IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

91 / 182

(簪・_・)<いよいよ本格的に私の出番だ!

では本編をどうぞ↓


第72話 開幕!

学年別個人トーナメント当日、その日は早朝から教員達によって廊下の掲示板やアリーナの出入り口にトーナメントの組み合わせが張り出されていた。

 

「…見事にバラバラになったもんだね。」

 

「決勝で織斑、デュノアペア対篠ノ之、ボーデヴィッヒペアの勝った方と、か…。」

 

張り出された組み合わせを見て、南美と簪は足を止める。

 

「まぁ、良いんじゃない?専用機持ち全員に勝たなきゃいけないって展開も予想してたんだからさ。」

 

「ふん、それはあるな。それよりもこれだ。」

 

そう言って簪が指差したのはセシリア=オルコット・凰鈴音ペアだった。

 

「順当に行けば準決勝の相手はコイツらだ。私達と同じタイプのコンビ…。楽に勝てる相手じゃない。」

 

「まぁ、それは当たった時に考えよう。今は目の前の試合…かな。」

 

「確かに…先を見すぎて足下を掬われるのは面白くない。」

 

南美と簪は自分達の対戦相手に目を移し、その名前を確認すると悪い笑みを浮かべながら控え室へと帰っていった。

 

 

 

 

「さぁシャル、試合だぜ!」

 

「うん、全力で行こう。」

 

1回戦第1試合、それが一夏とシャルロットの出番であった。

1学年の話題の男子ペアの試合と言うこともあり、アリーナの観客席には1学年だけでなく、上級生も観戦に訪れていた。

そんな彼らの対戦相手は至って普通の生徒である。

二人とも打鉄を身に纏い、緊張の面持ちでアリーナの中で一夏達が現れるのを待っている。

 

 

そして1分するかしないかと言ったところで、アリーナに織斑一夏とシャルロット・デュノアが登場した。

 

その態度に微塵の油断もなく、本気であることが容易に窺い知れた。

 

「あ、はは…、は…。」

 

「終わった……。」

 

一夏らの対戦相手は本気の二人を見て、意気消沈したのであった。

 

 

 

「危なげなく勝ったね~。」

 

「ふん…、そうじゃないとおもしろくない。織斑一夏を倒すのは私だ。」

 

一夏・シャルロットペアの戦いをモニターで見ていた南美と簪はアッハッハと笑いながらその感想を漏らす。

 

 

そして大会は順調に進行して行き、1回戦も中頃に差し掛かり、ラウラと箒の出番が回ってきた。

 

「ふぅ…。初戦か…。」

 

「箒、あまり気負い過ぎるなよ?私は箒が組んでくれただけでも嬉しいんだ。」

 

控え室の中で張り詰めた空気を纏う箒にラウラが言う。

その言葉に箒は“あぁ”と小さく呟き、頷いた。

 

「行こうかラウラ、私とお前の力を見せてやろう。」

 

箒は立ち上がり、カタパルト横に置かれている打鉄を身に纏う。

ラウラも専用機のシュバルツェア・レーゲンを身に纏い、カタパルトに入る。

 

 

 

「ラウラと箒か…。」

 

「ま、あの二人なら勝てるでしょ。」

 

観客席の冗談で二人は上級生に遠巻きに囲まれながら手元の組み合わせ表を眺める。

 

 

「ねぇ、あれが噂の男の子?」

 

「織斑くんも良いけど、あっちの子も可愛い!」

 

「二人とも好きな人とかいるのかな?」

 

女3人寄れば姦しいとはよく言ったもので、集まった上級生たちは一夏とシャルロットを肴にきゃいきゃいと騒ぐ。

 

もちろんそれが当人達に聞こえていないはずはなく、二人は若干の居心地の悪さを感じるのだが、今はラウラと箒の試合の方が重要だと判断したため、その場に留まった。

 

 

 

試合は終始一方的な展開だった。

ラウラが射撃によって追い込み、足の止まったところに箒の強烈な一太刀を浴びせる立ち回りを基本に対戦相手を難なく下したのである。

 

「はは、やったなラウラ!」

 

「ああ!さすが箒だ!」

 

控え室に戻った二人は満面の笑みでハイタッチを交わす。

年相応の笑顔を見せる二人はそのままハグし合い、先ずは目の前の一勝を喜んだ。

 

 

 

専用機持ちがその練度の高さを見せつけた1回戦、セシリア=オルコット・凰鈴音ペアも危なげなく勝ち、迎えた後半。

遂にあのペアの出番がやって来た。

 

その試合の観客席には専用機持ち達はもちろんのこと、彼女の噂を聞き付けた上級生も観戦に訪れていた。

 

 

「ヒャッハー!試合だぁああああ!!!」

 

