IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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切る場所を間違えて少し長くなりました。

では本編をどうぞ↓



第73話 激闘の準決勝第1試合

1回戦、専用機持ち達が自身の強さを専用機の性能によるものだけでない事を証明し、一層の警戒を密にさせた。

 

そして迎えた2回戦、その雰囲気は開会直後とは違い引き締まって感じられる。

 

 

「やっぱり、戦いの空気はこうじゃないとね。」

 

ピリッと引き締まった空気の流れる廊下を南美は簪と一緒に歩いていた。

 

すれ違う生徒達は南美と簪の姿を視認すると“あれが噂の…”と小声で彼女らの事を噂する。

 

周りのそういった反応に慣れていない簪はどこか居心地が悪そうにしながら隣の南美に半歩だけ近づいて歩くようになる。

それとは対照的に、南美は堂々と胸を張って歩く。

 

「この緊張感と張り詰めた空気…、良いね…。」

 

クックッと笑って南美は簪を伴って廊下を歩いていく。

 

 

 

「ズェアッ!!」

 

「ぐっ…。」

 

満身の力を込めて降り下ろされた刀を1年3組の朱鷺宮は正面から刀で受け止める。

 

だが上段から勢いをつけて振るわれた刀の重さに耐えきれず、朱鷺宮の体勢は大きく崩れた。

 

「そこだぁああっ!!」

 

その絶好の隙を見逃さず一夏は零落白夜の一撃を叩き込み、朱鷺宮のシールドエネルギーを0にした。

朱鷺宮の戦闘不能を確認した一夏は直ぐ様パートナーのシャルロットの状況を確認する。

 

するとそこには朱鷺宮の相方を制圧しているシャルロットの姿があった。

 

「こっちもオーケーだよ、一夏!」

 

シャルロット、一夏がそれぞれ単独で相手を撃破し、勝ち上がる。

そうやって一夏らが勝ち上がると、それに負けじと他の専用機持ち達が奮戦し勝ち上がる。

 

 

そしてトーナメントは進み、残すところはあと僅か。

準々決勝以降となった。

ここまで残った生徒達も強く、専用機持ち達に苦戦を強いたものの、やはり土を着けるまでには至らなかった。

それでも大健闘だと言えるだろう。

 

 

そして準決勝──

 

「ハッハッハッ!やっとここまで来たねぇ!」

 

組み合わせ表の前で南美がこれでもかと言うほどの笑みを浮かべて立っていた。

 

準決勝第1試合

織斑一夏・シャルル=デュノアペア

vs.

ラウラ=ボーデヴィッヒ・篠ノ之箒ペア

 

準決勝第2試合

セシリア=オルコット・凰鈴音ペア

vs.

北星南美・更識簪ペア

 

 

当然、至極当然のメンバーが揃ったとも言える組み合わせ。

しかしそれだけに、注目が集まる。

この4組の中で、どのペアが最も強いのか…。

会場の関心はそこに向かっていた。

 

「近接戦の鬼と移動要塞のペアか…。」

 

「一撃の重さなら織斑くんだってヤバイよ。」

 

「シャルルくんの援護も的確だしね。」

 

「バランスの取れた凰さんだって負けてないって!」

 

「セシリアさんは多角的な援護も出来るからね。」

 

「ラウラさんもヤバいでしょ?あの機動力はパないって!」

 

「てか何気篠ノ之さんって強くない?専用機持ちに普通に混じれてるよ?」

 

皆口々に残った8人の事を話し合う。

準決勝までに圧倒的な実力を見せつけた彼女らは生徒達にとっては絶好の話題となった。

 

特に篠ノ之箒の事は話題に上がった。

専用機持ちではないが、その力は充分であり、量産機でありながらも専用機持ち達と同格までの実力を持つ彼女は同じ立場の者からしてみればとても稀有な存在である。

 

そして箒の事を語る彼女達の語り口からは憧れのようなプラスの感情が多く見える。

 

しかしそんな事を箒は知る由もない。

ただ普通に彼女は目の前の一戦に向けて意識を研いでいた。

 

 

 

「あと2つ…。」

 

「そうだね、ここまで来たら絶対に勝つよ!」

 

控え室で試合の時間を今か今かと待ちわびている一夏の言葉にシャルロットが力強く答える。

 

