IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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切りどころを考えながら打ち込んでいたら間が開いてしまいました。

では本編をどうぞ↓


第74話 レェェッツパァアアアリィイイイッ!!(訳:コレがガチタンの素晴らしさだ!!)

「感動的な試合だったねぇ、けど、まだ大会は終わってないよ~。」

 

カタパルトの中で南美は妙に間延びした口調で呟く。

そんな呟きを簪は軽く流して先にアリーナに出ていった。

 

「つれないなぁ…。ま、いっか。LOCエンタープライズ所属テストパイロット、北星南美、いっきまーす!!」

 

明るい声を響かせて南美はカタパルトから急加速してアリーナに参上する。

 

そこには既にセシリアと鈴、簪が揃っていた。

 

「あれ?待たせちゃってた?」

 

「いえ、私達もついさっき来たばかりですわ。」

 

「そういうこと。だから気にしないでいいわ。その代わり、全力でかかって来なさい!」

 

おどけた口調の南美に二人はいつも通りに返す。

その二人の言葉で南美はニィと笑う。

 

「いいね、いいね!そうでなくっちゃね!!行くよ簪!!」

 

「もちろんだ。」

 

既に四人とも臨戦体勢は整っていた。

あとは開戦の鐘を待つのみ。

 

 

カウントダウンの進む時間がとても長く感じるほど、彼女達の集中は極致に達していた。

 

 

3秒前、南美と鈴は大きく息を吸い込み、今からぶつかり合う相手に目線を移す。

 

 

2秒前、セシリア、簪の両名は引き鉄に指をかけ、セーフティを外す。

 

 

1秒前、四人全員が雑念を振り払い、眼前の戦いに全神経を向ける。

 

0──カウントダウンが終わり、鐘が鳴る。

そこで四人は一斉に動きだし、為すべきことに取りかかる。

 

 

「フゥウウウウウッ!シャオッ!!」

 

「ゥウウウ、アチャァアッ!!」

 

南美の手刀と鈴の青竜刀が交差する。そしてその背後から簪とセシリアが姿を現し、それぞれ鈴と南美を狙う。

 

しかし、視界の端でその姿を捉えていた南美と鈴は引き鉄が引かれた瞬間にその場から上昇して放たれた攻撃を回避する。

 

(流石に避けるか…。)

 

(コレが当たるとは思っていませんわ。)

 

弾が外れた二人はそのまま位置取りを替え、お互いを牽制しながら援護に回る。

 

 

「ショオ…シャオッ!!」

 

「ファチャッ!!ゥアチャッ!!」

 

先程、一夏と箒が繰り広げたものとはまた違う、一級レベルの近接戦。そしてそれらを広げるのは両者のパートナーによる的確な援護射撃。

その高レベルな戦闘に見ている者は思わず息を呑む。

 

 

「フゥウウウウウッ!」

 

「鬱陶しいわねっ!!」

 

鈴の放った衝撃砲は南美の展開した狂鶴翔舞で相殺すると、鈴は苛ついたように舌打ちする。

その舌打ちが合図だったかのように南美の周りを囲んでいるビットが一斉に攻勢を展開する。

 

しかしただでそんな事をさせる南美と簪ではなかった。

 

「私を忘れちゃ困るなぁ。」

 

「くっ!?」

 

南美への射撃に気を取られていたセシリアに対して簪は頭上からの強襲を仕掛ける。

もちろんセシリアも咄嗟の判断でそれを回避するが、それも簪には計算内であった。

 

「南美っ!!」

 

「オッケイ!!」

 

簪の合図を受けた南美は鈴を振り切ってセシリアにエンゲージする。

 

「さぁ、行くよー!!」

 

「お断りしますわ!」

 

セシリアは拡張領域から短剣を取り出して南美を待ち構える。

だが、近接戦の練度の差は歴然であり、セシリアは簡単に懐を許してしまう。だが、

 

「南美、後ろ!!」

 

簪の絶叫が響く。

その声に後ろを見ると、青竜刀を振りかぶる鈴が南美の背後に迫っていた。

 

