え、何これぇ………いつの間にか凄いことになってるやん。
ま、まぁこれほど人気が出るのは一過性だからそんなに気にしなくても大丈夫…………
「すみません。ちょっとトイレ行ってきます」
無理矢理連れて来られた上に何故か決闘することになってしまった中で多数の観客達に見られている中でツナはそう呟いた。
それに対する罵倒がある中で、ツナはまるでどうとでも思っていないかのように振る舞いつつ体育館から出て行き、トイレに入る。
そして誰も居ないトイレの中で、ツナは叫んだ。
「ウェイト入ってるなんてふざけんな! どうやっても勝ち目なんか無いだろ!!」
さっき、試しに竹刀を持ち上げようとしたのだが残念なことに持ち上がらなかったのだ。真剣を扱ったことがあるツナでも持てない重さで、武器として振るうには最悪過ぎたのだ。しかも竹刀だけでなく防具にも――勝ち目が無いとしか言えなかった。
せめて籠手だけでも普通の重さだったら良かったのだが。
「ウェイトが入ってなきゃ勝ち目はあるのか?」
「…………何でこんな所なんかに居るんだよ」
「家庭教師だからな」
「答えになってないよ。でも、質問の回答はYESだよ。普通の竹刀だったら闘えるよ。手甲があるとなおよし」
剣は盾としても使えるし、手甲があれば殴った時に手が痛くならない。それだけでなく剣は自分に足りないリーチを補うことが出来る。
拳だけでも十分と言えば十分だが無いよりはマシだ。
少なくとも拳じゃこの眼は生かさない、ナイフだとリーチが足りない。なら剣を使う以外に道は無かった。技とかは流派の技を覚えられる程才覚は無かったが基礎は出来ているのだから、武器を壊した後殴り勝てる。
そう、武器さえ持てれば話は別なのだ。
「そうか」
今の言葉を聞き終えたリボーンは拳銃を取り出してツナに向ける。銃口の先にあるのはツナの額だ。
「…………ねぇ、何でこっちに銃口を向けてるの?」
自らに銃を向けて居るリボーンを見て、ツナは声を震わせながら尋ねる。
するとリボーンは口の端を釣り上げてニヒルな笑みを浮かべた。
「いや、笑うだけじゃ返答にならないからね!? それオモチャだよねそうだよね!?」
「いっぺん死んでみろ」
「ちょっ、止めて!! それ間違いなく避けられ―――――」
ズガンとリボーンが手に持っていた拳銃から一発の銃弾が放たれた。
赤い色をしたこの世の物とは思えない銃弾、金属なのかすらも疑わしいそれは回避する間も無く、ツナの頭蓋を撃ち抜いた。
「あ――――」
脳天を撃ち抜かれたことにより、脳はその機能を停止する。身体は動かずその役目を停止させていく。
前が見えなくなっていき、世界が暗転していく。その先にある闇を、ツナは知っていた。
死―――――、全てが無意味となる絶対の終焉。
この瞳を手に入れる前に見た世界の終わりであることを理解した。
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!
薄れて消えていく意識の中でツナは半狂乱になりながら声の無い絶叫を上げていた。
死ぬのだけは嫌だ。何もかもが消えていく、孤独で無価値で何も無い闇。あそこにだけは落ちるのは嫌だ!!