対戦相手はラウラ=ボーデヴィッヒと篠ノ之箒、バランスの取れたラウラと、近接戦で実力を発揮する箒の組み合わせは一夏達と似ている。

 

だからこそ連携と個人の実力が出やすいというもの。

それを理解しているのか、先程から一夏は落ち尽きなく深呼吸を繰り返している。

 

そんな時、控え室に小さくブザーが鳴る。

試合の直前であることを告げる音だ。

その音を聞いた一夏は最後に大きく息を吐いて立ち上がる。すると先程までの落ち着きのなさが嘘のように消えていた。

 

「行こうぜシャル、時間だ。」

 

「え?あぁ…、うん!」

 

シャルロットは一夏の急な変化に戸惑いつつも返事を返し、専用機を身に纏う。

一夏も既に準備は終わり、カタパルトに乗り付けた。

 

 

 

「…時間だな。」

 

控え室でブザーの音を聞いたラウラは呟く。

その隣には既に打鉄を装備した箒がいる。

 

「勝つぞラウラ!」

「もちろんだ。」

 

短い言葉を交わした二人はカタパルトに向かう。

既に箒は打鉄の刀を握り締め、その手は軽く震えていたが、顔は笑っていた。

 

 

 

「…どっちが勝つと思う?」

 

控え室のモニターで対峙する四人を眺めながら南美が簪に問う。

その横で同じようにモニターを眺めていた簪が“ふん”と鼻を鳴らしてから答える。

 

「織斑一夏に勝ってもらわないと困る。くどいようだが奴を倒すのは私だ…。」

 

怨恨たっぷりの眼差しで画面に映る一夏を睨む簪に、南美は“やれやれだぜ…。“と呟いた。

 

 

 

「…。」

 

「…。」

 

アリーナで対峙する四人は以外にも静かであった。

ラウラやシャルロットはともかく、一夏がそれほどまでに寡黙であるのは珍しいことだと、その様子を見ていた鈴は思う。

 

無言のまま、残り数秒までカウントダウンが進む。

 

そしてカウントダウンが0になり、開戦のブザーが鳴り響いた。

 

「ズェァアアアアアっ!!」

 

「ハァアアアアアアッ!!」

 

それまでの静寂、沈黙が嘘だったかのような絶叫が響く。その直後に箒と一夏の刀が正面から打ち合い、火花が散る。

 

「くっ、ぜぇらぁ!!」

 

「やぁっ!!」

 

鍔迫り合いからお互い刀を振り切り、もう一度斬りつける。

しかし刀はまた同じようにぶつかり合い、火花が散った。

 

その後ろではラウラとシャルロットが高度な空中での銃撃戦を繰り広げ、見る者の目を奪う。

 

 

「これ、どっちの戦いを見ればいいの?!」

 

「両方に決まってるじゃない!!」

 

観客席では一夏と箒の斬り合い、そしてシャルロットとラウラの銃撃戦とを同時に見ようとてんやわんやになる生徒が続出した。

 

 

試合開始から5分、状況は酷く拮抗していた。

足を止めて斬り結ぶ箒と一夏の勝負は一向にどちらかに流れが傾く様子を見せず、それはラウラとシャルロットの銃撃戦もまた同じである。

 

 

「ラウラ!そろそろ脱落してくれないかな!?」

 

「それは出来ない相談だな!」

 

高速で飛び回りながら二人は引き鉄を引き、飛び交う弾丸を避ける。

 

「だが、そろそろ場を動かさせてもらおう。」

 

高速で飛び回り、常に一定の距離を保っていたラウラが急にシャルロットとの距離を詰める。

もちろんシャルロットも黙って距離を詰められる訳はなく、手に持ったサブマシンガンを乱射する。

 

「対応がありきたりだな。」

 

ラウラは拡張領域《バススロット》から大型の物理シールドを取り出して銃弾を防ぎながら突進を続ける。

そしてある程度まで距離を詰めるとシールドを使って作った死角からシャルロットに向けてワイヤーブレードを振るう。

 

「なっ!?」

 

「歯を食いしばれェ!」

 

左手のワイヤーブレードでシャルロットの左腕を絡めとったラウラはそれを思いっきり引き寄せる。

そして引き寄せられたシャルロットの頭部目掛けて、右手で持ったシールドを全力で叩きつけた。

 

