死を見る大空   作:霧ケ峰リョク

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前に投稿してから大分空いてマジですみません。
取り敢えず此方も再開しますのでゆっくりやっていきたいと思います。


将来

「どうしたんですか? そんなに黄昏て」

 

 ボス、ボス候補、側近の顔合わせもひと段落つき、綱吉は外で一人黄昏ていると声を掛けて来る人が居た。

 一体誰だろうか? 綱吉は声が聞こえた方向に視線を向ける。

 視線を向けた先に居たのはお洒落なドレスを身に纏ったユニだった。

 

「ユニ…………」

「心なしか顔色が悪いようにも見えますが」

「うん。ちょっとね…………」

 

 ユニの問い掛けに綱吉は曖昧な答えを返す。

 姿を確認するまで聞きなれた妹分の声が分からなかったという事実に軽くショックを受けるも、それ以上に先程炎真から向けられた視線を忘れる事は出来なかった。

 あの時の炎真の瞳には自身に対する激しい憎悪が込められていた。

 

「…………憎まれるって、こんな感じなのか」

 

 今まで失敗したりして見下されたり、直死の魔眼という破格の異能を持っていることから羨望の眼差しを向けられていた。

 中には化け物を見るような目で見られた事もあったし、ユニやリゾーナのように自身に好意的な視線を向ける者も居る。

 いつかの白いののように何とも言えない感情だって向けられた事もある。

 だが、こうして直接憎しみを向けられる事は初めてだった。

 

「あそこまで憎まれる事をした覚えは無いんだけどなぁ」

 

 炎真との面識はおろか、名前すら知らない本当の意味で初対面の相手である。

 当然ながらあそこまで憎悪を向けられる謂れは無い。そもそも出会った事すら無い相手なのだから。と、なればあそこまで憎悪を向けられているのはボンゴレファミリーが関係しているのだろう。

 それだけならば別に対して気にしない――――わけではないがここまで落ち込む事は無かった。

 落ち込んだのは彼の言った『夢』という言葉だ。

 

「大丈夫ですか? 本当に体調が悪いようにも見えますけど」

「ちょっとね。雰囲気に酔っちゃったかも」

「もしかしてさっきのリゾーナさんが関係しているんですか?」

「いや、そっちは全く関係ない。いつも通りだったし」

「そうなんですか」

 

 瞬間、ユニから物凄い圧を感じた。

 表情も笑顔で固定されているのにも関わらず、明らかに不機嫌だった。

 一体何が彼女の機嫌を悪くさせるのか、綱吉には分からなかった。

 

「…………ユニはさ、将来何をやりたいとかってあるかな?」

 

 綱吉は手すりに背を預け、ユニに問いかける。

 

「将来、ですか? それでしたら多分ツナと一緒に」

「そういうのじゃなくてね。将来何になりたいかとかっていう話。例えばほら、将来巨大ロボになりたいとか」

「それがツナの将来の夢だったんですか?」

「子どもの頃の話だよ」

 

 あの頃は本当に幼かった。恥ずかしそうに綱吉は笑う。

 

「さっきさ。シモンファミリーの炎真って人に言われたんだ。夢はあるのかって。やりたいことが無いのならボンゴレ10代目になった方が良いって」

「それは…………」

「いつもなら、リボーンが相手なら言い返せたんだけどさ。言い返せなかったんだ。多分、否定するだけの材料も、勇気も無かったんだと思う」

 

 炎真の言う通り、自分はマフィア等の裏社会から色々な恩恵を受けて今を生きている。

 それなのにマフィアのボスになりたく無いなんて言ったところで説得力なんか無いし、何をふざけた事を言っているんだと思われるだけだ。

 実際、炎真が怒ったのはそれもあるのかもしれない。

 マフィアになりたくないと言っているくせに他にやりたい事も無いのだから。

 

「改めてオレの考えが甘かったって思い知らされたよ。この眼があるから普通には生きられないって分かってたつもりだった。分かっているつもりになってたんだ」

 

 もし、マフィアにならず一般人として生きる道を選んだらどうなるか。

 どうにもならないだろう。マフィアを辞めたからってボンゴレファミリーの血縁である事には違いない。利用価値がある奴を見逃す理由は無い以上、敵は間違いなく襲って来るし、ボンゴレファミリーとの縁が途切れるわけでも無い。

 何より、直死の魔眼を持ったまま普通の一般人として生活するのも難しいだろう。

 この瞳は見えないものを見る事が出来る。当然のように厄介ごとはやってくる。

 そしてマフィアにならないならば今まで出来た縁も捨てなければならない。

 獄寺隼人、アルビート、リゾーナ、リボーン、そしてユニ。

 彼等彼女等とも出会う事は出来なくなる。下手すれば今まで出会って来た少なくない人達とも別れなければならない。

 そんな色々と沢山あるものを全て捨てなければ一般人として生きていけないなら、一般人になる価値は無い。

 

