悪い人で。まぁユニのお願いなら聞くからさ、そんなに怒らないでよ」
「はい! お嫁さんですからね! 心を広くしますね!」
本当に可愛らしい女の子だ、ツナは心の中でそう思う。
だからこそ、彼女が自分と結婚するという絶対に幸せにならない道を歩んでいることが受け入れられなかった。彼女は幸せになる権利がある。そしてそれは誰にも阻まれる物じゃない。だというのにユニは自身と結婚をしたいと言ってくれている。
それに対して彼女を傷つけてでも心を鬼にして断らなければいけないのに、ユニを傷つけたくないという思いがある。ユニが喜んでいると嬉しく思うし、何より彼女の望みを叶えて上げたいという思いの方が強い。
だから嫌われたくないと思ってしまう。それが心の贅肉と言うべき物なのだろうか。
「あ、そうだリボーン」
心の中で相反する己の意見に目を瞑りながらツナはリボーンに話かける。
するとリボーンはツナの方に視線を向ける。
「なんだ、ロリコン」
「うっさい黙れ、タレ眉」
「星になれ」
リボーンの逆鱗に触れたのか、今までの我儘な対応とは違い明らかに怒りを露わにして飛び蹴りを放った。ツナはその飛び蹴りを観察しつつ首を軽く動かすだけで回避する事に成功する。しかし、回避した瞬間にリボーンは回し蹴りに切り替えてツナの後頭部に土踏まずがフィットした。
「油断大敵だぞ」
「っ、このタレ眉がぁ――――痛い痛い!! 踵が後頭部に減り込んでるぅ!!」
グリグリと尋常じゃない力で踏み込まれる激痛を味わう羽目になったものの、それは殆ど自業自得のようなものだった。
そしてリボーンの攻撃が終了し、ユニがツナの髪の毛が伸びていることに気付いて遊び始めた。絶賛ユニの玩具となって髪の毛を弄ばれている。
「ほらよ」
リボーンはツインテールになったツナに魔眼殺しの眼鏡を渡す。
どうやらさっき落とした際に拾っていたらしい。ツナは軽く感謝しつつも眼鏡をかける。
「で、リボーン。聞きたいことが色々とあるんだけど大丈夫?」
ツナの問いかけにリボーンは「分かったぞ」と短く言葉を返す。
彼もツナから質問されることを予測していたのか、赤い弾丸を見せびらかす。
「こいつは死ぬ気弾、ボンゴレファミリーに伝わる秘弾だ。効果はまぁ、簡単に言っちまえばこの弾丸を脳天に受けると一度死ぬが全身のリミッターを外して蘇る弾丸だ」
「……………やっぱり、あの感覚は死だったんだね」
リボーンからの説明を聞いてツナは先ほど味わった感覚がこの瞳を手に入れた時のものと同じであることを理解する。
死とは決して戻ることが出来ない深淵の底、ツナは奇跡的に生還を果たしたがだからと言って怖くないわけがない。むしろその恐ろしさを理解しているが故にその弾丸の恐ろしさを理解する。本当に一度死んで蘇るのであるならそれは最早魔法の領域だ。
「まぁ後悔が無くちゃ生き返れないんだけどな」
「おい、そんな危険物をよくも俺に向けて撃ってくれたな」
「本当ならパンツ一丁になってたしな」
「だからどうしてそうなるんだよ」
ユニの手によって三つ編みにされているツナは怒りを込めた視線をリボーンに向ける。
仮にも最後の後継者だというのによくもまぁそんな危険物を使ってくれたな、と非難するが残念なことにリボーンに対しては効果が無かったようだ。
しかし、後悔が無いと生き返れないとは変わった話だ。生憎、こんな眼を持ってて今もなお生きている時点で後悔塗れだ。そう言わんとして、ツナは窓の方に視線を向ける。
そしてすぐに逸らすのであった。
「……………リボーン、俺ちょっと疲れたからもう寝るね」
「駄目だゾ。やって来た客人はもてなす。それがマフィアのボスとしての当然のことだゾ」
「嫌だ!! 俺は絶対に関わらない!! 外でトンファー構えて今にも殺しに掛かってきそうな雲雀さんの姿なんて見なかったんだー!」
「お、ベッドの下に武器隠していたのか。ほら、これ持って遊んで来い」