「あれま…。」

 

南美は直ぐ様身を翻して鈴の攻撃を避ける。

そしてそのまま簪の隣まで飛んだ。

 

「アイェエ……。鈴ってば、どうやって?」

 

「すまん、ビットの弾幕で凰を足止め出来なかった。」

 

「あらら…セシリアちゃんってばそんなことまでできるようになってたのね。」

 

簪の言葉に南美は予想外といった顔を浮かべる。しかしその直後にはニィといつもの笑顔に戻った。

 

「さぁてさて、どうしよっかな~。」

 

困った顔で思案する南美。

場は膠着状態であり、セシリアと鈴も体勢を立て直しながら、南美達の様子をうかがう。

 

「なら、火力の差を思い知らせてやるか…?」

 

「ん~、それしかない、かな?私は直掩に回るよ。」

 

そう言って南美は簪より上に位置取る。

そして簪は拡張領域の中から大量の火器を取り出した。

 

「高耐久、高火力の恐ろしさ!ガチタンの素晴らしさを教えてあげるわ!!」

 

ドヒャアというブースターの音と共に簪は高度を上げる。そして肩、背中、両手に展開された重火器を一斉に打ち出した。

 

「レェェッツパァアアアリィイイイッ!!」

 

簪の絶叫とともにセシリアと鈴を高密度の弾幕が襲う。

ハイアクトミサイルや大型ショットガン、グレネード、重ガトリングによる弾幕は避ける以外に生き残る道を見出だせないほど分厚い。

 

「このっ…!?」

 

「っ…!」

 

そんな死の弾幕を二人は左右に分かれてやり過ごそうとする。

そして狙い通りに弾幕は片割れのセシリアに集中する。

運よく簪の集中砲火から逃れられた鈴に南美が取っ組み合いを挑む。

 

「やっほ!来ちゃった!」

 

「あぁ、もう!!」

 

いい笑顔で告げる南美に苛ついた鈴はそのイラつきをぶつけるように青竜刀を振り回す。

しかしその一撃を南美は腕の装甲で受け止め、懐に潜り込んだ。

 

「南斗──」

 

「アタァッ!!」

 

拳を引き絞った南美に鈴の豪快な右ストレートが決まる。

それと時を同じくして、さっきまで鈴が握っていた青竜刀がアリーナの地面に落ちる。

 

「こうなったら、あんたにとことん付き合ってやるわ。」

 

獣のような獰猛な笑みを浮かべて鈴はそう言った。

その笑顔に南美は気分の高揚を覚え、自然と口角がつり上がる。

 

「そう来なくちゃね…。」

 

「来なさいよ…。」

 

鈴の取った選択は拳同士の語り合い。

それはISという兵器の流れに逆行する原始的な決闘方法であった。

 

しかしそれはこの二人の土俵、最も得意とする分野である。

 

「シャオッ!!」

 

「アチャァアッ!!」

 

怒声と同時に響く殴り合う音。金属同士がぶつかり合い、火花を散らしていく。

南美が右拳を打ち出せば、鈴は怯むことなく左の拳を打ち出し、南美が蹴りを繰り出せば、鈴もまた蹴りを繰り出す。

 

ガードも回避も不要とでも言わんばかりの二人の殴り合い。それは見ている者の目をさらに惹き付けた。

 

「シャオッ!!フゥ、ショオッ!!」

 

「ファチャッ、ゥアチャッ、アタァッ!!」

 

みるみる内に二人のエネルギー残量は減っていく。

それでもお構い無しに二人は自らの拳を、蹴りを打ち出していく。

 

「そろそろキツいんじゃないの?!」

 

「そっちこそ!」

 

お互い軽口を叩き合う。

その最中でも殴り合う手を止めない。

 

「そろそろ決めさせてもらうわよ!」

 

南美にローキックを撃ち込んで足を止めさせた鈴は右腕を大きく引き絞る。

その瞬間を待っていたかのように南美は体勢を低く保ったまま、鈴にタックルした。

 

