少しリハビリも兼ねているとはいえ、ちょっと時間が掛かり過ぎました。
取り敢えずランボ編はこれで終了です。
他のキャラ達の描写は飛ばし飛ばしでやっていこうかな、時間かかり過ぎだし…………。
バズーカから放たれた弾は煙を巻き上げ、二人を包み込む。
これにはさしものリボーンも舌打ちをし、綱吉はやらかしたと言わんばかりに顔を歪める。
止めれば良かった、と後から後悔するが今の綱吉はかなり消耗していた状態だった。
10年バズーカを見て出た出血は収まったが、やっぱりというか疲労までは回復していない。
むしろ貧血気味である。
誰から見ても責められない、というか突然過ぎた出来事だった。
煙が時間経過と共に晴れていく。
それはわずか数秒にも満たない時間で、ランボがさっきまで居た場所に一人の少年が座っていた。
線の細いイタリア男と言った感じで、中々にイケメンだ。
10年バズーカは撃たれた対象を、十年後の対象と入れ替えるという特殊な武器だ。
そしてそれは限りなく本当に近い真実であり、この優男が十年後のランボだと言うことになる。
しかし、だが、いや、されど、綱吉にはこの少年があのアホ面を晒していたランボだとは思えなかった。
「やれやれ…………久々に呼び出されたかと思ったら、ここはもしや10年前のボンゴレの部屋では?」
優男は溜め息をつきつつも周囲を見渡し、綱吉を見つけると口を開く。
しかし先程とは違い、何処か嬉しそうな雰囲気を醸し出していた。
「この時代では初めまして、になるんですかね? それともお久しぶりです、なのか」
「え、えっと…………あなたは…………?」
「俺です。さっきまでここに居たランボです」
時の流れというものは本当に偉大である。
まさかあの知性の欠片も無いような幼子が、こんなイケメンになるのだから。
「今失礼なことを考えてませんでしたか?」
「考えてません」
どうやら本当に知性的になっているらしい。
やはり時の流れというものは偉大だ。
改めて実感する綱吉は自分に変な視線を向けてくる10年後のランボから目を逸らす。
「そ、そういやランボはさっき変なこと言ってなかったっけ? 確か10年前のボンゴレの部屋だとか何とか」
「えぇ、言ってましたよ? だって10年後の貴方は立派なボンゴレのボスやってましたし」
「えっ、何? 聞こえない?」
「いや、だから10年後の貴方はボンゴレのボスに」
「えっ、何? 聞こえない?」
「いや、だから」
「えっ、何? 聞こえない?」
「…………そうやって目の前の現実から目を逸らしていても良いことはありませんよ?」
ランボの生暖かい視線が綱吉の心を傷付ける。
しかし、本当に十年後の自分は何をトチ狂ってマフィアのボスになってしまったというのだろうか。
衝撃の事実に綱吉の顔は真っ青になる。
このリボーンと名乗る変な赤ん坊が居る限りマフィアのボスになるしか未来は無いのだろうか。
「なんだおめぇ、マフィアのボスになりたくないのか? マフィアはモテモテだぞ?」
「誰が好き好んでマフィアになりたい奴が居るんだよ。いや、居るには居るだろうけど俺がそんな奴に見えるのかよお前は」
リボーンの言葉に辟易を隠さずにそう言い放つ。
もし、あの時自分にこの赤ん坊もどきを如何にかできる実力があったならば段ボールの中に詰め込んで宅急便でイタリアまで送り返しただろう。
あるいは、この眼を持ってさえいなかったならばリボーンの言うことを信じずに接していただろう。
そうなった時は間違いなく彼の暴力の嵐に巻き込まれていただろうか。
心の中でそう考えているとランボが唐突に、静かに笑い出す。
「若きボンゴレ、やはり時間が過ぎても…………いえ、この場合は時が遡って若い頃であったとしても、貴方は変わりませんね」
ランボは何処か懐かしいような、嬉しいような口調で呟く。
「背の高さも外見も昔から変わらないのは当然として、口調とか些細な違いはあれど中身も変わっていません。昔の優しい兄ちゃんのままです」
綱吉にとってはあまり嬉しくない事実を言っていた。
「ちょっと待って、外見が変わっていないってどういうことなの?」
「え、いや、そのままの通りですよ。まぁ、髪の毛が長かったり角が生えていたりと違いもありましたけど」
「そ、それじゃあ俺の背は伸びないの…………?」
「えぇ。背は伸びてませんね。でも十年後のボンゴレは『この外見も結構便利なんですよ? 中学生料金で利用できますからね』って言って結構気に入っていた様子ですが」
更なる事実がランボの口から語られ、綱吉の心は砕け散った。
元々小柄な体格をしているのは自覚していた。イタリアに居た時の親友であるアルビートは自分よりも背が高い。それに関しては仕方がないと思い込むことが出来た。外国人であるアルビートは日本人に比べ体格が良いのだから。
だが日本に戻り中学生になったというのに綱吉の背丈はあまり高い方では無かった。
親友の山本武はアルビートと同じ位背が高いし、獄寺隼人もその二人に比べれば背が低いもののそれでも中学生男子の平均ではあった。
