死を見る大空   作:霧ケ峰リョク

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今回は苦労しました。
ぶっちゃけ邪ロリは書いてて暴走する、だから何回も手直ししました。

マジ難しかったです…………。


夢は語らず

「…………ごめん、さっきは酷いこと言って」

 

自らに抱き着いている沙条愛歌という少女に対して綱吉は一言謝罪の言葉を呟く。

この少女については全く分からないし知らない。そもそもとして規格外の力を持つということだけは分かったが綱吉は彼女の所業を全くと言っても知らない。ある程度の見当こそついているがどちらにせよそれを弾劾する理由にはならないだろう。

怖いという思いはあるし苦手というのも正直な話だ。だがそれ以上にこの少女は酷く、どうしようもなく哀れだった。綱吉は心の底から抱いた憐憫の念を向けつつも軽く抱き返す。

綱吉は愛歌と言う人間を嫌いにはなれなかった。

そして愛歌は綱吉に向けられている視線の意図に気付かずに首を傾げていた。

 

「別に良いわよ? そんなことよりお話しない? 私貴方のこと殆ど知らないから」

「え、あぁうん。別に構わないけど」

 

こうして、2人は互いのことを話し始めた。

家族のこと、好きな人のこと、困っていること。嬉しかったことや楽しかったことを。

最も愛歌から語られるのは全てそのセイバーと呼ばれる青年のことについてだけだったのだが。

 

――――逆に言えば、この少女にとっての世界とはセイバーだけなのだろう。

 

「ふふふ、久しぶりに楽しい会話だったわ。もしセイバーと出会わなかったら貴方に恋をしていたかも」

「その時は是非とも遠慮するよ。正直重たい女の子はユニで十分だからさ」

 

綱吉は心の底からこの愛歌という少女に恋をされなくて良かったと思う。

恐らくこの少女に恋をされたセイバーという青年はかなり不幸な人のようらしい。

心底同情しながら乾いた笑みを漏らす。

 

「でもどうしようかしら。貴方と話してみて分かったんだけど…………私と在り方が違うから教えてあげられないわね。と、言うか貴方の行きつく先、お姉ちゃん心配だわ」

 

なんか将来的に物理的な意味で光速を超えた速度で動きそう、と言っていたがそんなことは出来ない。直死の魔眼や『』が無くても冠位級に至れそう、それも来年中にと理解できない専門的な用語で言われたが絶対に無理だと断言する。

そもそもとして、愛歌から語られた魔術等を使用しても物理的な意味で光速を超えることは出来ない。これがまた霊子世界ならば話は違うだろうが、それでも光速で移動することは出来ても戦闘には反映できないだろう。

心の中でそう結論付けた綱吉はため息を吐きつつ、頭を軽く掻く。

 

「だから私もね、考えたの」

 

おい馬鹿止めろ、思わずその言葉を吐き出しそうになった綱吉だったが、なんとか踏みとどまる。

だけど間違いなく悲惨なことになりかねない、そう予感した綱吉の思いは正しく――――、

 

「私はこの夢の中でしか貴方の世界に干渉できない。なら貴方を介してなら世界に干渉できるということなの―――――でも、それは出来ないの。何でかは分からないけどね」

 

まるで世界そのものが拒絶している、と愛歌は心底疑問を抱いた感じでそう呟く。

 

「まぁ貴方が直死の魔眼を手に入れたせいかは知らないけど、私たちの世界の異能が同じようにそっちの世界に少しだけ流れ出したわね。ガイア、アラヤの抑止力の仕業かしらね。まぁはじき出されてたけど。逆に言えばそれだけの力がそちらにあるということなのかしらね」

「俺が産まれて13年で、そんなものを一度も見たこと無いんだけど」

「だったら無いのかもしれないわね。むしろ無い方が良いのかもしれないんだけど…………」

「だね。何でも願いが叶う願望器、それでユニの呪いがどうにかなるようならやるんだけど、それも不可能だしねぇ」

「あら? 不可能だって分かるの?」

「分かるよ。本当に全能なら、世界全ての人間を、過去の人間だって救うことが出来る筈だよ」

「そうね。その通りよ。だから私はビーストを求めた。災害の獣を、■■悪をね」

「……………逆に言えば、それ以外の方法があるならそっちでやってる、か」

 

こう言ってはなんだが、きっと自分も似たようなことがあったら同じ事をするだろう。

例えそれがどれだけやりたくない事であってもやらなくちゃいけない時はやらないといけない、特に自身の目的を達する為には。

そういう意味では、同じ穴のムジナだろうと結論付ける。

 

