取り敢えず投稿です。
「これより、被告人沢田綱吉の裁判を執り行う!!」
どうしてこうなった。
荒縄で雁字搦めに縛られたツナは自らの境遇を嘆くと共に、教室で行われて居るこの不当な裁判もどきから逃げ出す方法を考えていた。
幸いなことに縄は非常に固く縛られていたが抜け出すことは容易だ。
ただその後が非常に面倒なだけで。
「被告人の容疑は?」
「このクラスの、いえ、学校の財産と言っても差し支えが無い笹川京子氏と一緒に登校していたことであります! しかもなんか良い雰囲気を醸し出してました!!」
「なにぃ!!? 許さん! 死刑だ、死刑にすべきだ!!」
「「「意義無し!」」」
そして裁判も終わりを告げたらしい。どうやら此方には弁護する人も居ないらしい。
普段なら能天気に場を諫めてくれる野球好きな級友はこの場に居らず、このままでは間違いなく自分は一方的な私刑を受けることになろう。
そう考えるツナであったがそれを見かねてか、笹川京子が親友の黒川花とツナの下に歩み寄ってきた。
「ちょっと止めなって。ただ学校まで一緒に来ただけじゃないの」
どうやら助けてくれるようらしい。
ツナがそう思っていると花は目を此方に向けてアイコンタクトを飛ばしてくる。
感謝しかない。花のメッセージを受け取ったツナは感謝の念を送る。すると花は小声で「気にすんなって」と告げて来る。
本当に助かった。この恩は決して忘れない。そう思うツナであったが、京子が近くまでやって来て―――――、
「あ、ツナ君。今日一緒に帰っても大丈夫かな?」
「よし、お前等。今日はフルコースだ。前菜は沢田の悲鳴だ」
空気の読まないその一言によって花のフォローが台無しになってしまうのであった。
と、いうか今のは確信犯じゃないだろうか。そう思ってしまうツナであったが京子の表情からは何の裏も取れない。それどころか花も全てを諦めたかのような表情を浮かべて「ごめん」と小さく呟いたところから察するに、本当に善意でやった行いであるということが理解できた。
「さぁ沢田。言いたいことはあるか?」
「……………ただ一緒に登校しただけじゃないか。何をそんなに怒り狂ってるんだか」
「うるさい黙れぇ!! 沢田の癖に生意気だぞ!!」
自身の発言で裁判に参加していた男子生徒(一部女子生徒)達は騒ぎ立てる。
色々な罵倒、という名前の嫉妬に駆られたモテない男子と特殊な性癖をしている女子生徒たちの叫びがツナの鼓膜を響かせる。朝っぱらから元気過ぎるにも程があるだろう。
「そもそもぉ!! ダメツナが俺達よりも先に女子と会話するなんて百年早いんだよぉ!!」
「「「「そうだそうだ!!」」」」
最早宗教のノリに近いクラスメイト達を見てツナは思わず溜息をついてしまう。
「本当にどうしたんだよ皆。男女の関係でそんなにはしゃいで…………そんなファーストキスも済ませていないわけじゃないし」
ツナが何気無く呟いたその言葉、それを聞いた瞬間、この場に居る全員が固まった。それはツナに対して不当裁判を行おうとしていた生徒達は勿論のことで、京子や花も当然聞いていた。
場の空気が固まったことに気づいていないツナは皆の変貌に戸惑いの様相を浮かべる。
「え、何? もしかして沢田ってしたことあるの?」
誰よりも一早く元の状態に復帰した花は顔を青褪めながらツナに尋ねる。
「イタリアに留学していた時にリゾーナ………友達の女の子とね。日本に戻る際の別れの挨拶みたいなものだったから恋愛感情とかは無いよ」
そう呟いてツナは日本に戻ってくる前に別れを告げた友人の少女の顔を思い浮かべる。
この直死の魔眼の使い方を学ぶ為に出会った少年と少女、その二人と友人になるのに時間はそれ程かからなかった。ツナの持つ能力とは違うが、その二人も特異な異能を持つが故の親近感だったからなのかは分からないが、あの時、イタリアで過ごした思い出は今でも思い出せる。そしていつかまた会おうと約束をし、別れの挨拶としてキスされた。それがファーストキスだったのは言うまでも無いことだ。
だけれど、それに恋愛感情があったかと聞かれると答えはNOだろう。