だが綱吉にも希望はあったのだ。父親である沢田家光の体格を知っているから、あの父親の血を受け継いでいる自分にも希望の芽はあるのだと。
しかし、時の流れは残酷だった。
「いつまでもめそめそしてんじゃねぇぞダメツナが」
「いぐっ!?」
あまりにも無情なこの世界の現実と未来に絶望していた綱吉の頭蓋にリボーンの足が振り下ろされる。
後頭部が土踏まずにフィットする嫌な感覚が襲う。
「それよりもユニは何処に行ったんだ?」
「あ、そ、そうだよっ! ユニは、ユニは何処に!?」
リボーンの言葉に綱吉はランボが放った10年バズーカに巻き込まれた妹分の事を思い出す。
10年後のランボから語られた衝撃の事実につい気が逸れてしまった。
恐らく無事だとは思うが、それでも心配だ。
「――――えっ、ユニさん来てるんですか?」
「ああそうだよ! この時代のランボの10年バズーカに巻き込まれて」
そこまで言うと10年後のランボが居た場所が急に煙に包まれる。
どうやらいつの間にか5分経過していたらしい。
つまり一緒に巻き込まれたユニも戻ってきている筈だ。
「一体何処に――――」
周囲を見渡してユニのことを探そうとした瞬間だった。
世界そのものが凍り付いたのは――――。
「全く、我の事を今まで放置して、本当に罪な人だ」
綱吉の身体は背後から何者かに優しく抱かれる。
抱き締めたのは恐らく女性で、自分と左程体格は変わらない。むしろ自分の方が少し背が高いくらいだ。
声の雰囲気から察するに声の主は恐らくユニだ、それも10年後の。
しかし、10年バズーカは5分間しか入れ替えることが出来ないのだ。
じゃあどうして10年後のユニは今もここに居るのだろうか。
「えっと、ユニ…………なんだよね?」
抱き締めている腕を優しく避けてから後ろを向く。
そこに居たのは成長したユニだった。
ユニの年齢を考えるとまだ十代後半と言ったところだが、その年齢の平均に比べ小柄だ。
胸もどちらかと言うと慎ましい、いや、貧しい。
「はっはっは。今失礼なことを考えてなかったか?」
「滅相もございません」
どうやら自分が考えていたことはばれていたらしく、ユニは綱吉の両肩を強く握りしめる。
肩に走る痛みを甘んじて受け入れつつ、綱吉は改めて10年後のユニの姿を眺める。
纏っている装いはホットパンツにへそ出しと若干露出が激しい格好をしており、その上にマントを羽織っている。
しかし、それ以上に目立つ物があった。
ユニの頭には角が二本、顳顬の辺りから生えていた。
何かの装飾品かと思ったがそういうものではなく、あくまで自然に生えてきたものだと理解する。
人間に角が生えるなんてことは通常在り得ない。身体の異常や骨等が変形して角が生えることはあれど、ユニに生えている角は自然的なものだった。
だがそれ以上に気になることが一つ、今のユニには死の点はおろか、死の線すらも写っていなかった。
「…………ユニ、一つ聞くよ?」
「ほぉ。我が夫はあまりにも性急すぎるな。まぁ、そこが愛おしいのだが」
「その口調については突っ込まないからね。てか根っからの御姫様体質なんだからそんな怪しい雰囲気を出しても可愛さでかき消されてるよ」
「……………折角、10年前に呼ばれたから私に対する印象を変えてやろうって思ってたのに」
10年後のユニは綱吉の言葉にさめざめと泣き始める。
しかしだからと言って質問を止めるわけにもいかないだろう。
決して見たいわけじゃないが、彼女の死が見えない原因を探らないといけない。
もしかしたらこの眼を封じる何かが10年後の未来にはあるのかもしれない。
そう考えた綱吉はユニからその方法を聞こうとして、いつの間にか自分の唇に指が置かれていることに気が付いた。
――――速い、全く見えなかった。
「残念ですがツナの望みを叶えるものは10年後の未来にはありません。私の死が見えないのは私が既に■■■になっているからなんです」
「………………」
「私が10年バズーカの効果時間よりも長く居られるのも、私が獣になったからに過ぎません。いいえ、多分そうなのでしょうね」
だから綱吉の思ったことはならない。
ユニが言った言葉は暗にそう告げているも同然だった。
綱吉としてもあまり期待はしていなかったが、それでも何処か気が抜けてしまう。
「それじゃあ、私は元の時代に戻ります。次、会う時はいつになるでしょうかね? まぁ、その時の私が今の私になるかはわかりませんが」
10年後のユニが告げた瞬間、身体が煙に包まれて元のユニに戻る。
それと同時に凍り付いていた世界が解凍し、世界の時が再び刻み始める。
「…………どうやら無事だったみたいだな」
茫然としているユニを見てリボーンは安心したような顔をする。
先程の時間はリボーンには認識できなかったらしく、特に何の反応も示していなかった。
どうやら自分しか認識できないものだったらしい。
「っと、ユニ。大丈夫? 何か、体調とか崩してない?」
唖然とした表情をしているユニに声を掛ける。
するとユニは口を開き、一言呟いた。
「――――ツナお兄ちゃんって、十年経っても変わってないんですね」
時の流れと言うものはやっぱり残酷なものである。