IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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学年別個人トーナメント終了後の一夏サイドの話になります。

では本編をどうぞ↓


第77話 シャルロットの大胆な行動

「負けちゃったね、一夏…。」

 

「ああ…。」

 

決勝戦が終わり、一夏とシャルロットは控え室のベンチに座っていた。

ひどく落ち込む様子の一夏に、シャルロットは次の言葉を見つけられないでいる。

そんな時、不意に一夏が立ち上がる。

 

「わりぃシャル、先に戻っててくれ。」

 

「え?あぁ、うん…。」

 

立ち上がった一夏は簡単に着替えを済ませて部屋から出て行く。

シャルロットはそんな一夏の背中を黙って見ているしかできなかった。

 

 

 

「狗飼さん…。」

 

一夏が訪れたのは、いつも狗飼から指導を受けている場所。そこは昨日と同じように月の光が差し込んでいる。昨日と違うのは、一夏の顔が暗いということだ。

 

「こんばんは、一夏くん。今日もいい月夜ですね。」

 

「……。」

 

狗飼の言葉にも反応せず、一夏はぎゅっと下唇を噛み締める。

そして数秒の沈黙を破り、彼は頭を下げた。

 

「負けて、しまいました…。」

 

「なんで頭を下げるんですか?」

 

「だって、オレ…。狗飼さんにあれだけ教えてもらって、それで、優勝するって豪語したのに…。」

 

一夏の返答に狗飼は大きく溜め息を吐き、その頭を軽く小突いた。

その狗飼の行動に疑問を抱いた一夏はすっと顔を上げて狗飼を見る。

 

「ホントに君はバカらしいくらいに真面目ですね。確かに結果は準優勝、負けました。ですが、それで落ち込んでいては準決勝までに君に負けた人達が浮かばれませんよ?」

 

狗飼の言葉にハッとしたのか、一夏は眼を見開いた。

 

「気づきましたか?君は敗者であると同時に勝者でもあるのです。今はただ、勝った事実を認め、その結果を誇るだけで良いのです。勝者が勝利を誇らねば、敗者はより惨めになります。」

 

「っ…!? はい!!」

 

「分かればいいんです。それで、今日はどうしますか?」

 

そう言って狗飼は地面に刺していた木刀に手をかける。それを見た一夏はニィと笑って、木刀を手に取った。

 

「もちろん、よろしくお願いします!今度もまた勝つために、もう負けないために!!」

 

「いい面構えです。かかってきなさい。」

 

狗飼は木刀を構える一夏を見て、口角を釣り上げて笑う。

そんな彼を茂みの陰から観察する人物が数名。

 

 

「ほえー、先輩もあんな顔をするんですね。」

 

「近くで見ると余計好青年ですね。」

 

KGDOの犬走と川内である。

彼女らは無表情でありながら、ただならぬ雰囲気を放つ狗飼の様子を見て、心配になりこっそりと後を着けてきたのであった。

 

「ま、あの様子なら心配ないですね。」

 

「そうですね、戻りましょう。」

 

そんな二人であったが、今の狗飼の様子を見て、なにも危険はないと判断し、気づかれないうちに帰っていった。

 

 

 

「さて、今日はこれくらいにしましょうか。」

 

額に浮かぶ玉の汗を手の甲で拭って狗飼が言う。同じように汗だくの一夏はその言葉を聞いて仰向けに寝転がった。

 

「君も疲れたでしょう。山田先生から聞いた話ですが、今日は男子が大浴場を使えるそうですよ?」

 

「本当ですか?」

 

「こんな嘘を言う必要もないでしょう。まぁ、湯船に浸かって疲れを取るのも大事です。さっさと入りなさい。」

 

狗飼がそう言うと一夏はバッと起き上がり、頭を下げる。

 

「狗飼さん、また明日もお願いします。今日もありがとうございました!」

 

それだけ言って一夏は木刀を手にその場を走り去っていった。

 

 

 

「ただいまシャル。」

 

「おかえり一夏。……!」

 

汗だくで帰って来た一夏を見たシャルロットは、控え室を後にした時とは違って、どこか吹っ切れた様子に一安心して笑顔を溢す。

 

「どうしたんだよ、シャル…。オレの顔になんかついてるのか?」

 

「ううん、何でもないよ。それより一夏、さっき山田先生が言ってたんだけど今日は大浴場を男子が使ってもいいんだって!」

 

花が咲いた笑顔とはこう言うのだろう、シャルロットは笑顔でそう言うと一夏は“そうだよ!”と返した。

 

「オレもそれを聞いたんだ。やっと湯船に浸かれると思ってついつい走って来ちまった。」

 

無邪気な子どものようにはしゃぐ一夏をシャルロットは微笑ましく見守る。

そして一夏が着替えを携えて部屋を出ていったのを見送ると、座っていたソファから立ち上がり、そっと部屋を出ていった。

 

 

 

「ふぁぁぁ…、極楽極楽ぅ…。」

 

広い大浴場を独り占め、そんな贅沢をしながら一夏はゆったりと湯船に浸かる。

熱いお湯が疲れた体を出迎え、解放感から変な声が出てしまう。

 

「I'm thinkerふーふーふーふふーん♪」

 

エコーのかかる浴場でご機嫌に鼻唄を鳴らす一夏は、カラカラと入り口が開いたことに気がつかない。

 

「……。」

 