「本当、酷い笑い話だよ。マフィアにならなかったら全てを捨てなければいけなくて、今を大切にしたいならマフィアになるしかないんだから。仮にマフィアにならなかったとしても結局表社会じゃ生きられないし」

「ならマフィアのボスになれば良いと思いますが」

「それが一番なんだろうね。でも、情けない話だけど怖いんだ」

 

 そう呟くと綱吉は両目を手で覆う。

 

「マフィアのボスになればきっと、ずっと沢山の死を見る事になる」

「はい。そうですね」

「それを見て、死を受け入れるようになるのが怖いんだ。オレは直接死を見る事が出来るから余計に」

 

 そうなった時、自分は今の自分のままでいれるだろうか。

 恐らく、今のままじゃいられないだろう。

 

「ごめんね。こんな情けない事言っちゃって」

「情けなくなんかありません」

 

 綱吉の言葉を聞いてユニが優しく語り掛ける。

 

「ツナは他の人より多くのものを見る事が出来る。それは他の人には無い特別な力です。だからこそ、戸惑うのは当たり前なんです」

「ユニ…………」

「大丈夫です。ツナはきっと変わらない。絶対に変わりません。貴方の妹分にして婚約者の私が保証します」

 

 そう言ってユニは微笑む。

 

「………ありがとう。ユニ」

 

 歳下の女の子に諭されるなんて情けない。

 内心そう思ってしまうが少しだけ楽になった気がした。

 綱吉は目を見開いて外の光景を少し眺め、少しだけ目を細めてユニの方に向き直る。

 

「でもまだマフィアになるかは決められないよ。流石に今すぐはね」

「大丈夫です。どの選択を選んでも私はツナについて行きますから――――それはそれとしてリゾーナさんとの関係についてちょっと話を」

 

 そう言って詰め寄って来るユニに綱吉は乾いた笑みを零す。

 

「リゾーナとの関係って、さっき言った通りなんだけど」

「本当ですか?」

「嘘は付いてないって」

 

 さっきアルビートに押し付けられたような気はするが、親友であることは違いない。

 ユニに弁解しながらも綱吉は懐からナイフを取り出して逆手に持ち、背後に向かってナイフを振るう。

 綱吉の背後には何も無く、ナイフは空振る――――事は無く、ゾブリという音と共に刀身が何かに沈む。

 ポタポタと赤い血がナイフの刃をつたり、地に落ちた。

 

「何故、気が付いた?」

 

 バチバチと音が鳴ると同時に綱吉の背後に一人の男が姿を現す。

 緑色のスーツに黒い球体がビッシリついている奇妙な服装を身に纏った、とてもではないが普通とは言えない格好をしていた。

 男の腕には綱吉が振るったナイフが深々と突き刺さっている。

 

「オレの瞳は万物の死を見る事が出来る。例え姿を消していたとしても、何も無い所を線と点が動いていたら何かあるって思うだろ」

「まさかヴェルデ博士の光学迷彩を見破られるとは…………それが貴様の持つ異能、直死の魔眼か!」

「こっちに近付いて来てたから咄嗟にナイフで刺したけど…………敵って事で良いんだよな?」

 

 綱吉の瞳が橙色が混じった青に変色する。

 

「まぁ、そんな如何にも不審者ですって言わんばかりの格好をして敵じゃないってわけが無いよな!」

 

 ナイフを振るって男の腕を斬り落とし、綱吉は舞うように後方に下がる。

 

「ユニ! いきなりで悪いけど逃げるよ!!」

「は、はい!!」

 

 突然の事態に困惑するユニを抱き抱えて、綱吉は不審者然とした装いをした男から逃走した。

 

   +++

 

「まさか…………いとも容易く斬り落とされるとは」

 

 綱吉とユニの二人が逃げ去った後ろ姿を眺めつつ、男は地面に転がった自身の右腕を拾う。

 切断面はとても綺麗で、とてもではないが沢田綱吉が持っていたような市販品のナイフで出せる切れ味では無い。

 

「正しく異能という他ない。ヴェルデ様が欲しがる理由も分かる」

 

 男はそう呟くと拾った右腕をくっ付けようとする。

 当然のことながら腕がくっ付くことは無く、また動くことは無かった。

 

「ふむ。くっ付くことは愚か、遠隔で動かす事も出来ないとはな。少し厄介だ」

 

 そう言うと男は使い物にならなくなった自身の腕を捨てて、耳に装着していたインカムを口元に宛がう。

 

「此方A。標的に気付かれ交戦を開始したもの逃げられた。よって、予定通り部隊全員で襲撃する――――全員、殺すつもりで挑め」


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