大声を張り上げながらパッケージ装備“水鳥”を纏った南美がアリーナに姿を現した。

その後ろを追うように完全装備した玉鋼に乗った簪が現れる。

 

外見とのギャップが激しすぎるその登場の仕方に、彼女な本性を知らない生徒は度肝を抜かれた。

 

 

「さぁ、試合を始めようか!ハリー!ハリーハリー!ハリーハリーハリー!!」

 

「玉鋼…。貴方の力を見せつけるよ!」

 

片や笑いながら拳を打ち鳴らし、片や要塞状態で武器を構える。

そんな二人組と好き好んで対峙したいと思う者が果たしているだろうか、いや、いない。

ただ一部のバトルジャンキーを除いて、ではあるが。

 

もちろん、IS学園にはそんなバトルジャンキーなど数えるほどしかおらず、南美達と対峙しているのはただの普通の一般的な生徒である。

 

 

「や、やるしか、ないのよね?」

 

「う、うん…。」

 

1年5組に所属する生徒同士のペア、守矢・楓の両名は完全に萎縮してしまっていた。

 

それでもなお、モニターに映るカウントダウンは無慈悲にカウントを進めていく。

 

 

──3

 

南美は全身の力を抜き、何があっても対応できる体勢を整える。

 

──2

 

簪は武装のセーフティーを解除、常に全火力を発揮できるようにする。

 

──1

 

守矢・楓、両者は腹を括り、打鉄の刀を握り締める。

 

──0

 

カウントダウンが終わり、開戦のアラームが鳴り響く。

その音と共に全員が一斉に動き出した。

 

 

「フゥウウウウ、シャオッ!!」

 

先ずは一合い。

南美の強烈な蹴りが楓のISを捉え、蹴り飛ばす。

 

「簪!」

 

「任せろ!」

 

楓を蹴り飛ばした南美は追撃を簪に任せ、そのまま守矢の方へと飛ぶ。

「ソコダッウリャッ」

 

鳩尾目掛けた正拳からのアッパーカット。

その一連の攻撃を受けて守矢の体は無防備になる。

 

「ショオォッ!!」

 

そのがら空きのボディに会心の一撃をいれて守矢を壁際まで吹き飛ばす。

無論南美はブースターを吹かして吹き飛んでいった守矢を追う。

 

 

「ファイエル!!」

 

簪の掛け声と共に背部と肩、両手の火器が一斉に火を吹いた。

両手の重機関銃の弾幕と両肩のグレネード、そして背部のハイアクトミサイルによって楓のシールドエネルギーはみるみるうちに溶けていく。

 

精度なんてあったもんじゃない、物量に物を言わせた弾幕の衝撃は、それを見ていた者達を凍りつかせた。

 

 

「ふざけた火力ね…。」

 

「射撃というよりも、ただの暴風ですわね。」

 

 

「もしかしたらアレと決勝で戦うか…。」

 

「ぞっとするね…。」

 

 

「私のAICならなんとかなるかもしれないが…。」

 

「その隙を見逃すほど南美はお人好しじゃないよな。」

 

 

口々に警戒の言葉を漏らす生徒達。そんな視線など簪は気づくはずもなく、ひたすら引き鉄を引いている。

 

「倉持技研がなんぼのもんじゃい!織斑一夏がどれほどのもんだ!そんなもの、この子を破棄する理由にならない!!」

 

両手の重機関銃の弾を全て撃ちきった簪は、機関銃を投げ捨てると拡張領域《バススロット》から大口径のライフルを取り出す。

 

「フォイヤッ!!」

 

狙いを定め引き鉄を引く。

ライフルの銃口から放たれた弾丸は真っ直ぐに楓のISへと飛んで行き直撃する。

その瞬間、楓のシールドエネルギーは尽き、離脱を告げるブザーが鳴る。

 

 

「ショオッ!シャオッ!!トベッウリャッ!!」

 

中段の肘鉄から飛び蹴り、そして下段から手刀を振り上げ、高く上がった守矢の顎に強烈なアッパーを食らわせる。

それまでのコンボで既に守矢のシールドエネルギーは大方溶けているが、南美は手を緩めない。

 

アッパーによって更に高く、更に伸びきった守矢の体勢、それは南美にとっては絶好の的である。

 

「南斗孤鷲拳奥義!南斗翔鷲屠脚!!」

 

膝蹴りから上段へ繰り上げ、守矢のISを貫くように稲光が走る。

その直後に試合終了のアラームが鳴った。

 

完 封 勝 利

 

それが南美・簪ペアの記録である。

この1回戦で圧倒的な実力を見せつけた二人へのマークはより厳しいものとなるのであった。

 

 

 

 





今回は1回戦で一区切りとなります。
次回は2回戦以降となります。

今回登場しましたモブ子さんこと守矢・楓さんですが、どこかの幕末の剣客とはなんら関係ありません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。