そして侵入してきた人物は静かに体を洗うと、ゆっくりと一夏とは離れた場所で湯に浸かる。

 

「I would talk about speed ──うぁっ!? せ、せせ、生徒会長さん!?」

 

歌っている途中で侵入者に気付いた一夏は、その人物、更識楯無を認識すると湯が大きく波打つことも厭わずに飛び退いた。

ここは風呂場、もちろん楯無も一糸纏わぬ姿である。

そんな楯無を直視できず、一夏は目を逸らす。

 

「楯無で良いわ、一夏くん。」

 

顔を真っ赤にして目を逸らす一夏を見ながら楯無はフフフと笑う。

 

「あ、あの、今は女子は使えないはずじゃあ…?」

 

「そうね、けど少し貴方とお話がしたかったから。」

 

白い肌は暖められてほの赤く、それがとても扇情的に見え、思春期の男子には刺激が強い。

一夏はチラチラと横目に楯無を見つつ、この状況をどうにかしようと話題を切り出す。

 

そして話題を切り出された楯無は真面目な顔つきになる。

 

「シャルロットちゃんのことなんだけど、そろそろ目処が立ちそうなの。」

 

「目処…ですか?──っ!?」

 

楯無から放たれた言葉に一夏は目を見開く。

がしかし、直ぐ様楯無の裸体が目に入り背中を向ける。

 

「うちの子達は優秀だから。そろそろシャルロットちゃんの状況も良くなるわ。」

 

「そうですか、良かった…。」

 

心臓の高鳴りを感じながら一夏は答える。

安堵したように言葉を漏らす一夏の背中に楯無が無言で手を当てた。

 

「本当に、優しい人ね…。」

 

「楯無さん…?」

 

遮るものなど何もなく、振り向けばそこに同年代の女性の裸が見える。そんな理性をゴリゴリ削るような状況で触れられ、一夏の頭と理性はもはや限界寸前だった。

 

「…ううん、気にしないで…。」

 

そんな一夏の心情を知ってか知らずか楯無は湯船から上がり、ヒタヒタと足音を浴室内に響かせながら出ていった。

 

一夏はドキドキと脈打つ感覚を味わいながら湯船に浸かる。

そしてさっきまで同じ湯に楯無が浸かっていたことを思い出すと、それまでとは比べ物にならないくらい顔が熱くなり、居た堪れなくなって湯船から出る。

しかし今脱衣場に楯無がいると思った一夏は出るに出られず、体を洗うしかなかった。

 

 

 

「おはよう一夏!」

 

「お、おう、おはよう…。」

 

あの後も脱衣場で楯無の残り香を嗅いでしまった一夏は脱衣場でもどぎまぎとし、一晩中悶々として一睡もできなかった。

完全に寝不足な一夏は生気の無い目で起き上がり、いつものように身だしなみを整えてから食事を摂り、教室に向かう。

学生として悲しいまでに身体に染み込んだ生活リズムである。

 

 

「あれ、シャルは…?」

 

教室に辿り着いた一夏はシャルロットの姿が無いことに首を傾げた。

自分よりも早く部屋を出たはずの彼女の姿がない。疑問に思う一夏であったが、今はホームルーム直前の時間。

目元にクマを浮かべ、浮かない表情の山田真耶が教室に入ってきた。

 

 

「はーい皆さん、ホームルームを始めますよ~。今日も転校生を紹介しますね~。」

 

疲れきった瞳に作り笑いを張り付けた表情は激務を乗り越えたことを容易に推察させる。

そんな真耶の様子も、転校生の話題に掻き消された。

 

「転校生…?」

 

「今度はどんな人だろ?」

 

ざわざわとにわかに騒がしくなる教室だが、その話題の人物が教室に現れた瞬間、水を打ったように静かになった。

 

「どうもシャルロット・デュノアと言います。皆さんよろしくお願いしますね。」

 

その転校生とはシャルロットであった。

唯一違う点は昨日までとは着ていたパンツタイプの制服ではなくスカートタイプの制服を着ているということ。

 

「「ア、アイエエエエッ!?女の子?!女の子ナンデ!?」」

 

数秒の沈黙の後、我に帰った1年1組の面々は鳩がアハトアハトを食らったような顔で驚愕の声を上げる。

そんなクラスの反応に少し顔を強張らせたながらシャルロットは自分の席に向かう。

 

「シャ、シャル…、どうしたんだよ、その格好…。」

 

「うん、もう自分を偽るのは止めようかなって。ここにいる間は自由なんだし、好きにしようって思ったんだ。」

 

シャルロットはそう言ってえへへと笑う。

悩みも何もない、清々しい笑顔だった。

 

 

 

だがしかし、当然年頃の女子高生達の話題がそこで途絶える訳もなく、同室で気がつかない訳が無いだろうと、彼女達の関心は一夏とシャルロットの関係へと移っていった。

その日1日、シャルロットはクラスメイトへの対応に追われることになったが、どこか楽しそうだった。

 

 

 





シャルちゃんとの混浴だと思った?
残念!楯無さんでした!


アンケートはこちらから↓
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次回予告!

人材の坩堝と書いてカオスと読む。
そんな賑やかな街、夢弦《ユメヅル》市。
住人達が巻き起こす愉快な日常と時おり砂糖を吐く甘い展開。飽きることのない夢弦市の生活を貴方にお見せします。

次回、IS世界に世紀末を持ち込む少女番外編
「夢弦市よいとこ一度はおいで」

ご期待ください!




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