心の底から強く後悔した瞬間、意識が浮上した。
一体どうして、そう思う暇も無く闇に沈んで消える筈だったツナの魂は無理矢理引き上げられた。
『あら?』
その刹那に、胸に穴が開いた金髪蒼眼の幼い少女の無邪気な、それでいて邪悪な姿を垣間見ながら。
×××
額から淡いオレンジ色の炎が灯り、まるでトーチのように燃え上がる。
意識が完全に覚醒する時間は一瞬で身体に熱が走り、全身が死から生にへと再起動を始める。
苦しかった。凄く苦しくて暗くて、寂しかった。だけど自分は生きている、今を生きてここに居るのだ。震える自身の身体を抱きしめてツナは生の実感を確かめる。
そして自分をあの取り返しのつかない場所に追いやろうとした元凶のことを思い出した。
「っ、そうだ! リボーンッ!!」
ツナは怒気を滾らせながら殺意に満ちた形相でリボーンを睨み付ける。
だがしかし、リボーンは呆気に取られた様子でツナの事を見ていた。
「…………まさか死ぬ気モードになったのにパンツ一丁になっていないとは」
「今さらりと見逃せない発言が聞こえた気がしたけどどういうことだよおい…………」
「それは今はどうでも良い話だぞ。それよりも鏡見てみろ」
「鏡を見ろって…………なんか変な炎が額から出ている以外特に何も―――――」
言われるがままにツナは設置されていた鏡に視線を向ける。
そこに居たのは額からオレンジ色の淡い炎が灯っている自身の姿で、ただ一つ前と違うのは髪の毛が異常な程長く伸びていた。腰よりも長く伸びたそれは踵にまで着きそうな程で、信じられない程の長さだったのだ。
「…………おい、リボーン。何やったの?」
「俺が知るか。それよりもそろそろ戻った方が良いんじゃねぇか?」
「え、ってもうこんな時間かよ!! こうなったらやれるだけやってやる!!」
そう言うとツナは悔し涙を浮かべながら走り去っていった。いつもの彼を知っている者が見れば信じられない速さで。
「…………どうやら効果はあったみたいだな」
リボーンは服の内ポケットから一発の赤い弾丸を取り出す。
つい先ほどツナに対して放った弾丸と同じもので、人体のリミッターを外すという効果を持つ。
しかし、その効果はあくまで後悔したことを死ぬ気でやるようにするというものだ。普通ならあんなはっきりとした自我は無く、一種の暴走状態になっていなければおかしいのだ。なのにツナは死ぬ気丸という死ぬ気弾の効果を持つ薬品を服用して死ぬ気になった状態のように、平静を保っている。
考えられるとしたら常に死ぬ気であるということ、しかしこれは当てはまらない。そしてもう一つの可能性も今のツナには不可能だ。
それに死ぬ気弾にはあんな髪の毛を長くする効果は存在しない。
「……………それに、あの死ぬ気モード自体も変だ」
本来死ぬ気弾を撃たれたら元の肉体から脱皮する形で蘇る。そして脱皮した後に残るモノは風化する。
だがあれは違った。まるで内側から弾け飛ぶような形で蘇ったのだ。まるで卵を破った雛のように。
「まさか、な。ただの考え過ぎだろう」
たまたまツナには死ぬ気弾の効果があのような形で現れただけだ。
恐らくそういう体質なのだろう。意識が残っているがリミッターの方は外れているのだから。
リボーンはそう考えて結論付けることにし、ついさっき落ちたツナの眼鏡を拾って自身も体育館に向かうのであった。
×××
眼鏡を落としたのに気が付いたのは丁度体育館の扉を蹴破って中に入った直後のことだった。
気が付いた時には既に遅く、髪の毛が伸びていることに驚く他の生徒達の波を掻き分けてツナは持田の前まで突き進んだ。
道中、野球好きな級友が眼鏡を外していることに驚いた様子を見せた。
道中、風紀委員長はツナの髪を見て「校則違反、それと群れ過ぎ」と言い放ち、トンファーを構えた。
道中、ボクシング部の部長がさっきの蹴りを見て「あれ程の身体能力、是非とも我がボクシング部に」と言っていた。
されど今はどうでも良い。リボーンに何をされたのかは分からないがやらなくちゃいけないことは分かっている。今はそれだけで良い、それだけで十分すぎる。
ツナは持田の前に立ち、真っ直ぐ前を見据える。