そう言ってリボーンはツナのベッドの下から一振りの刀と両腕に着ける篭手を取り出す。
「何今から遊びに行く子供に対して母親が言うような台詞を言ってるんだよ! これのどこが遊びに行く奴の持ち物なんだよ!!」
「良いから行ってこい。行かないとお前の部屋が木っ端微塵になるぞ?」
「ああもう分かったよ! 行けば良いんでしょ行けば!!」
そしてツナは武器を持って窓から外に飛び出す。
それから一分も経たない内に金属がぶつかり合う激しい戦闘音が外からするのは、言うまでも無いことであった。
+++
「初めまして。異なる世界の同類―――――私の名前は沙条愛歌っていうわ、よろしくね」
沙条愛歌と名乗った金髪蒼眼の少女はとても楽し気に話しかけてきた。心の底から楽しいんだろう、と他人事ながらにそう思う。実際、少女の外見はとても幼く無邪気や無垢という表現が似合っていた。
くるくると踊るように舞うその姿は正に天使と言っても過言では無く、大凡誰もが同じように少女に対してそのような印象を抱くだろう。
―――――その身体から凄まじく臭う死臭と胸に空いた穴さえなければ。
「…………お前は、何者なんだ?」
ツナは自身がこのような所に居る原因が目の前の少女にあることを決めつける。
否、実際にこの少女が原因であり、主犯なのだろう。この何も無い世界でツナの両手足を鎖で繋ぎ、身動きを取れないように拘束しているのは間違いなくこの少女の仕業なのだろう。
故にツナはただひたすらに少女を見つめる。その身体に浮かび上がる線や点も、見つめ続ける。
すると少女は口角を吊り上げる。とても愉快なものを見たかのように。
「―――――貴方は私の死を見ることができるのね」
少女はそう言うと自身に対して興味を持ったのか、歩み寄って来る。
否、この少女は最初からツナに対して興味を持っていた。ただ最初と違うのはその興味が更に深まったことだった。
「うん。やっぱり可愛いわね。流石は私の同類と言ったところかしらね」
「……………俺は、お前みたいな奴と、同類なんかじゃない――――!」
不思議とツナの口から言葉が出ていた。
その発言で自分がどれだけ危険な目にあうか、それすらも分からなかったわけじゃない。だけどそれでも否定しなければいけなかった。
こんな世界を食い尽くす
「俺は、沢田綱吉だ! お前みたいな■■悪と一緒にするな!」
故にツナは叫んだ。己の魂からの叫びを叫んだ。
吐き出した言葉の意味を理解できない、そもそもとして何と言ったのかすら分からない。
だがその発言を聞いた少女は一瞬だけポカーンとした顔になるがすぐに笑みを浮かべた。
それと同時に少女、愛歌の背後から一体の獣が現れる。
―――――あまりにも酷く、哀れな獣だった。
大凡真っ当な産まれ方をしていないのだろう。
その様に望まれて生を授かった、産まれるべきでは無かった獣だった。
愛歌は獣を軽く撫でながらあることを言う。
「ううん。違うの、違うわ。貴方は私と同じよ。だって、貴方だって■■悪なんだから」
ピシリと、音を立てて罅が入る。
獣の唸り声が聞こえる。酷く憎悪に満ち溢れ、酷く悲しい獣の叫びが響き渡った。
それが愛歌の背後に居た獣のものなのかは分からなかったが、だが一つだけ理解できたことがある。
――――この獣は起こしてはならない。特に、今この現状で起こしてしまえば連鎖的に顕現することになる。
理屈なんかない、ただ直感的にそれを理解してしまったのだ。
そしてツナの前に立った愛歌はツナに抱き着いた。壊れないように優しく、繊細なものに触れるかのようにとても優しく抱きしめた。
「私はツナが寝ている時にしか会うことが出来ないけれど、私のことお姉ちゃんのように思って良いわ。出来ればお姉ちゃんって呼んで欲しいけど」
言い聞かせるように語る沙条愛歌という少女の姿を見て、ツナは酷く哀れに思えた。