「you can't escape!!」

 

南美はタックルしたまま鈴の腰に腕を回し、がっちりホールドする。

 

「yeah!」

 

そして掴んだままぐわんと体を逸らせて勢いよく鈴をアリーナの地面に叩きつける。初撃のバックドロップを決めると腹筋を使って体を起こして地に足をつけ、もう一度鈴の体を持ち上げる。

 

「wow!」

 

掛け声とともにさらに1発、鈴にバックドロップをかます。そして同じように体を起こすと、今度は鈴を抱えたまま真上に跳躍した。

 

「ハイパーボッ!!」

 

空中で鈴の体を上下逆にホールドし直した南美は重力にしたがって落下していく速度を乗せて鈴の体を地面に叩きつけた。

 

「がぁっ!?」

 

3連続で加えられた強い衝撃に鈴は空気を思いっきり吐き出して、苦痛の表情を浮かべる。

ホールドが解かれ、起き上がるものの脳を揺さぶられた鈴の足はふらつき、どこか覚束ない。

 

「やってくれるじゃない…。この痛み、兆倍にして返す…。」

 

「残念だけど…、こっから鈴の相手は変わるんだなぁ。」

 

「は?!」

 

鈴が聞き返すのとほぼ同時に南美は高速で鈴から離れていく。

それを追おうと鈴が1歩踏み出した時、頭上という死角から簪の操る玉鋼の巨体が降ってきた。

 

 

 

南美と鈴の殴り合いの裏では、簪とセシリアによる銃撃戦が繰り広げられていた。

 

 

「ハーハッハッ!!How do you like me now?」

 

ハイテンションそのままに簪は引き鉄を引き、弾幕を張り続ける。

グレネードとミサイルによる爆煙は砂塵を巻き上げ、視界を覆う。

しかし簪はお構い無しに重火器の弾丸をレーダー頼りにセシリアへと撃ち込んでいく。

 

「く……。」

 

そんな激しい攻勢によって防戦一方のセシリアは苦虫を噛み潰したような表情でアリーナを飛び回る。

高密度な弾幕を避けることに意識を取られるあまり、ビットの操作も二の次にしなくてはならないほど、セシリアには圧力が掛かっていた。

 

「このままでは…。いえ、私は負けられないのです!」

 

セシリアの頭に敗北の2文字が過る。

しかしセシリアとてイギリス国家代表候補生の筆頭、黙ってやられる女ではない。

高速で飛び回りながらスターライトMk.Ⅱの照準を合わせ、引き鉄を引く。

 

放たれたレーザーを簪は回避しようとするが、間に合わずに肩の装甲を削られる結果となった。

 

「ちぃ…!!」

 

装甲を削られたことで、簪は忌々しげな目でセシリアを睨み付ける。

だがそれも一瞬のことで、簪は直ぐ様セシリアに撃ち返す。

 

「お返しに熱々のローストチキンにしてやる!」

 

「お断りしますわ。」

 

グレネードを撃ち続ける簪の周りを飛び回り、セシリアは機をうかがう。

そしてそれはすぐに訪れた。

 

「ちょこまかと!!」

 

頭に血が上った簪はセシリアのいる方角に狙いもつけずにぶっぱなす。

しかし、それは大きな隙を生むことになる。

 

グレネードの爆煙と重ガトリングの衝撃によって砂煙が舞い上がり、簪の視界までも覆い尽くした。

そしてその砂煙を吹き飛ばそうとグレネードを構えた瞬間に、それは起きた。

 

分厚い砂煙のカーテンの向こう側、完全な死角から放たれたレーザーは的確に簪の持つグレネードを捉える。

その一撃に耐えられなかったグレネードは瓦解し、暴発する。

 

「はぁっ!?」

 

「まだまだ行きますわよ!!」

 

目の前で起こったことに頭がついていかない簪は手に納めていた、それまでグレネード砲だったものをぼうっと眺める。

その隙を逃さずにセシリアはビットとスターライトMk.Ⅱによる飽和攻撃を仕掛ける。

 