イタリアではキスが挨拶、と言う言葉があるがそれは大凡間違いない。ただし大体は頬だ。口と口はそれこそ本当に親しい人だけだ。そういう意味で、彼女と本当の意味で親しくなれたのは別れの時なのかもしれない。
「でもあの時は激しかったなぁ。まさか舌まで入れて来るなんて」
「沢田。違う、それ絶対に違うから。それディープな方だから」
瞬間、校舎の外から濃厚な殺意が放たれた。
一体誰が放っているというのだろうか、何か物凄く怖いのだが…………。
ツナは自らに向けられてる殺意に対して妙な恐怖を抱きつつも、縄を解きながら昔の思い出に浸りながら目を閉じる。今でも思い出すことが出来る。
「まぁ、ファーストキスは経験済みだよ俺は。笹川さんと違って恋人は居たことないけどさ」
「え? 私も付き合ってる人は居ないよ?」
「…………どういうこと?」
ふと気になったツナは正気を取り戻したものの少しだけ調子が悪そうな京子に尋ねようとする。が、その前に答えに行きついてしまう。
「あ、ふーん…………ねぇ黒川。もしかして持田先輩って」
「あんたの想像通りよ。京子にアプローチ中。全然見向きもされていないけどね。主にどっかの誰かさんのせいでね」
「うわぁ…………可哀想だなぁ………京子ちゃんに懸想されてる人の身が心配だよ」
周囲の人たちが正常に戻りつつある中で三人はそんな感じの会話を続けていた、その時だった。
荒々しく教室の扉が開かれたのは。
正気を取り戻し、ツナに対する処刑を再開しようとしていた生徒達全員が開いた扉の方に視線を向ける。そこに立っていたのは今ツナ達の会話の中に居た人物、並盛中学校剣道部主将の持田剣介の姿であった。
「沢田ァ!! 貴様に決闘を申し込む!!」
持田剣介はそう言うと背後に立っていた剣道部員達に「連れて行け」と命じる。
すると二人の剣道部員はツナが居る所まで歩き、ツナの両腕を掴み、そのまま連行するのであった。
「え、な、何これ!!? どういうことなのー!!?」
子牛のように連れて行かれるツナの姿を京子と花は黙ったまま見ていた。
そして連れて行かれてから数秒の時間が経ってから再び正気を取り戻し、
「…………おい、ダメツナ。やばくね?」
「ああ、流石に俺たちのは悪ふざけだったけどよぉ。ちょっと持田先輩殺気だっていなかったか?」
「決闘だってよ。見に行こうぜ」
野次馬根性丸出しで行くのであった。
もしここにツナや他のまともな生徒達が居たらツっこみを入れてたであろう言葉を言ってから教室を後にした。
「ど、どうしよう…………ツナ君、大丈夫かな?」
「こりゃあ行くしかないか………行くよ、京子」
二人の少女たちも教室を後にする。それから暫くして教師が教室に入って来る。
「えー、それでは授業を―――――って、ボイコット!!?」
誰も居ない教室の中で教師の悲痛な叫びが木霊するのであった。
そして一連の流れを全て望遠鏡で覗き見ていたリボーンは面白そうな笑みを浮かべる。
「どうやらこいつを試せるみたいだな」
そう呟くリボーンの手の中には一発の銃弾が存在していた。
×××
ツナと持田剣介との決闘騒ぎが始まった中で、それを観戦する為に複数の生徒達が集まってきていた。
仮にも中学生なのだから授業はどうした、教師が居たらそう尋ねるだろうその中で、複数人の生徒達は興味深げに集まっていた。
銀髪の少年は上から良く見える位置でなおかつ見つかりにくい場所に陣取っている。
そして「ボンゴレの十代目候補の実力、見させてもらおうじゃねぇか」と小さく呟いていた。
黒髪の少年は生徒達と一緒に観戦していた。しかし笑顔を浮かべながらも眼だけは笑っておらず、ツナを見つめている。
学ランを纏った少年は欠伸をかきながらつまらなそうにしていた。
この騒動が終わり次第、騒動を引き起こした人間をかみ殺す為に。そしてこの騒動に関わっているあの小動物を引きずり出す為に。
白髪の少年は「極限だ―!!」と叫んでいた。
そしてこの騒動の中心人物であるツナは静かに一言呟いていた。
「帰りたい」
と―――――。
次回、let's死ぬ気タイム♪