死を見る大空   作:霧ケ峰リョク

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ニューパソコンがまだ届いてないのでネカフェからの投稿です。
もう一つのリボーン作品が原作でなくオリジナルストーリーなのに対し、こっちは原作沿いですね。

なお、型月の設定は基本的に無いです。
そもそもとして原作の世界観からして型月作品全てと合っていませんので(死ぬ気の炎、並行世界の解釈、宇宙警察等)

それでも良い方はどうぞご覧ください。


直死持つ空の始まり

沢田綱吉という人間はごく普通、と言えばお世辞になってしまうようなドジでマヌケで駄目駄目な少年である。

それは彼のクラスメイトをしてダメツナというあだ名を付ける程に、彼はとてもドジであった。勉強、運動、その全てが平均より下回っているという、更には運も無いという良いところなんて何一つ無いような、そんな少年だったのだ。

 

そう、だったのだ。

 

「…………っ」

 

ツナは病院のベッドの上で頭を抱えて目を瞑って居る。

何故、病院のベッドの上に居るのか。その理由は体育の時間で歩いて居る際に転がっていたボールを踏みつけてしまい、転倒して頭を床にぶつけたことが原因である。

頭を強く打ったツナは意識を失い、そのまま病院に搬送されて三日間ほど生死の境を彷徨った末、ついさっき意識を取り戻したのだ。

強く頭を打ったせいで脳死一歩手前になっていた状態から奇跡の回復、ツナの意識を取り戻した医師は声を高々にしてそう言い放っていた。

 

しかしツナはそんな医師の様子とは裏腹に酷く震えていた。

 

まるで何かに怯えているかのように。

 

「な、何だよ………………これ………………」

 

そしてツナは両目を開ける。

丁度良く鏡が視界に入っていた為、今の自分の姿を見ることが出来た。そう、出来てしまったのだ。

 

瞳に映っている景色にところかしこに走っている亀裂のような線、そして鏡に映っているツナの瞳は本来の琥珀に近い茶色ではなく蒼と橙色が混ざったような色をしていた。

 

  ×××

 

脆い、脆くて脆くて、すぐに崩れてしまう。

それがツナが一番最初に抱いた線への感想だった。

一度死に掛けたことによって獲得した報酬とも言うべきこの眼はとても酷いもので、視界一杯に広がった線を起点としてバラバラになっていく感覚を覚える。

とてもではないがこんな目、絶対に耐えられない。その上、目を閉じていてもこの線が放つ嫌な気配は決して無くなることは無い。

それだけならばまだ良かった。いや、良くは無いのだがまだマシだった。

 

ツナの目に映るこの線は決して脳の異常だとか、見間違いなのではないのだ。何故なら一度、親が見舞いに来て席を少しだけ外した時、この線に合わせて椅子の取っ手を果物ナイフで滑らせてみた。

その結果、木製で出来ていた取っ手はいとも簡単に切断出来た。どうやらこの線をなぞると簡単に物が切れるようになるらしい。その事実にツナは自らの顔に手を当ててその事実に愕然とする。

 

こんな目要らない、こんな誰かを傷付けるだけの力なんか要らない!

 

沢田綱吉という少年はヘタレでドジで決して賢いわけではない。しかし、彼という人間はとても優しい。

そんな彼がこんな目を、簡単に誰かを傷付ける力を持ったとして笑ってそれを受け入れることができる筈が無かったのである。

 

「…………いっそ、自分の目を潰せばーーーー」

 

自らの眼下にある両の手を見つめ、指を尖らせて自身の眼球にゆっくりと近付けていく。

そして自らの手で直接眼球を潰そうとする1秒前になり、その女性は現れた。

 

「その目を潰した程度で、それは消えないわよ。沢田綱吉君」

「っ、誰………………!!?」

 

突然この部屋に現れたのは緑がかった黒髪の女性だった。

恐らく自分の母親よりは年齢は下と思われる外見に左目の下には花のようなマークがタトゥー、もしくは刻印として刻まれていた。そしてその手には赤子が眠っており、恐らくこの女性の子どもなのだろうと考えられる。

明らかに日本人では無い容姿の女性とその女性の子どもと思われる赤子がこの部屋に居たということにツナは驚きの表情をして女性を見つめ、ある事に気がつく。

 

「え、線が見え辛い……………それに、線の色がオレンジ色………?」

 