「くぅ…!?」

 

「暫く大人しくしていろ!!」

 

シールドバッシュを喰らって体の揺らいだシャルロットの眼前にラウラは1つの球体を放る。

 

「っ!?」

 

その球体を視認したシャルロットは何かを察したのか、直ぐ様腕で顔を隠そうとする。だが、それよりも一瞬早く、その球体は大きな音と共に強烈な光を放って爆発した。

その強烈な光はシャルロットの視界を一時的に塞ぐには充分であり、あまりの衝撃にシャルロットは何が起きたのかが掴めていない。

 

そんなシャルロットをラウラは容易く蹴り飛ばし、真下に向かって急降下した。

 

 

 

「ズェアッ!!」

 

「ふんッ!!」

 

金属音を響かせ、火花を散らしながら一夏と箒は斬り結ぶ。

それでも互いの刃は相手に届かない。

一夏が刀を振れば箒はそれを的確に捌き、箒が突きを繰り出せば一夏はそれを受け流す。

 

まるで始めから動きの決まっている演武とも思えるほどに二人の動きは、近接戦を志す生徒にとってとても美しく見えた。

 

「箒、ホントにやるな!」

 

「お前こそ!狗飼師匠の元に通った甲斐はあったと言うもの!!」

 

二人ともギラついた目でお互いを見る。

そんな二人の表情はとてもいい笑顔である。

 

「一夏、お前は強い。だが、それでも勝つのは私達だ!」

 

そう言って箒が繰り出したのは鋭い刺突、何の変哲もないそれを一夏は受け流そうとする。

その時だった。

それまで真上でシャルロットと撃ち合っていたはずのラウラが高速で一夏の真横に降りてきたのだ。

 

「イィーヤッ!」

 

「がっ!?」

 

ラウラは真横にいる一夏に向けてシールドをフルスイングする。

箒の突きへの対処に神経を注いでいた一夏はラウラの登場に気づくのが遅れ、シールドバッシュをもろに受けて体勢が大きく崩れた。

 

「シュテルベンッ‼」

 

そして体勢を崩して即座に行動できない一夏に、ラウラは肩の大型レールカノンを放つ。

その衝撃に一夏は後方に大きく吹き飛んだ。

 

一夏の相手はラウラが担当することを確認した箒は未だに視界が潰れているであろうシャルロットに向かって飛び立った。

 

 

 

「くそっ!」

 

吹き飛ばされた一夏はすぐに体勢を整える。

しかしその目の前には既にラウラがいた。

 

「ハァッ!!」

 

「ちっ!?」

 

目の前で振り下ろされるプラズマブレードに、一夏は思わず舌打ちをする。

そしてその迫り来る刃を身を捩って回避すると、後ろに飛んで距離を取り、正面から向き合った。

 

「嫁よ、お前の相手はこの私だ!」

 

「そうかよ!」

 

ワイヤーブレードを展開するラウラを見て、一夏の刀を握る手に力が入る。

 

「さっさとそこを退いてもらうぜ!」

 

「やれるものならな!!」

 

一夏はラウラとの距離を自分の間合いに入れようと前に詰めるが、ラウラの巧みなワイヤーによって思うように距離を詰めれない。

 

「ちっ!」

 

「わざわざ懐に入れる訳がないだろう!」

 

「ああ!そうだなっ!!」

 

畜生と言いながら一夏は四方から襲ってくるワイヤーを的確に払い除ける。

 

 

 

「ぐ…、目が…。」

 

強烈な光に目をやられたシャルロットは吹き飛ばされた影響もあり、どっちが上でどっちが下なのかも分からなくなっていた。

 

(閃光手榴弾とは、やってくれるじゃないか…。でも、そろそろ目が戻る頃だ…。)

 

光に眩んでいた目がやっと元に戻ったシャルロットはゆっくりと目を開ける。

その真っ正面には上段に刀を構える箒がいた。

 

「でぇやぁっ!!」

 

「くぅ!?」

 

箒の奇襲に、反応が遅れたシャルロットは避けきれずに刀の刃をもろに受けてしまう。

それによってごっそりとラファール=リヴァイヴ・カスタムⅡのシールドエネルギーが削れた。

 

「当たれっ!」

 

「ちぇらぁっ!!」

 