「うーん、やっぱりそう考え付かないわね。私が教えようと思ってたけど、中々上手くいかないわね…………そうだわ。そうよ、英霊の過去を見れば良いわね。そっちの方がツナにとって為になりそうね」

「やめて、凄く嫌な予感が」

「それじゃあ先ずはセイバーの昔から見せていくわ。本当なら全部見せたいところだけど不可能だから大事な所だけ見せていくわ。それでも一週間は掛かるけど構わないわよね?」

「いや、だから待って。お願いだから人の話を聞いて――――」

「それじゃあ行くわね。なぁに、痛みは一瞬よ」

「だからやめ――――――」

 

   +++

 

「なぁ沢田! 今度球技大会があるんだけど」

「そうだね。この怪我を見て俺が活躍できると思ってるようなおめでたい頭をしているなら参加してあげても良いけど」

「そうか!! いやぁまさか沢田があんなに動けるなんてなぁ」

「おい。だから俺の身体を見ろよ。どう見ても球技なんて出来るわけがないだろうが」

 

怒りを滲ませた声音で綱吉は机の前に立つクラスメイトを睨み付ける。

その視線を受けた男子生徒は納得した様子で下がっていき、代わりに武が近づいてきた。

武は椅子に座る綱吉の姿を見て短く笑う。

 

「はは、ツナも災難だったな」

「うん。本当にね……………」

 

綱吉は武の言葉に短く返事をする。

本当に睡眠中も含めて災難な一日だった。そう言いたげに綱吉はため息を吐いて机に顔を突っ伏す。本当に災難な日であった、雲雀恭弥と戦って全身包帯塗れになったかと思ったら睡眠中は謎の幼女によって強制的に睡眠学習を行う羽目になったのだから。前者は骨こそ折れていないものの自分と相手ともに大きな怪我を負い、後者に関しては文字通り見せつけられていたのだから。おかげで頭が痛い、その割に妙に頭がすっきりしているのは本当に奇妙だ。それに、見せられた夢もあまり愉快なものとは言えなかった。金髪碧眼の美少年が白い少女に何かを教わっている光景だったのだが、とにかくその少女が屑だった。そうとしか表現できない程に屑だった。

そういう意味では自分の家庭教師がリボーンで良かったと思う。

 

「いや、本当に少しは休みたいなぁ。ユニと一緒に今度散歩でもしてみるかな?」

 

家で大人しく待っているであろう妹分の少女のことを思い返す。

きっと今頃家で大人しく勉強でもしているのだろうか。そういう意味で少し心配だけど、ユニは自分なんかとは比べ物にならない程頭が良いし。綱吉はそう考えながらゆっくりと寝息を立てる。

完全に寝入っているわけじゃないが少しでも身体を休める為に、綱吉は必死になって眠りについた。

教師が教室に入ってきて何かを言っているが中途半端に浮遊した綱吉の意識には断片的にしか聞き取ることが出来ず、何者かが此方に近づいてきていると言うことも分からなかった。

そして机が蹴られ、ガタッと音を立てながら揺れる音とともに意識が浮上し、綱吉は目の前に立っている人物を視界に収める。

 

「……………っけ」

 

綱吉の前に立っていたのは銀髪碧眼の少年で、眉間に皺を寄せて不機嫌そうな表情をしていた。

髪の色は染めているものでは無く天然物であり、眼もカラコンを入れていない。ハーフ、いや、クォーターと言ったところだろうか。綱吉は後姿を向けて去っていく銀髪の少年を視界に収めながら淡々と寝惚けた脳で思考を進め、あることに気が付く。

 

「……………煙草…………火薬の臭い?」

 

銀髪碧眼の少年からした臭いに綱吉は鼻をひくつかせる。

普通ならば、というか明らかに中学生からして良い臭いではない。しかし、何故だろうか。綱吉はその臭いに対して違和感を覚えなかった。と、言うか昔イタリアに居た時にそのような特徴を持つ者が居ると聞いたことがあったような―――――、

 

「駄目だ…………全く思い出せない」

 

確か聞いたことがあった筈だ。アルビートとリゾーナ、それだけでなくユニと一緒に居た時にだって。だと言うのに全く思い出せない。綱吉は頭を抱えて必死になって思い出そうとし、結局思い出すことが出来なかった為そのまま机に顔を突っ伏した。

 

「思い出せないなら…………大したことじゃないだろうし、気にしないでおこう…………」

 

それよりも今は身体を癒そう、そう決意し綱吉は再び意識を沈めるのであった。


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