IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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そろそろこのペースが維持できなくなりそうです。

では本編をどうぞ↓


第71話 大会前夜

学年別個人トーナメントを翌日に控えた夜、生徒達はそれぞれの時間を過ごす。

 

いつもと変わらない生活を送る者もいれば、明日への入れ込みから気合いが空回りする者まで、十人十色である。

 

 

 

パターン1 北星南美の場合

 

 

「も、もしもし、ほんわ君さん?」

 

南美は人気のない中庭で、恋人のほんわ君に電話を掛けている。

相手のほんわ君も、3コールで電話に出た。

 

「はい、ほんわ君です。」

 

いつもと変わらない、優しい声。そんなほんわ君の声に南美は安心したような顔になる。

 

「どうしたの南美…。」

 

「あ、や、その…ですね…。あの…。」

 

南美は頬を赤く染めながらもじもじと身を左右に捩る。

やがて意を決したかのように息を吐くと、話を切り出し始めた。

 

「あの、ですね…。私明日に大会があるんです。だから、その~…。」

 

南美は1拍置いて呼吸を整える。

そして大きく息を吸い込んで、次の言葉を紡ぐ。

 

「だから、だから、が、頑張れって、言ってくれませんか?」

 

「はい、良いですよ。」

 

間を置かずにほんわ君は了承する。

そのあっさりした対応に南美は緊張していた体から力が抜けていくのを感じた。

それと同時に、さっきまでよりも心臓がより早く脈打つのを感じる。

 

「じゃあ言うよ?」

 

「は、はい…。」

 

きゅっと目を閉じて南美はほんわ君の言葉を待つ。

そして電話越しに優しく囁かれた言葉に南美はどこか、体がふわふわと浮くような感覚に陥った。

 

「あ、ありがとう、ございます。その、それで、ね…、もし優勝できたらね、ご褒美、欲しいなって…。」

 

「ふふ、良いよ。じゃあ優勝報告、期待してるね。」

 

「はい!」

 

その後、上機嫌になった南美はIS学園でのアレコレを話したり、他愛ない世間話をほんわ君と交わし、ご機嫌のまま眠りにつくのであった。

 

 

 

パターン2 織斑一夏の場合

 

 

「明日は大会…ですか…。」

 

「はい。」

 

一夏は師である狗飼のもとを訪ねていた。

場所は寮から離れた植え込みの奥、開けたそこには月の光がすぅと差し込んでいる。

 

「今の君ならよほどがない限り、負けはないでしょう。ISのことはそこまで詳しくありませんが、何故かそう思えます。」

 

「本当ですか!?」

 

「えぇ、まぁただの勘…ですが。」

 

最後の狗飼の言葉が聞こえていないのか、一夏はぐっとガッツポーズをして全身で喜びを表現する。

そんな一夏の様子に狗飼は“勘なんですがね”と小さく呟いて、頭上の月を見る。

 

「狗飼さん!明日は勝って、優勝してここに来ます!」

 

言うや否や、一夏は狗飼の返事も聞かずに全力で駆け出していった。

 

残された狗飼はふぅと息を吐いて、月を見上げるのであった。

 

 

 

パターン3 凰鈴音の場合

 

 

「………。」

 

凰鈴音は落ち着いていた。

ベランダに座り、目を閉じて今までの自分が積み重ねてきた事を思い出す。

師匠の呂虎龍と出会ってから、必死になって積んできた時間を。

 

(私は強い、そう、強い!誰よりも強い、誰にだって勝てる!一夏にも、南美にも、箒にも、セシリアにも、ラウラにもらシャルルにも、誰にも負けない!!)

 

「……よし!」

 

いつもの精神統一を終えた鈴はすっくと立ち上がると、パチーンと両手で頬を叩く。

くっきりと左右の頬に手のひらの跡が残るのも構わずに鈴は部屋に戻る。

 

同室のティナがその頬の紅葉について尋ねたが、鈴は“何でもない!”と力強く答えて眠りについた。

 

 

 

パターン4 セシリア・オルコットの場合

 

 

(…いよいよ明日、ですわね。)

 

セシリアはベランダの椅子に腰掛けながら、自分で淹れた紅茶を味わっていた。

その面持ちからは緊張が読み取れ、ティーカップを持つ手も小さく震えている。

 

(大丈夫、今の私は過去よりも強い。今の私ならば一夏さんにも勝てます、それに秘策だってあるんですから…。何も心配することはありませんわ…。私は、一人で戦う訳ではありませんもの。)