至近距離から距離を離そうとして箒に向かって引き鉄を引いたシャルロットであったが、引き鉄を引く一瞬前に箒が銃身を弾いたことで銃弾は明後日の方向に飛んでいった。

 

「くそっ!!」

 

「逃がさん!!」

 

苦し紛れに後ろに飛んだシャルロットであったが、その数秒後に、それが完全に悪手であったことを悟る。

箒はバックステップで間合いから外れようとしたシャルロットの右足の甲に自身の左足を重ね地面に踏みつけるように叩きつける。

 

「ちぇすとぉおっ!!」

 

そして楔を打ち込むかのように自身の足ごと、ラファール=リヴァイヴ・カスタムⅡの足をブレードで貫いて固定した。

 

「これでもう私の間合いだな…。」

 

箒は拡張領域から2本目の刀を取り出して構える。

 

 

その後も箒に反撃を加えようと拡張領域から銃を取り出すが、その度に箒はその武器を弾き飛ばし、シャルロットに流れを掴ませない。

 

「当たれ当たれ当たれっ!!」

 

「無駄だぁ!!」

 

高速切替《ラピッド・スイッチ》で次々と武器を出していくシャルロットであったが、片端からそれを使わせずに箒は弾きとばす。

手持ちの数が少なくなり、シャルロットは苦い顔を浮かべる。

 

「あぁ、もう…。」

 

苛立った声を上げるシャルロットだったが、その小さい声は周りの歓声に掻き消され、箒には届かなかった。

 

そしてシャルロットは高速切替で右手に機関銃を取り出す。例の如く箒はそれを弾き飛ばすが、その瞬間に彼女は右手で箒の刀を振る右手を掴んだ。

 

「っ!?」

 

「逃げられないのは君も同じだよ箒…。まさか、決勝用に取っておいたコレを使わされるとはね…。」

 

シャルロットがそう呟くと、直後にバンッと火薬の炸裂音が響き、ラファール=リヴァイヴ・カスタムⅡの左腕に装着されていたシールドが落ちる。

そうして現れたのはリボルバーと杭とが合体した兵器、69口径パイルバンカー、《灰色の鱗殻》またの名を──《盾殺し》──

単純な破壊力だけならば第2世代最強の近接兵器だった。

 

「落ちろぉっ!!」

 

シャルロットは声をはりあげてその杭を箒の横腹に突きつける。

ズガンッという轟音を響かせて、その杭が箒の体を捉えた。

ISの絶対防御によって搭乗者自身の安全は守られるものの、その衝撃に箒は思わず顔を歪める。

 

「舐めるなよ…、シャルル…!!」

 

「えっ…?」

 

箒は右腕を握るシャルルの手を強引に外し、お返しとばかりに袈裟懸けに斬りつける。

ラウラから直撃をもらい、箒の奇襲でも直撃を受けた。

そして先程から地味に削られてきたラファール=リヴァイヴ・カスタムⅡのエネルギー残量はこの一撃を受けて危険域に達した。

 

「もう一度っ!!」

 

「ぐっ…!?」

 

箒は再度刀を上段に構える。それを見たシャルロットもパイルバンカーの先を箒に押し当てる。

 

「ちぇりゃぁあああっ!!」

 

「うぁあああああっ!!」

 

同時、ほぼ同時に繰り出された一撃はお互いを直撃し、周囲に土煙を立てる。

そして土煙が晴れると同時に二人は倒れた。

それと同時に試合終了の鐘が鳴る。

 

 

 

「見切れるかっ!!」

 

右へ左へと高速で動き回るラウラは死角から一夏に飛び蹴りを放ち蹴り飛ばす。

 

高速で動きながらその挙動を制御する秘密はラウラのシュバルツェア・レーゲンの装備する6本のワイヤーブレードにあった。

ラウラはワイヤーブレードをアリーナの壁や地面に突き刺すことで、その地点を中心に円の軌道を描いて移動する。そしてまた別の場所を起点に高速で動く。

それがラウラの急制動・急加速を可能にする高速機動の秘密である。

 

「ち…!」

 

「さぁ、どんどん行くぞ!!」

 

一夏は頭上を舞うラウラを見上げながら歯噛みする。

しかし、そのまま封殺される一夏ではなかった。

多少のダメージなぞ、零落白夜の一撃があればあってないようなもの。

今一夏はどうやってラウラの懐に飛び込み、零落白夜の一撃を当てるかを考えていた。

 

(…真っ直ぐ行って、ぶっ飛ばす!!)