「どうやら怖気ついて逃げ出すような奴じゃなかったみたいだな」
「さっきも言いましたけどトイレに行くだけでしたからね」
そう言ってツナは竹刀のみを手に取り、真っ直ぐに構える。
すると持田や剣道部員達は全員驚いた表情をして見せた、がすぐに平静を取り戻す。どうやらウェイトが入っていないと思ったのだろう。
その為か、剣道部員たちはツナに他の道具も渡して来ようとする。が、ツナは「要らない」ときっぱり答える。
「じゃあルール確認だ。貴様は剣道初心者だ。よって十分以内に俺に一本でも打ち込めたら貴様の勝ちだ」
「別にそれで良いですよ」
「ほほぅ。強気だな。だがこの持田、京子に物をせびった貴様を許しはせん!」
「あれはプレゼントですってば…………そもそもとしてとっとと告白でもしたらどうなんですか? 笹川さん、フリーらしいのに」
ツナがそう尋ねると持田は「うるさい!」と一喝する。
持田の様子を見るからに、どうやら告白してはいるようらしい。
恐らく、告白したことに気が付いてもらえないのだろう。
「だからって近づいただけの男にすら敵意を向けるとか、男として心の底からみみっちいですね先輩って。誇りとかプライドって無いんですか?」
あまりの情けなさにツナは思わず自身の感想を素直に吐露する。
すると持田の頭からブチィと何かが切れるような音が響いた。
周囲に居た審判を含めた剣道部員達は顔を真っ青にし、持田に睨み付けられて恐れながら「し、試合開始!」と決闘の始まりを告げた。
「死ねぇ!! ダメツナァ!!」
怒りに身を任せた持田は殺意を込めて上段から竹刀を振り下ろす。
振り下ろされたそれは並盛中学校の中でも上位の腕を持ち、喧嘩でも一桁に入るだろう人物の一撃。素人、それも防具を身に纏っていない者ではまともに受けることもままならないだろう。
その事を分かっている大多数の生徒が地面に倒れ伏すツナの姿を幻視する。
「あ、あれは持田剣介が最も得意とする上段に構えてからの振り下ろし!! あの技でこの前の大会に優勝したんだ!!」
生徒の中の誰かが解説でもしているのか、やけに詳しい説明が語られる。
そして一歩も動かないツナに向かって持田は竹刀を振り下ろした。
+++
「あー…………こりゃツナが勝ったな」
一連の流れを見ていた一人の男子生徒はそう呟いた。
「おいおい。あのダメツナに勝ち目があるわけないって。なんか髪伸びてるけど」
その発言を聞いていた男子生徒達は男子生徒の言葉を否定する。
彼等の中では沢田綱吉という男子生徒は非常に弱い、何をするにしてもダメな生徒だ。
勉強もダメ。運動、特に球技が致命的なまでに下手。逃げ足だけは早いからなのか、徒競走ではそれなりだが基本的にダメな奴だ。だから剣道部主将の持田剣介に勝てるわけがないと思っていた。
ただ一人を除いて。
「俺の剣の相手、ツナがしてんだけどなぁ」
その発言を聞く者は誰も居なかった。
+++
持田剣介が竹刀を振るった瞬間、それは起きた。
まるで陽炎を斬ったかの如くツナの姿が消え失せ、持田が持っている竹刀が半ばから圧し折られていたのは。
「―――――は?」
突然の出来事は持田から思考する力を奪い取った。
己の振るった竹刀がダメツナの頭部を捉え、五体を地に伏せている姿を幻視していた持田にとってこの光景は受け入れられなかった。その上、持っていた竹刀が圧し折られている。否、まるで鋭い刃物で真っ二つにしたかのように綺麗に斬られていた。そうとしか表現できなかった。
そして観客だった大多数の誰もが突如視界から消え失せたツナが何処に行ったのかが分からなかった。
だが、それに気が付いたものは居た。
野球が好きな少年は「お、新しい技か?」と呑気な声で呟き、風紀委員長は目を見開き獲物を見つけた肉食動物の如く口の端を吊り上げる。ボクシング部の主将は「極限! 分からーん!」と叫んでいた。
「ど、何処に消え―――――」
「胴―――――――!!」
姿を見失ったツナの事を探そうと持田が探し始めるが時既に遅し。
持田の背後に回っていたツナの横薙ぎの一閃を身体に受け止め、そのまま壁に叩きつけられた。
はてさて、邪悪ロリは一体何者かな?
ちなみに型月キャラです。ヒロインではありません。