ツナの目から見て女性の全身には線が殆ど無かった。

全く無いわけでは無いが、それでもこの目を手に入れてから殆ど毎日と言っても良い程人体に見たくも無い恐怖の対象である線がビッシリと刻まれていた。僅かに、それこそ本当に線の数が少ない人間に出会うという変化にツナは思わず戸惑ってしまう。

しかしそれ以上に女性の身体を走っているオレンジ色の線がとても綺麗だった。

線を見てそのような感想を抱いたのは初めてだった。

そして首から下げているオレンジ色のおしゃぶりには線が一つも見えなかった。

ツナの驚き様を見ていた女性は僅かに感心、いや、素直に驚いた様子を見せる。

 

「これは驚いたわ。まさかそこまで見えるなんて…………かなり性能が良い、なんて話じゃないわね」

 

女性は心からの動揺を隠しながらツナの瞳を見つめる。

成る程、これは酷い。少なくともこんな優しい子が持っても不幸にしかならないだろう、と女性は思う。

しかしこの子を偶然にも知ることが出来たのは本当に幸運で、彼女にとっては正しく救いの神と言っても差支えが無いほどだ。彼にとっては不要で、望んでもいない代物であったとしてもだ。彼女達からして見れば本当に利用できる力なのだ。

こんな幼い少年を利用するということに女性は自己嫌悪をしながらも必死になって己に言い訳をし、少年にあることを告げる。

 

「綱吉君。初対面で、しかも勝手に貴方の病室に入り込んだ私を信用しろとは言えないけれど、私は貴方のその眼のことを知っているわよ。その対処方法もね」

 

瞬間、ツナは目を見開いて女性に詰め寄る。

しかし暫くの間ずっとベッドの上で過ごし、激しい運動をしていなかったツナは足をもつれさせて転倒する。

もしくはあまりにも慌てすぎた上に、生来のドジが今ここで発動しただけなのかもしれないが。

 

「だ、大丈夫? 綱吉君…………そんなに慌てなくても大丈夫だから」

「い、いつつ……………だ、大丈夫です……………そ、それよりもこの眼のことを貴女は知ってるんですか!!?」

 

頭から地面に倒れながらもツナは額を抑えるだけですぐに女性との会話に戻る。

どうやら藁にも縋る思いだったのはこの少年の方も同じらしい。

 

「ええ。その眼のことはね。対処方法も知っている。その眼を手に入れる前の状態に戻すことは出来ないけれどね」

「そ、そうなんですか…………」

「一度壊れてしまったものが直らないように、君のその眼も決して元に戻ることはありえない。限りなく前のような生活を送ることが出来るようになるけれど」

 

そう言うと女性は懐からある物を取り出してツナに手渡す。

手渡された物に視線を向け、ツナはそれを眼鏡だということを理解する。種類は所詮瓶底メガネと呼ばれるもので、はっきり言ってださく、更にださく、付け加えるとださいというしか評価できないものだった。

一応は年頃の少年でもあるツナも、流石にこのデザインに顔を顰めるが何気なく掛けてみる。

するとどういうことだろうか。ついさっきまで線が見えていたというのに、眼鏡を掛けるとまるでそんなものは最初から無かったかのように消え失せていた。

 

「凄い! この眼鏡、線が見えなくなった!!」

「どうやら大空の死ぬ気の炎なら直死の魔眼の力を抑え込めるようね。綱吉君だからこそ意味があったのかもしれないけれど」

「あ、ありがとうございます!! 俺、この眼鏡が無かったら—————!!」

「良いのよ。別に気にしなくても。それに私の方も君にお願いがあるんだから」

 

そう言うと女性はツナが掛けていた眼鏡を上に上げる。

突然眼鏡が無くなったことでツナの瞳に再び線が映り込むが、やはり眼鏡があるという安心感がある為、あまり取り乱さなかった。

 

「君のその眼はね。直死の魔眼という、生きているならば神様だって殺すことができる特殊な眼なの」

「い、生きているなら………………」

「勿論、流石にそこまでは出来ないと思うわ。でもね、その眼は使い方次第では不治の病に掛かった人でさえ助けることができる、本当に凄い力なのよ」

 

だからこそ、その可能性を予知した時に女性は決めたのだ。

この少年の善意を利用する形になるとしても、娘を助ける為に。

 

「だから君にお願いがあるの。私の娘、ユニにかかっているある呪いを、全てなんて無茶は言わないわ、せめて短命の呪いだけでもその眼を使って殺して欲しいの」

 

それは沢田綱吉が小学校に通っていた時の出来事であった。


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