 

結局思い付いたのは単純で、だからこそ互いの力量が勝敗を分ける正攻法。

ただの正面突破だった。

 

「行くぜぇええええっ!!」

 

清々しいまでの直球勝負、そんな一夏を見てラウラはふっと笑う。

 

「それでこそ嫁だ!来いっ!!」

 

ラウラはワイヤーブレードをしまい、迎え撃つ準備をする。

両手にプラズマブレードを展開、肩のレールカノンは一夏に照準を合わせる。

 

「ズェァアアアアアッ!!」

 

「ハァアアアアアアッ!!」

 

二人が激突し、アリーナの土が盛大に舞う。

それは二人の姿を覆い隠し、試合終了の鐘が鳴り響いた。

土煙が晴れるまでの数秒間、観客席は静かになる。

そして二人の姿が現れる。

そこには装甲に刀が食い込みながらも一夏の胸にプラズマブレードを突き立てるラウラと、胸を突かれながらも刀を袈裟懸けに振り下ろした一夏の姿がある。

 

試合終了を受けて、アリーナの電工掲示板に四人のエネルギー残量が示された。

 

シャルロット=デュノア:0

 

篠ノ之箒:0

 

ラウラ=ボーデヴィッヒ:0

 

織斑一夏:12

 

 

僅差、それもあと一撃の差。

そんな激闘を制したのは織斑一夏・シャルル=デュノアの二人である。

 

試合終了を受けて、観客席からは一斉に拍手が巻き起こる。

その拍手は負けた箒やラウラにも向けられていた。

 

「織斑くーん!格好いい!!」

 

「シャルルくん、次があるよー!!」

 

「ラウラちゃーん、すごかった!」

 

「篠ノ之さん、ナイスファイト!」

 

勝者にも敗者にも分け隔てなく、惜しみ無い称賛の声が掛けられる。

 

 

「ああ、また負けたか…。けれど、なぜだろうな、そこまで悔しくない…。」

 

一夏と対峙するラウラはそう呟く。彼女の顔はとても清々しい表情を浮かべている。

全力でぶつかり合って、力を競いあった。

それだけでラウラの心は今、とても満たされていた。

 

「すまん、ラウラ…。私がもっと強ければ…。本当に、すまない…。」

 

打鉄を解除した箒はパートナーであるラウラに歩み寄り頭を下げた。

 

「良いんだ。全力で戦えて、私は楽しかったよ。ありがとう、箒…。」

 

「ラウラ…。」

 

ラウラは箒の髪を撫でながらそう言うと、微笑みを浮かべて箒に向けた。

そのラウラの態度に込み上げるものがあったのか箒は目に涙を湛える。

 

「泣くなよ箒…。」

 

そんな箒の横に立ち、ラウラは背中を擦りながら一緒にアリーナを後にした。

彼女達に向けられる歓声や激励の声は二人が見えなくなるまで続いた。

そしてラウラと箒が見えなくなると、会場の声は完全に残った二人に向けられる。

 

「アハハ、凄い歓声だね。」

 

「ああ、こりゃもっと頑張らないとな。」

 

一夏とシャルロットは互いの腕を当てて笑いあう。

その仕草一つにも歓声は大きく膨らんでいく。

 

「うっしゃ、そろそろ退散するか!」

 

「そうだね。いこうか一夏。」

 

歳に似つかわしい、爽やかな笑顔で二人はアリーナを去る。

その背中にはアリーナ全体からの拍手が送られる。

全員が死力を尽くした激闘を制した二人に、惜しみ無い歓声が響き、二人はそれを背中で感じながらアリーナを後にした。

 

 

 

 

 

 

「…なんか、大会終わったみたいになってるけど、あと2試合あるんだよなぁ…。」

 

控え室からアリーナ全体の様子を見ていた南美は苦笑いを浮かべて、次に待つ自分の出番に備えていた。

 

 

 

 





決勝にコマを進めたのは一夏・シャルのペアでした。

次回はセシリア・鈴vs.南美・簪の勝負となります。
お楽しみに!!


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