(レーザーは…マズイ…。)

 

あらゆる方向から襲い来るレーザーに簪は顔をしかめる。

自身の愛機の特徴を掴んでいる彼女には今の状況のヤバさが完全に分かっている。

 

(機動力を犠牲にしたこの子じゃ近接戦には持っていけない…。かと言ってエネルギー兵器に弱いこの子じゃブルー・ティアーズとの撃ち合いは不利…。)

 

刻一刻と削れていくシールドエネルギーを見て、簪は焦る。

それでも撃ち返すことは忘れない。

拡張領域から新しく大型ショットガンを取り出して、レーザーが飛んで来た方に撃ち込む。

運が良ければビットを壊せるかもしれないという考えからの行動だ。

 

(まだまだ未熟…か…。)

 

あれこれ思考を巡らせた簪は腹を括ったように溜め息を吐き、個人間秘匿通信《プライベート・チャンネル》を開いた。

 

『南美…、お前に尻拭いを頼むことになりそうだ。』

 

『コンビなんだし、そこら辺は気にしなーい!』

 

簪の謝罪の言葉に南美は間を置かずにあっさりとした答えを返す。

そのあまりの簡潔な返答に簪は拍子抜けしたように体から力が一瞬だけ抜けた。

 

『私らはコンビ、言うなれば運命共同体。互いに庇い合って、互いに助け合って、互いに頼り合う…。だからこそ勝ち上がれる。ま、という訳でもっと頼って良いよん!』

 

『…、嘘を言うな、とでも返せば良かったのか?』

 

少し間を置いてそう返した簪は“だが…”と言葉を続ける。

 

『幾分か気が楽になった。ありがとう。』

 

『ハッハッハッ、律儀というかなんというか…。さて、そんじゃあ作戦を練っていこうか。』

 

そうして二人は個人間秘匿通信で作戦を練る。

案外すんなりと作戦を決めた二人は早速行動に移した。

 

 

「積んでて良かった、フラッシュロケット!」

 

簪は拡張領域からロケランを取り出すと、セシリアをロックオンしてぶっぱなす。

もちろん撃ち出された弾頭はセシリアの狙撃によって打ち落とされるが、それは簪の狙い通りの行動だった。

 

レーザーで貫かれた弾頭は、その瞬間に爆発音とともに強烈な閃光を放つ。

そしてその時を逃さない内に簪は全速力で移動し、鈴の真上まで行くとそのまま急速落下した。

 

 

「凰鈴音…、中国国家代表の力を見せてもらう。」

 

頭上からの奇襲をなんとかギリギリで回避した鈴に簪は言う。

対峙する二人の表情はどちらも余裕がない。

片や3度の衝撃によって足下がふらつき、片や自慢の装甲が削られている。

 

もはやどちらが勝ってもおかしくない状況である。

 

「上等じゃない…。やってやるわよ。」

 

鈴は強気にそう言ったが、今彼女の武器は龍砲のみ、主兵装の青竜刀は簪の後方に落ちている。

 

その事実に鈴は露骨に舌打ちをした。

 

 

 

「セシリアちゃん、行くよ!!」

 

フラッシュロケットの効果で一瞬だけISの視界を封じられたセシリアに南美は接近する。

すぐに視界が戻ったセシリアは南美の姿を見て、迎撃を選択した。

 

身の丈ほどもあるスターライトMk.Ⅱを構えるが、その長大さ故にすんなりと接近を許した。

だが、それを受けてセシリアの口角が僅かに上がる。

 

「迂闊ですわね。」

 

 

ドンッドンッドンッ

 

次いで響いたのは3発の銃声、それはセシリアが今まで使っていた武器からは絶対に鳴らないであろう火薬の音だった。

 

 

 





次回で準決勝第2試合は決着します。

…簪ちゃんが完璧ただの別人になってますね。
原作の簪ファンの皆さんごめんなさい。

では、また次回で会いましょう( ・ω・)ノシ


アンケートはこちらから↓

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=160780&uid=171292



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