 

セシリアは自分のパートナーの顔を思い浮かべる。

すると、先程までの震えが嘘のように消えていた。

 

「そうですわ…、私は一人っきりではありません。」

 

すっと紅茶を飲み干したセシリアは右手で銃の形を作り、夜空に浮かぶ月に向ける。

 

「勝たせていただきますわ、私とブルー・ティアーズ、そして凰鈴音さんとの力で…。」

 

そう言ってセシリアは“パァン“と呟き、右手で作った銃を月に向かって撃つ真似をした。

 

 

 

パターン5 篠ノ之箒の場合

 

 

「はぁっ!!」

 

薄暗い剣道場の中で、篠ノ之箒の声が響く。

それと同時にだんっと踏み込む音が鳴る。

 

鞘から高速で引き抜かれた刀の刃が月明かりを鈍く反射していた。

 

「……ふぅ…。」

 

暫くの残心の後、箒は刀を鞘に納める。

そして刀を床に置き、おもむろに正座する。

 

(明日、いよいよ明日だ…。明日、優勝して私は一夏と…。)

 

凛とした顔つきとは裏腹に、やや不純な心持ちで箒は明日に向けて静かに闘志を高めていた。

 

 

 

パターン6 シャルロット・デュノアの場合

 

 

(明日、かぁ…。うん、大丈夫、ボクと一夏なら勝てるさ。)

 

部屋の中で一人、シャルロットは空を見上げていた。

明日への緊張も手伝い、大人しく寝ているような気分ではなかったのだ。

 

それでも不安はない。

 

周りの力を侮っている訳でも、自分の実力を過信している訳ではない。

そこにあるのはパートナー、織斑一夏への信頼感。

ISに関しては素人、けれども逆境に強い彼の事をシャルロットは心から信頼している。

 

(一夏はボクの恩人なんだ、助けてもらった恩を少しでも返すために、ボクは一夏と一緒に勝つ!)

 

シャルロットは拳を握り締め、明日への決意を固めるのであった。

 

 

 

パターン7 ラウラ・ボーデヴィッヒの場合

 

 

「作戦は充分練った…。箒の実力も確か…。」

 

“ふむ”と考えながらラウラは食堂の椅子に座る。

最近のラウラは考え事の最中にふらっと食堂を訪れるようになっていた。

 

それが何故かはラウラ本人にも分からない。

ただ、食堂にいるときは考えがすんなりと纏まることだけははっきりしていた。

 

(…あまり考え過ぎても仕方がない、か…。まぁ、今は私と箒の力を信じるしかないな…。)

 

暫くの間、虚空を見つめていたラウラはそう結論着ける。

 

(勝てれば良い、いや、勝つ。)

 

心のうちで明日への心持ちを上げていくラウラはすっと立ち上がり、そのままの足で自室に帰っていった。

 

 

 

パターン8 更識簪の場合

 

 

簪は夜の格納庫で最後の調整を行っていた。

彼女の表情はとても楽しそうで、その顔からも明日へのモチベーションがうかがえる。

 

「いよいよ明日だね、玉鋼…。やっと貴方が表舞台に立てるんだよ…。」

 

そう語りかける簪の目は、いつもの自信満々なものではなく、愛しい我が子を見守る母親のような目をしていた。

 

「私と貴方、それに南美もいる…。だから、絶対に勝つよ、玉鋼!」

 

夜も更けていく頃、簪は丹念に玉鋼の整備を続けた。

 

 

 

 

 

「いよいよ明日ですね、先輩!!」

 

「ああそうだな。」

 

教員室でトーナメントの組み合わせを表示するパソコンの前で千冬と真耶は画面に目を向けていた。

 

「うまい感じに専用機持ちの子たちが散らばりましたね。」

 

「うまくいきすぎな気もするがな。まぁいい。さてそろそろ帰るか、山田くん。明日も早いぞ?」

 

「はい!そうしましょう。」

 

パソコンの電源を落とし、教員室の戸締まりを確認した千冬たちはそのまま眠るために部屋に帰っていった。

 

 

 

 

そして翌日、決戦の日はやって来る。

その日は朝からどことなく浮き足立ったような、熱気に包まれた空気が漂っていた。

 

 

 




いよいよ次回から学年別個人トーナメントが始まります。

お楽しみに!!


アンケートはこちらから↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=160780&uid=171292

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